魔界に堕ちよう カルマ 2 忍者ブログ
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Wantを書き直したい今日この頃。ウボァー^p^

 程なくして、他の扉に比べてかなり豪華な装飾が施されている両開きの扉が見えた。扉の前には、恐らくボディーガードとでもいうのか、銀髪を短く切り揃えている黒スーツの人間が立っていた。
「……今日は。カルマ=オールディック。どのような御用件で?」
「仕事だ。初仕事だから、来ておいた方が良いと思ったんだ、それだけ」
 黒スーツに短い銀髪、一見すれば男性にも見える女性は確認するように頷くと、扉の前から離れた。
「解りました。それでは、どうぞ。……ああ、一つ訊きたいことがあります」
「何だ?」
「貴方が所長にお会いしたとき、所長はどのような口調でしたか?」
 何故そんな事を訊くのだろうか。そんな事、訊いても意味がないだろうに。
「別に……普通だった。優しい感じだったけど、それがどうしたんだ?」
「……そうですか。いえ、何でも御座いません。ただ、驚かれないようにと思いまして」
 彼女は意味深に笑い、言葉を濁した。
 驚く、といっても、何が何だか解らない。口調と何か関係があるのは確かだが、何のことなのかさっぱりだ。
「解った。有り難う」
 深々と礼をした女性に俺は言い残し、扉を軽くノックすると取っ手に手を掛けた。
「……失礼します」
 広々とした部屋は明るく、どこかの金持ちが家に飾っているような物もあった。
 部屋の奥にある大きな机を背にして座っている所長の後ろ姿も、全て、昨夜来たときと変わっていない。
 彼女は結局何を言いたかったのだろうか? 別に驚く物も何もない。
 考え込んでいると、所長は俺が来たことに気付いたのか振り返った。
「——やっと来たか、カルマ!」
「はい?」
 まるで子供のように表情を変えて、待ちくたびれたとでも言いたげに声を出した所長の様子に、俺は驚きを通り越して間の抜けた声を上げてしまった。
「遅いんだよお前は! どんだけ待ったと思ってるんだよ!  ……って、どうしたカルマ」
「ジェイル所長、何かありましたか。口調全然違うじゃ……」
「あ? あーその事か!! 何だよ、イキシアから聞いてねーのか? ホラ、扉の前に立ってた奴」
 あの女性はイキシアという名前らしいが、俺は何も聞かされていない。俺が聞いたのは、意味深な言葉だけだった。
「いえ、その口調については何も」
「何だよアイツまたかよー! ……じゃあ私から説明すっか」
 ジェイル所長は頭を掻くと、事態が飲み込めていない俺に説明してくれた。
「昨日言ったとおり、私は悪魔に取り憑かれてる人間ってのは知ってるな? お前全っ然驚かなかったけど」
 彼の右側頭部、丁度俺から見て左側には、如何にも悪魔ですといった細い角が生えている。そしてその角には、錆び付いた鎖が絡まっていた。
 身に纏っているのは、薄めの生地で作られている裏地が赤の黒いマント。
 極めつけというのか何というのか、背中からは蝙蝠のような羽が生えていた。
 どこからどう見ても、よく絵本や空想で描かれる悪魔だった。
 昨夜聞いた話だと、ジェイル所長は二十代前半の頃に空想の中だけだと思っていた悪魔に取り憑かれ、こうなってしまったらしい。そしてもうやけになって、悪魔の——所謂コスプレというものを始めたのだと。
「はい。生憎、十六歳の頃にもっと非現実的な事を経験してしまっているので」
 俺は苦笑しながら肩を竦める。十六歳の頃のあの出来事に比べれば、これくらいなんて事はない。少しも驚かなかった、と言えば嘘になるが。
そうか……そういや昨日も言ってたな。まあそりゃおいといて、だ。そのせいか何か知らねぇが、それ以来私は俗に言う二重人格になっちまった訳だ。記憶はどっちでも覚えてるんだけど、な」
 成る程、それなら口調が変わっているのも、何もかもつじつまが合う。
 彼女はこれを言いたかったのか、と今更ながらに理解した。確かにこれは、知らなければ驚く。
