魔界に堕ちよう RELAYS - リレイズ - 忍者ブログ
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43話目でようやく異形の館アーシラト戦終了とか\(^o^)/
すげーよ取り敢えずwww




「——今から、この広間に魔法陣を描く。丁度、ここに良い魔術書もあるしね」
「解った。だがそれに相手が気付いたら……司令官、貴方を攻撃しに来るぞ」
「そこは大佐、ここにいる三人が詠唱時間を稼いでくれれば良いだけでしょ?」
「あーあー……一般人が死神の足止めなんてできるわけないじゃない」
「機関に居る時点で、君は一般人じゃないよ?」
「貴様等、俺の邪魔をしたら貴様等から切り殺すぞ」
「解っているさ、オレは遠くから援護させて貰おうか?」
「勝手にしろ。どうせ、ここにいる奴等で対等に戦えるような奴は俺しかいないだろうが」
「あれ、結構自信満々?」
「黙れ」
「はいはーい。……私は、ここで司令官の援護ね」
「そう。よろしく頼むよ。……さ、そろそろ来る筈だ。……行くよ」

RELAYS - リレイズ - 43 【捕獲】

ソーマとアーシラトは交錯し、互いに鎌を振るい合っている。
俺の時とは比べものにならない程の金属音に、俺は手で耳を押さえた。
その金属音に混じって、僅かにだが彼等が言葉を交わしているらしく話し声も聞こえてくる。
「——ハハッ、てめェホントに人間かよ!? 楽しいなァ、オイ!!」
「貴様こそ、本当に死神か? これでも俺は全力ではないんだがな」
人間が、人間ではない生物——というよりも、戦いに特化している死神と対等にやり合っている。
これには少し俺自身驚いた。確かにソーマは強いが、ここまでとは思っていなかった。
「何だよてめェもか? 俺もだけどな。何なら全力で行こうぜ……この館をブッ壊すくらいでなァ!!」
「……勝手にしろ」
「なッ……! おい、それは」
さすがにこの館を壊すのは駄目だ。廃館になってから本当に年月が経っているらしいし、この二人が全力でぶつかりなんかしたら冗談じゃなく壊れてしまう。
恐らく聞いちゃいないだろうが、声を張り上げてそれをアーシラトとソーマに告げようとしたときだった。
「声、出さない。アイツ等の邪魔したら、自分達が殺られる」
後ろから口を押さえられ、どこかキーの高い声が小さく聞こえてきた。
その手はすぐに離れ、俺は後ろを振り返った。
「何するんだよ、ファンデ……」
そこに居たのは、黒いジャケットを羽織って長い赤髪をそのまま垂らしているファンデヴだった。
それは解る。声の質も少し高いだけであまり変わっていなかった。服装も変わっている訳でもない。
ただ、明らかに違った。
「……やっぱり驚く、か。まあ当たり前か」
「え……いや、ファンデヴ……だよな?」
「勿論。さっき手榴弾でこの壁を破壊した。ファンデヴ=ブルーリング」
肩を竦めて自分達の背後、そこにある崩れた壁と瓦礫の山を指さしながら『彼女』は言った。
今のファンデヴは、どこからどう見ても女性だった。顔つきも体付きも、だ。
俺が見間違えていた、という訳でもない筈だ。先程までファンデヴは男性だったのだから。
「あーヘメティ、その事はあんまり詮索しないでやれ。な? コイツは人に訊かれて答えるのが苦手な奴だから」
サイラスは別に驚いた風もなく、ファンデヴの肩を叩く。
「大丈夫。ちゃんと後で話すから。短い、けど。今は、話してる場合じゃない」
ファンデヴの視線の先に居るアーシラトとソーマの切り合いは、更に激しさを増していた。
ソーマに至っては、魔法まで使用している。その証拠に、アーシラトのマントの一部は凍り付いていた。
このままでは、本当に破壊しかねない。というか、もう若干だが館が壊れ始まっている。無事だった窓ガラスにはヒビが入り、今にも砕け散りそうに震えていた。
「オイ、どうすんだよ!! 逃げんのか!? それともここにいてあの化けモンと全員で生き埋めか!?」
ラスターさんが声を張り上げて叫んだ瞬間、彼の背後にあったステンドグラスが砕け散った。
「ラスターさん!!」
砕け散る音と俺の声に弾かれたように上を見上げる。
ラスターさんの身体にステンドグラスの欠片が降り注ぐ寸前、瞬時に二本のサーベルを抜いたファンデヴが跳躍し、それを弾き落とした。
「……気をつけて。ガラスなんて、刺さったら一溜まりもないんだ」
「あ、ああ……サンキュ、ファンデヴ」
未だに色々なことに戸惑っているようだったが、ラスターさんはそれでもしっかりと頷いた。
「お、そろそろか」
また意味深に呟いたサイラスに、何の事かと問いかけようとした時だった。
金属音の中に、銃声が割り込んだ。俺の拳銃とも、シェイド大佐のライフルとも取れない、それどころか聞いたことがない銃声。
「……さあ、そろそろ終いだ、死神とやら」
俺達の頭上から、こんな状況下でも良く通る声が響く。
シャンデリアの上で、シェイド大佐が初めて見る形状の銃を構えて立っていた。
「オイオイ、そこにも居やがったのか!? 降りて来いよ、軍服!!」
「残念だが、それはできないな」
銃に弾を込めながらアーシラトの声に答えるシェイド大佐が、やけに大きな存在に見えた。
「……噴け、ボレアーリス」
静かだがはっきりと耳に届く声と共に、銃——ボレアーリスの引き金が引かれ、銃口が明らかに他の銃とは違う青白い火を噴いた。
アーシラトはそれを鎌を大きく回して弾き落とす。
その隙に背後に回っていたソーマは、彼の首目掛けてナトゥスを振りかざした。
「くッ……!」
間一髪で刃を受け止め、アーシラトは微かに呻き声を漏らす。
その場から離れようと考えたのだろう、彼は姿勢を低くすると後方に一歩踏み出した。
だが、それよりも早く、右足に銀色の鎖が巻き付いた。
「……見てて気付いたけど、アンタって回避の時に右足から踏み出すのね?」
鎖鎌で彼の足を留めながら、イーナは不敵そうに微笑みながら言った。
「ハッ、それがどうした!? こんな鎖で俺の足を止めれるとでも——」
言いながら余裕の笑みを浮かべ、鎖を断ち切ろうとしたアーシラトの表情が強張る。
「——Please move the chain of the spell that ties him.」
ダグラスさんの声が大きくなると同時に、アーシラトの足下に赤い光で描かれた巨大な魔法陣が浮かび上がった。
そしてその魔法陣の中心に立っている彼に向かって、赤い雷光のような光が迸った。
それには指向性があるらしく、少し離れたところに立っていたソーマを通り抜ける。
「っ……がああああああああああ!!」
雷光がアーシラトを包み込むのとほぼ同時に、彼は悲鳴を上げた。
光が一層強くなり、俺は腕をかざして目を覆う。
「……これってまさか……!?」
昔一度だけ本か何か、確か資料だっただろうか、その類で見たことがある。相手の動きを封じ込める魔術。
今の光景とその資料に書いてあった内容が、ほぼ一致していた。
徐々に光が収まり、あの激しさは何だったのかと疑いたくなる程に小さく儚くなり、やがて消えていった。
消えると同時にアーシラトがその場に膝をつき、倒れ込む。
それを確認してから、ダグラスさんは立ち上がった。
「……成功、かな?」
ダグラスさんは呟きながらアーシラトの傍で膝をつくと、彼の手に触れようと手を伸ばした。
「づ……、クソッ! てめェ何しやがった!!」
「……凄いね、この魔術って声も出せなくなる筈なんだけど……大声出せてるよ。でも身体は動かせないみたいだし、いっか」
アーシラトの話など全く聞かず、ダグラスさんは微笑んだ。




多分ダグラスさんはああ見えて若干腹黒なんだ…
あ、明日はあれだよ!エリクサー買ってくる!!

