魔界に堕ちよう RELAYS - リレイズ - 忍者ブログ
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50話とかうそだああああああああああああああ(ry
まだあれだろ、まだあれだよ、まだ序盤だよ…!!うああ^p^p^pp^




RELAYS - リレイズ - 50 【郷愁】

「——それから、戦い方を学びながら今まで生きてきた、それだけだ。こんな話をしても解らないだろうが。……分かり易くまとめる。七歳の頃に都市の連中が攻め込んできた、そして目の前で父親と母親を殺された、そのせいで力が暴走した」
ソーマはそこで一呼吸置くと、続ける。
「そこに来た機関の奴等に『保護』された、そして今、だ」
想像していたよりも、重苦しく哀しい過去だった。自分なりに覚悟して、良く考えてから訊いた筈なのに、自分は軽い気持ちで訊いてしまったのではないかという感覚に陥る。
「……どうやら、町の人間が勘違いしたらしいな、この墓石は」
片膝をついて屈むと、ソーマは白い墓石に刻まれた自分の名前を指でなぞるように撫でながら笑い混じりに零した。それはいつもの嘲笑ではなく、何となく楽しげな笑いにも聞こえた。もしかすれば、これは自嘲なのかもしれない。
「……あの死神の恋、その昔話より滑稽だろう?」
「そんな事思う訳……って、聞いてたのか?」
明らかに自嘲と解る笑みで口許を飾りながら、彼は喉の奥で嗤う。
アーシラトが言葉に出した、彼が生きた時間の内ほんの少しの過去。それをソーマも聞いていたらしい。
「聞いていた、というよりは聞こえたと言った方が正しいかもしれないが」
ソーマは立ち上がると、黒い柵に囲まれた墓地の出口に向かって歩き出した。
「お、おい、どこ行くんだ? 宿とか解らないんじゃ……」
勿論俺も解らない。ただ幾らソーマが以前この町で暮らしていたと言っても、11年も離れていたのだから町の造りも少なからず変わっている筈だ。
「……この町に宿は一軒だけだ、すぐに解る」
足を止めることなく答えた彼の背中から視線を外し、もう一度墓石を見る。
墓石には、花束も何も置かれてはいない。ただ、一つ気付いたことがあった。
「……彼岸花?」
一輪だけ、微かに吹く冷たい風に赤い花弁を揺らしている彼岸花が供えられていた。先程から何度も見ていた筈なのに、気付かなかった。
ソーマを知っている誰かが置いていったのだろうか? もしくは——ソーマ自身が置いていったか。
もし彼自身が置いていったのなら、何か意味があったのか。何を思っていたのか。
俺には何も解らなかった。
ただ、ソーマの事だから何かしら意味があっての事だろう。……花言葉、とか。
彼岸花の花言葉は、確か『悲しい思い出』だった気がする。勿論、どこかで聞いただけで本などを見たわけではないのだから曖昧だが。
ソーマに視線を戻せば、この町の大通りに向かっているようだった。
一瞬追いかけるかどうか迷ったが、結局彼と同じ方向へと小走りで走り出した。

俺とソーマは、並んで大通りを歩いていた。例によって会話はない。
大通りというせいもあるのか、先程の教会周辺に比べれば人は多い。といっても、30人も居ない程度だが。
「……何故ついてくるんだ」
「……いや、何となく。それに宿向かうには大通り通るしかないかなと思って」
他の所からも行けるには行けるだろうが、大通りを通るのが一番早い筈だ。そう考えてここを歩いているのであって、偶然ソーマと行き先が一緒になったというだけだ。
これが本心だが、言えば色々と必死で誤魔化しているように取られる可能性が高いから言わないでおく。
彼は盛大に溜め息を吐くと、苛立ちを隠すこともなく俺に視線を向けた。
「貴様は毎度のように」
「勝手にしろって言ったのはソーマだぞ? 俺はその言葉通り『勝手に』ついてきてるだけだって」
ソーマの言葉を遮って言うと、彼が眉を顰めるのが解った。俺は間違ったことは言っていない。と思いたい。
それにしても、戦いの爪痕が町に殆ど残されていない。11年も経っていれば、これくらいは普通なのだろうが、軒を連ねる家々や店も、殆ど今まで見てきた物と変わらない。
耳を澄ませば、本当に楽しそうな談笑の声も聞こえてくる。
それでも、この町が一度壊滅状態にまで追い込められたのは変わらない。たくさんの人間が死んだ事実も。
溜め息を吐こうとした瞬間、突然ソーマが足を止めた。
「どうし……」
「黙れ」
何故突然そんな事を言われなければならないのか、と反論したくなったが、ソーマがある一点を睨んでいる事に気付く。
訝りながらもそちらに視線を向ければ、そこにはある一軒の店の前で何やら店主と話をしている白と黒の背中、それに黒混じりの赤髪を高い位置で一まとめにしている、右腕が黒を基調とされている義手の男、その二人の姿があった。
「まさか……!」
つい数分前まで頭の片隅にもなかった不安や戸惑いが、一気に膨れ上がる。
汚れ一つない執事服に、雪のように白い長髪。その背格好は、あの郊外戦で一目見ただけの支配者——マーヴィンの側近であり執事であるアレスだった。
その隣に居るのは、服装は違えどイーナの幼馴染みであるザクストに違いない。
何故こんなところに居るのかという戸惑い、それにまたここで戦うつもりなのかという疑問が浮かんでは消えていく。
何も出来ずに立ち尽くしている内、彼は用事を終えたのか店の前から立ち去り、こちらに歩いてきた。まだ俺達には気付いていないらしい。
丁度2,3メートル辺りにまで近づいたところで、二人はようやくこちらに気付いたように視線を俺達に合わせてきた。
「——何だ、あの時に居た奴等か。何故貴様等がここにいる?」
「それはこっちの台詞だ! 何でここに居るんだよ!」
アレスはまるで人形のように表情一つ変えずに口を開いた。
「別に誰がどこに居ようが勝手だろ? それまで口出しされる謂われはないね」
困ったような口調と声音ではあるものの、ザクストの口許には小馬鹿にするような笑みが浮かんでいる。
「……またこの町を壊しに来たか」
いつもよりもはっきりとした声で、ソーマは真っ直ぐに彼等を見据えたままで言った。
「壊すだと? 何の……ああ、11年前のあれか。あれはこの町がこちらの要求に応じなかったから。……だそうだ」
余りにも理不尽な動機、理由だった。ソーマの瞳に明らかな殺意が宿り始めているのが見なくても解る。
「誤解を招かない為に言っておこう。あの時の戦いはマーヴィン様の祖父に当たる人間が独断で起こした行動であり、私もあの方も何ら関係はない、とな。……まあ、その頃にはあの方はまだ10歳にも満たない子供だったのだから解るだろうが」
微かに口角を吊り上げ、アレスはすぐさま付け足した。その横で、ザクストは『何が何だか解らない』と言ったように視線を背けている。
「それに、あの方はこの町を気に入っているようだぞ?」
今度は何かを含んでいるような意味深な笑みを形作ったアレスの手には、茶色の小さな紙袋が乗っていた。
「何かそうらしいな。この町の紅茶が一番気に入っただのどうのこうの、って前すっげー楽しそうに話してたぜ? ま、そこは安心していいんじゃねぇの」
欠伸をかみ殺した声で言う彼は、声と同じく本当に興味がなさそうだった。敵だというのに、その態度には刺々しさや殺意は微塵もない。
「今は貴様等を殺せという命令は出ていない。行け」
ここは戦わずに見逃す、という意味での言葉だろうか。それ以外に意味はない筈だ。
「……あーちょっと待て。オイ、オッドアイ。少し訊きたい事がある」
「何を……って、うわっ!」
ザクストは何か思い出したらしく制止すると、俺の了承など取らずに左手で手首を掴むと歩き始めた。離れるということは、聞かれたくない、聞かれてはまずいという事に違いない。
ある程度離れた位置に来ると、彼はようやく俺の腕を離してくれた。
「……何なんだよ、いきなり」
「別に大したことじゃない。1分もあれば十分足りるくらいの事だ」
ザクストは俺に背中を向けている為、どんな表情をしているのか窺えない。
そんな状態で、彼はやっと聞き取れる程度の呟きにも似た小声で問いかけてきた。
「……アイツは、……イーナは元気か」
「え?」
全く予想していなかった問いだった。イーナとザクストが幼馴染みという関係なのは知っていたが、この質問は考えていなかった。
ただ、これくらいの事ならば答えても大丈夫だろう。戦いに発展する、なんてことはなさそうだ。
「……ああ、元気だよ。あれからこれといって大きな戦闘はしてないから怪我もしてない」
アーシラトとの戦いはそれに入るのかどうか解らないが。ただあれは入らないと個人的には思う。
彼に応戦していたのはサイラスにファンデヴにラスターさん、それにソーマだ、最終的に動きを封じたのはダグラスさんだ。イーナは一時的にアーシラトの動きを止める程度の物だったから。
「そうか。……ならいい。それだけだ。殺されない内に逃げとけよ」
「っ、誰がだよ!」
「冗談冗談。……次に会うときは敵同士だ、こっちは問答無用で行くからな」
安堵したような響きを持った肯定に若干こちらが戸惑ったが、すぐに放たれた言葉によってそれもどこかに吹き飛んでしまった。
それだけを言い残し、ザクストは右手を軽く振るとアレスの元へと戻っていった。
ほぼ同時に、ソーマもこちらに歩いてくる。どうやらソーマもアレスと何か言葉を交わしていたらしかった。
「……敵を案じるか。馬鹿のする事だな。行くぞ」
「いやそれは……って、また聞こえてたのか」
これまで聞こえていたなんて、どこまでソーマは地獄耳……いや違う、聴力がいいのか。偶然か?
ソーマと同じ歩幅で歩きながら、そんな事を考えてみる。
「貴様の答えた内容で大体は把握した」
「……要するにアイツの声は聞こえなかったから質問の内容は解らなかったけど、俺の答えで大体質問が解ったって事か」
確かに俺は普段通りの声のトーンで話していた。それにしても、良く気がつくな。
不意に顔を上げると、進む先から黒い影がこちらに向かって歩いてきていた。
「って、シェイド大佐? 何で歩いてるんですか? 宿居るんじゃ……」
「ここに居たのか……いや、その事だが。お前達二人の分も部屋を借りようとしたら本人が来てくれないと駄目だと言われてな。それで探していた。30分以内に連れてこなければ拒否する、とも言われた」
「え、じゃあすぐ行かないと……って今はどうなってるんですか?」
誰かが宿で話し合ってくれていたりするのだろうか。それとも何もないのだろうか。解ることは『すぐに行かないと今夜は野宿になるかもしれない』、これだけだ。それだけは勘弁して欲しい。
「ああ、今はラスターが丁度——」
シェイド大佐が言いかけたとき、丁度俺達の横を歩いていた一人の男がぴたりと足を止めた。
「——ラスター?」
男は黒髪をオールバックにしてボタン式の黒コートを着込んでおり、眼差しはサングラスで隠されている。
彼はシェイド大佐の顔を見据え、問う。
「……ラスター……、ラスター=ダーグウェッジか?」
「……ああ、そうだが。それがどうした? まさか知り合い……」
「知り合いだと? そんな単純な関係じゃねぇよ。もっと——いや、何でもねぇ。……悪かった」
突然問いかけてきた男は、一度眉根を寄せて口にしようとしたが取り消すと、謝罪の言葉を残して俺達とは反対方向に歩いていった。
「……何だったんだ?」
「オレと違って交友関係の広いあいつの事だ、友人か何かだろう。……時間がない、行くぞ」
ここで思案していても時間が過ぎるだけだ。今やるべき事をしなければならない。
走り出したシェイド大佐に続いて、俺とソーマも走り出した。
振り返ることも何もしなかった為に確認はできなかったが、後ろで先程の男が何かを呟いている気がした。