「昨日お前に応対したときのは私の中で“ジェイル=ファティエス”って呼んでる奴だ。今の私は違う、“ジェイル=ラングウォルト”だ。まあ、ごっちゃになるからどうでもいいんだけどな。フルネームをバラしたようなモンなんだし」
「……そうですね。俺も混乱してきました」
「ハハッ、何でそんなにはっきり言いやがんだよコノヤロー」
 ジェイル所長のフルネームは“ジェイル=ファティエス=ラングウォルト”。
 混乱して当然だ。人格に名前なんて必要ない気もするんだが、それは本人に任せる事にしよう。
「じゃあもういい、普通に性格を指す言葉で呼ぶとするか」
「最初からそうすればよかったんじゃないですか?」
「いや、何か名前合った方がいいかなっと思ったんだよ! まあこの話はここら辺にしておいて。……用件は?」
 先程までの冗談めかした雰囲気から一転、銀縁眼鏡の奥に見える彼の瞳が刃のように鋭い光を帯びた。
「……俺の初仕事、ですよね?」
「何だ、それで顔出しに来たってか? 律儀だなーお前」
 もしかして、普通は初仕事の前に顔を出さないのだろうか? あまり勝手が分からない。
 俺はエストから貰った二つ折りの資料を開き、ジェイル所長に見せる。
「そうそうコイツなー。……この街の北側あるだろ? あの治安が超悪ぃ所。そこを荒らしてるグループのボスだ。良くある事だからまあそう難しくはないと思うぜ?」
 この街は何故か北だけが治安が悪い。他の所はどうってことはない。ちなみにこの組織があるのは街の中心部に近い東側だ。治安は良くもないが悪くもない。猟奇的な連続殺人や強盗が多発するわけでもない。俺はこの地区で見たことはないが。
「良くある話ですね」
「だろ? だからお前も楽だろ。そんな油断してなければ殺されることはまずねぇと思うぜ?」
 油断なんてするわけがない。
 いや、できるわけがないと言った方が正しいか。
 いつでも周囲に気を払い、いつ後ろから殴りかかられても、切りかかられても、撃たれても瞬時に対応できるように、常に警戒は解かない。
 それが例え組織の中でも、与えられた自室でも、だ。
 あの世界で、皮肉にも身に付いてしまった。覚えてしまった。
 いや、あの世界に行ったからじゃない。俺は十歳を過ぎた辺りからそうだった。
 突然狂気に支配されて、力に溺れた双子の兄に何時殺されるのか、なんて考えて考えて、結局警戒を解きたくても解けないまでになってしまった。
 もう後戻りなんてできないくらいに。
 もしもう居ない彼に言えるのなら、一つだけ言いたい。
 どうして母さんを殺したのか、どうして狂ったのか、訊きたいことはたくさんあるけれど、ただ一つだけ。
 どうしてこんなに俺を歪ませたのだ、と。
 俺が勝手に歪んだのなんて、心の奥底では理解している。それでも、受け入れられなかった。受け入れたくなかった。
「……どうした? カルマ。ボーッとして」
「あ……何でもないです。申し訳御座いません」
「しっかりしろよ? それじゃ、頑張れカルマ。私はこっからケーキでも食いながら応援してるぜ!」
 ジェイル所長は机の上にあったケーキ屋の箱を空けると、子供が見たら目を輝かせて喜ぶであろう可愛らしく彩られているケーキを取り出した。
「……そんなに好きなら、帰りに買ってきましょうか?」
「え、本当か!? 頼む!! できればチョコケーキでな!! あ、ホールでもどっちでもいいぜ!」
 冗談で言ったのに、本気と捉えられてしまった。今度からはこの話題で冗談を言うのは止めた方が良さそうだ。
「……解りました、チョコですね?」
「ああ! いやー悪いな! 最近俺も自分の金が少なくなってきてさ!」
 ……俺だって足りてない。いつも切り詰めて生活しているのに。
 溜め息を吐きたいのを堪え、俺は一度礼をすると所長室を出た。
「……お疲れ様です。大丈夫でしたか?」
 イキシアが首を傾げて、事務的な口調で問いかけてくる。
「別に……大丈夫だった。思ってたほどじゃなかった」
「それなら、良かったです。それでは、行ってらっしゃいませ」
 短く切り揃えられた銀髪を微かに揺らし、彼女はまるで自分の主に向かって言うように言い、機械のように寸分違わず礼をした。
「ああ、行ってくる」
 俺が返したとき、イキシアが微かにだが笑った——気がした。


