魔界に堕ちよう 55話ー 忍者ブログ
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そろそろ序盤を抜けたい。
アビスで言えばまだザオ遺跡とか砂漠の辺りだよ\(^o^)/




「クソッ……思ってたより入り組んでやがる。完全にナメてかかってたな」
舌打ち混じりに吐き捨て、男は額に浮いた汗を手の甲で拭った。
進めど進めど、自分が目指している場所には出ない。銃声や金属音を聞く限りでは、何度も確認しているように道は間違えていないらしい。
そう考えると、自分がこの辺りでもたついていると考えるのが正しいようだった。
ふと顔を上げれば、両側には木々が生い茂っている。太い枝も、そこかしこに伸びていた。
「……めんどくせぇ、少し危険だがこっちを行くとするか」
男は丁度自分の傍に生えていた樹に足をかけ、枝を掴み、器用に樹の上に上り始めた。
一番太い枝まで来ると、他の樹を選定でもするように軽く見渡し、右手に持っている鞭を握り直す。
そして、躊躇なくそこから身を投げ出し、、他の樹の枝に飛び移っていった。
そうしている内、この自然の中には不釣り合いな金属光沢や人影が見え始めてくる。
それを見ながら、男は不機嫌そうに眉を顰めた。
「——やっぱりこっちの方が早いじゃねーか。クズが。……ああ、やっぱりサングラスはかけた方がいいな。……クソッ」
一体何度目だ、と内心ぼやきながら、男は眼差しを隠すようにしてサングラスを掛けた。

RELAYS - リレイズ - 55 【助太刀、後敵】

「……何だ、貴様等の力はその程度か?」
剣劇で切り裂かれ、銃弾で穴が空き、ぼろぼろになっている執事服をその身に纏い、それでも尚アレスは立っていた。
彼は不意に俺達から視線を逸らし、自分の手の平を見る。既に手袋は嵌めておらず、普通の人間よりも若干色が白いだけの肌を晒している。所々に切り傷や銃痕があったが、勿論血は出ていない。
アレスが視線を逸らした隙をつき、俺は地面を蹴ると間合いを詰め、一息に闇霧を振り下ろした。
だが、それもソーマやラスターさん達と同じく、彼に難なく片手で掴まれる。それでも更に力を込め、目の前のアレスを睨み付ける。
俺の目を興味がなさそうに見返し、アレスは空いていた左手の指を不吉に鳴らした。
攻撃が来ると感じ取り後方に跳ぼうとするが、闇霧の刀身を強い力で掴まれている為に間合いを取る事もできない。
拳銃もあるのだから、闇霧がなくともしばらくは応戦できるとは思う。だが、自分はシェイド大佐のように射撃に長けているわけでも、ソーマのように身軽に攻撃を避けれるわけでもない。自分が一番使い慣れている武器を手放すのは、無謀と思えた。
「……『生きていれば良い』らしいからな。殺さない程度に応戦させて貰おうか、オッドアイ」
言葉と同時に掌打を入れられ、悲鳴を上げる間もなく吹き飛ばされた。
痛みを堪え、地面に両手をつくと受け身を取る。
アレスは顔にかかっていた髪の毛を手で払うと、俺に冷ややかな笑みを浮かべて一歩近付いてきた。
その脚に、金属同士が触れ合う甲高い音を立てて銃弾が被弾する。
「——忘れるな、貴様が殺るべき人間は他にも居る。それは貴様を壊す人間も大勢居るということだ」
シェイド大佐の声が響き、辺りに反響する。それと、ソーマ達が武器を構え直す音も。
「……確かにそうだ。あのオッドアイは放っておいても構わないのだから、貴様等を先に殺るとしよう」
視線を外し、アレスは俺に向けていた足をソーマ達に向けた。
彼が草を踏む乾いた音、それを掻き消すように辺りに生えている樹から大きな葉擦れの音が聞こえてくる。
だが、風などは吹いていない。無風だった。それに鳥や動物の姿も見えない。
何故、と考えてすぐ、その葉擦れの音を出していた正体が姿を現した。
その『人間』は、樹の上から跳びだして来ると黒いロングコートの裾を揺らしながらアレスの眼前に下り立ち、手に持っていた黒い一本鞭を彼の首目掛けて振り下ろす。
アレスは今までと同じようにしてそれを掴んだが、人間はそれを解っていたのか動じることもなく、そのまま彼の身体を蹴り飛ばした。
余程強い力で蹴り飛ばしたのだろう、実質的には鉄の塊である筈のアレスの身体は数メートル程離れたところの茂みに吹き飛ばされた。
突然現れた人間、そして予想もしていなかった展開に唖然としていると、その人間は俺達を振り返った。
そこで、人間が男性であること、それもあの時ベガジールの大通りで会った男である事に気付く。ただ、ボタン式の黒コートは前が開けられており、中に着ている青い軍服が見えていた。
彼はサングラス越しにアレスが吹き飛んだ先の茂みを横目で一瞥し、口を開いた。
「——テメェ等、何ボケっとしてやがる、行くぞ!!」
低く大きな怒声にも近い声で言われ、思わず肩を揺らしてしまう。
行くぞ、というのは逃げるという意味だろう。だが、彼は何者だ? この状況で行けば、味方だと思っていい事は解る。
「でもアンタは——」
「話は後だ!!」
彼はそこで遮り、走り出した。それに習って、サイラスやファンデヴ達もその後を追い掛ける。
「な、おい!」
「ヘメティ、良いから今はここから逃げるのが先決だろ!! 相手が何であれ、だ」
ラスターさんは走りながら俺に言い、更に走る速度を上げる。
逃げろと言われても、イーナはどうなるのか。弾かれるように彼女を見れば、ザクストと何か一言二言言葉を交わし、ラスターさん達に紛れて走っていく。
もうあれやこれやと考えている暇はない。俺は短く溜め息を吐くと彼等の後を追って走り出した。

