魔界に堕ちよう Persona. 忍者ブログ
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未狂さんによるリクエスト作品ですー。お引っ越ししました。
ソーマメインですが、ソーマの過去にがっつり絡んでます\(^o^)/


 誰も私のこと知らないから、私は誰のことも知らないの。

「ほんとにそう?」
 か、と問い質す。

 ハロー!ハロー!待っていました!!
 ——Persona Alice.

- Persona -

 これを夢と言わずに何と言うのか。
 ソーマ=オルクスは特に表情も変えていない、無表情の仮面を付けたままでそう心の中で毒づいた。
 目の前にあるのは、黒い縁の姿見。かなり細身のそれは並の人間であれば全体を映すのが少し難しいだろうと思われるものなのだが、ソーマの細身の身体は綺麗にその反射する銀色の中に収まっていた。
 だが、そこに映るのはこの世界にいる“ソーマ”ではない。
 服装こそ同じだが、髪の色は黒服と同じような闇に融けそうなほどの黒髪。本来真一文字に引き締められている筈の口許だって、緩やかに弧を描いていた。
「……夢だと思うかい?」
「夢以外に何と言えと?」
 声は当然自分の物と全く同じなのだが、やはり何かが違う。彼の声には、自分に欠落している“優しさ”が籠もっていた。
 それがまた、ソーマには妙に腹立たしい。
 そんな苛立ちすらお見通しだと言わんばかりに、鏡の中の“ソーマ”は彼に笑みを向ける。
「“長い長い、夢を見ていたのかも知れない。もしくは、今まさに夢の途中なのかも知れない”」
 意味深な言葉を吐き、こちらに手を伸ばしてくる自分の姿にソーマは流石に違和感を感じたらしく数歩ほど歩み寄り、その鏡に後一歩踏み出せば足が触れる、という所まで近付いた。
 止まらない彼の手が鏡をすり抜け自分に触れるかと思いきやそんな事はなく、鏡にぺたりと触れるような形で止められる。
「……何が言いたい。そもそも、貴様は何者だ」
 ソーマは自分から手を伸ばし、鏡の向こうで自分に笑みを浮かべる彼にガラス越しに触れた。
 当然ガラスは硬いものであり、幾らソーマが常人にはない力を持っていようがそう簡単にひび割れたりはしない。というよりも、ソーマの力というのは物理的な物ではなく、所謂魔力であるのだが。
「俺は君だよ。だって、君だって俺じゃないか。……まさか、俺が死んでからも生きていることにされるなんて」
 ふっ、と自嘲めいた笑みを浮かべて自分と全く同じ藍色の瞳を伏せた彼に絶えられなくなったのか、ソーマは苛立ち露わに舌打ちすれば乱暴に鏡を無理矢理横に薙ぎ倒した。
 当然重心の傾いた鏡はがしゃんと大きな音を立てて倒れ、割れてしまったのか絨毯も何も敷かれていない床にその破片を数個ほど散らしている。
 先程の言葉にかなりの苛立ちや怒りや憎悪でも感じたのか、ソーマは普段とは違う侮蔑の表情を見せてもう声も聞こえてこない鏡を一瞥した。
 それからふらふらと覚束ない足取りでベッドへと向かい、病室にでもありそうな程の簡易ベッドに腰掛ける。
 その際に軋むぎしぎしという音でさえ耳障りで、思わず耳を塞いでしまいたい衝動に駆られた。
 はぁ、と大きく溜め息を吐き、がっくりと項垂れて頭を押さえる。それでも尚自分の声のようで自分の声ではないあの声は異常なまでに自分の鼓膜で反響していた。
 それが幻聴の類ではないことは、ソーマ自身が良く知っている。
「……消えろ、もう。消え失せろ」
 呟くかのように声を漏らし、未だに止まない声にソーマは肩を震わせた。
 ああ、彼は何がしたいんだろう。自分をどうしたいんだろう。自分が“ソーマ=オルクス”という一個人でないことは、自分がこの世に生まれ出てから既に知っていたというのに。
 あの頃に理解した真実は未だ自分の中に深く深く根付いている。
 自分が偽物だということを、この十数年間で忘れたこと等あるものか。
「…………俺は君を怒っても、憎んでもいないよ」
 頭に直接響くような声に、意味がないと知っているにも関わらずソーマはぎゅっと目を瞑り耳を塞ぐ。
 その様は普段の冷静沈着を通り越して冷酷な彼が見せるとも思えない弱々しい姿だった。
「ならば何だ、貴様は俺をどうしたい!? 愚かな複製品のクローンを嘲笑いにでもきたか!?」
 どれ程までに追い詰められようと、どれ程までに感情を高ぶらせようと、ソーマの瞳から涙がこぼれ落ちる事はない。
 喜怒哀楽が異常なまでに希薄であり“哀”に至っては欠落していると表した方が正しいだろう。そんな状態で泣けと言う方が無理な話だ。
「——複製品なんかじゃない。俺のクローンなんかじゃない」
 はっきりと、やけに自信を持って言い切った声にソーマは耳を塞いでいた手をゆっくりと下ろせば虚空を見遣る。
 自分の目の前に、透き通ることもなくしっかりと生きている人間のように二本足で立つ“彼”の姿に、ソーマはほんの少しだけ目を見開いた。
「確かに君は、俺と姿形は同じかも知れない。でも、性格や口調まで同じとは限らないんだ」
 緩慢な動作で身を屈め、手袋に隠されてもいない彼の手がソーマの頬に触れ、優しげに撫でる。
 その手つきは最早失われ、“自分”が会ったことも見たこともない、会話を交わしたこともない両親を彷彿とさせてくるものだった。
「……だからさ」
 そこで一度言葉を句切り、彼は屈めたばかりの身体を起こせばソーマの細い身体に同じように細い腕を回せば、まるで壊れ物でも扱うかのように抱き締めた。
 もう既に彼はこの世に居ない筈なのに、もう彼は死んでいる筈なのに。
 どうしてこうも、酷く温かいんだろうか。

「だからさ、誰かを愛したっていいんだよ。泣いてもいいんだよ」



Fin.

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