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リレイズ今年中に50話行こうぜ企画←
でも無理くせぇ!!Die!!!
RELAYS - リレイズ - 47 【創造館】
同時に立ち上がったファンデヴとシェイド大佐はしばらくお互いに顔を見合わせていた。二人とも、まさか、と驚いているような、そんな雰囲気を醸し出している。
「……ああ、お前から先に言っていいぞ、ファンデヴ」
「……解った。有り難う」
シェイド大佐は立ち上がったときとは違う、落ち着いた動作で椅子に座った。
それを見てから、アーシラトは椅子から立ち上がり、ファンデヴの元へ歩み寄る。
長身なアーシラトとファンデヴでは、かなりの身長差があった。何の事情も知らない人間が見たら、本当に命を奪おうとしている死神に怯えて立ちすくんでいる人間に見えるかもしれない。
「で、何だ、赤毛。——つっても、訊きてェ事が何なのかは予想付くんだけどなァ……」
俺達にも、ファンデヴが何を訊きたいのかは大体予想ができる。
ファンデヴは行方不明になっている自分の兄を捜している。生きているのかも死んでいるのかも解らない肉親を。
兄の生死、それをアーシラトに訊きたいのだろう。
「……運んだ人間、ここ七年の間で、自分と同じ赤い長髪で、オールバックで、黒スーツの男って居た?」
ファンデヴの問いに、アーシラトは眉根を寄せると黙り込み、ファンデヴが言った外見特徴と自分の記憶を照らし合わせ始めた。
「……いや、知らねェ。悪ィな」
「全然。それなら、生きてるって事だろうから」
死神であるアーシラトがファンデヴの兄の事を知らない、見ていない。
それは、まだこの世界のどこかで彼が生きているということを示しているのではないか。
アーシラトが謝る理由はどこにもない。
「そうか。……まァ、いつか見付けたらてめェに伝えるさ。——で、てめェは?」
彼はファンデヴとの会話を打ち切ると、黒マントとは対照的に、雪のように白く細い指でシェイド大佐を指さした。
「オレもファンデヴと同じだ」
シェイド大佐は立ち上がるとアーシラトの元まで規則的な歩幅で歩み寄ると、彼の目をしっかりと見据えた。
いや、見据えるというよりは——睨む、と表現した方がいいかもしれない。
そう見えてしまう程、シェイド大佐の目には強い意志が秘められていた。
「……クヴァシル、クヴァシル=マーイョリスという男を知らないか。銀髪に、右目が赤で左目が黒、オレと同じ軍人だ」
一度大きく息を吸ってから、低く、それでもはっきりと言い切った。
恐らく、シェイド大佐が機関に来るまでの道程、車内で言っていた『数年前に死んでしまった友人』の事だ。
死んでしまっている、というのは理解しているが、それでも本当はどこかで生きているのではないか。
シェイド大佐は、そう考えているのかもしれない。その願いや感情と決別する為に、アーシラトに訊いている、そんな気がした。
俺に解る筈がないのだが、何となく解る、そんな感覚だった。
「……銀髪にオッドアイに、軍人……? ……オイ待て、そいつは……」
「死んだ筈だ。……オレは、この目で見た。それでも死んだのだと、頭では理解していてもどこか信じていない、だからお前に訊いているんだ」
シェイド大佐は、自分の大切な友人の死を自分の目で見てしまっていた。
そのときに受けた精神的な苦痛は、計り知れない。尤も、赤の他人である俺に、『こうだった』と解る筈がないのだが。
ただ、友人の死を理解したくない、それは俺にも理解できた。誰だって、認めたくはないに違いない。
知らず知らずの内に、俺は自分の服の裾を握りしめていた。
「……そうなのか? だけど、俺は知らねェ。忘れてるとかじゃねェ、記憶にねェんだ。……妙だな」
アーシラトが忘れている、という事でもない。ならば、何がどうなっているのか。
「どういう、事だ……まさかとは思うが——いや、これは無い、か……解った」
シェイド大佐は俯き、数秒の間何かを思い出したように呟いていたが、すぐに顔を上げるとアーシラトに背を向けた。