 組織が使用している建物——というかビルを出ると、目の前に一台の黒い車が停まっていた。
 運転席のドアが開き、運転手である男性が規則正しい足音を立てながら歩み寄ってくる。
 顔の横にかかっている髪の毛だけが長く、他はうなじの辺りで無造作に切られている。闇、という表現が一番合っていると思われる漆黒の髪には、所々血のような赤いメッシュが入っていた。
 左目には頬を覆う程に大きな黒い眼帯、右頬にはローマ数字の十三の形の赤黒い色をした入れ墨があった。
 タートルネックと言う物なのだろう、首元を覆う黒い長袖シャツに普通のブラックデニム生地のズボンを着ていたが、シャツは肩から二の腕の部分だけ袖がない状態になっている。右腕にだけだが、そこにもインクが飛び散ったような入れ墨が見えた。
 彼は俺の目の前まで来ると足を留め、またも闇のように黒い瞳に俺を映した。
「運転手のバイアス=クラヴィーピアスだ。どう呼んでくれても構わん」
「……ああ、解った。俺は」
「カルマ。カルマ=オールディック。名前など、既に自分が担当する全員分、最初に覚えている。それくらいはできなければ仕事にならん」
 俺の名前をはっきりと確信を持って言い、バイアスは微かに口角を吊り上げた。確かに、名前を覚えていなければきちんとした仕事なんてできない。ただ、最初に全てを頭に叩き込み暗記できる、というのはどうか。
 彼の記憶力は、並大抵ではないらしい。そのことだけは解る。
「目的地も全て所長から聞いている。早く乗れ」
 バイアスに急かされ、大人しく車に乗り込む。
 乗り込んで、一息吐いたところで気付いた。それもとても重要な事に。
 別に忘れ物をしたとかじゃない。そもそも忘れる物もない。
「……悪い、バイアス、少し待ってくれ」
「何だ。忘れ物でもしたのか、殺し屋が」
「違う。……そうじゃなくて」
「さっさと言え、時間がないんだ」
 苛立ちを滲ませる声でハンドルを握ったまま言うバイアスに、俺は呟くような声で答えた。
「……酔うんだよ」
「はぁ?」
「…… 悪かったな、二十歳にもなって乗り物酔いする馬鹿で!」
 無性に泣きたい衝動に駆られる。平和だったときの家族以外には言ってもいなかったのに、何故それを出会ってから数分の運転手に言わなければならないのか。
 穴があったら入りたい、というのはこのことを言うのかもしれない。
「……何だ、その事か。ほら」
 彼から見れば、頭を抱え頭上に暗雲を浮かべながら悶々としているであろう俺に、何かが投げ渡された。
「時折、そういう奴も居るんでな。酔い止め程度だったら常備してある。使え」
 はっきり言ってしまうと、先程までいい印象を持たなかったバイアスが、途端に神にも近い存在に見えた。いや、これは大袈裟すぎるか。
「……有り難う」
「礼を言う前にさっさと服用しろ。……面倒だ、もう走らせるぞ」
「え? いや、ちょっと待——」
 薬を飲み終わり、俺が待て、と制止する前に、彼は思いきりアクセルを踏んだ。
 落ち着いている、というよりは冷たいイメージのあるバイアス自身とは違い、運転はかなり荒々しいものだった。
 ほぼ人のいない路地だから良かったものの、これが大通りだったらと思うと悪寒がする。
「アンタ、もう少し考えて運転しろ!」
「黙れ、俺は所長以外の誰の指図も受けん」
 さらりと言ってのけ、バイアスは更に車の速度を上げた。

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こんばんは(^v^)
突然のコメント失礼します。

遅らせながら、開設1周年おめでとうございますm(__)m勝手ながらですが銀羽さんのブログ周年記念をお祝いしたいと思いまして、イラストを描かせていただきました。今回はそのご報告をさせていただきたく、コメントをさせていただきました。

イラストはブログに載せさせていただいておりますので、どうぞお受け取りください。

では失礼しました。
待草 URL 2010/07/10(Sat)19:30:06 編集
コメント返信→待草さん
うあわわわ、数学で赤点取った癖に呑気にゲームぴこぴこしてたらまさかのサプライz(ry

有り難う御座います(`・ω・´)オレ自身…や、俺自身ここまで続くとは思っていなかったので自分でも嬉しいし驚いてますw
コメントを拝見させて頂いてからダッシュで見に行ってしまいましたう…! 待草さんの素晴らしき画力で俺のキャラを描いて頂けるなんて幸せすぎて幸せすぎて><
すみません、少しテンションが上がりすぎておかしな事になってますね(・ω・`)ショボーン
喜んで…というか勿論というか、受け取って強奪していきまする!(`・ω・´)

今回は本当に有り難う御座いました^^
赤闇銀羽 URL 2010/07/10(Sat)20:02:14 編集
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