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アーシラトがうるさくて仕方がないwwwwww小説書くのが楽しくなってきたwwww




RELAYS - リレイズ - 42 【死神】

ファンデヴは隠し扉から勢いよく飛び出すと、ジャケットから自分の携帯電話を取り出した。
「——ダグラス?」
『え、ファンデヴ? どうしたの? 道に迷った?』
今自分達の足下で何が起こっているかも知らないままで呑気に訊いてくるダグラスに、ファンデヴは大きく溜め息を吐いた。
「……地下があった。そこでサイラスとラスターとヘメティが戦ってる」
『戦ってる……? 誰とだい?』
「死神」
『はい?』
携帯電話の向こうから、非現実的、非科学的な単語を耳にしたダグラスの間の抜けた声が聞こえてきた。
それからしばらくして、間の抜けた声が今度は戸惑いに満ちる。
『死神——まさかそんな、空想の中だけに居るみたいな生物が……』
「居る。居るんだよ。……このままじゃ、じきに三人とも……いや、自分も入れて四人、死ぬよ。殺されて」
恐らく、あのアーシラトという死神は自分を逃がしはしない。サイラスもラスターもヘメティも、三人を殺してから自分を狙いに来る。ファンデヴはそれを理解していた。
『……解った。通用するかどうかは解らないが、僕が何とかしてみる。その死神を、今僕が居る広間まで誘導してきてくれ』
「解った。多少の怪我は、させて大丈夫?」
『構わない。——ああ、それと……『解除』、していいよ。動きが鈍くなるんだろう? 誰も君を馬鹿になんてしないさ。心配しないで』
「……有り難う」
まるで父親のように優しげなダグラスの声、そして言葉に、ファンデヴは微かに笑みを浮かべて礼を言うと通話終了ボタンを押した。
携帯電話をジャケットのポケットに入れ直し、一度深呼吸をする。
彼が目を閉じると、足下に青い光で魔法陣が浮かび上がった。

「——っつーか何だよコイツ……! 幾ら切ったって倒れやしねぇぞ!!」
ラスターさんは一度後方に跳んで体制を整えてから叫んだ。
先程から、アーシラトは俺とラスターさん、サイラスに傷を負わせられている筈だ。その証拠に、黒マントは所々切り裂かれ、あるところには赤く血が滲んでいる。
それなのに、彼は倒れない。それどころ片膝を付くこともしない。明らかに異常だった。
「倒れる訳ねェだろ? もしかして知らなかったのかァ? 死神ってのは不死なんだよ!!」
それは知っている。ただ、それは時間の経過で死ぬことはない、という意味だと勝手に解釈してしまっていた。
アーシラトは、幾ら血を流しても切られても死ぬことはない。
「反則だろ、死神……」
サイラスは肩で息をしながらもヴォカーレを構えている。その切っ先は、ぶれることなくアーシラトを狙っている。
「ただ死なねェってだけで、ブッ倒れたり死にかけるってのはあるけどな。あァ、それと死神じゃなくて名前で呼んでくれよ? 俺の名前はアーシラトだ。てめェ等の名前は? 殺すときには呼んでやるようにしてるんでな」
「……解った。アーシラト、だな。俺はサイラスだ」
彼の名前を反芻し、サイラスは槍を握り直した。
アーシラトに名前を教えるのは気が引けたが、もし拒めば何があるか解らない。
「……俺はヘメティ。ファミリーネームは解らない」
「オレはラスター。ラスター=ダーグウェッジ。死んだときにはフルネームだろうが名前だけだろうがどうでもいいぜ?」
長剣を肩に担ぎ、ラスターさんは挑発的な笑みを浮かべた。
「ヘメティ、サイラス、ラスター=ダーグウェッジ。……敬意を込めて呼んでやるよ、殺してな」
「悪いけど、俺等はここで死んでなんか居られねぇんだ」
「悪いがな、俺はてめェ等を見逃すなんてできねェんだ」
ラスターさんや俺の目の前で、アーシラトとサイラスは睨み合った。
こんなに近くに居るのに、共闘している筈なのに、何故か酷く遠く感じてしまった。まるで彼等の近くだけ、空間が隔絶されているように。
突然、目の前からサイラスの姿が消え失せた。
俺達が声を上げるよりも速く、彼はアーシラトの背後へと瞬時に周り、逆手に持ったヴォカーレを振りかざした。
「——響け!」
サイラスが短く叫ぶと同時に、ヴォカーレが赤い光に包まれた。その光が槍の矛先に収束し、光が刃となってアーシラトを襲う。
「……すっげェなァ、それ……魔法か? それとも科学って奴か?」
避けようとはしたが光が掠ってしまったらしく、アーシラトは左腕から血を流しながらも訊いてきた。
「どっちでもねーよ、これはな。まあ説明は面倒だから……な」
どこか意味深に言葉を濁したサイラスに、アーシラトが眉を顰め問い返そうとした瞬間だった。
背後から、やけに軽い足音が聞こえてきた。
「お、案外早かったな、ファンデヴの奴……それに、『解除』しやがったか」
「ファンデヴか……って、解除? 解除って何をだよ?」
「ま、見てりゃ解るさ」
サイラスは口に人差し指を当てると悪戯っぽく笑い、後ろを振り返る。
「赤髪か……探す手間が省けてよかったぜェ!」
獰猛な笑みを口元に浮かべると、アーシラトは鎌を構えて俺達の横を通り過ぎていった。
その際、彼の左腕や他の傷からの血が僅かにだが飛び、俺の手やシャツに染みを作る。
こんなになってまで相手と戦いたい、いや、彼の場合は『殺したい』だが、そう思えるのが何故なのか解らなかった。
幾ら不死だからといって、自分の身体をそこまで無理に扱わなくても、酷使しなくてもいいんじゃないか。そんな気がした。
疑問に対して考えを巡らせていると不意に金属音が鳴り響き、その直後にアーシラトの狼狽したような声が聞こえてきた。
それに続いて、今度は何か硬質の物が床に落ちる音。
「この音……! やべぇぞ、伏せろ!!」
その音を聞いたラスターさんの表情が強張る。
俺は言われた通りにその場に伏せようとするが、それよりも早く、数メートル程しか離れていない廊下で爆発が起こった。
爆発によって廊下の壁は破壊され、そこから爆風でアーシラトが吹き飛ばされるの砂埃ごしに辛うじて見えた。
「な……何が起こったんだ!? 爆発なんて……」
「そんなの簡単だ、アイツが手榴弾でも使ったんだろうよ」
立ち上がり、ラスターさんはエプロンに付いた汚れを払い落としながら溜め息混じりに呟いた。俺が知らなすぎるだけかもしれないが、ラスターさんは武器屋の店主というだけあって知識が多い。
「丁度あの広間の所らしいな、ここ」
「え……じゃあソーマ達もアーシラトに見つかってるってことか!?」
「まあ、それは当然だな」
さらりと言ってのけ、サイラスは瓦礫の山を手も使わずに簡単に上り始めた。それに習って、俺とラスターさんも慎重に上っていく。
やっと上まで上り、額に流れる汗を拭い取るとアーシラトとファンデヴ、それにダグラスさん達の姿を探す。
アーシラトは、瓦礫のすぐ傍、俺達の目の前で鎌を振るっていた。
その相手がファンデヴなのかと思い、目を凝らして探すが見当たらない。
じゃあ、一体アーシラトは誰と戦っているのか。
「……ソーマ!?」
視界に入ってきたのは、銀髪に黒いロングコートをなびかせながら青白く発光しているナトゥスで応戦しているソーマの姿だった。
そこから五メートルも離れていないと思われる所では、ダグラスさんが床に手をつき、床に置いた魔術書を見ながら何かを呟いていた。
ソーマとアーシラトは一度鍔迫り合いの状態になり、お互いに弾き返すと間合いを取った。
「ソーマ!」
俺は瓦礫に足を取られないように気を遣いながら、ソーマの傍まで走り寄る。
「黙れ、そして離れろ、邪魔だ」
ソーマは俺に視線を向けないままで言い放ってきた。
「でも——」
「邪魔だと言っているんだ!」
普段ならば大声を出すなんてことがほぼ有り得ないソーマが声を荒げた。
今、自分はここにいてもソーマの言葉通り邪魔にしかならない。手助けなんてできるわけがない。
俺はその無力さを感じながら、闇霧の柄を握りしめると二人に背を向けた。
「……面白いな、今日は……一体何人入り込んでやがる?」
「知るか。知りたければ自分で数えろ」
「解ったよ。じゃあ後で数えさせて貰うぜ。その代わり、だ。——てめェは何者だ?」
ソーマは他人の事に対しては滅多に興味を示さないからないかもしれないが、それはソーマが訊きたい事だろう。
「……何者か、だと? どういう意味だ」
「そのまんまの意味さ。黒衣に巨大鎌。てめェも死神かって訊いてるんだよ。たまに居るのさ、『不完全な』死神って奴が。てめェもそれか?」
先程、アーシラトは『世界に死神なんて自分一人しかいない』と言っていた。
死神のシステム的な物については全く解らないが、それは恐らく、完全な死神としてという意味だったのではないか。
「死神か……生憎、俺は人間だ。俺のことをそう呼ぶ奴等も居るが」
機関での、関わった人間の中での、皮肉を交えての通り名、死神。それでも、ソーマはれっきとした人間だ。
「何だよ、面白くねェな……まあいいや、てめェの名前は何だ? 殺すときに呼んでやる」
「何故貴様に教える必要がある? 他人に教える事等何もない」
いつもよりも若干棘があるような口調で、アーシラトを睨みながら言った。
「クソッ……しょうがねェな。それじゃ、行くぜ? 死神モドキ」
「——その言い方は止めろ、死神。……名前が必要なら教えてやる。ソーマ、だ」
ソーマの名前を知ったアーシラトは、一度怪訝そうな表情をしたがすぐに愉快そうに口元を歪めた。
「ソーマだな。……来いよ」
その言葉が終わるか終わらないか、という時、俺の目の前でソーマとアーシラトが交錯した。