「……ラスター、か」
男は先程聞いた名前を反芻しながら町中を徘徊していた。
瞳はサングラスに隠されている為解らないが、身に纏っている雰囲気が異常に重く、他人が容易に近づけるような雰囲気ではなかった。
「……何でいつもこうなんだよ……!」
手を強く握り締め、思い詰めたような低い声で呟く。
「——アイツがあの……クソッ、……何なんだよ!」
悲痛、とも取れる男の叫びは、虚しく町に反響して掻き消えた。




いやもうなんていうか、伏線張るのが難しくて仕方ないわ!

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大晦日にソーマの過去編!THE☆シリアス!!…と、思ったら1週間経っちゃった。
ソーマの過去明かすの早すぎたかね。




ソーマは18年前に、他の町に比べて少し住人の少ないこの町——ベガジールに生まれた。
生まれた時刻は、そろそろ日付が変わるかという時間帯だった。
その時の空の色によく似た、光の加減で黒にも見えるような濁った青の瞳に、その時の空に浮かんでいた月の色をそのまま映したかのような銀髪。
母親の銀髪に父親の瞳の色を受け継いだ姿に、その場に居た両親と大人達は、皆一様に『神秘的』という言葉を思い浮かべた。
そして付けられた名前が、『月の神』という意味を持つ『ソーマ』だった。
両親と自分一人。自分達は争う事もなく、平和に生きていけるものだと思っていた。

11年前のあの日までは。

RELAYS - リレイズ - 49 【嘗て】

丁度その夜は、ソーマが生まれた時と同じような月が浮かんでいた。
空の色は、黒というよりも濃紺に近い色合いをしていて、酷く幻想的に町を包み込んでいる。
普段通りの平和な夜、立ち並ぶ家々からは住人の楽しそうな談笑の声が聞こえてくる。その談笑の中には、勿論彼の家族も含まれていた。
この日も、いつも通りの平和な夜で、いつも通りに明日を迎えられる物だと誰もが思っていた。この平和なときが失くなる、そんな事は考えつかなかったのかもしれない。
それを破ったのは、一発の銃声だった。
平和な箱庭、そこにその音は酷く不釣り合いで、誰の耳にも届いた。——届いてしまった、と言った方が正しいだろうか。
町に足を踏み入れたのは、数人の軍人に百数十人程の兵士達だった。
彼等はその手に銃や剣といった武器を携え、この町では殆ど聞くことの無い銃声を聞き、外に出てきていた住人達に銃口や剣先を向け、片端から殺していった。
談笑の声は掻き消え、町にはただ悲鳴と銃声だけが反響していた。
ソーマは両親と共に、その音に震えていた。
家族で逃げなければならない。頭ではそう解っているのに、『逃げよう』ということも出来ず、かといって足も動かない。
ただそこで、いつ殺されるかも知れないという恐怖に耐える以外になかった。
「——大丈夫だ。……もう少しで、終わるさ」
「……ええ」
父親はそれでも気丈に笑みを浮かべ、妻と息子を安心させようと優しく言い続けていた。
だが、その笑みが仮面な事は誰が見ても明らかな程に罅割れていた。ソーマと同じ色の眼には、はっきりと恐怖が映っていたのだから。
母親は掠れた声で返すと、ソーマを守るように抱いている手に微かに力を込める。
不意に悲鳴も銃声も止み、静寂が訪れる。
「……終わった、か……?」
白いカーテンの掛かった窓から外を窺いながら、父親が小声で呟いた。
その瞬間、部屋の扉が剣によって切り壊され、軍服に返り血を染み込ませている二人の軍人と数人の兵士が入り込んできた。
「——おい! ソーマを連れて逃げ……」
逃げろ、と告げ終わる前に、白い軍服を身に纏った軍人は手に持っている長剣を振るい、父親を袈裟懸けに切り倒した。
「……父さんッ!」
ソーマの悲鳴に似た声にも、父親は反応することなく倒れたまま動かない。
「——あとはこの二人で最後ですか」
「そうらしいですねぇ。もう住人は居ないようですし」
軍人は低く、死刑宣告に等しい言葉を漏らすと父親の血で赤く濡れ光っている剣を一度血払いした。
いつの間にかその隣に立っていた、眼鏡をかけている軍人はちらりと横目で、住人達の倒れている外を見た。
母親は眼に涙を浮かべてかたかたと震えながら、ソーマを抱いていた腕を解く。
そして、その背中まで伸びた綺麗な銀髪を揺らしながら前へ出た。
「……絶対、に……この子は——この子だけは、殺させません……!」
黒いロングスカートの裾をその華奢な手で強く握りしめ、明らかに震えている声で、それでもはっきりと言い切った。
軍人はそれに何も答えず、醒めた眼で母親を見る。
「——面倒ですね。やってしまいなさい」
「ええ。丁度私もそう思っていたところです」
眼鏡の軍人は微笑を湛えたままで銃を取り出すと迷うことなく彼女の胸に狙いを定め、躊躇することなくその引き金を引いた。
母親の血がソーマの白い頬に飛び散り、その頬を伝い落ちる。
声も何も出せず、ソーマはただ呆然と、涙さえ流すこともなく足下に倒れている母親に向けて発砲した軍人を見つめていた。
「……親が恋しいですか、餓鬼」
父親を切り殺した軍人の明確な殺意で光る緑色の瞳が細められ、その口許に嘲笑が浮かべられた。
「……フン、すぐに両親の後を追わせてやりますよ」
軍人は無感動に鈍色に光る剣を一度彼の目の前でちらつかせてから、構え直した。
ソーマの眼が見開かれ、躯が小刻みに震え出す。
それは軍人の瞳には、今から自分に襲いかかってくる死に怯えているのだとしか映っていなかった。
父親を殺した凶器が、ソーマの首を目掛けて振り下ろされる——筈だった。
「……う、ああああああああああああッ!!」
彼の口から絶叫が迸ると同時に、周囲がガラスに罅が入るような音を立てて凍り始めた。
それに加え、頭を抱えているソーマの手から、鎌の刃に酷似した力が放出される。
「クソッ、この餓鬼……! 自分の力を押さえられないで暴走しましたねぇッ!」
軍人は悪態を吐くと、剣を持っている手を下げると後退した。
ソーマは頭から手を離すと、ぎこちない動きで震えている左手を自分の横に向ける。
軍人でさえも近づけない程の魔力が渦巻いている空間に、電流が流れるような音を立てて何かが出現した。
彼の手がそれを掴んだ瞬間、軍人の持っている剣よりも鋭い魔力が明らかに指向性を持って後方に下がっていた軍人、それに兵士達に襲いかかった。
「……ぐああぁッ!!」
母親を撃ち殺した張本人である眼鏡の軍人が出す悲鳴、それさえもソーマには届いていない。
「——許、さ、ない……消え、ろ……消えろ……消えろおッ!!」
異様な光を宿した暗い青の瞳が『敵』を睨み、軍人の殺意を遙かに超える『憎悪』を込めてソーマが叫ぶ。
耳鳴りのような音が響き渡り、彼の周りを覆っていた魔力が全てを巻き込んで爆発した。