「——何者だ、あの男は」
アレスは茂みから起き上がり、身体についた土埃や枯葉を払い落とすと茂みから離れ、辺りを見回した。
驚いていて行動に出るのが遅かったのか、自分が殺すべき標的達の姿は何処にもない。
「……ザクスト、追え」
こんな命令が、言葉が、今の彼に意味を成さないのは解っている。
先程ザクストがイーナに何を言ったのか、アレスにはしっかりと聞こえていた。
彼は彼女に短く一言だけ告げたのだ、『行け』と
それはアレスにとってもザクストにとっても主である、マーヴィンへの命令違反に他ならない。
普通ならばここで排除する所だが、それを行っている時間さえも惜しい。
「追えと言っている。命令だ!」
滅多に大声を上げることのないアレスの口から紡がれる強い言葉にも、彼は動じる様子も見せない。
良く行動を共にするが、実質的にはアレスの方が地位は遙かに上だ。ザクストはただの部下であり、アレスはマーヴィンの側近。これがどこにでもある普通の会社や軍なのだとしたら、彼の方が上司という立場になる。
その為、少ないながらもアレスはザクストに命令を下す権限がある。尤も、彼自身が命令することなどきわめて稀だが。
ならば自分が追うしかない、と、アレスは舌打ちして一歩踏み出した。
だが、その身体が崩れ落ちる。どうやら、先程の銃弾で小さい規模ながらも故障してしまったらしい。片膝を付くと、足を銃痕の残っている執事服の上から右手で押さえた。
左手で器用に執事服のポケットから携帯電話を取り出すと、奇跡的に被弾していなかったらしく傷一つついていないそれを開く。
慣れた手つきである番号をプッシュし、数度のコール音の後に繋がった電話先に、アレスは告げた。
「——マーヴィン様。申し訳ありません。……逃がしました」