最近長いね!

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あーくんとソーマは一切関係ないのよ(ry
最近スランプでしにたい^p^p^p^p^p^違うのだったらさくさく書けるんだけどね!




RELAYS - リレイズ - 41 【異形の館-3】

最初この廃館に訪れたときと同じように、一同は輪を描くようにして集まった。
暫くして、遠くからやけに規則正しい足音が聞こえてきた。
「——あ、ソーマお帰り。どうだった?」
ダグラスの声に、ソーマは一度視線を彼に向けただけですぐに視線を逸らした。
「……魔術書の置いてある書斎以外には何もなかった」
言いながら、持ち出してきた一冊の古びた魔術書をダグラスに手渡す。
その横で、ラスターが頭を掻きながらぶつぶつと文句を口に出していた。
「マジかよ、オレ等もなんだぜ? 隠し部屋とか階段とかあっても良いようなモンじゃねぇか」
「オレもかなり探しはしたんだが……どうした、イーナ」
シェイドは自分の横で辺りを見回しているイーナに気付き、何か見付けたのかと問いかける。
「……今気付いたんだけど」
妙に重苦しい声で、ぽつりと呟く。
「……一人足りなくない?」
ダグラス、ソーマ、シェイド、ラスター、サイラス、ファンデヴ、そしてイーナ自身。
「——またか、あの馬鹿が」
舌打ち混じりに、不機嫌な様子を隠さずにソーマが吐き捨てる。
「そうだね……それにしても迷いやすいね、ほんと。まっ、すぐ戻ってくるよ」
「……何なら、オレが探しに行ってくる」
「大丈夫大丈夫。ヘメ君はいつもこうなんだから。どこかで道に迷ってるだけだよ」
ライフルを担ぎ直して歩き出そうとするシェイドを引き留め、ダグラスはいつも通りに笑った。
「……もしかして、隠し扉とかでも見付けて地下にでも行ってんじゃねーの?」
サイラスの欠伸をかみ殺しながら出された声に、この場にいる全員が沈黙した。
その沈黙を破ったのはシェイドでもダグラスでもない、イーナだった。
「それはないでしょ、幾ら何でも! だってあのヘメティよ? 見付ける訳がないって!」
「——それもそうだね。それじゃ、ここでちょっと待とう。それでも来なかったらみんなで探すとしようか」
「解った。……それにしても、何か……妙だな」
「え、兄サンどうしたんだよ?」
「妙って、この廃館? それとも何か違う事?」
ラスターとイーナからの質問に答えず、シェイドは足下を睨むような視線で見つめる。
「——煩いんだ、下が。まるで……誰かが斬り合っているように」

