I permanently serve you. NeroAngelo
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作業用BGM:雨降る街にて風船は悪魔と踊る、黒い羽根の天使、神騙りの愚者への断罪と懲罰
RELAYS - リレイズ - 66 【絶望と希望まで後一歩】
普段は研究員や魔術師、戦闘要員達の足音と話し声で溢れ返っている廊下は、本来の喧噪が嘘のように静寂に包まれていた。
反響する足音がやけに大きく聞こえ、長剣の切っ先を地に向けたまま軽やかに走るラスターは一度舌打ちした。
ただでさえ緊張感に張り詰めた自分達には堪えるというのに、更には背後から全く違う人間——と言っていいのかは分からないが、一人の男が近付いてきていることを知らせる足音が聞こえてきていた。
本来ならば軽いような、それでいて革靴の底が床を叩く音が響く筈が、何故かその音は重苦しい。
まるで金属だ、と負傷したホリックを抱えできる限り彼に負担がかからないように走るサイラスは思う。
その考えはあながち間違いではない、ということも合わせて悟り、サイラスは肩越しに後ろを振り返った。
黒に近い焦げ茶の髪を揺らしながら気怠そうに走ってくる燕尾服を纏った男。ハウンドの鋭い瞳は彼等を捉えて離そうとしなかった。
ハウンド——猟犬、という名の通りだ。その瞳は獲物を狩る獣の光を宿していた。
「……二人でもアイツ等に応戦できるってか……? ふざけるなよ、オイ」
絶対的支配者であるマーヴィンとその執事であるアレスの元に残してきた三人は、自分達のなあkで喪戦闘能力の高い者達だ。ヘメティ自身が戦おうとせずとも、彼の持つ力が高いことは分かる。
あの三人にかかられれば流石のマーヴィンでも無傷ではいられないだろう、とは思うのだが、これも楽観的すぎるか。
そんな考えすら頭を過ぎり、サイラスは緩く頭を振ってその考えを打ち消した。
「……大丈夫だ、兄サン達なら。オレ達にできるのはコイツを守ることとあの機械人形を倒すことだ」
徐々に、しかし確実に距離を縮めてくるハウンドにラスターは頬に汗を伝わせながら彼に耳打ちする。
ホリックの出血は多少は収まっているようだったが依然として止まって折らず、床に点線のような模様を描いていた。
ラスターの言うとおりだ、とサイラスが思い直したとき、すぐ後ろから誰かが転んだような鈍い音が耳に届く。
この状態から考えてイーナかファンデヴのどちらかが転んでしまったのだろうかとラスターとサイラスが弾かれるように振り返るも、二人は変わった様子もなく走っている。
「な、何!? どうしたの!?」
「い、いや……何でもない。じゃあさっきの音は何だって……」
息継ぎの間に問うてくるイーナはどうやら走るのに必死で先程の音にも気付かなかったらしい。そんな彼女にラスターはしどろもどろになりながらも答え、音の正体について考察を巡らせる。
それとほぼ同時に、その正体とも呼べる『もの』が目に飛び込んできた。
その場に突っ伏して呻いているのは自分達でも当然ホリックでもなく、あのつい数秒前まで自分達を捕らえ殺そうとしていたハウンドで、一同は思わず足を止めてしまう。
当の本人は自分に何が起こったのかすら理解できていないようで、信じられないとでも言いたげな表情で居る。
「……一体どうしたってんだ?」
サイラスが疑問に思うのも当然で、彼の言葉はこの場に居合わせたハウンド以外の全員の心境を代弁した物でもあった。
「ッ、知るか! お前等がやったんだろうが、あ゛ぁッ!?」
ドスの利いた声で喚くハウンドは、どうやら起き上がろうとしても身体が言うことを聞かないようで、声を絞り出すのがやっとのようだった。以前行った廃館で出会した死神に施した呪縛魔術、それが皆の頭に思い起こされていた。
そんな彼の不調はラスター達にとってみれば好都合で、彼等は互いに顔を見合わせ視線で意志を伝える。
