魔界に堕ちよう 57話ー 忍者ブログ
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取り敢えず筆が乗らないと書けないとかどういう事だと思ったよ!
回想入るかと思ったけど入らなかった^p^




RELAYS - リレイズ - 57 【約束】

「——オレが軍人になろうと考え始めたのは、丁度18歳辺りだったな。もうその頃には既に父親は居なかった。別に死んだというわけではないんだが、旅に出た」
「旅? ……何か理由があったんですか?」
旅に出るなんて、何かそれなりの理由があったんじゃないだろうか。だが、そんな俺の予想は悉く外れてしまう。
「いや、何もない。……『風が呼んでる!』だそうだ。全く、あの時は何を言っているんだと思ったな」
シェイド大佐は苦笑し、やれやれとでも言うように肩を竦めた。
まさか、そんな理由で旅に出る人間が居るとは思わなかった。勿論俺に旅をした経験も何もないのだから、これは俺の偏見でしかない……と思う。もしかすれば、本人は何かしっかりとした理由があって旅に出ているのかもしれないし、そうでないのかもしれない。
「……話を元に戻すが、それをラスターに言ったときに猛反対された。一発殴られもしたな」
「殴られ……っ!?」
「昔からアイツは喧嘩馬鹿だった。力だけなら、オレよりも上だな」
先程の苦笑とは似ているようで違う、若干呆れが入ったような笑いを口許に浮かべてシェイド大佐は息を吐いた。
確かに、ラスターさんの力は強いと俺も思う。今まで数度だけしか彼の戦いぶりを見たことはなかったが、それは理解していた。
アーシラトの巨大鎌での一閃を軽く片手で受け止められたのも、その力があったからこそだ。ラスターさんの技術なども関わってくるのかも知れないが。
「その後も、オレは必死に説得した。最終的にはラスターが折れて了承してくれたんだが、その時に言われたんだ」
彼を説得するまで、どれほどの時間がかかったのだろう。少なくとも、数週間なんて単位で表せるような時間ではないことは解る。それくらいで決まるような事じゃない。
いつの間にかシェイド大佐の口許からは笑みが消えていた。
「……『そこまで言うなら良い、だけど条件がある。オレもアンタも、絶対に死なない事が条件だ』、とな。……思ったよりも長くなかったな」
アノードと切り結ぶラスターさんを睨んでいるとも言える目で見据えながら、シェイド大佐は締め括る。
約束、というのはそういう事だったのだ。絶対に死なないこと。それならば、彼がラスターさんに向けて言った「死ぬな」の意味も解る。
「成る程……そういうことだったんですね。有り難う御座います」
軽く頭を下げ礼を言い終わると、辺りに激しい金属音を響かせながら戦っている二人に視線を戻した。
二人は丁度互いに間合いを取り、武器を構えている。
どれほどの速さで、強さで斬り合っていたのか、ラスターさんもアノードも軽くだが息が上がっていた。
ラスターさんは腕や肩口といった所を切られ、少量だが血を流している。アノードも軍服や黒コートに血を滲ませているが、その量はラスターさんと比べてかなり少なかった。
アノードは舌打ちすると頬の傷から垂れる血を手の甲で拭い、サーベルを構え直すと間合いを詰める。
「——さっさとくたばりやがれ、愚息!」
ラスターさんは凄まじい勢いの一閃を一度は受け止めたものの、その力に耐えきれずに吹き飛んだ。
どれほど肩で息をしていようと衰えない怒号の鋭さは、まるで彼の剣劇にそのまま反映されているようだった。
ラスターさん僅かに呻き声を漏らしながらも受け身を取り、長剣の柄を握り直と自分に向かって走ってきていたアノードに向かって跳躍すると、両手で構えた長剣を振り下ろした。
それをアノードは軽く片手で受け止めると弾き返した。あの一撃を細いサーベルで、それも片手で受け止めて弾き返すなんて、彼の力はラスターさんよりも上らしい。
ふらつきながらも体制を整えた彼はアノードを睨み、剣の切っ先を向ける。
「オレは、死んでなんかいられねぇんだよ……アンタの勝手な逆恨みで殺されるなんて御免だ!」
勝手な逆恨みという言葉に、アノードの目により強く殺意が宿る。
「黙れよ……! テメェにオレの何が解るんだ!」
「解らねぇよ。出会って一時間も経ってないような奴のことなんか解るわけないだろ。……それでも、アンタの行動が何なのかだけは解るぜ?」
アノードの剣幕にも怯まず、語尾まではっきりと言い切った。未だに肩で息をしているが、その声は微塵も掠れていなかった。
