魔界に堕ちよう 67話ー 忍者ブログ
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まじで長かったよ、ここまで…っ!(´;ω;`)ブワッ
作業用BGM:君は僕に似ている




軽快にキーボードを叩きながら、最早研究員としての面影など消え失せているアイドは口許にゆっくりと弧を描いた。
その笑みはどこか不気味で、見た者の背筋を凍らせるようなものでもある。彼を知る人間が見たら「何があったのか」と問い質してしまうかも知れない。
余りにも、今のアイドは『研究班班長であるアイド』からかけ離れていた。
「一人はこれでよし、と。……精密すぎるってのも考え物だな」
ぽつりと呟き、彼は紅茶の入ったカップを傾ける。カップはそこらの棚から拝借し、紅茶は丁度事務机に置いてあったポットから勝手に注いだ物だ。恐らく避難する直前に入れたものだったのか、まだ温かく湯気を立ち上らせている。
そしてこれまた勝手に貰った角砂糖を入れた紅茶を堂々と啜りながら、アイドは一つの画面を見た。
まるで監視カメラの映像のようなものが映し出されている画面には、地面に倒れ伏している一人の男。それが『彼』から言われた機械人形という存在である事は明白だった。
「全く、俺の存在を忘れて貰っちゃ困るぜ支配者殿。ちゃんと部下にも教えておかなきゃ駄目だろ?」
苦笑めいた笑みを漏らし、彼は肩が凝ったとでも言いたげに肩に手を当てて軽く首を回す。
仕方がないな、というような口調とは裏腹に、アイドの心は高揚していた。資料や薬品に囲まれての研究院生活では味わえなかった興奮に高揚感。
数年程昔には毎日のように味わっていた感覚が懐かしかった。
「大量の電子機器を壊して使い物にならなくして、中枢部まで狂わそうとしたクラッカーの話を、な」
ああ、こんなに気分が高ぶったのはいつぶりだろうか。血が騒いで騒いで仕方がない。
アイドはそこで紅茶のカップを置き、再びキーボードと画面に向き直る。
もっと狂わせてやりたかった。精密なプログラミングで自我を得たあの二人を。
「さて、後はもう一人だけだな。二人居なくなるだけで結構な戦力を削げると思うんだけどな……上手くやってくれよ、戦闘要員」


RELAYS - リレイズ - 67 【絶望の光】

思えばマーヴィンは初めて出会ったときにも俺を知っているような意味深な言葉を吐き捨てていた。「生きていたのか」というような問いを。
あの時の頭痛の事もあり、彼が俺のことを知っているのは最早明白だった。
思い出したくても思い出せなかった過去の記憶。それを彼が知っているかも知れない。そう考えれば、今すぐにでもマーヴィンに詰め寄りたかった。だがそれが自殺行為である事は痛い程によく分かる。
何度か深呼吸を繰り返し、動転しているにも等しい心を落ち着かせていく。焦っても良いこと等何もない。
「……アンタは俺を知ってるみたいな言い方ばっかりだ。リグスペイアでの時も、今も」
落ち着いてゆっくりと言葉を発し、剣を肩に担ぐマーヴィンに話しかける。その立ち姿からも余裕が滲み出ていた。アレスはといえば既にマーヴィンの隣に移動している。
彼はただ黙って俺を見据えているだけで、それを肯定することもなければ否定することもない。
シェイド大佐やソーマも黙ったまま、俺を止めるでもなくマーヴィンに話をさせてくれた。
本来ならばここはそうはっきりと本題に入ってはいけないのだろう。ちゃんと順序を踏まえて話を進めるべきだ、と頭では理解していてもそれを行動に移すとなるとどうしても無理だった。