当然ハウンドをその場に放置して背を向け走り出そうと足を踏み出した瞬間、今度は何やら電流が走るような音が響いた。
「今度は何だって——」
言うんだ、とサイラスが言葉にするよりも先に、ハウンドの身体を稲妻のような青白い光が包み込む。それだけでなく、彼の身体の下には同じ色の魔法陣まで浮かび上がっていた。
苦悶し声を上げるハウンドを襲ったそれは明らかに誰かが恋にやった物で、その『誰か』が特定できないラスター達はハウンドと同等、もしくはそれ以上に困惑していた。
「がっ……あ゛……オイ、何のつもりだ!」
「こっちが訊きたい。……これは何?」
ハウンドとは違い落ち着いた声のファンデヴはサーベルを両手に抱えたままでハウンドを見る。
この場に攻撃魔法を使える人間は居ない。ソーマがいれば違ったかも知れないが、彼は雷属性の魔法を使うような人間ではない。冷酷な性格を表すような、氷だ。
ならば誰か。誰がやったのか。
それを知りたくとも、今はそれを考えている時間はない。
今ここでハウンドの機能をある程度壊してしまうか、それともさっさと逃げてしまうか。それを考えつつ、彼等は各々の持つ武器を構えた。
広々とした機関本部のロビーとも言える空間に、甲高く耳障りな金属音と銃声が反響する。
「——ほらほら、どうしたんだい? 反撃して御覧よ、面白く無いじゃないか!」
マーヴィンの高らかなに透き通った声が金属音と共に耳に飛び込んでくる。それに言葉を返せる余裕があるのかと問われれば、当然Noだ。
彼は細身の長剣を軽々と扱い、正に目に見えない程の速さで切り掛かってくる。それを弾き返すのがやっとで、とても反撃どころではない。
軽く後方に跳んで間合いを取り、左手に持った拳銃の銃口をマーヴィンに向けて発砲する。入っているのは対機械人形用の銃弾だが、制作者であるアイドの話では当然普通の弾丸としても使える筈だ。
「遅い!」
吠え、臆することもなく長剣で銃弾を弾き落としたマーヴィンはそのまま此方に瞬時に接近してくれば、赤いロングコートを翻しながら突きを繰り出してきた。
それを前髪が数本散る程度、それこそ間一髪の所で避けたものの、即座に容赦のない蹴りを喰らわせられ、俺は大した受け身を取ることも出来ずに吹き飛ばされてしまう。
「っ、ヘメティ!」
銃声の合間にシェイド大佐の声が微かに聞こえてくるが、それもすぐに金属音ややけに重厚な音に掻き消されていった。
すぐに立ち上がれば、マーヴィンからの神速と言っても良い程の剣劇で切ってしまったらしい頬の傷から伝う地を手の甲で拭う。避けた筈なのだが完全には避けれていないらしく、腕にも所々血を滲ませる傷があった。
だがそれを気にする暇は勿論ない。
闇霧を構えたままでシェイド大佐とソーマが応戦している場へと急げば、シェイド大佐は両手に拳銃を携えた二丁拳銃のスタイルでアレスと抗戦していた。ソーマは今まで通り、彼自身の癖とも言える戦い方——魔法での牽制から鎌での接近戦という戦法でアレスとマーヴィン二人ともに殺意に満ちた一撃を繰り出していた。
シェイド大佐の撃つ銃弾など恐るるに足らない、とでも言いたげな程にアレスはそれを防ぐこともなく彼に飛び掛かり掌打を喰らわせており、彼の燕尾服は様々なところが切れ、ぼろぼろになってしまっている。
しかし当然のこと、血は出ていない。
「……巻き込まれたくなければさっさと退けろ」
この状況でも良く通るソーマの声が聞こえ、視線を向けてみれば彼は今までに見たこともない大量の氷柱を生成していた。ソーマの周りだけ空気が真冬のように冷たく、吐く息も白くなっている。
本来ならば魔法での攻撃や鎌を振り回す際に周囲の人間にこんな事を告げる事もないソーマがこうして俺に言ってくるということは、恐らくかなりの範囲を攻撃する魔法なのだろう。
言われたとおりに彼からある程度の距離を取り、闇霧を構えたままで動向を見守る。
「——死に晒せ」