「——間に合わなかった、か……」
「……中には生きている人も居るみたいだけど……酷いな」
小さな瓦礫の破片を踏み締めながら、金髪に白衣を羽織った男は悲しげに目を伏せる。
「今自分達にできる事をする……そうだろ、司令官」
白いコートを羽織った中年と思われる男は、くすんだ金髪を風に揺らしながら言った。
「……そうだね。すまない」
白衣の男は答えると、自分の背後に整列していた、同じく白衣を纏っている人間達に指示を出し始めた。
「医療班、A班は彼方を、B班はここ周辺を——」
金髪の男はその様子を遠目に見ながら、何かに吸い寄せられるように足を踏み出した。
この町のどこかから、何か引っ掛かるようなものを感じる。言葉には言い表せない不思議な感覚が、彼の身体を満たしていた。
しばらく町中を徘徊していた男は、ある一件の崩壊した家屋の前で足を止めた。
入るか入らないか少し躊躇ったが、一度短く息を吐くと瓦礫を踏み越えて入り込んだ。
白い絨毯に染み込んでいる数人分は有りそうな血、そこに倒れている、数人の兵士と女性と男性の死体。
男はあまりに陰惨な光景に顔を顰める。が、そこで気付く。
恐らくは居間と思われる部屋の真ん中に、一人の少年が俯いて座り込んでいた。
男は少年に歩み寄るとしゃがみ込み、涙を流すこともなく虚ろに視線を宙に彷徨わせている彼の顔を覗き込んだ。
「……生きてるか」
命が、ではなく、心が、精神が。死んでいないか。
できる限り優しく問いかけるが、反応はない。
次にかける言葉が見つからず、途方に暮れていた男の目にある物が映った。
少年の身の丈程はあろうかという巨大鎌だった。持ち手も刃も、何もかもが白く、淡く発光している。
それを見て男は瞬時に少年に何があったのかを悟った。
目の前で両親を殺され、それにより『能力』が開花——いや、この惨状を見れば『暴走』か。
未だに何の反応も示さずにいる少年に男は一度頷いた。
「……立てるか?」
そこで初めて彼は反応し、ゆっくりと立ち上がると今までもそうであったかのように鎌を拾う。
「……大丈夫だ、お前の父さんと母さんは、俺等がきちんと——……天国、に送ってやる」
言葉を選ぶように黙り、男は寂しそうに微笑むと少年の手を取り、歩き出した。

その後、白衣の男と白コートの男と共に『機関』に来たソーマを待っていたのは

「——あんな経験を味わった、それなのに……すまない」
「……何」

酷く残酷な宣告だった。

「……戦って、欲しい」




\(^o^)/
もうやだ何で一週間かかるのよ!!Die!!!

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もう今年中に50話行けなさそげ\(^o^)/




RELAYS - リレイズ - 48 【道程】

葉擦れの音と足音、それ以外聞こえない。先程の館での会話が嘘のように、誰も口を開かなかった。
皆、何か一様に考える事があるのだろう。
俺も色々と考察したい事はあるが、それよりも訊きたい事があった。ただ、そのタイミングを掴めない。というか、どうやって切り出せばいいのか解らなかった。
誰か言うかとも思ったが、誰も言おうとはしない。気にしていないのか、俺と同じくタイミングを掴めていないのかは解らない。
俺は溜め息を吐くと、重苦しい沈黙を破るように声を出した。
「……そういえばすっかり忘れてたんだけど」
結局、普通にこう切り出す以外に方法が見つからなかった。
いきなりこんな切り出し方をしたせいか、皆の視線が自分に向けられるのが解る。
「いや、こういうときに言うのも何だとは思うんだけどな……ファンデヴ」
最後尾を歩いていたファンデヴが顔を上げる。空色、と表すのが一番しっくりくる水色の瞳が俺を映した。
「……解ってる。全部説明する」
ファンデヴは言うと、ちらりと横目で自分の隣を歩いていたサイラスを見た。
「俺も解ってるっつーの。ちゃんと色々言ってやるよ」
サイラスはそこで一呼吸置き、片手で茶色に近い金髪を掻き上げるともう片方の手をファンデヴの肩に置いた。
「まあ、見ての通りだがコイツは女だ。分かり易く説明すれば……男に変装してたって感じだな、魔術で。ただ体付きを変えるとかそういう程度だ。それに動きも大分鈍くなる」
あの地下室でサイラスが言っていた『解除』という言葉の意味がようやく解った。
彼女はあの時、助けに入る際に魔術を解除していたのだ。それならばつじつまが合う。
「……でも何でそんな事する必要があるんだ?」
「女が一人旅、なんてしてたら危険だと思うから」
浮かんだ疑問を即座に消される。確かに、女性が一人で旅をするのは危険だ。俺にもそれくらいは解る。
だが、ファンデヴの技量や強さからして、そこらを闊歩している盗賊や山賊、都市から出てきている兵士に負けるとは思えない。
「襲われたら色々面倒。時間も喰う」
いくら強いからと言って、怪我をしないわけではない。ファンデヴが戦いを避ける理由は、面倒だからというだけではない気がした。
それに、あまり敵と戦いたくない、そんな雰囲気があるようだった。
「でもそんな性別だけで変わるとは思えねぇんだけどなー……効果はあったのかよ?」
ラスターさんの尤もな問いに、ファンデヴは俯いて口を閉ざした。
どうやら、自分が期待していた程の効果はなかったらしい。図星を突かれたのか。
「そ、そこは突っ込まないでおいてくれ。コイツこう見えて結構ガラスのハートだから」
俯いたままで暗雲を頭の上に浮かばせている彼女の肩を、サイラスは今度は慰めるようにぽんぽんと叩いた。
「——まあ、仲間という事に変わりはない。性別なんてどうでもいいだろう」
「そりゃ当然だろ? 男だろうが女だろうがオレはどうでもいいぜ? 逆に男だらけの中に華が増えたじゃねぇか」
「……ラスター、何故お前はいつもそういう事を……確かにオレも思っていない訳ではないが」
「ホラ見ろやっぱりな!」
「いや何でいつも大佐とラスターさんが話せば脱線していくんですか!!」
それでも華だの何だのと色々脱線した話をしている二人に、俺は深く溜め息を吐いた。
何故彼等が言葉を交わせばこうなってしまうのか、本当に理解できない。誰か知っていたら教えて欲しいくらいだ。
「……っていうか良いの? アイツ一人でさっさと先行っちゃってるけど」
さほど驚いていないようなイーナは呆れ顔で、少し遠くに見える黒い影を指さした。
俺達の前を歩いていた筈のソーマが、もう十数メートルは先を歩いている。俺達が追いついていないことに気付いていない……という訳ではなさそうだ。あいつにそれは有り得ないか。
「……早く行かないと、この草原の真ん中で立ち往生、なんて事になりそうだな。行くぞ」
ここから先の道を知っているのはソーマだけなのだ、そのソーマが俺達を置いて先に進めば。自分達は道も解らずにここに待機することになる。
いくらこの草原が綺麗で清々しいからといって、それだけは避けたかった。
俺は足を速めたシェイド大佐に続き、歩き出した。
その時背後でファンデヴが何か呟いた気がするが、気のせいだっただろうか。
少しそれが気にかかったが、俺は足を止めずにそのまま歩を進めた。

「——遅いな、何を無駄話をしていたんだ」
もう既にここが目的地だったのか、ソーマは遠目でぼんやりと確認できる程度の小さな町の正門の前で立っていた。
「お前が立ち止まらないんだろ……少しは待ってくれたっていいじゃないか」
少し肩で息をしながら抗議するが、ソーマは殆ど疲れている様子も見せずに俺を一瞥すると、さっさと街の中に入っていった。
「あ、おい、待てよ!」
普段ならば、振り向きはしないが少しでも足を止めてくれるものを、今回だけは俺達に目もくれなかった。
そしてそのまま、街の中に消えていく。
「待てヘメティ、この町はかなり小さい。焦らなくても簡単に見付けられる」
追いかけようとした俺の腕をシェイド大佐が掴み、ソーマが歩き去っていった方向を見る。
「……さて、まずは宿を探すぞ。それからだ。——何なら、お前だけソーマを探しに行っても構わないが。オレ達で決める」
「いや、それは——」
さすがにそれは無理だろう。ただ何か様子がおかしいソーマが少し気になるから、という理由だけでシェイド大佐達に全て任せる訳にはいかない。
「気になるんでしょ? ま、私は何か薄々解るんだけどねー」
さも『自分は解ってるけど言わないよ』と言った様子で、イーナは不敵な笑みを浮かべると語尾を伸ばして口にした。
「オレ等は気にしなくていいから行ってこい。どうせ宿決めたらすぐに自由時間だ」
「俺もどうでもいいぜ? 別に寝るだけだし。ファンデヴも同じらしいぜ?」
「……解った。ラスターさんも有り難うございます。なるべく早く戻ってくるので!」
俺は一度頭を下げて言うと、ラスターさん達に背を向けて走り出した。