「悪いが単刀直入に言わせて貰う。……アンタは俺を知ってるのか? 知ってるなら、俺の過去も分かるのか?」
言い間違えないように慎重に、普段話す時よりも声を若干張り上げて、自分を知っているであろう人間に問い掛ける。
この問いにも表情を変えず、マーヴィンは特にこれといった感情の籠もっていない目で俺に視線を注ぎ続ける。血に濡れたような鮮やかな赤い瞳に見つめられ、威圧感など発されていない筈なのにもかかわらず身震いしてしまいそうになった。
彼はふぅ、と溜め息のように息を吐けば、肩から長剣を下ろし振り上げる素振りもなくその切っ先を床に向ける。
「……じゃあ僕からも質問だ。それを知ってどうする? 自分の過去を知ってどうするんだい?」
予想していなかった切り返しに、思わず呆気に取られる。確かにただで教えてくれるとは思っていなかったが、まさかこう聞き返されるとは思ってもいなかったのだ。
「俺には十五歳までの記憶がない。自分の欠けている部分を知りたいと思うのは普通だろ」
記憶を失う、自分がどのような人間であったかも忘れるというのは余りにも重く苦しい。自分が何者だったか、何処の生まれか、家族が居たのか、自分の人間関係や想い出すら残っていない。
空っぽだった。十五年という年月を忘れてしまった俺はただ自分が何故ここにいるのかすらも理解できていなかったのだから。
実を言えば、名前すら正確に覚えていなかった。自分の名前は分かるものの、姓だけが分からない。それだけでも分かれば、記憶の手がかりにはなっただろうに。
「成る程、大体分かったよ。確かに僕は君を知っている」
「それなら——」
それなら教えろ、と言い切る前に、丁度自分の右側から不穏な空気を感じ取る。それとほぼ同時に聞こえてきた盛大な溜め息に、俺はそちらに視線を向けた。
ナトゥスを肩に担ぎ、俺に侮蔑のような感情の籠もった瞳を向けてくるソーマに身が竦みそうになるのを住んでで堪え、敢えてその侮蔑の視線と自分の視線を絡ませる。
「……貴様は疑うという事を知らないらしいな。アイツが真実を言っているという証拠はどこにある?」
確かにソーマの言うとおりだ、マーヴィンが記憶の事で戸惑う俺に嘘やデタラメを言っている可能性もある。それでも俺は彼のように人をとことん疑えるわけでもない。
「心外だね、僕が嘘を吐いているとでも?」
「信じられると思うか?」
ソーマの言葉に気を悪くした様子もなく、マーヴィンは肩を竦めて困ったような表情を見せる。それに更に追い打ちを掛けるようにしてソーマは吐き捨てるように口にした。
断固として自分を信じようとしないソーマに彼はほんの少し不服そうに顔を顰めるも、すぐに今まで通りの表情へと戻る。
「まあいいか。どうせ君に言うことは何もないんだからね。今の君にこれは必要ない」
これ、と代名詞で言われたそれが俺の欠けた記憶である事は十分に理解できる。だからこそ、余計にマーヴィンに対しての憤りが激しさを増した。
「必要ないなんて、アンタに決められる事じゃない!」
「いや、要らないのさ。だからこそ君は忘れたままなんだろう?」
忘れているのなら必要のない記憶だ、とマーヴィンは淡々と続け、おもむろに長剣を腰に差してある鞘へと戻す。明らかに戦闘中にする行為ではない。
ならば最早戦う意志がないのか。それとも、武器が無くても俺達三人程度ならばあしらえるという余裕の表れか。彼の性格からすれば後者だろうが、もし前者なのだとしたらどうなるのか。このまま彼等は撤退するのか?