「……他に、何か訊きてェ奴は? いねェならここで終わりだ」
椅子に座っている全員の顔を見る。
俺やシェイド大佐、イーナを含めた全員が、もう何も訊くことはない、という雰囲気を醸し出していた。
俺も訊くことはもう何もない。身勝手だが、アーシラトが何故俺を襲ったのか、それさえ解れば俺は良かったのだ。
「——みんな、ないみたいだね。僕もない。アーシラト、話してくれて有り難う」
ダグラスさんは立ち上がると、アーシラトに向かって頭を下げた。
白衣を纏っている肩の上をさらさらと金髪が流れ落ちる。
頭を下げられたアーシラトも驚いているようだったが、俺もまさかダグラスさんが頭を下げるとは思っていなかった。
総司令官というにはどこか子供っぽい所もあり、そのような役職に就いている人間が持っているような威厳などは普段殆ど感じられない。
それでも、ダグラスさんはリレイズの総司令官だ。幾らアーシラトが世界で唯一の死神だとしても、階級や格が違う。
そんな人間が頭を下げたのだ。普通ならば有り得ない。……いや、ダグラスさんの人柄からして有り得そうだが。普通に考えれば、の話だ。
「……頭なんて下げんじゃねェよ。いいからさっさと帰れ。館の入り口までは送ってってやるよ」
迷って出られないなんて事になったらこっちだって困る、とアーシラトは続けた。
それは俺達も絶対に嫌だ。こんな廃館の地下で迷子になる、なんて死んでも嫌だった。考えるだけで寒気がする。
彼が館の入り口まで送っていってくれるのなら、それに越したことはない。
「ああ、有り難う。道なんて殆ど解らないからね。送っていってくれるのならそれがいい」
ダグラスさんが歩き出したタイミングを見計らい、俺は立ち上がった。それに続いて、皆も。
「よし、それじゃ行く……」
全員が椅子から立ち上がったのを確認してから、アーシラトが笑みを湛えて言いかけた。
だがその言葉は途中で途切れ、表情が凍り付く。
死神、というには感情が豊かな彼に出会ってから数度しか見たことがない、『驚愕』の表情。
まるで刃のように鋭い光を帯びている赫い瞳は、真っ直ぐに俺の後ろ——ラスターさんに向けられていた。
「……何だよ?」
「てめェ——……いや、何でもねェよ。オラ行くぞ!」
訝るように声を出したラスターさんに何かを言おうとしたらしいが、すぐにそれを隠すように口を閉ざしてしまった。その後に何か言うのかと思えば、すぐに扉を開いて歩き出していた。
「……何だったんだ?」
素直な感想が口からこぼれ落ちた。あの時のアーシラトの目には、どこか猜疑のようなものも浮かんでいた気がする。
「さあな? 知らないぜ、オレは。まさかとは思うし、な」
「いや、ラスターさんまでそんな意味深な言葉言わないで下さいよ。気になるじゃないですか」
何か隠しているような言い方をされると、どうしても知りたくなる。これは俺だけじゃないと信じたい。
それでも教えてくれないラスターさんに、胸の中に何かもやもやとした感情がわき起こる。
だが、本人が教えてくれないのだから仕方がない。
俺は溜め息を吐くと、皆と同じくアーシラトの後を追いかけた。
「——有り難う。ここまでで大丈夫だ」
「そうか? まァそうか、ここからは一本道しかねェ筈だからな」
地下室を繋ぐ薄暗い廊下を歩き、瓦礫の山を越え、ようやく俺達は館の前まで来れた。
俺は大きく伸びをすると、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。見上げた青空が、何故かとても久々に見る物に感じる。
さほど時間は経っていない筈だが、随分と長い時間をあの地下室で過ごしたような、そんな錯覚があった。
「……青空か……見たのなんて何十年ぶりだろうなァ……50年くらい前か」
「……その時にも、何かあったのか?」
問いかけると、アーシラトは少し微笑を湛えながら、懐かしそうに目を細めた。
「あァ。——馬鹿な話さ。死神が、人間に愚かな恋をした。……笑えるだろ」
「全然。逆にいい話だろ」
即座に反応した俺に、アーシラトは若干驚いたように眉を上げた。