地下室を繋ぐ薄暗い廊下の中に、金属音が幾度となく鳴り響く。
容赦なく振り下ろされる巨大鎌を、俺は闇霧で辛うじて受け止め、弾き返していた。
「どうしたァ!? その刀はただの盾か!? そこにある拳銃はただの重りか!?」
怒声にも似た大声と共に来る剣劇は荒々しいが、的確に俺を狙ってくる。
当たり前のことだが、武器はほぼ同じでも使う人間でここまで変わる物らしい。ソーマとは全く違う太刀筋に、防御するしかできなかった。
鎌を受け止め、鍔迫り合いのような状態になる。
アーシラトは俺の顔を覗き込むと、鎌に更に力を込めながら口元を歪めた。
「もっと楽しませてくれよ、客人……こっちは百年くらい戦ってねェんだよ!!」
どこか恍惚とした表情で言うアーシラトに、俺は舌打ちすると鎌を弾き返した。
「アンタの事情なんて知るか! 勝手に入られたのが嫌だったなら謝る!」
「別に怒っちゃいないぜ? ただちょっと迷惑なだけさ」
彼は肩を竦めると苦笑した。死神だというのに、こういう仕草だけはやけに人間くさい。
彼が鎌なんて持っておらず、自分が死神だということを告げていなかったら、死神だなんて気付かなかったかもしれない。
「……それに俺はもうこの館を出るんだよ! 、だからさっさと帰らせてくれ!」
もうとっくに2時間は経っているだろう。早く戻らなければいけない。それに何もなかったら、この後は諦めて機関に戻る予定だった筈だ。
それを邪魔しているのは他の誰でもない、この館の主であるアーシラトだ。
俺は早く戻りたい。皆に迷惑をかけてしまうし、何よりもこれ以上この殺意に満ちた空間に居ること自体耐えられなかった。
「……さっさと帰せ? そりゃ無理な話だなァ、客人」
今まで通りの声と口調の筈なのに、どこか冷たく感じる声でアーシラトは言った。
「この俺に出会った時点で、てめェは俺に殺されて死ぬんだよ!!」
アーシラトの口元から笑みが消え、これまでとは比べものにならないような殺意が辺りに渦巻いた。
殺気や殺意という物は、空気まで震わせてしまうのか。
それを感じた瞬間、背筋に悪寒が走る。
これ以上ここに居てはいけない、逃げなきゃならないと頭では、心では解っているのに、足がその場に縫い止められたように動いてくれなかった。
視線だけを下に落とせば、闇霧を持っている右手が震えていた。
「もう抵抗する気も起きねェってか? 全く、久々の獲物だと思ったらコレだ、つまんねェったらねェぜ」
アーシラトは依然として動けずにいる俺の目の前まで来ると、鎌を振り上げた。
俺は恐怖に震えながらも、瞼を閉じずに彼を見据えていた。
「Good-bye,cowardly person.」
初めて聞いた時と同じ流暢な英語が聞こえると同時に、俺の身体に鎌が突き立てられる——筈だった。
自分の背後から聞こえる足音と、鎌が何かに受け止められる金属音。
俺の視界には、細身の長剣、サーベル、それに槍が映っていた。
それに、風圧で微かに揺れる黒髪と水色のエプロン、赤い長髪に黒ジャケット、金髪にハンター服。
ラスターさんとファンデヴが鎌を受け止めていた。
サイラスだけは、槍——彼の能力、確か名称はヴォカーレだった筈だ。その矛先をアーシラトの首に突き付けていた。
「何……ッ!?」
アーシラトが先程の大声とは打って変わって、絞り出すように驚愕の声を上げる。
「大丈夫か!?」
長剣で彼の鎌を受け止めたまま、ラスターさんは俺を振り返った。
「有り得ない、なんて事は有り得ない、か……大丈夫?」
「ったくよー、何やってんだ。俺が落とし穴見付けてここまで来なきゃ、お前死んでたぞ」
「……悪かった。でも何で三人だけ——」
「話してる暇はねぇぜ、ヘメティ」
ラスターさんは言いながら未だに残っていたらしい鎌の攻撃の流れを反らすと、一度血払いでもするように剣を振った後で構え直した。
「……こんなに客人が居るなんてなァ……主として失格か。ようこそ、愚かな客人共」
首に自分の命を奪う事が容易くできる刃物を突き付けられて尚、アーシラトの声の調子と笑み、言葉は変わらなかった。
幾度となく、このような状況を経験してきているのだろうか。それだけではない気がする。
『自分は死なない』——そんな有り得ないような事を信じている、といった感じだった。
「主……?」
「……コイツが、この廃館の主らしいですよ、ラスターさん」
「はぁ!? こんなオンボロ館に人間が!?」
ラスターさんも、俺と同じ事を口にした。アーシラトの正体が人間だ、と。
それに対して、またアーシラトがおかしそうに口元を歪め、ラスターさんに自分の正体を告げるために声を発そうとした瞬間だった。
「——違うな、お前」
やけに硬く鋭い、いつもの調子からは想像も付かない声でサイラスが口を開いた。
サイラスはヴォカーレを握る手に力を込め、睨んでいるようにしか見えない目で彼を見据えていた。
「違うって何がだよ? 猫耳のオッサン」
「……俺が人間じゃねえから解るみたいなモンだろうけどなー」
『オッサン』という単語にサイラスの額に青筋が浮かんだが、すぐに落ち着きを取り戻し、溜め息を吐いた。
それには、どこか寂寥感も含まれているように感じられた。
「お前、人間じゃねえだろ?」
まさか自分の正体をこんな短時間で見抜かれるとは思っていなかったのか、アーシラトの目が驚きに見開かれた。
だが、それもすぐに笑いに変わる。本当に彼は良く笑う。出会ってから今まで、アーシラトの笑い以外の表情なんて殆ど見ていない気がする。
「……正解だ、オッサン! よくこんな短時間で見抜いたな」
「雰囲気からして、人間とは違うからな。そりゃ解る。……見た所、悪魔とか死神辺りか?」
これには俺も驚いた。種族まで見抜く、なんて、並外れた観察眼を持っていないと不可能に近いのではないか。
「——素晴らしい! 今までで初めてだ、種族まで見抜かれたなんてなァ!!」
「……凄い。サイラスも、こいつも」
赫い目を狂気にも似た歓喜で輝かせるアーシラトを見て、ファンデヴは呟いた。俺も同感だ。どちらも凄い。
ラスターさんはまだ信じられないのか、呆然としたままだ。それが普通の反応だと思う。
そんな俺達の目の前で、アーシラトは鎌を持っていない左手を槍の矛先へと持っていき、一息に自分の手を突き刺した。
予想さえしていなかった行動に、俺を含めた全員が息を呑んだ。
彼の手の甲から流れ出ている血の色は、人間と変わらない——赤色。
「でもよォ……死神の血も赤いってのはさすがに知らねェよなァ?」
「そうだなー……知らなかったぜ、ありがとよ」
「どういたしまして。——まぁ、世界に死神なんて俺一人しかいねェんだ、その知識も役に立たねェだろうけどな」
死神というのは、人を殺して人の魂を運ぶような者だろう。確かに、そういう存在は一人だけ居れば十分だ。
アーシラトはゆっくりと手を引き抜くと、血で真っ赤に染まった己の手を見て微笑を零した。
「——成る程な……じゃあ、お前はオレ等4人を死神として殺すつもりなんだな?」
「そうさ。決まってんだろ? 黒髪」
彼は何を解りきったことを言っているんだとばかりに言うと、鎌を自分の目の前でゆらゆらと揺らす。
「……ヘメティ、やれるか? もし無理なら、オレ等だけで何とかすっから」
「……いや、やります」
ここで自分だけ戦わない、なんてできるわけがない。逃げるなんてしたくなかった。
「——ファンデヴ、お前は行け」
「……信じる。解った。死なないで」
それだけを呟くような小さい声で言い残し、ファンデヴはサーベルを鞘に戻すと凄まじいスピードで地下室を走り去った。
「ンの赤髪ッ……! 逃がすか!」
「おっと、行かせねぇよ、死神サン?」
ファンデヴを追おうと足を踏み出したアーシラトに、ラスターさんがからかうような口調で剣の切っ先を向けた。
「……仕方がねェな……てめェらを殺ってから、アイツも殺る事にするか」
赫い瞳に、今までとは違う、どこか真剣な光が宿る。
俺は闇霧を握り直し、アーシラトに向き直った。




何かアーシラトの口調ってどっかで見たことがある気がするんだが誰だっけか…うーん(´・ω・`)

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もう40とかすごくね←
軽く100話行きそうで怖いわwww