「……何のつもりだ」
先程全て弾丸を撃ち終わったらしい拳銃を足下に落とし、シェイド大佐はまた別の拳銃を構えてマーヴィンに低く問い掛ける。
銃口は依然としてマーヴィンの頭部を狙っていて、いつでも引き金が引けるような状態だ。それに加えて後ろ手に全く同じ型の拳銃も取り出し、それではアレスを狙っている。
「いや別に? 特に意味はないよ。ただ君達になら『これ』を使っても大丈夫そうだ」
再度代名詞で示したマーヴィンはその場にしゃがみ込み、足下に落ちていたそれを拾い上げた。
辛うじて流れ弾で破壊されていない証明の光を反射して鈍色に輝く金属。柄も刃も存在していないそれはただの少し細身の鉄パイプで、到底武器になりそうにない。いや、確かに柄の悪い男達は使用するのだろうが、どう考えても彼のような身分の人間が使うものではない。
「……貴様、ふざけているのか?」
明らかに苛立ちを含んだソーマの声に言葉は至極尤もで、俺やシェイド大佐の心境を代弁したものだろうとすら思う。これはふざけているとしか思えない。
「ふざけてなんていないさ、元々僕は剣よりもこっちの方が扱いやすいんだ」
ソーマの声に気分を害した様子は全くなく、マーヴィンは数回ほど鉄パイプをバトンのように回したり軽く振り回したりと具合を確かめていた。彼の本来の『武器』であるらしいそれが手で踊る度、ひゅん、と澄んだ風切り音がこちらまで届いてくる。
「…………ああ、そうだった。話の続きをしようか、何となくそれも面白そうだ」
面白そう、と称されているのは俺にとって重要すぎる程に重要な事だ。しかしそれはマーヴィンの中で「何だか面白そうだから少し話をしてみようか」という程度の認識のようだった。
本当に彼は気紛れだ。どう話が転ぶか解らないから余計に話すのも難しいし応対しづらい。
「……マーヴィン様、宜しいのですか?」
「ああ。絶望に染まった顔を見るのも面白そうだからね」
途方もなく身勝手な話。薄々予想はしていたし分かってはいたが、どうやらマーヴィンは他人の苦しむ様を見るのが好きな人種らしい。サディスティックとも取れてしまいそうだ。
絶望なんてするわけがない。不安がないと言えば嘘になるだろうが、自分の記憶が戻ってくるかも知れない、自分の分からなかった正体が解るかも知れない。それに対しての期待や希望はあれど、絶望なんてあるわけがなかった。
「さて、そこの大佐に銀髪の『子』。今から僕は彼と話をする。下らない魔術や陳腐な銃弾なんかで話の邪魔をしないでくれるかな?」
意図的に人の神経を逆撫でする言葉を選んでいるようなマーヴィンに、ソーマとシェイド大佐がほぼ同時に顔を顰めたのが俺でも解る。それにソーマが子供扱いされるのを嫌っている事を知っていて言っているかのように、マーヴィンの表情は楽しげだった。
「……ソーマ、落ち着け。奴の言葉に耳を傾けるんじゃない」
「……貴様が言えた事か?」
必死で怒りを押し留めているのは分かるが、二人の声は震えてしまっている。下手をすればドス黒いオーラすら見えてきそうだ。軽いようなコメディのような比喩だが、そう表すのが的確だった。
勿論この怒りや激情すらもマーヴィンに取っては『面白いもの』なのだということは今までの言動や話、様子で分かっている。
「——そろそろ良いかな? 話しても」
俺は大丈夫だ、だが二人はどうだろうか。ちらりと視線を向けてみれば、シェイド大佐はただ小さく頷いただけで肯定を示すもソーマは何も言おうともしない。
不意にソーマが此方に視線を向けてきたと思えば、彼は普段通りの無表情に淡々とした声で言った。
「……別に構わないが、一つ言っておく。単純な貴様の事だ、また何でも信じるだろうがな。……鵜呑みにしないことだ」
まるで俺を案じるような言葉が彼の口から飛び出した事が意外で、思わず目を瞠ってしまう。ソーマはといえば既に俺から視線を外していて、さっさと話を進めろと彼が身に纏う雰囲気が語っている。