淡々とした声音で吐き捨てると同時に、何十何百という氷柱がマーヴィンとアレスに向けて射出された。
氷柱が標的に向かっていく様は見慣れたものだが、これほどまでに大量のそれが標的を射殺さんばかりに向かっていくというのは見たことがない。
アレスは流石にこれは防がざるを得なかったのか、小さく呻き声を漏らせば腕で視界を覆い、襲いかかる氷柱を防ぎ始める。
やはり魔力で造られた物とはいえ氷だ。金属よりも硬度はなく、アレスに当たる度に砕け、青白い光のようなものとなって霧散していった。
そんな彼に視線を向けることも、言葉を掛けることもなく、マーヴィンはその場から一歩も動くことなく長剣で氷柱を弾き、真っ二つに切り分けては霧へと還していく。
アレスが防御に入るのは予想していたらしく表情を変えなかったソーマだったが、流石にマーヴィンが自分の攻撃を全て防ぎきったのは意外だったらしく僅かに目を見開いた。
俺だって予想していなかった。幾らマーヴィンが非情に剣術に長けているからといって、まさか全てを防ぐなんて考えつくわけがない。
最後の一本である氷柱を砕き、彼は血払いでもするかのように剣を一降りする。
「遅いって言ってるじゃないか……もっと本気でかかってきたらどうなんだい?」
呆れた、とでも言いたげに肩を竦めて挑発してくるも、その挑発に乗る人間は誰一人としていない。
ソーマはそもそも安っぽい挑発に乗る人間ではないし、シェイド大佐はアレス以外狙っていない。彼の場合これも問題だろうが、何の柵もなくマーヴィンに飛び掛かるよりずっといい筈だ。
そして俺も彼等と同じだ。確かにマーヴィンの物言いはいちいち癪に障る。それでも、自分の命を省みずかかっていく真似はしない。
ただ妙なのは、その癪に障るという感覚だろうか。上から目線で如何にも支配者、といった他人を見下す物言いに苛立つだけではなく、もっと他のものを感じる。どう言い表せばいいのか分からない感情が渦巻いている感覚だった。
「……マーヴィン様、御怪我はありませんか?」
「大丈夫さ。そういう君こそ、そんなに銃弾や氷柱を受けて立っていられるのかい?」
自分を心配してくれる従者に対してまでもの上から目線、もしかすれば支配者や絶対的権力者という人間は皆こうなのかもしれないが、見ていて気分の良い物ではない。
アレスは気にしていない、というよりも気にならない、といった風だろうか。主さえ無事ならばそれでいい、という考えがその立ち姿から滲み出ているようだった。
彼の燕尾服は既に殆ど燕尾服としての原形を留めていない。下に着ていたシャツやベストは辛うじて分かるが、上着はどう繕っても再び着用する事は叶わないだろう。
「貴方さえ無事であれば、私は——」
その後に続く筈だった言葉を遮り、アレスの胸の中心辺りに銃弾が被弾する。
「……無駄話をする程余裕があるのか。……腹立たしい」
必死に抑えてはいるものの、シェイド大佐の声は僅かに震えている。彼の背後に立つ俺でも解るくらいに、強く握られた手も声と同じく震えていた。
彼は今にも溢れ出しそうな憎悪に激情を必死に理性で押し留めている。
「それは君の価値観だよ、大佐。君達に余裕がないだけの話だ。違うかい?」
冷静に、変わらない声音でマーヴィンの口からそう発せられた途端、シェイド大佐の抑えていた『何か』が溢れ出してしまったらしい。
彼は何の言葉も吐かず、表情を変えることもなく、ただ瞳に憎悪と侮蔑、様々な感情を込めてマーヴィンとアレスを睨み付けて銃の引き金を立て続けに引いた。
勿論それをマーヴィンが易々と受けるわけもない。アレスが易々と自分の主を襲わせる訳がない。
既に自分も傷ついているというのに、彼はマーヴィンの盾として前へ出ればシェイド大佐の放った銃弾をその身に受ける。
マーヴィンはそれも分かっていた行動らしく、驚くことも何もせずに腰に手を回せば投擲用と思われるナイフを取り出せばそれを躊躇うことなくシェイド大佐へ向けて飛ばした。