町は住人が少ないのか、かなり静かだった。あの館の方が賑やかだった、と感じるくらいに。
白い石でできた家が建ち並び、細い樹が色々な所に生えている。空想やファンタジーの世界に良くありそうな、綺麗な町並みだった。
俺は町中を走りながらソーマの姿を探すが、どこにも見当たらない。
ラスターさん達と別れてからずっと走っていたせいか、さすがに息が荒くなってきた。
一度立ち止まると、息を整えながら額に浮いた汗を拭う。
何処にいるんだ、と思い不意に顔を上げる。それと同時に気付いたが、どうやらここは町の端、それに俺の目の前にあるのは小さな教会だった。
藍色の屋根に、銀色の十字架が掲げられている。
俺は部外者である自分がここに足を踏み入れることに一瞬躊躇したが、意を決して入り込んだ。
建物の丁度横には十字架の形を模している墓が幾つも建てられている。
そこに、見慣れた後ろ姿を見付けた。
機械のように整った姿勢に、風に微かに揺れているコートの裾。今まで探していた物と何ら変わりはない。
ソーマが、一つの墓に背を向けて立っていた。
「——ソーマ?」
声を掛けながら近づくが、何も反応を示そうとはしない。
「……もうここまで復興したのか。まあ11年もあれば当然の事か」
そう言って、ソーマは口許に緩く弧を描いた。数度しか見たことがない、彼の笑みだった。
「ソーマ、お前何で——」
「見れば解る」
何でこの町に来ようとしたんだ、と続ける前に、ソーマは自分の背後にある墓を指さした。
訝りながらも、その白い墓石に掘られている名前を見る。
「——え……!?」
一瞬、自分の目がおかしいのかと思ってしまった。それか、自分の読み間違いか。
そこに刻まれていた名前は、綴りも何もかもが同じ、紛れもなくソーマの名前だった。
「……この町で、どうやら俺はもう死人らしいな」
今度は先程までの笑みとは違う、自嘲めいた笑みを浮かべてソーマは言った。
どういう事なのか、状況が殆ど理解できない。
何故ソーマがこの町に来ようと思ったのか、何故ソーマの名前が墓石に刻まれているのか——
そこで、俺はようやく一つの答えに辿り着く。
「……まさか……」
「ああ、そのまさか、だ」
ソーマを見れば、未だに口許には笑みが浮かんでいた。
そして墓に向き直り、真っ直ぐに前を見据えた。
「ここはベガジール。——俺の、故郷だ」
この町が、ソーマの生まれ育った故郷。その言葉は、静かに胸に染みていくようだった。
ただ、一つ解らない事がある。
何故、ソーマは生きているのに、ここに墓石があるのか。
「……知りたいか」
「え——」
何時しかソーマの口許からは笑みが消えており、代わりにまるで刃のように鋭い目が俺を射抜いていた。
その濁ったような青い瞳からは、上手く意志が読み取れない。
「何故俺の墓がここにあるのか、何故俺がこの町から居なくなったか。……何故俺が、能力者として機関に所属しているのか」
今まで、ずっと気にかかっていた事だった。
訊いても教えてはくれないだろうなんて考えて、口には出していない物の、知りたかった事。
俺はソーマから視線を外さずに、しっかりと頷いた。




次から視点切り替えいっきまーす(棒読み

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リレイズ今年中に50話行こうぜ企画←
でも無理くせぇ!!Die!!!




RELAYS - リレイズ - 47 【創造館】

同時に立ち上がったファンデヴとシェイド大佐はしばらくお互いに顔を見合わせていた。二人とも、まさか、と驚いているような、そんな雰囲気を醸し出している。
「……ああ、お前から先に言っていいぞ、ファンデヴ」
「……解った。有り難う」
シェイド大佐は立ち上がったときとは違う、落ち着いた動作で椅子に座った。
それを見てから、アーシラトは椅子から立ち上がり、ファンデヴの元へ歩み寄る。
長身なアーシラトとファンデヴでは、かなりの身長差があった。何の事情も知らない人間が見たら、本当に命を奪おうとしている死神に怯えて立ちすくんでいる人間に見えるかもしれない。
「で、何だ、赤毛。——つっても、訊きてェ事が何なのかは予想付くんだけどなァ……」
俺達にも、ファンデヴが何を訊きたいのかは大体予想ができる。
ファンデヴは行方不明になっている自分の兄を捜している。生きているのかも死んでいるのかも解らない肉親を。
兄の生死、それをアーシラトに訊きたいのだろう。
「……運んだ人間、ここ七年の間で、自分と同じ赤い長髪で、オールバックで、黒スーツの男って居た?」
ファンデヴの問いに、アーシラトは眉根を寄せると黙り込み、ファンデヴが言った外見特徴と自分の記憶を照らし合わせ始めた。
「……いや、知らねェ。悪ィな」
「全然。それなら、生きてるって事だろうから」
死神であるアーシラトがファンデヴの兄の事を知らない、見ていない。
それは、まだこの世界のどこかで彼が生きているということを示しているのではないか。
アーシラトが謝る理由はどこにもない。
「そうか。……まァ、いつか見付けたらてめェに伝えるさ。——で、てめェは?」
彼はファンデヴとの会話を打ち切ると、黒マントとは対照的に、雪のように白く細い指でシェイド大佐を指さした。
「オレもファンデヴと同じだ」
シェイド大佐は立ち上がるとアーシラトの元まで規則的な歩幅で歩み寄ると、彼の目をしっかりと見据えた。
いや、見据えるというよりは——睨む、と表現した方がいいかもしれない。
そう見えてしまう程、シェイド大佐の目には強い意志が秘められていた。
「……クヴァシル、クヴァシル=マーイョリスという男を知らないか。銀髪に、右目が赤で左目が黒、オレと同じ軍人だ」
一度大きく息を吸ってから、低く、それでもはっきりと言い切った。
恐らく、シェイド大佐が機関に来るまでの道程、車内で言っていた『数年前に死んでしまった友人』の事だ。
死んでしまっている、というのは理解しているが、それでも本当はどこかで生きているのではないか。
シェイド大佐は、そう考えているのかもしれない。その願いや感情と決別する為に、アーシラトに訊いている、そんな気がした。
俺に解る筈がないのだが、何となく解る、そんな感覚だった。
「……銀髪にオッドアイに、軍人……? ……オイ待て、そいつは……」
「死んだ筈だ。……オレは、この目で見た。それでも死んだのだと、頭では理解していてもどこか信じていない、だからお前に訊いているんだ」
シェイド大佐は、自分の大切な友人の死を自分の目で見てしまっていた。
そのときに受けた精神的な苦痛は、計り知れない。尤も、赤の他人である俺に、『こうだった』と解る筈がないのだが。
ただ、友人の死を理解したくない、それは俺にも理解できた。誰だって、認めたくはないに違いない。
知らず知らずの内に、俺は自分の服の裾を握りしめていた。
「……そうなのか? だけど、俺は知らねェ。忘れてるとかじゃねェ、記憶にねェんだ。……妙だな」
アーシラトが忘れている、という事でもない。ならば、何がどうなっているのか。
「どういう、事だ……まさかとは思うが——いや、これは無い、か……解った」
シェイド大佐は俯き、数秒の間何かを思い出したように呟いていたが、すぐに顔を上げるとアーシラトに背を向けた。
「……他に、何か訊きてェ奴は? いねェならここで終わりだ」
椅子に座っている全員の顔を見る。
俺やシェイド大佐、イーナを含めた全員が、もう何も訊くことはない、という雰囲気を醸し出していた。
俺も訊くことはもう何もない。身勝手だが、アーシラトが何故俺を襲ったのか、それさえ解れば俺は良かったのだ。
「——みんな、ないみたいだね。僕もない。アーシラト、話してくれて有り難う」
ダグラスさんは立ち上がると、アーシラトに向かって頭を下げた。
白衣を纏っている肩の上をさらさらと金髪が流れ落ちる。
頭を下げられたアーシラトも驚いているようだったが、俺もまさかダグラスさんが頭を下げるとは思っていなかった。
総司令官というにはどこか子供っぽい所もあり、そのような役職に就いている人間が持っているような威厳などは普段殆ど感じられない。
それでも、ダグラスさんはリレイズの総司令官だ。幾らアーシラトが世界で唯一の死神だとしても、階級や格が違う。
そんな人間が頭を下げたのだ。普通ならば有り得ない。……いや、ダグラスさんの人柄からして有り得そうだが。普通に考えれば、の話だ。
「……頭なんて下げんじゃねェよ。いいからさっさと帰れ。館の入り口までは送ってってやるよ」
迷って出られないなんて事になったらこっちだって困る、とアーシラトは続けた。
それは俺達も絶対に嫌だ。こんな廃館の地下で迷子になる、なんて死んでも嫌だった。考えるだけで寒気がする。
彼が館の入り口まで送っていってくれるのなら、それに越したことはない。
「ああ、有り難う。道なんて殆ど解らないからね。送っていってくれるのならそれがいい」
ダグラスさんが歩き出したタイミングを見計らい、俺は立ち上がった。それに続いて、皆も。
「よし、それじゃ行く……」
全員が椅子から立ち上がったのを確認してから、アーシラトが笑みを湛えて言いかけた。
だがその言葉は途中で途切れ、表情が凍り付く。
死神、というには感情が豊かな彼に出会ってから数度しか見たことがない、『驚愕』の表情。
まるで刃のように鋭い光を帯びている赫い瞳は、真っ直ぐに俺の後ろ——ラスターさんに向けられていた。
「……何だよ?」
「てめェ——……いや、何でもねェよ。オラ行くぞ!」
訝るように声を出したラスターさんに何かを言おうとしたらしいが、すぐにそれを隠すように口を閉ざしてしまった。その後に何か言うのかと思えば、すぐに扉を開いて歩き出していた。
「……何だったんだ?」
素直な感想が口からこぼれ落ちた。あの時のアーシラトの目には、どこか猜疑のようなものも浮かんでいた気がする。
「さあな? 知らないぜ、オレは。まさかとは思うし、な」
「いや、ラスターさんまでそんな意味深な言葉言わないで下さいよ。気になるじゃないですか」
何か隠しているような言い方をされると、どうしても知りたくなる。これは俺だけじゃないと信じたい。
それでも教えてくれないラスターさんに、胸の中に何かもやもやとした感情がわき起こる。
だが、本人が教えてくれないのだから仕方がない。
俺は溜め息を吐くと、皆と同じくアーシラトの後を追いかけた。