それを確認してからマーヴィンに向き直り、彼にも分かるようにしっかりと頷いた。
「よし、それじゃあ話をしよう。そう簡単に真実を教えちゃあ面白くない、少し謎掛けじみた事を言ってみようか」
自分が楽しむのを優先する前にまずさっさと本題に入れ、と言いたいのを必死で押し留め、どう話に入っていくのかを黙って見守る。自分の手がかりは彼しか知らない、ならば俺に出来ることは黙ってマーヴィンの『演説』を聞くくらいの事だった。
「君は自分のことを知らない。僕は君のことを知っている。君は自分のことを知りたい……言わば記憶を取り戻したい、っていう事だ。ただ僕が知っているのは君の『正体』だけで、記憶は君自身が持っている」
人の記憶を奪って自分の手元に置いておくことなんて不可能なんだから、とマーヴィンは普通に世間話をするような口調で話を続けていく。
当然彼の言うとおりだ、とここだけは納得できる。他人の記憶を奪い去って、それを何らかの形で手元に置いたままに出来る人間が居るのだろうか。居るとすればほんの一握りの魔術師程度だろうとも思う。
「だから僕は君の『手助け』しかできないのさ。だけど、最初から真実を提示しても無意味だろうから、君に考えて貰うとしよう」
手助け、という言葉がここまで似合わない人間が居るのか。マーヴィンは他人を無償で助けるような人間ではないだろう、それに助けを借りるような人間だとも思えない。どちらかといえば「自分の事は自分で後始末をしろ」「自分の身は自分で守れ」というような。
それでいてアレスという戦闘にも特化した機械人形を執事、自分の側近として置いておく理由がよく解らないが、アレスに対してもそれは変わらないのだろうとも思う。ただ自分の生存の為の保険、もしくは建前か、はたまた全く別の理由か。
「……そういえば君、世襲制って知ってるかい?」
そういえば、と思い出したようにマーヴィンは口を開き、少し首傾げに言ってきた。
「……親から子供へと地位が受け継がれる制度、だろ?」
俺は何故マーヴィンが突然そう切り出してきたのかが分からず、怪訝に思いながらもそれだけを返す。一応それくらいの知識ならば持っている。
「そうそう。それなんだけどね、長年ウィジロはそうだったのさ。親から子へ、子から孫へ、ってね。勿論僕もそのおかげでこの地位にいる」
持っていた鉄パイプを肩に担ぎ、マーヴィンは聴き取りやすい音程と速さで言葉を紡いでいく。やはり話慣れているからか、言葉を詰まらせるような様子は全くない。この部分だけを聞いていれば、普通の世間話にも聞こえてしまいそうだ。
彼の口許は緩やかに吊り上がっていて微笑を湛えている。その笑みの意図も何も分からない上に感情も汲み取れない、何を考えているのか分からないと表すのが的確な微笑み。
「それじゃあ、もし世襲制だっていうのに双子や兄弟が生まれたらどうする? 実際はタブーなのかもしれないけどね。そこまで僕も詳しい訳じゃあない」
問いかけの次にわざとらしく肩を竦めながらマーヴィンは自虐的とも取れる発言をする。本当に扱い方が分からない男だ。
それでも彼の質問に対しての答えを考えようと俺は頭を働かせる。もしそうなったら、と考えると何故だか知らないが物騒なものしか出てこない事、自分の頭の回転がこういうときに限って鈍いことに少し落ち込んだ。
「ここからは例えば、の話も混ざってくる。お互いで話し合って支配者と側近を決める。もしかすれば、兄弟同士で殺し合って決める場合もあるのかもしれない。何なら、一人が身代わりとして生きてもいい。色々と手段はあるんだから」
まるで何かの小説や童話、お伽噺のような『例えば』だった。しかしその内どれもが先程自分が考えた物で、やはりそのような結果になってしまうのかとも考える。そのような事が実際にあるのかどうかまでは分からない。
何も言わずに黙っている俺にマーヴィンはほんの少し笑い声を漏らし、鉄パイプを持ち肩に担いでいない左手を挙げれば人差し指を立てる。