RELAYS - リレイズ - 40 【異形の館-2】

俺とソーマはその後も色々な部屋を見て回ったが、最初に見た書斎の他には特に何の変哲もない普通の部屋だった。
ただ、クローゼットやベッドといった生活必需品がそのまま放置されているのは少し気がかりだった。
もしかしたら、以前この辺りで何か戦いがあったのかもしれない。それで避難したまま、戻って来れなくなったのではないか。充分有り得る話だ。
広間と同じで色あせたカーペットが敷かれている廊下を歩き続けているが、会話も何もない。微かな足音がするくらいだ。
さすがにこの沈黙は重い。耐えきれずに、ソーマにちょっと話しかけてみることにした。
「……そろそろ2時間くらい経ったか?」
「知るか、自分で調べろ」
ですよね。予想通りの答えが返ってきた。別に良いんだ、期待してなかったから。
俺は今度こそ忘れてこなかった自分の携帯電話を取り出し、時刻を確認する。
この廃館で散策を始めたのが丁度正午、集合時刻である2時まであと30分もない。
「あと30分もないな……もう戻るか。大佐達は絶対戻ってきてないだろうけど」
何度も言うが、シェイド大佐やラスターさんが2時間で戻ってくるわけがない。最低でも4時間は必要だろう。
イーナやダグラスさん達はどうか解らない。ダグラスさんも……なんか戻ってきてないような気がする。
ファンデヴ達なんてさっさと切り上げて戻ってきてるんじゃないだろうか。サイラスは面倒なことはやりたがらないようだし。
数歩先を歩いているソーマは今が何時であれもう戻るつもりだったのか、調べていない部屋のドアも素通りして歩き続けていた。
「お、おい待てよ! 置いて行くな!」
こんなところに一人で置いて行かれたら、確実に迷う自信がある。
携帯電話をしまい、もうかなり離れた所にある階段を降りているソーマの後を走って追いかけた。
「わっ!?」
走り出した瞬間、割れている窓から入ってきたと見られる大きめの枯れ枝に足を引っかけた。
転びそうになり、俺は慌てて壁に手をついて身体を支えようとする。
だが、それは叶わなかった。
壁の手をついた部分が、何かが凹むような音を立てて、音通り文字通り、凹んだ。
それを理解した瞬間、自分の足下の床が消え去った。
待て、この展開はどこかで——なんて考えている場合じゃない。
悲鳴を上げる暇もなく、俺の身体は重力に従って落ちていった。

落とし穴——だと思うが、それは案外深い物ではなく、すぐに俺は底に着地……というか、落ちた。
「いって……! 何なんだよこれは!!」
叫びながら起き上がると、ここがどうやら地下らしいことが解る。光源は殆ど無く、薄暗かった。
俺が落ちたところは丁度地下室と地下室を繋いでいる廊下らしく、燭台が等間隔で壁に取り付けられていた。
「っていうか何で俺はこんなに落ちやすいんだよ……」
自分への悪態をつき、身体を触って何も怪我をしていないか確かめる。
少し身体を打っただけで、骨折や捻挫などはしていなかった。背中に背負っていた闇霧もちゃんとある。ベルトに取り付けてある、昨日ホリックさんに貰ったホルスターも、中に入っている拳銃も大丈夫だ。
その事に溜息を吐くが、それは安堵というよりも呆れの方が多かった。
またこれでソーマとはぐれてしまった。
そういえばイーナと初めて出会ったときもこんな感じだった。今回は色々と条件が違うが。
「兎に角ここを出ないとな……どっちに行けばいいんだ?」
少ない明かりを頼りに辺りを見回していると、突如背後に凄まじい殺気を感じた。
俺は瞬時に背後の壁を振り返ると闇霧の柄を握り、抜刀する。
それとほぼ同時に、その壁が吹き飛んだ。
瓦解していく壁の残骸と土煙から見るのは、黒い布の切れ端だけだ。
一瞬ソーマかと思ったが、あいつがこんな事をするわけがない。少なくとも、破壊命令の出された物以外壊さないことは知っている。
ならば、この殺気を発しているのはどこの誰なのだろうか?
そんな俺の疑問に答えるかのように、その正体が姿を現した。
肩の辺りで切り揃えられている墨のような黒髪に、裾が擦り切れてボロボロになっている黒マント、生まれてから一度も日光に当たったことがないのではないかと思ってしまうほどに白い肌。長身の体付きと顔つきは二十代前半の男性の物だ。
切れ長の目は、毒々しい程の赫い色をしていた。今はそれが、愉悦と殺気で輝いている。
だが俺の目を引いたのは、そんな人間離れした外見じゃない。
その手にある、巨大な鎌だった。
それはソーマの巨大鎌、ナトゥスを彷彿とさせるが、形状が全く違っていた。
ナトゥスが白に青、水色といった色で構成されており、電脳系のようなデザインになっているのとは違う。
彼の鎌は、見ただけで金属と解る矛先に、同じく金属光沢を持つ柄。
それはまるで、よくタロットカードに描かれている死神が持つような物だった。
「——Welcome,foolish customer!」
男性は流暢な英語で俺に話しかけてきた。和訳すると……『ようこそ、愚かなお客様』……か?
「……アンタ、何者だ!」
和訳した言葉の意味に憤りを感じながらも、相手に闇霧の切っ先を向け強い口調で問う。
「——この姿で驚かないなんてなァ……てめェこそ何者だ? この館を散策しまくって」
「充分驚いてる、ただ俺の仲間に同じような奴が居るだけだ! それとそんな事は俺に訊かないでくれ!」
俺は元々この廃館散策には反対だったのだから、俺に聞かれても困る。尤も、彼はそんな事情など知らないが。
同じような奴、というのは勿論ソーマの事だ。これもばれたら絶対殺される。
「だって仕方ねェだろ、ここにはてめェしか居ねェんだから。それとコレは俺の館だ、さっさと出てけ」
「俺の……って、この廃館がアンタの館!? こんな所に人間なんて住んでたのか!?」
明らかに廃墟になっている、放棄されて久しいような館にこの男性が、人間が住んでいるというのか。
だが男性は一度不機嫌そうに眉を顰め、その直後本当に可笑しそうに笑い出した。
「何が可笑しい!」
何故こんな、いつ切りかかられてもおかしくないような状況で平然と武器を下げたままで笑えるのか解らなかった。
「いや……人間呼ばわりされたのは久々だ。最後に言われたのは……丁度今から百年くらい前だったなァ」
「待て、百年……!? まさかアンタ……人間じゃないのか……!?」
彼が『人間呼ばわりされたのは久々だ』と言っているのだから、答えはもう決まっている。
それでも、聞かずにはいられなかった。
「あァ、人間じゃねェよ。俺の名前はアーシラト」
予想通り、男性——アーシラトは鎌を肩に担ぐと俺の質問にはっきりと答えてくれた。

「——種族は、死神さ!」

鎌と黒マント、そして人間ではないという事実。まさかとは思ったが、本当に死神だった。
それも皮肉を込めての呼び名でも二つ名でも何でもない。純粋な種族としての、だ。
彼が死神というのならば、俺を狙う理由なんてただ一つ。
「……俺を殺す為か!」
俺は魂なんて物はあまり信じてはいないが、それしかないだろう。
「当然だろ? 歩いてたら丁度お前が降ってきたんだ、探す手間が省けたぜ」
アーシラトは肩に背負っていた鎌を下ろし、それを数度回転させる。
それが遊びなどの類ではない、明確な殺意を持って俺の首に突き付けられた。
「さァ、せいぜい逃げ回ってくれよ、客人」
語尾に音符でも付いていそうな声音で、彼は言った。




あの英文をエキサイトで翻訳するまでに20分くらいかかった\(^o^)/

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廃館慰安旅行!超怖い!←
いやだって怖いだろjk…廃館だぜ…!?