本来ならばこの程度の攻撃は避けられただろうと思う。しかし今の彼は防御の態勢も取っていないどころか、まずそのナイフの存在にすら気付いていない。
「シェイド大佐ッ!」
俺が叫んだところで漸く我に返ったようだったが、もう遅かった。
シェイド大佐の右肩にナイフが深々と突き刺さり、彼はその痛みに手から拳銃を滑り落とす。
すぐにそれを左手で引き抜き適当に投げ捨て、じわじわと鮮血で黒い軍服を汚す傷を白い手袋の嵌められた手で押さえた。
「……君達はやる気があるの? 生きるか死ぬか、その瀬戸際で、相手を殺す気はあるの? 全然感じられないね」
まるで俺達を意気地無しとでも言っているような言葉だった。マーヴィンの瞳には俺達三人に対しての明らかな侮蔑が浮かんでいたし、そう考えていいだろう。
ただ、どうしても彼に対して反論したくて仕方がなかった。
「……相手を殺す事が最善とは思わない」
気付けば俺はそう口走っていて、リグスペイアで初めて邂逅したときに激しい頭痛を感じた元凶であるだろうマーヴィンを見据えていた。
彼は暫くの間呆然と、それこそ『きょとん』という擬音が似合うような表情を浮かべていたが、すぐにその血に濡れたような赤い瞳を細め、口許を実に楽しそうに吊り上げる。
それから噛み殺したような笑いが辺りを包み、十秒と経たずにその笑いが辺りに響く程の高笑いへと変化した。
本当に面白そうな笑い声はこの状況に酷く不釣り合いで、思わず俺は顔を顰めてしまう。
恐らく本人にとっては不快だっただろうが、それにすら反応する事なくマーヴィンは俺に視線を向けてくる。
「……本当に君は変わってないね、その偽善的思考。昔と同じだ」
まるでずっと昔から俺を知っているかのような口ぶりで言い、彼は嘲笑のような自嘲のような曖昧な笑みを浮かべた。
ずっとコイツ等のターン。
最近更新頻度が落ちてるなー(´・ω・`)
RELAYS - リレイズ - 66 【絶望と希望まで後一歩】
普段は研究員や魔術師、戦闘要員達の足音と話し声で溢れ返っている廊下は、本来の喧噪が嘘のように静寂に包まれていた。
反響する足音がやけに大きく聞こえ、長剣の切っ先を地に向けたまま軽やかに走るラスターは一度舌打ちした。
ただでさえ緊張感に張り詰めた自分達には堪えるというのに、更には背後から全く違う人間——と言っていいのかは分からないが、一人の男が近付いてきていることを知らせる足音が聞こえてきていた。
本来ならば軽いような、それでいて革靴の底が床を叩く音が響く筈が、何故かその音は重苦しい。
まるで金属だ、と負傷したホリックを抱えできる限り彼に負担がかからないように走るサイラスは思う。
その考えはあながち間違いではない、ということも合わせて悟り、サイラスは肩越しに後ろを振り返った。
黒に近い焦げ茶の髪を揺らしながら気怠そうに走ってくる燕尾服を纏った男。ハウンドの鋭い瞳は彼等を捉えて離そうとしなかった。
ハウンド——猟犬、という名の通りだ。その瞳は獲物を狩る獣の光を宿していた。
「……二人でもアイツ等に応戦できるってか……? ふざけるなよ、オイ」
絶対的支配者であるマーヴィンとその執事であるアレスの元に残してきた三人は、自分達のなあkで喪戦闘能力の高い者達だ。ヘメティ自身が戦おうとせずとも、彼の持つ力が高いことは分かる。
あの三人にかかられれば流石のマーヴィンでも無傷ではいられないだろう、とは思うのだが、これも楽観的すぎるか。
そんな考えすら頭を過ぎり、サイラスは緩く頭を振ってその考えを打ち消した。
「……大丈夫だ、兄サン達なら。オレ達にできるのはコイツを守ることとあの機械人形を倒すことだ」
徐々に、しかし確実に距離を縮めてくるハウンドにラスターは頬に汗を伝わせながら彼に耳打ちする。
ホリックの出血は多少は収まっているようだったが依然として止まって折らず、床に点線のような模様を描いていた。