「——有り難う。ここまでで大丈夫だ」
「そうか? まァそうか、ここからは一本道しかねェ筈だからな」
地下室を繋ぐ薄暗い廊下を歩き、瓦礫の山を越え、ようやく俺達は館の前まで来れた。
俺は大きく伸びをすると、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。見上げた青空が、何故かとても久々に見る物に感じる。
さほど時間は経っていない筈だが、随分と長い時間をあの地下室で過ごしたような、そんな錯覚があった。
「……青空か……見たのなんて何十年ぶりだろうなァ……50年くらい前か」
「……その時にも、何かあったのか?」
問いかけると、アーシラトは少し微笑を湛えながら、懐かしそうに目を細めた。
「あァ。——馬鹿な話さ。死神が、人間に愚かな恋をした。……笑えるだろ」
「全然。逆にいい話だろ」
即座に反応した俺に、アーシラトは若干驚いたように眉を上げた。
笑える訳がない。笑える人間なんているものか。少なくとも、自分はそうじゃない。
そういえば、以前『読書力を培う為』なんて銘打ってダグラスさんに無理矢理渡された本、それにもそんな話があった。
種族が違うが故の決して叶わない恋。三分の二ほど読んで読むのを止めてしまったけれど、それだけははっきりと心に残っている。
その物語とアーシラトが、重なって見えた。
「ホラ、もうさっさと行けよ。ここはてめェ等が、生きている人間が来るような所じゃねェ」
先程のどか寂しげな、それでも酷く優しかった面影など最初からなかったかのように、アーシラトは頭を掻きながら言った。
「解った。それじゃあ、また会おう。……『創造館』主、アーシラト」
「……てめェ、何でこの館の名前を知ってやがる」
創造館、この館の名前がそういう名称なのだと初めて知った。アーシラトも教えてはくれなかったし、何よりこの館はずっと異形の館と呼ばれ続けていたのだから。
「いや、この館に来る前の日に、色々調べてたら見付けちゃったんだよ。何でこの館が創造館なんて名前なのかは解らなかったけど。……でも、理解できたからいいよ」
「成る程な……んじゃ、今度会うときはてめェ等が死んだときだといいな」
どこまで不吉なことを言うんだ。俺達が死ぬときなんて解る訳がない。もしかすれば、明日にでも死ぬかも知れないのだ。
アーシラトは言い、すぐに踵を返して自分の館へと戻っていった。
それを見送ってから、俺達も異形の館——いや、創造館に背を向けて歩き出した。

館を出て少し歩くと、本に出てきそうな程に広々とした草原が視界に飛び込んできた。
ここまでは、都市の人間達の手も迫ってきていないらしい。ありのままの自然が残っている。
「——それにしても、何か訳の分からねぇ廃館散策だったな」
「確かにそうだったが、色々面白かったからよしとしよう」
「何でそんな簡単にあっさりと話題を変えられるんですか」
ラスターさんとシェイド大佐は、つい先程あった出来事などなかったかのように話していた。
彼等なりに何か考えがあるのだとは思う。ただここまであっさり変えられると……突っ込まざるを得ないんじゃないか。
「……それで、この後君達はどうする? 僕はもう戻るけど。一緒に戻ってきても構わない。……ただ」
そこで言葉を濁したダグラスさんに、全員の視線が集中する。
「……ソーマ、君はどうする」
何故そこでソーマに意見を求めるのか、俺は解らなかった。いつも意見を出さない人間に意見を求めるなんて、言い方は悪いが無駄じゃないのか、と。
当の本人は、興味がないのか考えているのか解らないが口を閉ざしたままでダグラスさんを見ていた。
「……君は7歳の時に機関に連れてこられて以来、11年の間——」
「要らない事は話さなくていい」
いつも通りの冷たい声だったが、それに寂寥感が混じっているように感じたのは気のせいだっただろうか。
ソーマは細く長く息を吐く。
「……行って良いのならば、行かせて貰う。ついてきたければ勝手についてこい」
「勿論、その為に君に訊いたんだから。——皆は?」
機関に戻ったとしても、他の能力者との手合わせや研究班の手伝い以外に何もすることはない。
それに、『今の』ソーマ一人だけを置いていく事はできればしたくなかった。根拠もなく、何故かそう考える自分が居る。
「……俺はソーマと一緒に行きます」
「私も。こんな危なっかしい奴を一人でおいていくなんてできないでしょ」
「ならオレもだ。幾ら強いからといって、子供をおいていくわけにはいかないな?」
「ちょっと待てよ、じゃあオレも行くぞ、いいか!?」
「……なんだ、お前等もかよ。俺等もだぞ。結局司令官以外全員じゃねーか」
結局、ダグラスさんを抜いた全員がソーマについて行くらしい。
「……そうか。それじゃあ。ソーマが行く所は、もうここから歩いてすぐの所にあるからね。……気をつけて」
「大丈夫ですよ。じゃあ、また本部で」
俺達はダグラスさんに背を向け、もう既に数メートル先を歩いているソーマを先頭に歩き始めた。




取り敢えずスランプから脱出できたのかね←

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大晦日までの目標:今年中にリレイズ50話行くこと。
あーくんもヘメティやソーマに負けないくらい重い過去。にしても色々な面であーくんが誰かに似てる希ガス…