「今のアンタがやってる事は、筋違いだ。それに乗ってるオレもオレだけどな」
それに、と彼は続け、数度深呼吸をして呼吸を落ち着かせてから次の言葉を発する。
「アンタは真実を見ようとしていない。探そうともしていない。勝手に決めつけた上で行動してるんだ」
「……黙れって言ってんだよ」
アノードの絞り出すような低い声は、聞いているだけで身が竦むようだった。俺は関係ない筈なのに、何故か自分もその戦いの中にいるような錯覚に陥る。
「少しは答えを探してみろよ、こんな無意味な決闘なんて吹っ掛けないで!」
「黙れっつってんだよ!」
かけられる言葉全てを一蹴する彼には、ラスターさんの声も届いていない。俺に解る筈もないが、どれほど憎み、妬んでいるのか、その心の闇は計り知れなかった。
強制的に会話を打ち切り、アノードは再度彼に接近するとサーベルを一閃させる。
それを剣で受け止め、弾き、必死に応戦しているラスターさんを見て、今まで俺の後ろで一言も話さずに黙っていたソーマが唐突に口を開いた。
「……負ける」
呟きにも等しい声に振り返ってみれば、彼はさほど興味のなさそうな目で二人の戦いを見ていた。普段通りと言われれば普段通りの目にも見えるが、何故か今だけはどこか違って見える。
俺の視線に気付いたのか、ソーマは彼等から視線を外すと俺を一瞥した。
「あのままでは負ける——いや、死ぬだろうな」
誰が、どちらが、とは聞かなかった。何故か、理解してしまっていた。ただ目を背けていただけで。
このまま戦っていても、アノードが勝利するのだと。それは即ち、ラスターさんの死を意味している。
ラスターさんをこのまま死なせる訳にはいかない。アノードにも、殺させるわけにはいかない。
加勢すれば、アノードは逆上するに決まっている。彼の性格は、出会ってから1時間足らずだが何となく理解していた。あくまでも何となくなのだから、本来の性格がどんなものなのかは解らない。
それに、加勢はラスターさんも望んでいない気がする。彼等は自分達だけで、決着をつけようとしている。
「どうするかは、貴様等で考えろ」
普段通りの無関心、だがそれが妙に気にかかる。今だけは、自分の無関心なんて通らない。そんな気がした。
「俺はどちらが勝とうが興味はない。アイツが殺されようがな」
俺の考えを見透かしたかのようにソーマは言い、俺達と2,3メートルほど距離を置く。
この状況下でもはっきりと言い切った彼に対して言いたい事は山ほどあったが、それを話す時間はない。
ソーマから目を外し、全員の顔を見る。
サイラスもファンデヴも、未だに辛い筈のイーナも、勿論シェイド大佐も、全員が同じ考えを持っているようだった。それが表情からも解る。
口を開こうとした瞬間、俺の発言にラスターさんの短い悲鳴が被さった。
弾かれるように振り返れば、彼が地に伏していた。剣は弾き飛ばされたのか、手から離れたところに転がっている。
「……しぶといな、さっさとくたばれっつってんだよ……消えろよ」
アノードは独り言のように言いながらラスターさんに近付き、サーベルを彼の首に突き付けた。
まだ意識を失うまではいっていないらしく、彼は倒れたままでアノードを睨み付ける。
それに気を悪くしたのか不快だったのか、アノードは一度顔を顰めるとサーベルを振り上げた。
「——待てよ」
彼がラスターさんの首にサーベルを突き立てる寸前に、俺は彼に届くように声を発した。そして抜刀した闇霧の切っ先を真っ直ぐアノードに向ける。
アノードはサーベルを止め、俺を睨んできた。その威圧感に一瞬押されそうになったが、その刃にも似た視線をしっかりと、真っ向から受け止めた。
「……何のつもりだ。邪魔するんじゃねぇ、人の家の『家庭事情』に口出しするなよ」
確かにそうだ、これは本来ならばシェイド大佐やラスターさん、それにアノードといったダーグウェッジ家の問題だ。
だが、だからといってラスターさんを見捨てることはしない。助けられるのならば助けたかった。
「テメェ……」
「そこまでだ。もうやめろよ、こんなのは」
何も言わずにいる俺に彼がもう一度何かを言おうとしたが、それよりも先にサイラスが口を開いた。
その手には発動したばかりのヴォカーレが握られており、柄と同じくブラックシルバーの矛先はアノードに向けられている。
それだけではない、ソーマを除く全員が、アノードを円形に取り囲んでいた。皆一様に自らの武器を持ち、その切っ先を、シェイド大佐は銃口を彼に向けている。
「……何だ、皆揃ってオレを敵視するか。まるで悪役の扱いだな」