ラスターの言うとおりだ、とサイラスが思い直したとき、すぐ後ろから誰かが転んだような鈍い音が耳に届く。
この状態から考えてイーナかファンデヴのどちらかが転んでしまったのだろうかとラスターとサイラスが弾かれるように振り返るも、二人は変わった様子もなく走っている。
「な、何!? どうしたの!?」
「い、いや……何でもない。じゃあさっきの音は何だって……」
息継ぎの間に問うてくるイーナはどうやら走るのに必死で先程の音にも気付かなかったらしい。そんな彼女にラスターはしどろもどろになりながらも答え、音の正体について考察を巡らせる。
それとほぼ同時に、その正体とも呼べる『もの』が目に飛び込んできた。
その場に突っ伏して呻いているのは自分達でも当然ホリックでもなく、あのつい数秒前まで自分達を捕らえ殺そうとしていたハウンドで、一同は思わず足を止めてしまう。
当の本人は自分に何が起こったのかすら理解できていないようで、信じられないとでも言いたげな表情で居る。
「……一体どうしたってんだ?」
サイラスが疑問に思うのも当然で、彼の言葉はこの場に居合わせたハウンド以外の全員の心境を代弁した物でもあった。
「ッ、知るか! お前等がやったんだろうが、あ゛ぁッ!?」
ドスの利いた声で喚くハウンドは、どうやら起き上がろうとしても身体が言うことを聞かないようで、声を絞り出すのがやっとのようだった。以前行った廃館で出会した死神に施した呪縛魔術、それが皆の頭に思い起こされていた。
そんな彼の不調はラスター達にとってみれば好都合で、彼等は互いに顔を見合わせ視線で意志を伝える。
当然ハウンドをその場に放置して背を向け走り出そうと足を踏み出した瞬間、今度は何やら電流が走るような音が響いた。
「今度は何だって——」
言うんだ、とサイラスが言葉にするよりも先に、ハウンドの身体を稲妻のような青白い光が包み込む。それだけでなく、彼の身体の下には同じ色の魔法陣まで浮かび上がっていた。
苦悶し声を上げるハウンドを襲ったそれは明らかに誰かが恋にやった物で、その『誰か』が特定できないラスター達はハウンドと同等、もしくはそれ以上に困惑していた。
「がっ……あ゛……オイ、何のつもりだ!」
「こっちが訊きたい。……これは何?」
ハウンドとは違い落ち着いた声のファンデヴはサーベルを両手に抱えたままでハウンドを見る。
この場に攻撃魔法を使える人間は居ない。ソーマがいれば違ったかも知れないが、彼は雷属性の魔法を使うような人間ではない。冷酷な性格を表すような、氷だ。
ならば誰か。誰がやったのか。
それを知りたくとも、今はそれを考えている時間はない。
今ここでハウンドの機能をある程度壊してしまうか、それともさっさと逃げてしまうか。それを考えつつ、彼等は各々の持つ武器を構えた。
広々とした機関本部のロビーとも言える空間に、甲高く耳障りな金属音と銃声が反響する。
「——ほらほら、どうしたんだい? 反撃して御覧よ、面白く無いじゃないか!」
マーヴィンの高らかなに透き通った声が金属音と共に耳に飛び込んでくる。それに言葉を返せる余裕があるのかと問われれば、当然Noだ。
彼は細身の長剣を軽々と扱い、正に目に見えない程の速さで切り掛かってくる。それを弾き返すのがやっとで、とても反撃どころではない。
軽く後方に跳んで間合いを取り、左手に持った拳銃の銃口をマーヴィンに向けて発砲する。入っているのは対機械人形用の銃弾だが、制作者であるアイドの話では当然普通の弾丸としても使える筈だ。
「遅い!」
吠え、臆することもなく長剣で銃弾を弾き落としたマーヴィンはそのまま此方に瞬時に接近してくれば、赤いロングコートを翻しながら突きを繰り出してきた。
それを前髪が数本散る程度、それこそ間一髪の所で避けたものの、即座に容赦のない蹴りを喰らわせられ、俺は大した受け身を取ることも出来ずに吹き飛ばされてしまう。
「っ、ヘメティ!」
銃声の合間にシェイド大佐の声が微かに聞こえてくるが、それもすぐに金属音ややけに重厚な音に掻き消されていった。