RELAYS - リレイズ - 39 【異形の館-1】

耳に入ってくるのは、強風で煽られた草や枝葉が出す葉擦れの音と、鳥の鳴き声だけだった。
目の前にあるのは、窓ガラスが割れ、壁にツタが這い、如何にも廃墟ですといった雰囲気を醸し出している大きな館だった。
そう、俺達は今、慰安という事で廃館の前にいる。
イーナやサイラス、ファンデヴはここまで荒れ果てているとは予想していなかったのか、館を見据えたままで呆然と立っていた。
ソーマだけは本当に興味がなさそうだったが。当然と言えば当然の反応かと思う。
だが、そんな中でも呆然とせず、それどころか逆に好奇心を搔き立てられたのが約二名居る。
「——すっげ、マジで廃館だなこりゃ……!」
「廃墟になってからかなりの年月が経っているらしいな……面白そうだ」
「でしょ? 僕もここまで念入りに調べて見付けたんだ。さすがに疲れたよー」
「何なんですかシェイド大佐!! こんなの面白くないですよ!!」
逆に怖いだろう、これは。どこの幽霊屋敷だ、どこの罰ゲームだ。
「ね、ねぇ、これ本気で中に入るの? 大丈夫?」
来る前は本当に楽しみだったらしくはしゃいでいたイーナも、どこか恐怖を感じているのか解りきった事を訊いてきた。
当然、入るに決まっている。ここまで来て引き返すなんて事は有り得ない。
「何か幽霊とか居そうだよなぁ……」
「幽霊というよりは吸血鬼とか、死神とか」
ファンデヴの言うとおり、確かにここは幽霊やお化け、霊というよりは吸血鬼や死神が住んでいそうな気がする。
「そうだねー……もしかしたら本物が居るかもしれないね、これは」
人間の魂を狩る為の巨大鎌を持った黒ずくめとかか。……なんだ、こうやって表すとどこのソーマだ?
「よし、じゃあ早速入るよ!!」
「おー!!」
「何でラスターさんそんなにテンション高いんですか!」

廃館の中は廃墟だから当たり前だが、埃や枯葉、老朽化、割れた窓ガラスの破片などでかなり廃れていた。
床を踏みしめる度、木が軋む音がした。広間に敷かれている元は鮮やかな赤だったであろうカーペットは色あせてしまっている。
窓から入り込む風、それが誰かの泣き声に聞こえてきて、それにより一層不気味さを増していた。
俺達はそんな廃館の中、ダグラスさんを中心に輪を描くようにして集まった。
「それじゃあ、ここからは2人組を作って散策ってことにしよう」
ダグラスさんも入れて、丁度8人だ。2人組は4組できる。
……俺が誰とのペアになるかなんて、この時点で決まったような物なのだが。
「僕が勝手に決めておいたけどいいかい? ——サイラスとファンデヴ、シェイド大佐とラスター君、ヘメ君とソーマ、イーナは僕とね」
やっぱりか、と、俺は心の中で溜息を吐いた。
別にソーマが嫌な訳じゃない。嫌いなわけでもない。確かに少し苦手なタイプではあるが、俺が初めて任務についたときからずっと一緒に行動しているのだ。どう接すればいいか、等は一応解っている。
ただ、たまには違う人と組みたいと思っているだけだ。
いや、できれば今はシェイド大佐達は避けたい。あの二人はこの廃館に魅入られてしまっている。
決められた時間内に戻ってくるかどうか不安だ。ぶっちゃけた話、もう俺は諦めている。
二人なら、4,5時間は帰ってこないんじゃないだろうか。
そうなったら全員で捜索することになるな……迷子になる、なんて事は有り得ない……よな?
楽しそうに広間を見回しているラスターさんとシェイド大佐を見ながら考えていると、ダグラスさんが号令をかけた。
「はい、みんな散ってー! 2時間後にこの広間に集合ね!」
2時間の間に、この廃館を散策して何かないか探すこと、か。
皆は早速、階段や廊下、豪華な装飾が施されているドアを開けたりしている。
「——さっさとしろ、行くぞ」
「え? あ、悪い!」
てっきりソーマの事だから、舌打ちでもして面倒だとか言うんじゃないかと思っていた。
もしかしたら、この廃館に来るのが嫌じゃなかったのか。
床が軋む音を聞きながら、俺とソーマは廃館の奥へと歩を進めた。

割れたガラスの破片を踏みながら歩いた廊下の先にあったのは、一つの両開きのドアだった。
こんな奥まったところにあるなんて、何か理由がある筈だ。例えば、何かの実験場、とか。それはないか。
だが、良からぬ事やその痕跡がある可能性も捨てきれない。
俺はドアの取っ手に手をかけたが、それを考えて開けるのを躊躇した。
それを見ていたソーマが、俺を一瞥してからドアを開けた。
壊れるのではないかと思うほどに大きな音を立てて、ドアが全て開け放たれる。
目の前に広がった光景は、近代的な実験場でも、人が住んでいるような掃除された部屋でもない。
どこにでもあるような、古びた書斎だった。
部屋を囲むように巨大な本棚が幾つも置かれており、壁は煉瓦を積み上げて作られている。
本棚には、本が陳列されたままだ。理由は分からないが、この館を出る際に本を運び出す暇がなかったのだろう。
小さなテーブルの上には、何冊かの本とランプがそのまま放置されていた。
「何だ、ただの書斎か……ここには何もなさそうだな」
言いながら、傍にあった書物の内一冊を手にとって捲ってみる。
どうやらこれは魔術書らしく、俺には解読できない文字が延々と綴られていた。
「……全て魔術書か、ここにあるのは」
今まで自分が読んでいた魔術書を元あった場所に戻すと、ソーマは俺の手から魔術書を取ると軽く流し読む。
「焔属性か、俺には合わないな」
俺には全く解らないが、どうやらこの魔術書に綴られている魔法や魔術は焔属性のものらしい。
確かにソーマには合わないだろう。氷属性の魔法しか使わないのだから。
別に氷属性以外扱えないというわけではなく、ただ単に焔や雷といった属性が自分に合っていない、というだけだということは以前聞いているため解っている。
言われてみれば、ソーマが焔や雷を出しているなんて想像できない。
「出るぞ。こんな所、貴様には居ても意味がない」
ソーマは一冊の魔術書を持つと、書斎を出ようとしていた。
「待てよ、それどうするつもりなんだ?」
「ここにはこれがあった、その照明としてだ」
即答し、ソーマは片手に魔術書を携えたままで書斎を出た。
俺もその後を追おうと足を踏み出したが、止まる。
「——ん?」
足下に視線を落とす。
何か、妙な物を感じた。不快ではないが、ただどこか妙な感覚だった。感じたこともないような——言葉には上手く表せない。
最も近い言葉で言うなら……足下に何かの気配を感じたといったところだろうか。
「……何だったんだ?」
少し気にかかったが、それは後で調べればいい。
俺は再び歩き出すと、両開きの扉をゆっくりと閉めた。

男は閉ざされた空間で、壁にもたれかかって座っていた。
その傍にある小さなランプが出す灯りだけが、この空間を照らし出していた。
閉じられていた彼の瞼が開かれ、作り物のように真っ赤な瞳が覗く。
男は久々に感じる『何か』に笑い、天井を見上げた。
そして、誰に言うでもなく、実に楽しそうに呟いた。
「——あァ、久々に来たか」




廃館散策って何か面白そうよね!←

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飴うまい。そしてまたコメディ行くぞ。
リレイズって結局シリアスとコメディの比率ってどんくらいなんだろうか。




RELAYS - リレイズ - 38 【慰安】

「——慰安を兼ねてって、それ慰安でも何でもないですよ!! そんな事を言う為だけに俺を捕まえたんですか!!」
「まあまあまあ落ち着いてヘメ君、別にこれは任務とかでも何でもないから」
「黙れ、俺も同じ思いをしてここに居るんだ」
「まあオレ等は別にいいけどよー……」
「別に楽しそうだしいいけど?」
「俺はまあ……どうでもいいぜ」
「別にどっちでも」
口々にソーマやラスターさん、他の皆が言っているが、俺はどうしても落ち着けなかった。
この状況で落ち着けない俺がおかしいのか?