RELAYS - リレイズ - 46 【異形狩り】

「——昔、っつっても百年くらい前の話だ。この館は元々、どっかの金持ちの別荘みてェなモンだったらしい。もう用済み、って言ってるみてェに捨てられてたのを俺が見付けて、かなり綺麗だったから勝手に住み着いた。それだけだ」
この館はアーシラトの物ではなく元は誰かのもので、既に廃館となっていたここに住み着いた、という事か。
「その後は、ここを拠点みてェな場所にして、色々とフラフラ歩き回ってた。途中で仲間も見付けた。俺と同じ、人間じゃねェ奴をな。例えば吸血鬼、悪魔、堕天使、そういう奴等だ」
アーシラトの死神という種族と同じく、そんな存在は非現実的、空想の世界でしか存在していないとばかり思っていた。
全員が黙って彼の話を聞いている。誰も声を発しない。発せる状況でもなかった。
「でもなァ……どっかから人間が見付けたんだろうよ、そして告げ口だ。『館で平然と暮らしてる化け物』が居るってな。——それからだ」
最後怒りが混じった声で、吐き捨てるように言った。
それから、というのは、先程ファンデヴも口にしていた『異形狩り』の事に違いない。
この館の存在、アーシラト達の存在が知られてしまったことで、浮き彫りになってしまったことで、ここにも異形狩りの手が伸びた。
「……ほんっと、迂闊だった……俺がな。ちゃんと情報を集めていれば、避けられた筈なのに、って」
俯いたアーシラトは、泣いているようにも見えた。
いや、もしかすれば、本当に泣いていたのかも知れない。
「そっからはもう想像つくだろ? この館を中心として、範囲は狭ェが殺し合いさ。勿論俺も参加した」
ぼんやりとでも、予想していた通りだった。館に入る前に考えた『この近くで戦いがあったのかもしれない』という予想が的中してしまっていた事に、俺は少なからず動揺していた。
「こっちは俺を入れて十数人、あっちは数百だの千超えの人数だ。幾ら人外で、魔力だの何だの持ってるっつったって、多勢に無勢だ。全員殺されるのなんて時間の問題だった」
感情を無理に押し殺した、淡々とした口調で続ける。
その言葉、口調、声音は、聞いているこちらの胸も締め付けるものだった。
彼はそこで一度話を区切る。どこから話そうか、言葉を選んでいる様子で細く長く溜め息を吐いた。
「——最終的には全員で真っ向から突撃だ。逃げるなんて考えちゃいなかった。ただ……守りたかったんだろうなァ、自分達の居場所を」
彼等にも、彼等なりに誇りがあったのだ。
それに、自分達が今まで過ごした土地を、この館を放って置いて、逃げるなんて真似はしたくなかったに決まっている。
「まァ結局、死ねない身体の俺だけが生き残っちまったけど」
「……それじゃあ、他の……」
訊いてはいけないことは解っている。訊いても俺達に何の得もない、訊かなきゃ良かったと後悔するのは目に見えている。
それに、アーシラトの深い傷口を抉ってしまうだけだ。
それでも、訊かずにはいられなかった。
「悪魔は十字型の聖剣で切り殺された。堕天使も同じようにして殺られて——確か、羽も切り落とされたか。吸血鬼は……俺の盾になりやがった。ンな事しなくても、俺は死なねェっつのに……」
最後は、殆ど呟きのように小さな声だった。
恐らくかなり言葉を削って端的に話しているのだとは思うが、それでも陰惨なものに変わりはなかった。
頭を抱えたままで口を閉ざしたアーシラトを見る。
——やはり、訊かなければ良かった。途端に強い後悔に襲われる。
「……あー、自分から暗くしておいて何だが、あんまり暗くならねェでくれ。暗いのは好きじゃねェんだ」
「これで暗くなるなって方がおかしいでしょ!? 馬鹿!? アンタ馬鹿なの!?」
顔を上げると無理に作っていると一目で分かるような笑みで言ったアーシラトに、イーナがテーブルを叩き立ち上がった。
「馬鹿で結構だ。まァ、自分で勝手に自分の過去を話しておいて暗くなるなっつー方が無理……」
アーシラトの声が徐々に小さくなり、最後は消えてしまった。
彼の視線は、イーナに向けられたまま固定されている。
「……何だ、てめェ。何で泣いてやがる?」
彼女の目からは、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。
「……だって……こんなの、酷すぎる……よ……ッ」
涙声、それも途切れ途切れで必死に言葉を繋げるイーナは、見ていて辛かった。声も、聞いている人間の胸を締め付けるかのような、悲しみに溢れた声だった。
何となく、貰い泣きをする人の気持ちが解るような気がする。
「——優しいんだなァ、てめェは」
どこか自嘲めいたような響きを持った言葉とは裏腹に、アーシラトは今までとは全く違う、優しげな微笑を浮かべていた。
死神にはいささか似合わないと思われる、心の底から嬉しくて、喜んでいて笑っている、といった感じの微笑。
「……な、別にそんなんじゃ……!」
「泣くんじゃねェよ、ったく。言っちゃ悪ィが、似合わねェぜ?」
「ばっ、馬鹿にしないでよ!」
こんな状況下で思ってはいけないことなのだろうが、先程の彼の言葉は殆ど口説き文句にしか聞こえない。遠回しでなくても、あれは『イーナに泣き顔は似合わない』と言っている。
もっと言えば『似合わないから笑っていろ』とも取れるのではないか。
「ハハッ、そうだ、それでいいんだよ。……話に戻るが、良いか?」
「え? あ……うん、大丈夫よ」
まだ若干涙が混じっていたが、イーナは目に浮かんでいた涙を手の甲で拭うと頷いた。
「……結局、だ。俺が人間を襲うのは、きっと死神の性とかそういうんじゃねェ……そうだな、憎悪……いや、復讐とでも言った方が正しいかもしれねェな」
自分の仲間を殺した人間達への復讐、それが彼の行動理由なのか。
「だからって、俺達は……」
「解ってる」
彼等を無惨に殺したのは、自分達と同じ人間だ。
だが、俺達は何の関係もない。俺に至っては、異形狩りの事も知らなかった。その上、アーシラト達、死神や悪魔の存在さえ信じていなかった。
アーシラトは俺の発言を強い口調で遮った。
「解ってんだ、それくらい。他の人間を襲うノなんて、殺すのなんて筋違いだ。……それでも、耐えられなかったんだ……だから、この地下に一人で居たんだよ」
一体、彼はどれだけ苦しんできたのだろう。
頭では、心の中では理解していても、それを止められない。いつも、後には後悔しか残っていなかったに違いない。
「……復讐心ってのは、深く根付くモンだな。自分でも、こんなに囚われてるなんて……馬鹿馬鹿しい」
「——そんな事はない、復讐に囚われてしまうのは、誰だってそうだ。ただ、それを断ち切れるか、断ち切れないか。違いはそれだけだ」
アーシラトはしばらくの間、言い切ったシェイド大佐を驚いたように見つめていたが、不意に視線を逸らした。
「成る程なァ……そういう考えもあるか。取り敢えず、俺の話はこれで終わりだ」
曖昧な独り言をこぼし、彼は全てを話し終えたらしくそう締め括った。
話が終わったにもかかわらず、誰も口を開こうとしない。いや、開こうとしてもできないのだ。
俺も、何と言って良いのか解らなかった。
普通に『それじゃあ俺達は帰ります』なんて言って出て行けるわけがない、だからといって、ずっとここにいることもできない。
どうしたらいいのか、と本気で焦りだしたとき、アーシラトは欠伸をかみ殺したような声で言った。
「さて、と……俺は別にてめェ等の事に興味はねェ。他に何か訊きてェ事は? 一応死んで自分が連れてった人間は全員覚えてっけど」
彼の言葉が終わるか終わらないか、というタイミングで、ファンデヴとシェイド大佐が同時に椅子を蹴り飛ばさん勢いで立ち上がった。




変なところで切りやがったなこの野郎とか言われても聞こえない。だって仕方ないだろ←

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取り敢えず50話目前とかすげぇと思う。
炉心融解はやっぱりいいぜ^p^




