魔界に堕ちよう 44話ー 忍者ブログ
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取り敢えずコメディを交えていかないと色々書けない俺。
悪ノ召使やっぱりいいわ^p^




RELAYS - リレイズ - 44 【訊問】

「……さて、色々話を聞かせて貰おうかな?」
微笑を湛えたままで自分を見下ろしながら問いかけてくるダグラスさんを、倒れて身動きが取れないままのアーシラトは顔だけを上げて睨み付けた。
「ふッ……ざけんじゃねェぞ!! てめェらに話す事なんて何もねェっつーの、バーッカ!!」
「……失敗じゃないのか、これは」
「いや、身動きは取れなくなっているから成功で良いだろう、あの本にも書いてあった」
そのダグラスさんの隣で、ソーマとシェイド大佐が同じく彼を見下ろしながら話し合っている。
それが勘に触ったのか、アーシラトはダグラスさんに向けていた赫い眼を彼等に向けた。
「少しは黙りやがれ、そこの死神モドキとミイラ男!!」
恐らく二人に取っては禁句であろう単語が飛び出した瞬間、二人の周辺の温度が急激に下がったような錯覚を覚えた。
「司令官。ここはオレが止めを刺す」
「ふざけるな、貴様は下がっていろ。俺が殺る」
「二人とも駄目だよ!! まず話を聞いてからじゃないと!!」
ちょっと待て、じゃあ話を全部聞いた後はいいのか?
「兎に角落ち着けよ兄サン、どうせ相手は身動き取れねぇんだから、後で幾らでも蜂の巣にできるって」
「……それもそうか。よし、今少しの間だけは猶予を与えてやろう」
「その偉そうな態度がムカつくんだよ!! 何様だてめェ!! あァ!?」
「実際偉い。地位は高いぞ? 大佐だ、大佐」
シェイド大佐のどこか見下すような光が宿っている薄い黄色の眼で見据えられ何も言い返せずに居るアーシラトに、俺は心の底から同情してしまった。可哀想に。
殺す標的として狙っていた相手に動きを封じ込まれ、見下され、終いには口でも負けているのだ。
「……それじゃあ、聞こうか。まず死神さん、あなたの名前は?」
「何で教えなきゃならねェんだよ」
呻きにも似た声で反論したアーシラトに、ダグラスさんは長く細い溜め息を吐いた。
「大佐」
声に被さるようにして、シェイド大佐は懐からもう一丁拳銃を取り出すと、アーシラトのすぐ傍の床に向かって数発発砲した。
「言え、命令だ」
流石現役の大佐、と感心してしまいそうになるほど有無を言わさぬその口調と声音に、アーシラトも観念したのか、自分の目の前、それも5センチも離れていない床の銃痕を見て溜め息を吐き、口を開いた。
「……アーシラト、だ。アーシラト=サラスヴァティー。種族は死神。これでいいか?」
「よし、名前は良いよ。じゃあ何でこの廃館に棲んでいるんだい?」
「そこまで訊くかてめェ!! 大体どいつも偉そうにしやがって!!」
ほぼ絶叫に近い叫び声だった。
彼には悪いが、俺達だって訊かなければいけないことがたくさんあるのだ。これだけは我慢して欲しい。
「何なら、僕の地位も明かそうか?」
「ダグラスさん、それ以前にアーシラトは機関の事自体知らないと思うんですけど」
アーシラトが言っていた『百年くらい戦っていない』ということを考えると、彼がこの廃館から百年ほど出ていない可能性もある。
俺には機関がどれくらいの歴史を持っているのか解らないが、百年前から存在しているとは思えなかった。
「機関だァ? ンなモン俺は知らねェぞ」
「ほら、知らないじゃないですか。これじゃ埒があきませんよ」
リレイズ総司令官という地位を出せばどうにかアーシラトも大人しくなるんじゃないか、と思っていなかった訳じゃない。逆にそうだったらいいな、と少なからず望みを抱いていたほどだった。
「……じゃあ、こう表しておこうか。『世界的に有名な大都市と対立している世界的に有名な世界保護機関の総司令官』ってね?」
「……何の事だかさっぱり解んねェ……大都市は何か解る気もすっけど……」
「都市の事以外は、君がこの廃館から出れば解るよ、すぐに。……さて、次だね」
アーシラトはいまいち話が飲み込めていないようだったが、ダグラスさんはどんどん話を進めていく。
彼を封じ込めている魔術が、いつ解けるか解らない事もあるのだろう。効果が永遠に続く魔術なんて存在しない。
今はアーシラトの倒れている床全体に赤い魔法陣が描かれているからいいものの、それが消えたらどうなるか、なんて考えなくても解ることだ。
それを解っているからか、俺を入れて全員が武器をしまおうとはしなかった。
「答えが解りきっている問いだとは思うけどね。……何で襲った?」
「解ってんだったら訊くんじゃねェよ、そんなの決まってんだろ。俺が死神だからさ」
吐き捨てるように、何度も同じ事を言ってきたんだと言いたげな口調だった。
だが、俺はその言葉の裏に何かを感じた——気がしただけかもしれない。それでも、何かを感じ取っていた。
「……本当にそれだけなのか?」
「……どういう意味だ」
俺を襲ってきたのは、死神だからなんて理由だけではないように思えた。