笑える訳がない。笑える人間なんているものか。少なくとも、自分はそうじゃない。
そういえば、以前『読書力を培う為』なんて銘打ってダグラスさんに無理矢理渡された本、それにもそんな話があった。
種族が違うが故の決して叶わない恋。三分の二ほど読んで読むのを止めてしまったけれど、それだけははっきりと心に残っている。
その物語とアーシラトが、重なって見えた。
「ホラ、もうさっさと行けよ。ここはてめェ等が、生きている人間が来るような所じゃねェ」
先程のどか寂しげな、それでも酷く優しかった面影など最初からなかったかのように、アーシラトは頭を掻きながら言った。
「解った。それじゃあ、また会おう。……『創造館』主、アーシラト」
「……てめェ、何でこの館の名前を知ってやがる」
創造館、この館の名前がそういう名称なのだと初めて知った。アーシラトも教えてはくれなかったし、何よりこの館はずっと異形の館と呼ばれ続けていたのだから。
「いや、この館に来る前の日に、色々調べてたら見付けちゃったんだよ。何でこの館が創造館なんて名前なのかは解らなかったけど。……でも、理解できたからいいよ」
「成る程な……んじゃ、今度会うときはてめェ等が死んだときだといいな」
どこまで不吉なことを言うんだ。俺達が死ぬときなんて解る訳がない。もしかすれば、明日にでも死ぬかも知れないのだ。
アーシラトは言い、すぐに踵を返して自分の館へと戻っていった。
それを見送ってから、俺達も異形の館——いや、創造館に背を向けて歩き出した。
館を出て少し歩くと、本に出てきそうな程に広々とした草原が視界に飛び込んできた。
ここまでは、都市の人間達の手も迫ってきていないらしい。ありのままの自然が残っている。
「——それにしても、何か訳の分からねぇ廃館散策だったな」
「確かにそうだったが、色々面白かったからよしとしよう」
「何でそんな簡単にあっさりと話題を変えられるんですか」
ラスターさんとシェイド大佐は、つい先程あった出来事などなかったかのように話していた。
彼等なりに何か考えがあるのだとは思う。ただここまであっさり変えられると……突っ込まざるを得ないんじゃないか。
「……それで、この後君達はどうする? 僕はもう戻るけど。一緒に戻ってきても構わない。……ただ」
そこで言葉を濁したダグラスさんに、全員の視線が集中する。
「……ソーマ、君はどうする」
何故そこでソーマに意見を求めるのか、俺は解らなかった。いつも意見を出さない人間に意見を求めるなんて、言い方は悪いが無駄じゃないのか、と。
当の本人は、興味がないのか考えているのか解らないが口を閉ざしたままでダグラスさんを見ていた。
「……君は7歳の時に機関に連れてこられて以来、11年の間——」
「要らない事は話さなくていい」
いつも通りの冷たい声だったが、それに寂寥感が混じっているように感じたのは気のせいだっただろうか。
ソーマは細く長く息を吐く。
「……行って良いのならば、行かせて貰う。ついてきたければ勝手についてこい」
「勿論、その為に君に訊いたんだから。——皆は?」
機関に戻ったとしても、他の能力者との手合わせや研究班の手伝い以外に何もすることはない。
それに、『今の』ソーマ一人だけを置いていく事はできればしたくなかった。根拠もなく、何故かそう考える自分が居る。
「……俺はソーマと一緒に行きます」
「私も。こんな危なっかしい奴を一人でおいていくなんてできないでしょ」
「ならオレもだ。幾ら強いからといって、子供をおいていくわけにはいかないな?」
「ちょっと待てよ、じゃあオレも行くぞ、いいか!?」
「……なんだ、お前等もかよ。俺等もだぞ。結局司令官以外全員じゃねーか」
結局、ダグラスさんを抜いた全員がソーマについて行くらしい。
「……そうか。それじゃあ。ソーマが行く所は、もうここから歩いてすぐの所にあるからね。……気をつけて」
「大丈夫ですよ。じゃあ、また本部で」
俺達はダグラスさんに背を向け、もう既に数メートル先を歩いているソーマを先頭に歩き始めた。
取り敢えずスランプから脱出できたのかね←
でも無理くせぇ!!Die!!!