嘲笑を浮かべ、アノードは困ったように肩を竦めた。彼に会ってから、彼の嘲笑や自嘲以外の笑いを見たことがない。
「……少なくとも、今のお前は俺達にとっちゃあ敵だな。サーベル、離せよ」
サイラスもアノードと同じように肩を竦め、有無を言わさぬ口調で告げる。今の彼は、俺達に取っても敵だ。それは俺も同じく考えていた。
「それは要するに、オレに殺すなって言ってるって取っていいんだな? ……部外者が出てくるなよ」
「違う」
俺は短く、叫びにも似た大声で言った。
「部外者なんかじゃない、ラスターさんは仲間だ。殺すのだけは、これ以上傷つけるのは許さない」
部外者なんて言葉で表せるほど、軽く浅い関係ではない。他の誰がどう思っていようと、俺はそう思っていた。
「仲間か……面白ぇな、そうやって救える人間は全員救う、偽善者気取りか?」
「偽善者だろうがどうでもいい、何とでも言えばいいだろ……俺はこれ以上アンタがラスターさんを痛めつけるのを見たくないだけだ」
偽善者、偽善。確かにそうかもしれない。戦場でそんなのは通用しない。それは何度も自分の考えが違うのだと再認識している。
それでも、俺はこれ以上二人が戦うのを見ていたくなかった。
もしかすれば、見ていたくないならばここから立ち去ればいいと彼は答えるかも知れない。
ただ、俺はそれだけではない。人が、仲間が死ぬのが——殺されるのが嫌だった。
「……アノード、もう止めろ」
銃口を下げたシェイド大佐が、輪から外れて数歩程度アノードに近付いた。
彼は肉親に対する情も何もない、赤の他人や敵を見るような目付きでシェイド大佐を見る。
「……何だよ」
「……これ以上は止めろ。オレの目の前でこんな戦いを見せるんじゃない。ラスターの意志を尊重したつもりだったが……兄弟同士で戦うなんて馬鹿な真似は、もう終わりにしろ」
シェイド大佐は、苦しげな様子でアノードに向けて言った。ラスターさんが彼と戦うといったのだから一度は決闘を認めはしたものの、実の兄弟が互いに戦う様を見るのは苦しかったに違いない。
「兄弟かよ……オレはテメェ等と兄弟だなんて認めたくもねぇんだがな」
その言葉に嘘はないのだろう、吐き捨てた言葉の端々からもそれが解る。それに、彼の目付きは本気だった。
「それでも構わない。……ただ、お前はラスターの言うとおり、真実を確認しようとは思わないのか」
「確認して、何の意味がある。それどころか、捨てた筈の子供が戻ってきたなんて事になったらとんでもねぇ事になるだろうよ」
「だから、その捨てたのかどうかの確認を何故……」
「どうして……どうして最初から諦めてるの?」
シェイド大佐の発言を遮り、イーナが鎖鎌を構えたまま問いかけた。
「……何で、最初から決めつけてるの? 本当の事なんて自分から知りに行かないと解らないに決まってるのに、何でそれをしないの?」
若干紫がかった桃色の目でアノードを見つめ、ゆっくりと言葉を紡いでいく。
彼は答えずに、シェイド大佐を見るのと同じ目でイーナを見据えた。先程に比べて刺々しさが少しでも薄れた気がするのは、俺の気のせいだろうか。
「……アノード、一度リグスペイアに行って父さんと母さんに——」
「ハッ、誰が行くか。……ここで殺りたかったんだが、テメェ等と戦える自信はねぇな」
至極残念そうに、アノードはラスターさんの首からサーベルを離した。
一度振って血やその他の汚れを落とし、彼はファンデヴに歩み寄るとそれを律儀にも手渡した。
「……感謝するぜ。いいサーベルだ。使い勝手も良いしな。せいぜい大切にしろよ」
ファンデヴにサーベルを返すと、彼はコートのポケットから取り出したサングラスを掛ける。そして俺達を振り返り、中心のラスターさんをサングラス越しに睨み付けた。
「……今度会ったら、その時こそテメェを殺してやる。……シェイド、テメェもだ」
そう言い残して歩き去っていくアノードの背中を見ながら、俺は溜め息のように大きく息を吐いた。
恐らく、彼は本当はあんな人間ではないのだと思う。根本からああならば、ファンデヴに礼を言うなんてしない筈だ。
復讐や嫉妬といった負の感情で、自分も自分が行くべき道も見失っているように思える。
幾らそんな事をいっても、彼自身に訊かない限り、これは俺の憶測でしかないが。
全員の緊張が解けたらしく、皆自分の武器をしまっている。それを見ながら、俺も闇霧を鞘に戻した。




もう6時半過ぎとか信じない。

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