RELAYS - リレイズ - 45 【過去】

「……おい、どこに連れて行く気なんだよ」
「うるせェっつーの、黙ってついて来やがれ」
アーシラトに連れられ、俺達は地下に来ていた。部屋と部屋を繋いでいる廊下は、相変わらず薄暗い。
そして歩きながら彼が説明してくれて解ったことだが、この館には色々な所に罠……というよりも仕掛けが施されているらしい。
俺が引っ掛かった落とし穴なんて、その大量にある仕掛けの中の一つ。それもかなり簡単な物だったという。
もっと複雑な仕掛けになると、ダグラスさんがアーシラトにかけたような呪縛魔法の類もある、との事だった。
要するに俺は……アーシラトから言わせてみれば『馬鹿』。自分でもあれは少し注意が足りなかったとは思う。だがこれは……ないだろう、さすがに。
なんだ、この敗北感。
シェイド大佐はもう既にボレアーリスをしまい、辺りを見回して一人でぶつぶつと何かを呟きながら、時折納得したように頷いていた。ある意味怖い光景だった。
皆が物珍しそうに壁を見たり触ったりしているのとは裏腹に、ソーマだけが、何も興味を示さずに歩き続けている。こいつの性格からして興味を持たないのはいつものことだが、今回だけは何故か妙に感じてしまった。
「——よし、着いたぜ」
廊下の最奥、行き止まりには、どこの屋敷にでもありそうな両開きの扉があった。
色が黒い以外は、あの書斎で見た物と同じような物だった。ただ違うのは、目の前にある扉が掃除されているかのように綺麗だったことだ。まるで、今でも誰かが使っているように。
アーシラトは扉の取っ手に手を掛け、ゆっくりと開いた。
その直後俺達の目に飛び込んできたのは、豪華な赤絨毯に真っ白いテーブルクロスが引かれたテーブルに椅子——どう見ても、金持ちの人間が住む屋敷にある部屋だった。
「え……これ、どういう事なんだ……?」
状態が上手く呑み込めず、俺は戸惑いながら呟いた。廃館になってかなりの年月が経っている館の地下に、人間が普通に住めそうな空間があるのだ。戸惑って当然じゃないか。
「……成る程、大体解った。この扉の向こうの部屋はお前の居住スペースか、アーシラト」
「お、呑み込みが早ェな、ミイラ……や、軍人」
「お前今言いかけただろう、本気で殺すぞ」
「やめとけってシェイド、コイツ不死だから」
包帯のせいで隠れているため解らないが、シェイド大佐は恐らく額に青筋を浮かべ、引きつった笑顔でボレアーリスに手を掛けている。
今にも銃口をアーシラトに向け発砲しそうなシェイド大佐の肩を叩き、サイラスが苦笑しながら不死だと言うことを告げた。
それにも驚くことなく、一瞬考えた後で大佐は恐ろしいことを口にした。
「そうか、ならば死にたくとも死ねない苦痛を永遠に」
「大佐、それ残酷すぎる上に脱線してます!!」
今のシェイド大佐ならばやってもおかしくはない。目が本気だった。
その目を見るだけで、一切関係のない俺も足が竦んでしまう。これが大佐の本気か。
「何だ、てめェの名前シェイドって言うのかよ。さっさと教えればミイラ男言わなくて済んだのになァ」
「……馬鹿にしているのか?」
「いーや、全然そんな事はねェよ。兎に角てめェ等さっさと入れ」
半ば強制的に押し込まれるようにして、全員が部屋の中に入る。
室内も、扉と同じで綺麗に掃除されていた。テーブルクロスには染み一つない。
「ホラ座れ! 座んねェと話できねェだろうが!」
「さっきから命令するな! 驚いてるだけだろ!!」
何故こうも彼はここまで独裁者気質……もとい、偉そうなのだろうか。彼の性格なのだから、とやかく煩く言うつもりはないが。
テーブルや部屋の家具と同じく、新品のように綺麗な椅子に腰掛ける。
全員が座ったのを確認してから、全員を見渡せる位置にある椅子——縦に長いテーブルの一番端と説明したらいいのだろうか、その位置にアーシラトも座った。
「生憎、この館には客人に出せる紅茶も何もねェよ。悪ィな。——それじゃ、早速だがいいか? 話すぜ?」
「勿論。その為に僕等をここに呼んだんだろう? 話してくれ」
ダグラスさんは苦笑しながら、指を組むとテーブルに置いた。その目には、どこか好奇心のような物も見える気がする。
「……まずは、何でここに俺が棲んでるのかって話だったが……これは次の理由を言ってからの方が伝わりやすいだろうから今は言わねェ。ってか言えねェ。その代わり、だ」
アーシラトはそこで一呼吸置き、無理に感情を押し殺しているような声で、それでもはっきりと言った。
「何でここが廃館になったのか、何で俺がここで一人で居るのか。それと何でてめェ等を襲ったのか。全部話す」
この話題を持ち出す前まで漂っていた、廃館には似つかわしくないと思われる明るい雰囲気が一瞬にして消え去る。皆無駄にふざけたりはしない、と、纏っている雰囲気が語っている。
「……理由は三つある。まず一つは、俺の性——いや、死神の性って言った方が正しいかもしれねェな」
「死神の……?」
「そうだ。簡単に説明すりゃ、死神は人間の魂とか霊体とかいうのを運ぶ役目を担う奴だ。いつもはそこら辺彷徨ってるのを見付けて運んでやる。……オイてめェ等、何痛い奴見るみてェな目で見てやがる!! こっちは大真面目なんだぞゴラァ!!」
知らず知らずのうちに、白けた目線で見てしまっていたらしい。テーブルを叩いて立ち上がったアーシラトに、俺は悪かったとだけ返した。
別にそういうつもりはなかった。ただ、いきなり言われても整理できない。それから……だと思う。
「別にオレは見ていないぞ。続きを」
シェイド大佐は至って冷静に、彼に続きを促した。
「解ってるっつの。……ただな、たまーに来るんだよ。『飢え』ってのが。人間の魂を見たい、運びたい、終いには自分の手で殺して連れて行ってやりたい、なんていうハタ迷惑なのがな……まァ、吸血鬼が血に飢える感じと思ってくれればそれでいい。そんで、丁度てめェ等が来たのと今回重なっただけだ。……悪かったな、ホントに」
アーシラトは言い終わり、深く溜め息を吐くと片手で頭を押さえ、俯いた。
耐え難い欲望。それに抗うのは人間でも死神でも難しい。
今回は、本当に偶然が幾つも重なっていたのだ。
「……それじゃあ、今はどうなんだよ?」
ラスターさんの問いは最もだった。それならば、今はどうなのか。今だって同じじゃないのか。
アーシラトはマントの裾を握りしめると、苦しげに答えた。
「あァ……うん、まあ、言っちゃ悪ィが、かなり我慢してる所があるなァ……武器がないから仕方なくって感じになってる」
自嘲が混じっていた。これくらいのことすら我慢できないのか、といったような自嘲が。
「まっ、大丈夫だろ。それと二つ目なんだが……聞いて怒るなよ、てめェ等」
「怒る? 何で怒る?」
「そういう可能性があるからだ」
未だに首を傾げているファンデヴを放っておき、アーシラトは先程の寂寥感などどこへやら、星が付きそうな程明るい口調で告げた。
「二つ目。まあこれは殆ど影響してねェが……遊びだ、遊」
言い終わる前に、アーシラトの右頬を掠めるようにして銃弾が、左頬を掠めるようにして氷柱が、彼の後ろの壁に穴を空けた。
シェイド大佐とソーマが音もなく立ち上がり、アーシラトのこめかみに銃口を、首元にナトゥスの刃を突き付ける。
「貴様、本当に死にたいようだな」
「血が見せたいのなら見せてやるぞ。お前の血を、だが」
「だからちゃんと前置きしただろうが。怒んなーって。な? ついでに言うぜ? 俺の場合は飢えが2割に遊びが一割、後の7割が三つ目の理由だ! 殆ど二つは影響してねーんだっつの!!」
「あーもういい加減にしろよ!! 話が全然進まねぇだろ!! 落ち着け三人とも!!」
サイラスの鶴の一声にも似た言葉に、二人はすぐに武器を下ろし、席に着いた。
「……三つ目。これはかなり長い話になる。俺の過去だ。——この中で、歴史に詳しい奴は居るか?」
彼の過去、確かに長い話だろう。人間の寿命なんかと比べものにならないくらい、長い刻を生きているのだから。
「歴史? ファンデヴが詳しいけどな」
「そんなでもない、と思うんだけど、どうなんだか。まあ、知ってるといえば、知ってる」
ファンデヴは首を横に振って否定したが、アーシラトは意味深な笑みを浮かべ、問いかけた。
「それで十分だ。そこで赤髪、質問だ」
意味深な笑みが、何故か寂しげな物に変わる。
「今から百年前くらい前、都市の一部の連中が考えついて実行したことの中に、何があった?」
どうやら、ウィジロの事は知っているらしい。広間での会話のときもそれと思わせるような事は言っていたのだから当然かも知れないが。
「……三つ、くらいあった筈。一つが都市の拡張、これは今でも続いてる。……もう一つが自我を持つ機械人形の生産」
俺が話に聞いたり、読むのは苦手だが暇つぶしに、と資料を読んでいたときに見聞きしたことがある内容と一致している。別に疑っていた訳じゃないが、ファンデヴは詳しいのは本当のようだ。
都市の拡張は今でも続いている。機械人形の生産は、確か俺の記憶なら途中で中止になった筈だ。
最後の一つが解らない。そこまで覚えていなかった。
「最後の一つは——」
言い終わる前に、ファンデヴが何かに気付いたように顔を上げた。
「……多分正解だ、赤髪。最後の一つは、人間でも動物でもねェ生き物を排除する、『異形狩り』さ」
俺を含めた全員が、驚きと戸惑いが入り交じった視線を彼に向ける。それには、「まさか」という予測も入っているように思えた。
「さァ、ここからだ、本題は。……ちゃんと話について来いよ、てめェ等」
負の感情か、それともまた違う理由でか、心なしか先程よりも低くなっている声でアーシラトが話し出した。
——酷く残酷な、自分の過去を。




視点変更できないしにたい^p^p^p^^^
リレイズは三人称でやるべきだったwwwwwwww

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取り敢えずコメディを交えていかないと色々書けない俺。
悪ノ召使やっぱりいいわ^p^