RELAYS - リレイズ - 47 【創造館】
同時に立ち上がったファンデヴとシェイド大佐はしばらくお互いに顔を見合わせていた。二人とも、まさか、と驚いているような、そんな雰囲気を醸し出している。
「……ああ、お前から先に言っていいぞ、ファンデヴ」
「……解った。有り難う」
シェイド大佐は立ち上がったときとは違う、落ち着いた動作で椅子に座った。
それを見てから、アーシラトは椅子から立ち上がり、ファンデヴの元へ歩み寄る。
長身なアーシラトとファンデヴでは、かなりの身長差があった。何の事情も知らない人間が見たら、本当に命を奪おうとしている死神に怯えて立ちすくんでいる人間に見えるかもしれない。
「で、何だ、赤毛。——つっても、訊きてェ事が何なのかは予想付くんだけどなァ……」
俺達にも、ファンデヴが何を訊きたいのかは大体予想ができる。
ファンデヴは行方不明になっている自分の兄を捜している。生きているのかも死んでいるのかも解らない肉親を。
兄の生死、それをアーシラトに訊きたいのだろう。
「……運んだ人間、ここ七年の間で、自分と同じ赤い長髪で、オールバックで、黒スーツの男って居た?」
ファンデヴの問いに、アーシラトは眉根を寄せると黙り込み、ファンデヴが言った外見特徴と自分の記憶を照らし合わせ始めた。
「……いや、知らねェ。悪ィな」
「全然。それなら、生きてるって事だろうから」
死神であるアーシラトがファンデヴの兄の事を知らない、見ていない。
それは、まだこの世界のどこかで彼が生きているということを示しているのではないか。
アーシラトが謝る理由はどこにもない。
「そうか。……まァ、いつか見付けたらてめェに伝えるさ。——で、てめェは?」
彼はファンデヴとの会話を打ち切ると、黒マントとは対照的に、雪のように白く細い指でシェイド大佐を指さした。
「オレもファンデヴと同じだ」
シェイド大佐は立ち上がるとアーシラトの元まで規則的な歩幅で歩み寄ると、彼の目をしっかりと見据えた。
いや、見据えるというよりは——睨む、と表現した方がいいかもしれない。
そう見えてしまう程、シェイド大佐の目には強い意志が秘められていた。
「……クヴァシル、クヴァシル=マーイョリスという男を知らないか。銀髪に、右目が赤で左目が黒、オレと同じ軍人だ」
一度大きく息を吸ってから、低く、それでもはっきりと言い切った。
恐らく、シェイド大佐が機関に来るまでの道程、車内で言っていた『数年前に死んでしまった友人』の事だ。
死んでしまっている、というのは理解しているが、それでも本当はどこかで生きているのではないか。
シェイド大佐は、そう考えているのかもしれない。その願いや感情と決別する為に、アーシラトに訊いている、そんな気がした。
俺に解る筈がないのだが、何となく解る、そんな感覚だった。
「……銀髪にオッドアイに、軍人……? ……オイ待て、そいつは……」
「死んだ筈だ。……オレは、この目で見た。それでも死んだのだと、頭では理解していてもどこか信じていない、だからお前に訊いているんだ」
シェイド大佐は、自分の大切な友人の死を自分の目で見てしまっていた。
そのときに受けた精神的な苦痛は、計り知れない。尤も、赤の他人である俺に、『こうだった』と解る筈がないのだが。
ただ、友人の死を理解したくない、それは俺にも理解できた。誰だって、認めたくはないに違いない。
知らず知らずの内に、俺は自分の服の裾を握りしめていた。
「……そうなのか? だけど、俺は知らねェ。忘れてるとかじゃねェ、記憶にねェんだ。……妙だな」
アーシラトが忘れている、という事でもない。ならば、何がどうなっているのか。
「どういう、事だ……まさかとは思うが——いや、これは無い、か……解った」
シェイド大佐は俯き、数秒の間何かを思い出したように呟いていたが、すぐに顔を上げるとアーシラトに背を向けた。
「……他に、何か訊きてェ奴は? いねェならここで終わりだ」
椅子に座っている全員の顔を見る。