事の起こりはほんの十数分前だ。
自室を出て、俺は当てもなくふらふらと歩き回っていた。
途中でまだ逃げていたのか息を切らせて走るアイドと擦れ違ったりはしたが、声をかけることもしなかった。
ここで声をかけても反応はないだろうし、何よりも会話なんてできる状況でもない。
だが、アイドは逃げ回っていてもそれを追いかけるダグラスさんに会うことはなかった。
もしかしたら、ダグラスさんはアイドを放っておいてもう違う事——例えば仕事とかに移っているのかもしれない。あの人が自主的に資料整理をしているのを見たことはないが。いつもアイドか誰かに「仕事して下さい!」と言われてやっているのだ。
そう考えると、研究班の人達やダグラスさんの周りにいる人達は本当に大変だろうと思う。同情すら湧いてきそうだった。
ホリックさんはどうなのか少し気になる。彼の人柄からして、アイドのように「仕事サボらないで下さいよこの駄目司令官!」とか言いながらドロップキックはしなさそうだ。
ちなみにアイドのドロップキックだが、これは本当の話だ。俺も何度か見たことがある。それでもダグラスさんが普通に受け流して普通に接している所を見ると、その大半は冗談だと思う。
というか、本気で司令官にドロップキックなんてしたら絶対にアイドは無事じゃすまない。
あの人なら、本気でやっても軽く受け流してしまいそうな気もするが。
ホリックさんなら……あの人のいい笑顔を浮かべながら資料の束で頭を叩きそうだ。
彼がダグラスさんの頭を資料で叩く様を想像して、思わず笑みが零れる。
ふと顔を上げると、目の前には丁度研究班が使っている研究室があった。サイラスと初めて会った所でもある。
重みに耐えきれずに外れてしまったドアの修復は、少しずつだが進んでいるらしい。
殆どの研究員がドアの修復に当たっているが、室内にはいつも通りに研究や実験をしている研究員も何人か見られる。
室内に居る人の中に、ホリックさんの姿が見えた。
修復作業をしている内の一人に断ってから研究室の中に入り、彼の元へと小走りで近づく。
「——どうしたんですか?」
俺に気付いたホリックさんは、手に何か薬品の入ったフラスコを持ったままで問いかけてきた。
「あ、別に何もすることなくて暇だったので、何となくですよ」
嘘を吐いて得をするわけでもないし、吐く必要もない。
「そうですか? 銃の整備は? 刀の手入れは? 部屋の掃除は?」
「……いや、その……すみませんやってません」
「駄目ですよ、武器はちゃんと手入れしておかないと。刀は能力なのですから、大丈夫だとは思いますが……用心に超したことはありませんしね」
リグスペイアに居るときは、しょっちゅうラスターさんが来て見てくれたりしていた為に自分ではやっていなかった。
自分でも整備の仕方を知っておかないと駄目だと言われて、目の前で実際にやってみせたりもしてくれたのだが、俺には何が何だか殆ど解っていなかった。
「そうですよね……後で少し誰かに教えて貰います」
「それがいいと思いますよ。頑張って下さいね」
誰か、といっても、ソーマに銃の整備の仕方なんて解る筈もないし、イーナにもできるわけがない。そもそもこの二人が銃を持っているのさえ想像できない。
だから、必然的にシェイド大佐かラスターさんになるのだけれど。
ホリックさんは本当に優しい人だ。相手への気遣いを忘れない、という。
まともに会話をするようになってから1時間も経っていないが、解る。
何となく、昔から話しているような、懐かしい感覚と言ったらいいのだろうか。胸の中に広がる温かさがある。
「——それはそうと、アイドを見かけませんでした?」
「アイド? アイツならさっき擦れ違いましたけど……まだダグラスさんから逃げてるみたいで」
何かアイドと二人でやったりする仕事か研究でも残っていたのだろうか。
だが、そんな俺の考えは本当に的外れだったことを思い知らされた。
「ああ、まだ逃げてるんですか」
「……へっ?」
あまりにも簡単にあっさりと言われてしまい、俺は思わず間の抜けた声を出してしまった。
「いや、アイドに『司令官が捕まえに来るから逃げた方がいい』って、言っただけなんですがね……計算通りですよ」
不気味な含み笑いをしながら言ったホリックさんの口元には、笑い声と同じく不気味な笑みが浮かんでいた。
「ホ、ホリックさんまさか……」
「今日の私の研究課題は『アイドがどれだけ私の嘘に気付かずに逃げ続けるか』ですよ」
前言撤回。この人、相当酷い人だ。
「まあ、そろそろ気付くでしょう。記録は約1時間、ですね」
何も言えずに居ると、彼は白衣のポケットから取り出した懐中時計を見て呟いた。
ホリックさんを止めるべきか、それともそのまま話を続けるか悩んでいると、突然背後から声をかけられた。
「ヘメ君居た居た!! ちょっと来て!!」
「な、何ですか!? 何かあったんですか!?」
どこか切羽詰まったように聞こえるダグラスさんの声に、俺は振り返りながら焦って訊いた。
「いや、そういうんじゃなくて! 兎に角いいから来て!!」
それだけを言い残し、ダグラスさんは踵を返すと行ってしまった。
「……えっと、それじゃあ……行ってきます」
「いえ、気にしないで下さい。楽しかったですよ。それでは」
俺はそこでホリックさんと別れ、司令室に向かった。
途中でまたアイドと擦れ違って、暫くしてから怒号が聞こえてきたが。

……要するに、簡潔に説明すると『何か急な任務かと思って急いで来たら別に関係のない話をされている』ということだ。
それも今回頑張ったから慰安を兼ねて、という理由での旅行だ。
別にただの旅行ならいい。それなら俺も喜んでついて行く。
ただその行き先がどう考えてもおかしいのだ。
「別に旅行自体はいいですよ! ただ何で廃館散策なんですか!!」
「え、面白そうでしょ? 廃館! 何か面白い物があるかもしれないし、ね」
「だからって、少しは考えて下さいよ!!」
そして俺は、廃館に行くという事を聞いてから今までずっと反論している。聞き入れちゃくれないが。
「じゃあもう多数決にしよう。どっちでもいいは無し……ああ、ソーマは別に手挙げなくてもいいからね」
「言われなくても誰がやるか」
ソーマとダグラスさんを抜いて……俺を入れて丁度6人だ。
「じゃあ、廃館に行きたい人ー!!」
ダグラスさんの声と共に挙げられた手は5本。……待て、5本?
「——俺以外全員かよ!! みんな行きたいのか!!」
「面白そうじゃない! 行くわよヘメティ!!」
「廃館は以前から興味があったからな」
「幽霊屋敷みてぇなの面白そうだしな!」
「廃館なんて散策の基本だろ!!」
「……行きたい」
全員が、妙に目を輝かせながら口々に丁寧に答えてくれた。何でなんだ。
「それじゃ、決まりだね。早速明日出発するよ!! 取り敢えずヘメ君はまた寝坊しないように!」
「解りましたよ……行きます、はい……」
もうここまで来たら、自分だけ行かないなんて言えないじゃないか。
俺は溜息を吐くと肩を落とし、ダグラスさん考案の慰安旅行への参加を認めた。




次どうなるんでしょうかね^p^p^p^
取り敢えず多分2泊3日だと思うよ!