もしその理由だけなら、派手に壁を壊したり、楽しそうに笑い声を上げて自分の居場所を知らせたりなんてせずに、後ろから気配を殺して近づいて殺すことだってできた筈だ。
それをしなかった、何か理由がある。
「本当はそれだけじゃないんだろ? 俺を襲ったのは」
アーシラトが驚愕したように目を見開いた。その目が、何故解ったんだと言っているように見える。
「……ここで話すには長くなるんでな。ちょっとそれは後回しでいいか? 何で俺がここに棲んでるのかもそん時に言ってやるさ」
「構わないよ。後で話してくれるなら、ね」
ダグラスさんは少し前までの冗談めかした雰囲気とは違い、静かな声で言った。
「……ま、話さなかったら、今度こそ撃ち抜かれるだろうよ」
苦笑して、サイラスはシェイド大佐の肩に手を置いた。身に纏っている雰囲気はもういつも通り飄々としているが、未だにヴォカーレの発動を解いてはいない。
「後は……すまないが、もう殆ど訊くことはないんだよ。何で襲いかかってきたのか、その理由が一番聞きたかったんだが、今話してくれないんじゃ仕方がない」
ダグラスさんの言うとおりだ。
それが一番訊きたかったことなのに、それを話してくれないんじゃ仕方がない。壁を破壊しておびき出してダグラスさんの詠唱時間を稼いで、やっとの思いで魔術まで掛けて聞き出したのが名前だけ、というのもおかしな話だが。
「じゃあさっさとこの妙な術解けよ、こっちは身動き取れなくてイライラしてんだ。それに解いてくれたら全部教えてやるぜ?」
アーシラトは引きつった笑みを浮かべ、怒りかその類の感情で微かに声を震わせる。
「それは無理なんだよねー、だって君今この状況で術解いたら絶対また襲ってくるだろう? いくら教えてくれるって言われてもねぇ」
「司令官。その時はオレが動きを止める。……もし不審な動きをしたら、足の一本はなくなると思っておけ」
「兄サン久々に本気だな。まだ怒ってんのか」
シェイド大佐は肩を震わせて反応し、何を思ったかアーシラトではなくラスターさんにボレアーリスの銃口を向けた。
「怒るに決まっているだろう!! 誰がミイラ男だ、誰がッ!! 本気で蜂の巣にしてやろうか、死神!!」
「取り敢えず落ち着けって! な!? 切れれば何するか解ったモンじゃねーんだから!」
今まで見たこともない形相で、シェイド大佐は一度ラスターさんに向けた銃口をアーシラトの頭に突き付けた。
それをラスターさんが後ろから羽交い締めにして必死に制止する。
そんな二人を見ながら、俺は溜め息混じりに提案した。
「……じゃあ、アーシラトに絶対もう襲ってこないって誓わせてから術を解けばいいんじゃないか?」
彼の性格からして、約束してそれを破るなんてことは……しそうで怖いな。自分で言っておいて何だが、しそうで怖い。
「別に僕はいいよ? ……みんなは?」
「私はどうでも。危なくなったらすぐ逃げるから」
「勝手にしろ」
「安心しろ、もしまた奇襲がきたらオレが足を吹き飛ばしてやる」
「兄サン、マジでそれやんなよ。……オレもまあ別にいいけど」
「判断は全部、ダグラスに任せる」
「俺も全員と同意見だな。取り敢えず危なくなったらみんなで逃げるっつーことで」
約三人程度が判断を放棄した。ソーマは……まあ予想はついてたけど。
「——今話した通りだ。今後、僕達にその鎌を向けないと誓うかい? もし誓ってくれるなら、今ここで解除してあげよう」
「もし破ったら?」
「さぁ? まあそれはそこの大佐にでも訊いてみればすぐ解るよ」
ダグラスさんは今まで通り微笑んでいたが、俺にはそれが悪魔の微笑みに見えて仕方がなかった。
意味深に言葉を濁す辺りがまた、すごく怖い。聞いているこっちの背筋に悪寒が走る。
「……わーかったよ! 誓ってやるよ!! それでいいんだろ!?」
「うん、解った。それじゃあ」
即答したダグラスさんが音高く指を弾いた瞬間、アーシラトを囲んでいた魔法陣が澄み切った音を立てて砕け散った。
「さ、もう動けるだろう?」
アーシラトは恐る恐るといった様子で床に手をつき、ふらふらと立ち上がった。
「じゃあ、さっき言ったとおり、全部……」
全部話してくれ、と言おうとしたのだろうダグラスさんの言葉を遮る形で、何か堅い物に刃物が突き刺さるような音が聞こえた。
何事かと思いアーシラトを見てみれば、瓦礫の欠片が散乱している廃館の床に彼の巨大鎌が突き刺さっていた。
「鎌はここに置いていく。それと俺は魔術なんて高尚なモンは扱えねェんでな。これで俺は無力って訳だ。これでいいよな? ……まあ言ったとおり、ここで立ち話するには長い話なんでなァ……ちょっと、付いてきて貰うぜ?」
「勿論。……それじゃ、みんな行こうか」
俺も含めて全員——いや、ソーマは違うか。ほぼ全員が頷き、言ったとおりに鎌をその場に放置して歩き出したアーシラトの後を追って歩き出した。




シェイド大佐は初期設定で本当にサディスティック軍の大佐だったのよ…ドSだったんだからねっ←

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