男は月明かりに照らされている草原の真ん中までくると、ようやく足を止めた。
かなりの距離を走った筈だが、彼は呼吸一つ乱れてはいない。体力は、そこらの人間よりも遙かに高いらしい。
「……全員居るだろうな?」
彼は俺達を振り返り、まるで案じているかのような言葉を発した。
「……ああ、居る。大丈夫だ」
俺は軽く皆を見渡し、そう答えた。もしも誰か足りなければ大変なことになる。それだけは嫌だった。
男は満足したのか一度頷く。そろそろ彼の素性を訊いても大丈夫だろうか。俺はその事を口にしようとしたが、それよりも彼の方が早かった。
「……この中に、ラスター=ダーグウェッジという男は居るか」
唐突に男はラスターさんを指名した。話の流れが良く解らない。だが、一番混乱しているのはラスターさん本人だった。
「は? オレ? ……オレだけど。ラスター=ダーグウェッジ、だろ?」
当の本人は戸惑いながらも、長剣を持っていない左手を軽く挙げて前に出た。
男はしばらくの間無表情で彼を見つめていたが、不意に口許を笑みの形に歪めた。それもただの笑みではない。嘲笑だった。見る人によっては、自嘲にも見えるかも知れない。
「テメェかよ。……嫌っつーくらい似てやがるな」
「似てるって……何がだよ? もしかしてどっかでオレと会ったのか? それともオレに似た奴を見たのか?」
ラスターさんは意味が解らないといった様子で肩を竦めた。それが気に障ったのか、男は微かに眉根を寄せる。
それを怪訝に思ったのか、ラスターさんが首を傾げた。
「……待て、何故ラスターにだけ固執する? もしダーグウェッジ家に用があるのならオレもだ」
シェイド大佐は問いかけながら、ラスターさんの隣に立つ。
それを見た男の表情が、明らかに驚愕の表情に変わった。だが、それもすぐに嘲笑うような笑みに戻る。
「……そうか、テメェもかよ。確かにテメェにも用はある。……だが、まずはコイツに用があるんだよ」
彼は言うと、持っていた鞭でラスターさんを指し示した。
少し遅れたかもしれないが、そこで俺は気付く。男の身体から、明確な殺意が滲み出ていた。
「何だよ、別に恨み買われるような事はして……もしかして、店の客か? 武器が不良品だったのか? それにしては、随分な怒り方だな」
ラスターさんに挑発しているつもりはないのだろうが、それはどうやら男にとっては挑発と捉えられてしまったらしい。
「ハッ、誰がテメェ等の店で武器なんて買うかよ。何だ、まだ気付かねぇのか? とことんクズだな」
「……何が言いたい。……それよりも、お前は何者だ」
シェイド大佐の尤もな問いに、男は不機嫌さを隠すこともなく舌打ちすると、鞭を一度軍服のベルトに挟むようにしてしまい込んだ。
ラスターさんやシェイド大佐から視線を外し、サングラスを外すと黒コートのポケットに入れ、俯いたままでオールバックにされている髪を手櫛で乱雑に下ろす。
ある程度髪型を整えたところで、男はゆっくりと顔を上げた。
その顔立ちに、全員が息を呑む。
まさかとは思っていた。だが、それはないだろうと自分の中で結論づけてしまっていた。
自分が考えていた『まさか』という予想が当たっていたことに、少なからず自分は驚きと動揺を感じている。
「……オレ……!?」
男の顔は、ラスターさんと瓜二つだった。それに、シェイド大佐ともよく似ている。
もう彼が何者なのか何て、解りきっているようなものだ。
「……やっと解ったか、馬鹿が」
彼は何も言えずにいる二人を鼻で笑い飛ばし、再度鞭を手にするとそれを一度振って空気を切り、良く通る声——ラスターさんよりも少し低い程度の声で自分の素性を明かした。

「オレの名前はアノード、アノード=ダーグウェッジ!! ラスター、テメェと双子の兄弟だッ!!」




戦闘から抜け出せない件\(^o^)/

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