「当然これは例えだ。他にも、それこそ全然全く違う末路だって存在する。僕はそれを実際に体験したことがある」
つい数分前の世間話のような口調とは違い、勉強の分からない子供に優しく分かりやすいように解説する教師のような声音で彼は俺を真っ直ぐに見据えて言った。
マーヴィン曰くこれは『そう簡単に真実を教えても面白くない、だから少し謎掛けじみた事』だ。その宣言通り、ずっと話は抽象的なものも混ざって続いている。
しかし残念なことに、話を聞きながらこんな短時間で伏線を引っ張り出して答えを導ける程俺の頭は上手く作られている訳でもないらしく、やはり核心は導き出せないままだ。
「何だ、ここまで話しても分からないのかい?」
ちょくちょく響きを変えるマーヴィンの声は笑いも混じっており小馬鹿にしたようなものになっていて、息を潜めていた憤りがまた溢れ出しそうになる錯覚に陥る。
それでも彼の言うことは事実で、俺は何も言い返せないまま話を聞き、服の裾を掴み強く握り締める事しかできなかった。
「……これ以上君にこのレベルの謎掛けをしても無駄みたいだ、もう少し核心に迫ってみようか」
鉄パイプを持った手と人差し指を立てていた手を合わせ、良いことを思いついたとでも言わんばかりの笑顔でマーヴィンはのたまい、鮮血に濡れたように赤い瞳を細める。
「これから僕が言う全く違う末路。もうそれが答えだ」
笑いを抑えようともせずに続けた彼の噛み殺したような笑い声は禍々しくもあり、聞いた者の背筋を凍らせるかのような響きを持っていた。それでいて凄く楽しげで、それが余計に恐怖を倍増しにしている。
マーヴィンの隣でこの笑い声を聞いているアレスは当たり前のように涼しい顔をして立っているが、シェイド大佐やソーマが心底嫌そうに顔を顰めたのが見なくても気配で分かった。
この笑い声を何とか止められないものだろうか、と考えたのかソーマが身動ぐ気配もしたがシェイド大佐に制されたのかすぐにその動きも止まり、彼は舌打ちすればマーヴィンを睨み付けているらしい。
「実に面白い末路だよ。——『最初は二人で仲良く支え合っていた、それでも途中でお互いが邪魔になってお互いを殺し合う』なんてね!」
本当に、心の底から楽しみや面白さを感じている。それが分かる高く澄んだ声でマーヴィンは叫び、何らかの感情で爛々と輝く瞳で俺を射抜く。
口許に今までで一番深く弧を描き、鋭い刃にも似た鋭い光を宿した眼で鉄パイプを携えて此方を見る様は、好青年にも見えなければ『支配者』にも見えない。面白い玩具を見付けて嬉しがっている子供のようだった。
「……さあ、全ての疑問は解けた筈だ! 答えを導き出してみなよ、『ヘメティ』!」
マーヴィンが俺の名を今までも何度もそうしていたかのような滑らかさで口にした途端、今まで正常に脈を刻んでいた筈の心臓が大きく跳ね上がる。それに呼応するようにして呼吸すらも出来なくなるような、そんな感覚も覚えた。
彼は何故自分を知っていたのか。彼は何故こんな事を言い出したのか。彼は何故俺の名をこんなにも滑らかに言えるのか。
マーヴィンは何を言いたかったのか。
俺の頭の中に浮かぶ一つの答え、それを口に出そうとしても身体が拒否しているように口が動いてくれない。
何度か口を開いたり意味もなく息を吐き出したり、を繰り返した後に辛うじて絞り出せた声は自分でも嫌になるくらいに弱々しく掠れ、震えていた。
「まさ、か」
呟きよりも小さなその声が彼に届いたかどうかは分からない。それを理解する程の冷静さすら、俺はこの時点でほぼ失っていたに等しかった。
マーヴィンは禍々しい笑い声を止め、人懐っこいとも取れるにっこりとした笑みを浮かべ、こちらにゆっくりと手を差し伸べてきた。
「君と会うのは二年ぶりだ。……久しぶりだね、ヘメティ。お兄さんだよ」

望んだ希望は望まなかった絶望。




[樹海] ┗(^o^ )┓三

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