俺やシェイド大佐、イーナを含めた全員が、もう何も訊くことはない、という雰囲気を醸し出していた。
俺も訊くことはもう何もない。身勝手だが、アーシラトが何故俺を襲ったのか、それさえ解れば俺は良かったのだ。
「——みんな、ないみたいだね。僕もない。アーシラト、話してくれて有り難う」
ダグラスさんは立ち上がると、アーシラトに向かって頭を下げた。
白衣を纏っている肩の上をさらさらと金髪が流れ落ちる。
頭を下げられたアーシラトも驚いているようだったが、俺もまさかダグラスさんが頭を下げるとは思っていなかった。
総司令官というにはどこか子供っぽい所もあり、そのような役職に就いている人間が持っているような威厳などは普段殆ど感じられない。
それでも、ダグラスさんはリレイズの総司令官だ。幾らアーシラトが世界で唯一の死神だとしても、階級や格が違う。
そんな人間が頭を下げたのだ。普通ならば有り得ない。……いや、ダグラスさんの人柄からして有り得そうだが。普通に考えれば、の話だ。
「……頭なんて下げんじゃねェよ。いいからさっさと帰れ。館の入り口までは送ってってやるよ」
迷って出られないなんて事になったらこっちだって困る、とアーシラトは続けた。
それは俺達も絶対に嫌だ。こんな廃館の地下で迷子になる、なんて死んでも嫌だった。考えるだけで寒気がする。
彼が館の入り口まで送っていってくれるのなら、それに越したことはない。
「ああ、有り難う。道なんて殆ど解らないからね。送っていってくれるのならそれがいい」
ダグラスさんが歩き出したタイミングを見計らい、俺は立ち上がった。それに続いて、皆も。
「よし、それじゃ行く……」
全員が椅子から立ち上がったのを確認してから、アーシラトが笑みを湛えて言いかけた。
だがその言葉は途中で途切れ、表情が凍り付く。
死神、というには感情が豊かな彼に出会ってから数度しか見たことがない、『驚愕』の表情。
まるで刃のように鋭い光を帯びている赫い瞳は、真っ直ぐに俺の後ろ——ラスターさんに向けられていた。
「……何だよ?」
「てめェ——……いや、何でもねェよ。オラ行くぞ!」
訝るように声を出したラスターさんに何かを言おうとしたらしいが、すぐにそれを隠すように口を閉ざしてしまった。その後に何か言うのかと思えば、すぐに扉を開いて歩き出していた。
「……何だったんだ?」
素直な感想が口からこぼれ落ちた。あの時のアーシラトの目には、どこか猜疑のようなものも浮かんでいた気がする。
「さあな? 知らないぜ、オレは。まさかとは思うし、な」
「いや、ラスターさんまでそんな意味深な言葉言わないで下さいよ。気になるじゃないですか」
何か隠しているような言い方をされると、どうしても知りたくなる。これは俺だけじゃないと信じたい。
それでも教えてくれないラスターさんに、胸の中に何かもやもやとした感情がわき起こる。
だが、本人が教えてくれないのだから仕方がない。
俺は溜め息を吐くと、皆と同じくアーシラトの後を追いかけた。
「——有り難う。ここまでで大丈夫だ」
「そうか? まァそうか、ここからは一本道しかねェ筈だからな」
地下室を繋ぐ薄暗い廊下を歩き、瓦礫の山を越え、ようやく俺達は館の前まで来れた。
俺は大きく伸びをすると、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。見上げた青空が、何故かとても久々に見る物に感じる。
さほど時間は経っていない筈だが、随分と長い時間をあの地下室で過ごしたような、そんな錯覚があった。
「……青空か……見たのなんて何十年ぶりだろうなァ……50年くらい前か」
「……その時にも、何かあったのか?」
問いかけると、アーシラトは少し微笑を湛えながら、懐かしそうに目を細めた。
「あァ。——馬鹿な話さ。死神が、人間に愚かな恋をした。……笑えるだろ」
「全然。逆にいい話だろ」
即座に反応した俺に、アーシラトは若干驚いたように眉を上げた。
笑える訳がない。笑える人間なんているものか。少なくとも、自分はそうじゃない。