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ここまで進んだのって奇跡じゃね?←
新しい奴出てくるよー。ベネトナシュって10月22日の誕生日星で面倒見の良さって星言葉らしい。

そして間違えた、36じゃなくて37だった\(^o^)/




RELAYS - リレイズ - 37 【束の間】

サイラスとファンデヴの二人と別れた俺は、まず自室に戻ってきていた。
長く続いている廊下の一番端、そこが俺の部屋だ。隣は何故か物置になっている。
以前その部屋を使っていた能力者が、『もうあの部屋は要らないから物置にでもしてくれ』と言ったらしい。
何も物置にしなくても、整理整頓して掃除をすればまだ使えるだろうに。何で物置という選択肢を選んだのか。
それに従うダグラスさん達もダグラスさん達だ。そこは反論するべきじゃなかったのか。
堂々と『物置』なんてプレートが貼られているドアを見てそんな事を思い出しながら、自分の名前が書かれているドアを開け、室内に入る。
俺の部屋は白が基調となっている。一見すれば病室にも見えるかもしれない。ベッドだって白い。
カーテンの色も白だ。遮光性は別に必要ない。日の光を浴びるのは結構好きだ。
別に他の色が嫌いという訳ではない。現に俺の服装なんて灰色のシャツに赤いズボンに黒ブーツだ。
ただ、何となく白で統一したかった、というだけで、はっきりとした理由はない。
クローゼットにベッド、テーブル、椅子、その他にも、生活するための家具は置いてある。
ただ一つ、本棚だけは置いていない。読書が苦手で本を読まないのだから、置いても意味がない。
俺はベッドに歩み寄り、急いで出てきた割には案外整ったままのシーツの上から枕をどけた。
「あー……やっぱり忘れてたか」
枕のすぐ下から出てきた赤と黒の携帯電話を手に取り、俺は安堵の溜息を漏らした。
「まああれか、落とさなかっただけマシか……」
忘れてきたのではないか、という考えではあったが、もし落としでもしていたらどうしようかと頭の隅で考えていた。
もし本当に落としていたのなら、またリグスペイアまで戻って探さなければならない。誰かに拾われてそのままその人の物になっている可能性もあるのに、だ。
そうなったときの事を考えると、眩暈がする。
闇霧をベッド近くに立てかけ、ホルスターがなくベルトに挟み込む形で収納していた拳銃を隣に置くと、ベッドに腰掛けた。
やっぱり自室、自分の空間というものは落ち着くものだと思う。
しばらくぶりに帰ってくる、自分の居場所。心が落ち着くその感覚が好きだ。
カーテンが閉まっている窓から入り込む光は、橙色を帯びて薄く室内に色を付けていた。
純粋に、素直に、綺麗だと思う。
これさえも、いつか失われてしまうのかと思うと、心に穴が空いたような、空虚な感覚を覚えた。
息を吐こうとした瞬間、突然ドアがノックされた。
静寂の中に割り込んできた音に驚いたが、すぐに立ち上がるとドアを開けた。
そこに立っていたのは、俺も数度くらいしか話したことがないであろう男性だった。
灰色の長髪に、鳶色の瞳。それにいつも笑っているような口元。身に纏っているのは白衣。
彼は軽く会釈をすると、口を開いた。
「……突然、すみませんね」
「え、えっと……研究班の——あれ?」
見たことはある。ただ、相手には失礼なのだが、名前が解らない。
「……ホリック。ホリック=ベネトナシュですよ。話したことも殆どないのですから、解らないのも仕方がないです」
「え……あ、すみませんホリックさん」
困ったように笑ったホリックさんに、今度は俺が頭を下げた。
「気にしないで下さい。——そうだ、忘れていました。これ」
彼の優しい言葉と共に差し出されたのは、黒を基調とされているホルスターだった。
「拳銃、持ってるんですよね? なのにホルスターは持っていないなんて。危ないですから」
手渡されたホルスターを近くで見てみると、金具の部分が十字架のような装飾になっている事が解る。
俺が好きな装飾だ。十字架などのモチーフはかなり気に入っている。
気付かれることが本当に少ないが、右耳にだけ十字架のピアスも付けている。気付く人間なんて、本当に少数だ。
1年くらい行動を共にしているソーマでも、恐らく気付いていないと思う。まあ、アイツは他人に対しては無関心だから仕方がない。
ダグラスさんは最初から気付いていた。記憶を無くして行き倒れていたらしい俺を見付けたのがあの人だったのだからそれも当たり前だが。
「——ありがとうございます、ホリックさん」
「お礼なんて要りませんよ。丁度良さそうなのがあったので持ってきただけです。こういうデザイン、好きでしたよね?」
「え? はい、好きですけど」
「やっぱり。自分の読みが当たると嬉しいものですね。それじゃあ」
ホリックさんは意味深な含み笑いを残し、踵を返した。
その背中を見送ってから、俺はドアを閉める。
先程貰ったホルスターに、ベッドの上に放置していた拳銃をしまう。
それを一度見つめて、傍にあった棚の上に置いた。
機関の中でなら、持ち歩かなくても闇霧だけ背負っていれば大丈夫だ。
そんな事を言えば、またソーマやダグラスさん、アイドに『いつでも武器は持ち歩け』と言われてしまうだろうか。
立てかけておいた闇霧を背負いながら壁にある時計を確認すると、まだ寝るにはかなり時間があった。
このまま部屋で寝ているか、それとも本部の中を歩いてみるか、それとも誰かと話をするか、だ。
——そういえば、シェイド大佐やラスターさんやイーナはどうしただろうか。
三人とも、部屋にはアイドとダグラスさんに案内された筈だ。
アイドはあの後ダグラスさんに捨て台詞を残して逃げてから、見かけていない。
未だに逃げ続けているのか、もう捕まってしまっているのかも解らない。
もし捕まっていたら、もう研究室から出てこられないんじゃないか。仕事——もしくはパシリを押し付けられて。
いっそソーマと話でもしようかとも考えるが、アイツと話せる訳がない。一言二言言葉を交わして『それじゃあ俺は帰るから』と言って出てきてしまうのが目に見えている。
手合わせなら、一階に訓練場もあるからできる……とは思うが、またソーマに軍での手合わせと同じ事をされるのではないかと考えると怖くて誘うこともできない。
あのときに突然首を絞められたのは、本当に軽くだがトラウマになってしまっている……らしかった。
「……どうするかなぁ」
口に出してみても、何か名案が浮かぶわけでもない。
このままここにいても、時間を無駄に潰すだけだ。
「ちょっと色々見て回ってみるか……」
1,2年、もしかすれば3年は居る本部なのだから、解らないところがあるとは思えないが。
ただ、たまには見て回るのも面白いかもしれない。
サイラス達を案内したときは、部屋の隅まで詳しく見て回れなかったのだ。
俺は立ち上がると、一度大きく伸びをしてから部屋を出た。




ホリックがジェイド大佐みたいになった。ジェイド大佐好きよー。

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赤闇銀羽
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