RELAYS - リレイズ - 44 【訊問】

「……さて、色々話を聞かせて貰おうかな?」
微笑を湛えたままで自分を見下ろしながら問いかけてくるダグラスさんを、倒れて身動きが取れないままのアーシラトは顔だけを上げて睨み付けた。
「ふッ……ざけんじゃねェぞ!! てめェらに話す事なんて何もねェっつーの、バーッカ!!」
「……失敗じゃないのか、これは」
「いや、身動きは取れなくなっているから成功で良いだろう、あの本にも書いてあった」
そのダグラスさんの隣で、ソーマとシェイド大佐が同じく彼を見下ろしながら話し合っている。
それが勘に触ったのか、アーシラトはダグラスさんに向けていた赫い眼を彼等に向けた。
「少しは黙りやがれ、そこの死神モドキとミイラ男!!」
恐らく二人に取っては禁句であろう単語が飛び出した瞬間、二人の周辺の温度が急激に下がったような錯覚を覚えた。
「司令官。ここはオレが止めを刺す」
「ふざけるな、貴様は下がっていろ。俺が殺る」
「二人とも駄目だよ!! まず話を聞いてからじゃないと!!」
ちょっと待て、じゃあ話を全部聞いた後はいいのか?
「兎に角落ち着けよ兄サン、どうせ相手は身動き取れねぇんだから、後で幾らでも蜂の巣にできるって」
「……それもそうか。よし、今少しの間だけは猶予を与えてやろう」
「その偉そうな態度がムカつくんだよ!! 何様だてめェ!! あァ!?」
「実際偉い。地位は高いぞ? 大佐だ、大佐」
シェイド大佐のどこか見下すような光が宿っている薄い黄色の眼で見据えられ何も言い返せずに居るアーシラトに、俺は心の底から同情してしまった。可哀想に。
殺す標的として狙っていた相手に動きを封じ込まれ、見下され、終いには口でも負けているのだ。
「……それじゃあ、聞こうか。まず死神さん、あなたの名前は?」
「何で教えなきゃならねェんだよ」
呻きにも似た声で反論したアーシラトに、ダグラスさんは長く細い溜め息を吐いた。
「大佐」
声に被さるようにして、シェイド大佐は懐からもう一丁拳銃を取り出すと、アーシラトのすぐ傍の床に向かって数発発砲した。
「言え、命令だ」
流石現役の大佐、と感心してしまいそうになるほど有無を言わさぬその口調と声音に、アーシラトも観念したのか、自分の目の前、それも5センチも離れていない床の銃痕を見て溜め息を吐き、口を開いた。
「……アーシラト、だ。アーシラト=サラスヴァティー。種族は死神。これでいいか?」
「よし、名前は良いよ。じゃあ何でこの廃館に棲んでいるんだい?」
「そこまで訊くかてめェ!! 大体どいつも偉そうにしやがって!!」
ほぼ絶叫に近い叫び声だった。
彼には悪いが、俺達だって訊かなければいけないことがたくさんあるのだ。これだけは我慢して欲しい。
「何なら、僕の地位も明かそうか?」
「ダグラスさん、それ以前にアーシラトは機関の事自体知らないと思うんですけど」
アーシラトが言っていた『百年くらい戦っていない』ということを考えると、彼がこの廃館から百年ほど出ていない可能性もある。
俺には機関がどれくらいの歴史を持っているのか解らないが、百年前から存在しているとは思えなかった。
「機関だァ? ンなモン俺は知らねェぞ」
「ほら、知らないじゃないですか。これじゃ埒があきませんよ」
リレイズ総司令官という地位を出せばどうにかアーシラトも大人しくなるんじゃないか、と思っていなかった訳じゃない。逆にそうだったらいいな、と少なからず望みを抱いていたほどだった。
「……じゃあ、こう表しておこうか。『世界的に有名な大都市と対立している世界的に有名な世界保護機関の総司令官』ってね?」
「……何の事だかさっぱり解んねェ……大都市は何か解る気もすっけど……」
「都市の事以外は、君がこの廃館から出れば解るよ、すぐに。……さて、次だね」
アーシラトはいまいち話が飲み込めていないようだったが、ダグラスさんはどんどん話を進めていく。
彼を封じ込めている魔術が、いつ解けるか解らない事もあるのだろう。効果が永遠に続く魔術なんて存在しない。
今はアーシラトの倒れている床全体に赤い魔法陣が描かれているからいいものの、それが消えたらどうなるか、なんて考えなくても解ることだ。
それを解っているからか、俺を入れて全員が武器をしまおうとはしなかった。
「答えが解りきっている問いだとは思うけどね。……何で襲った?」
「解ってんだったら訊くんじゃねェよ、そんなの決まってんだろ。俺が死神だからさ」
吐き捨てるように、何度も同じ事を言ってきたんだと言いたげな口調だった。
だが、俺はその言葉の裏に何かを感じた——気がしただけかもしれない。それでも、何かを感じ取っていた。
「……本当にそれだけなのか?」
「……どういう意味だ」
俺を襲ってきたのは、死神だからなんて理由だけではないように思えた。
もしその理由だけなら、派手に壁を壊したり、楽しそうに笑い声を上げて自分の居場所を知らせたりなんてせずに、後ろから気配を殺して近づいて殺すことだってできた筈だ。
それをしなかった、何か理由がある。
「本当はそれだけじゃないんだろ? 俺を襲ったのは」
アーシラトが驚愕したように目を見開いた。その目が、何故解ったんだと言っているように見える。
「……ここで話すには長くなるんでな。ちょっとそれは後回しでいいか? 何で俺がここに棲んでるのかもそん時に言ってやるさ」
「構わないよ。後で話してくれるなら、ね」
ダグラスさんは少し前までの冗談めかした雰囲気とは違い、静かな声で言った。
「……ま、話さなかったら、今度こそ撃ち抜かれるだろうよ」
苦笑して、サイラスはシェイド大佐の肩に手を置いた。身に纏っている雰囲気はもういつも通り飄々としているが、未だにヴォカーレの発動を解いてはいない。
「後は……すまないが、もう殆ど訊くことはないんだよ。何で襲いかかってきたのか、その理由が一番聞きたかったんだが、今話してくれないんじゃ仕方がない」
ダグラスさんの言うとおりだ。
それが一番訊きたかったことなのに、それを話してくれないんじゃ仕方がない。壁を破壊しておびき出してダグラスさんの詠唱時間を稼いで、やっとの思いで魔術まで掛けて聞き出したのが名前だけ、というのもおかしな話だが。
「じゃあさっさとこの妙な術解けよ、こっちは身動き取れなくてイライラしてんだ。それに解いてくれたら全部教えてやるぜ?」
アーシラトは引きつった笑みを浮かべ、怒りかその類の感情で微かに声を震わせる。
「それは無理なんだよねー、だって君今この状況で術解いたら絶対また襲ってくるだろう? いくら教えてくれるって言われてもねぇ」
「司令官。その時はオレが動きを止める。……もし不審な動きをしたら、足の一本はなくなると思っておけ」
「兄サン久々に本気だな。まだ怒ってんのか」
シェイド大佐は肩を震わせて反応し、何を思ったかアーシラトではなくラスターさんにボレアーリスの銃口を向けた。
「怒るに決まっているだろう!! 誰がミイラ男だ、誰がッ!! 本気で蜂の巣にしてやろうか、死神!!」
「取り敢えず落ち着けって! な!? 切れれば何するか解ったモンじゃねーんだから!」
今まで見たこともない形相で、シェイド大佐は一度ラスターさんに向けた銃口をアーシラトの頭に突き付けた。
それをラスターさんが後ろから羽交い締めにして必死に制止する。
そんな二人を見ながら、俺は溜め息混じりに提案した。
「……じゃあ、アーシラトに絶対もう襲ってこないって誓わせてから術を解けばいいんじゃないか?」
彼の性格からして、約束してそれを破るなんてことは……しそうで怖いな。自分で言っておいて何だが、しそうで怖い。
「別に僕はいいよ? ……みんなは?」
「私はどうでも。危なくなったらすぐ逃げるから」
「勝手にしろ」
「安心しろ、もしまた奇襲がきたらオレが足を吹き飛ばしてやる」
「兄サン、マジでそれやんなよ。……オレもまあ別にいいけど」
「判断は全部、ダグラスに任せる」
「俺も全員と同意見だな。取り敢えず危なくなったらみんなで逃げるっつーことで」
約三人程度が判断を放棄した。ソーマは……まあ予想はついてたけど。
「——今話した通りだ。今後、僕達にその鎌を向けないと誓うかい? もし誓ってくれるなら、今ここで解除してあげよう」
「もし破ったら?」
「さぁ? まあそれはそこの大佐にでも訊いてみればすぐ解るよ」
ダグラスさんは今まで通り微笑んでいたが、俺にはそれが悪魔の微笑みに見えて仕方がなかった。
意味深に言葉を濁す辺りがまた、すごく怖い。聞いているこっちの背筋に悪寒が走る。
「……わーかったよ! 誓ってやるよ!! それでいいんだろ!?」
「うん、解った。それじゃあ」
即答したダグラスさんが音高く指を弾いた瞬間、アーシラトを囲んでいた魔法陣が澄み切った音を立てて砕け散った。
「さ、もう動けるだろう?」
アーシラトは恐る恐るといった様子で床に手をつき、ふらふらと立ち上がった。
「じゃあ、さっき言ったとおり、全部……」
全部話してくれ、と言おうとしたのだろうダグラスさんの言葉を遮る形で、何か堅い物に刃物が突き刺さるような音が聞こえた。
何事かと思いアーシラトを見てみれば、瓦礫の欠片が散乱している廃館の床に彼の巨大鎌が突き刺さっていた。
「鎌はここに置いていく。それと俺は魔術なんて高尚なモンは扱えねェんでな。これで俺は無力って訳だ。これでいいよな? ……まあ言ったとおり、ここで立ち話するには長い話なんでなァ……ちょっと、付いてきて貰うぜ?」
「勿論。……それじゃ、みんな行こうか」
俺も含めて全員——いや、ソーマは違うか。ほぼ全員が頷き、言ったとおりに鎌をその場に放置して歩き出したアーシラトの後を追って歩き出した。




シェイド大佐は初期設定で本当にサディスティック軍の大佐だったのよ…ドSだったんだからねっ←

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