そういえば、以前『読書力を培う為』なんて銘打ってダグラスさんに無理矢理渡された本、それにもそんな話があった。
種族が違うが故の決して叶わない恋。三分の二ほど読んで読むのを止めてしまったけれど、それだけははっきりと心に残っている。
その物語とアーシラトが、重なって見えた。
「ホラ、もうさっさと行けよ。ここはてめェ等が、生きている人間が来るような所じゃねェ」
先程のどか寂しげな、それでも酷く優しかった面影など最初からなかったかのように、アーシラトは頭を掻きながら言った。
「解った。それじゃあ、また会おう。……『創造館』主、アーシラト」
「……てめェ、何でこの館の名前を知ってやがる」
創造館、この館の名前がそういう名称なのだと初めて知った。アーシラトも教えてはくれなかったし、何よりこの館はずっと異形の館と呼ばれ続けていたのだから。
「いや、この館に来る前の日に、色々調べてたら見付けちゃったんだよ。何でこの館が創造館なんて名前なのかは解らなかったけど。……でも、理解できたからいいよ」
「成る程な……んじゃ、今度会うときはてめェ等が死んだときだといいな」
どこまで不吉なことを言うんだ。俺達が死ぬときなんて解る訳がない。もしかすれば、明日にでも死ぬかも知れないのだ。
アーシラトは言い、すぐに踵を返して自分の館へと戻っていった。
それを見送ってから、俺達も異形の館——いや、創造館に背を向けて歩き出した。
館を出て少し歩くと、本に出てきそうな程に広々とした草原が視界に飛び込んできた。
ここまでは、都市の人間達の手も迫ってきていないらしい。ありのままの自然が残っている。
「——それにしても、何か訳の分からねぇ廃館散策だったな」
「確かにそうだったが、色々面白かったからよしとしよう」
「何でそんな簡単にあっさりと話題を変えられるんですか」
ラスターさんとシェイド大佐は、つい先程あった出来事などなかったかのように話していた。
彼等なりに何か考えがあるのだとは思う。ただここまであっさり変えられると……突っ込まざるを得ないんじゃないか。
「……それで、この後君達はどうする? 僕はもう戻るけど。一緒に戻ってきても構わない。……ただ」
そこで言葉を濁したダグラスさんに、全員の視線が集中する。
「……ソーマ、君はどうする」
何故そこでソーマに意見を求めるのか、俺は解らなかった。いつも意見を出さない人間に意見を求めるなんて、言い方は悪いが無駄じゃないのか、と。
当の本人は、興味がないのか考えているのか解らないが口を閉ざしたままでダグラスさんを見ていた。
「……君は7歳の時に機関に連れてこられて以来、11年の間——」
「要らない事は話さなくていい」
いつも通りの冷たい声だったが、それに寂寥感が混じっているように感じたのは気のせいだっただろうか。
ソーマは細く長く息を吐く。
「……行って良いのならば、行かせて貰う。ついてきたければ勝手についてこい」
「勿論、その為に君に訊いたんだから。——皆は?」
機関に戻ったとしても、他の能力者との手合わせや研究班の手伝い以外に何もすることはない。
それに、『今の』ソーマ一人だけを置いていく事はできればしたくなかった。根拠もなく、何故かそう考える自分が居る。
「……俺はソーマと一緒に行きます」
「私も。こんな危なっかしい奴を一人でおいていくなんてできないでしょ」
「ならオレもだ。幾ら強いからといって、子供をおいていくわけにはいかないな?」
「ちょっと待てよ、じゃあオレも行くぞ、いいか!?」
「……なんだ、お前等もかよ。俺等もだぞ。結局司令官以外全員じゃねーか」
結局、ダグラスさんを抜いた全員がソーマについて行くらしい。
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FF、DMC、TOAをメインにやる予定だったのに何かオリジナル増えそう。
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