すぐに立ち上がれば、マーヴィンからの神速と言っても良い程の剣劇で切ってしまったらしい頬の傷から伝う地を手の甲で拭う。避けた筈なのだが完全には避けれていないらしく、腕にも所々血を滲ませる傷があった。
だがそれを気にする暇は勿論ない。
闇霧を構えたままでシェイド大佐とソーマが応戦している場へと急げば、シェイド大佐は両手に拳銃を携えた二丁拳銃のスタイルでアレスと抗戦していた。ソーマは今まで通り、彼自身の癖とも言える戦い方——魔法での牽制から鎌での接近戦という戦法でアレスとマーヴィン二人ともに殺意に満ちた一撃を繰り出していた。
シェイド大佐の撃つ銃弾など恐るるに足らない、とでも言いたげな程にアレスはそれを防ぐこともなく彼に飛び掛かり掌打を喰らわせており、彼の燕尾服は様々なところが切れ、ぼろぼろになってしまっている。
しかし当然のこと、血は出ていない。
「……巻き込まれたくなければさっさと退けろ」
この状況でも良く通るソーマの声が聞こえ、視線を向けてみれば彼は今までに見たこともない大量の氷柱を生成していた。ソーマの周りだけ空気が真冬のように冷たく、吐く息も白くなっている。
本来ならば魔法での攻撃や鎌を振り回す際に周囲の人間にこんな事を告げる事もないソーマがこうして俺に言ってくるということは、恐らくかなりの範囲を攻撃する魔法なのだろう。
言われたとおりに彼からある程度の距離を取り、闇霧を構えたままで動向を見守る。
「——死に晒せ」
淡々とした声音で吐き捨てると同時に、何十何百という氷柱がマーヴィンとアレスに向けて射出された。
氷柱が標的に向かっていく様は見慣れたものだが、これほどまでに大量のそれが標的を射殺さんばかりに向かっていくというのは見たことがない。
アレスは流石にこれは防がざるを得なかったのか、小さく呻き声を漏らせば腕で視界を覆い、襲いかかる氷柱を防ぎ始める。
やはり魔力で造られた物とはいえ氷だ。金属よりも硬度はなく、アレスに当たる度に砕け、青白い光のようなものとなって霧散していった。
そんな彼に視線を向けることも、言葉を掛けることもなく、マーヴィンはその場から一歩も動くことなく長剣で氷柱を弾き、真っ二つに切り分けては霧へと還していく。
アレスが防御に入るのは予想していたらしく表情を変えなかったソーマだったが、流石にマーヴィンが自分の攻撃を全て防ぎきったのは意外だったらしく僅かに目を見開いた。
俺だって予想していなかった。幾らマーヴィンが非情に剣術に長けているからといって、まさか全てを防ぐなんて考えつくわけがない。
最後の一本である氷柱を砕き、彼は血払いでもするかのように剣を一降りする。
「遅いって言ってるじゃないか……もっと本気でかかってきたらどうなんだい?」
呆れた、とでも言いたげに肩を竦めて挑発してくるも、その挑発に乗る人間は誰一人としていない。
ソーマはそもそも安っぽい挑発に乗る人間ではないし、シェイド大佐はアレス以外狙っていない。彼の場合これも問題だろうが、何の柵もなくマーヴィンに飛び掛かるよりずっといい筈だ。
そして俺も彼等と同じだ。確かにマーヴィンの物言いはいちいち癪に障る。それでも、自分の命を省みずかかっていく真似はしない。
ただ妙なのは、その癪に障るという感覚だろうか。上から目線で如何にも支配者、といった他人を見下す物言いに苛立つだけではなく、もっと他のものを感じる。どう言い表せばいいのか分からない感情が渦巻いている感覚だった。
「……マーヴィン様、御怪我はありませんか?」
「大丈夫さ。そういう君こそ、そんなに銃弾や氷柱を受けて立っていられるのかい?」
自分を心配してくれる従者に対してまでもの上から目線、もしかすれば支配者や絶対的権力者という人間は皆こうなのかもしれないが、見ていて気分の良い物ではない。
アレスは気にしていない、というよりも気にならない、といった風だろうか。主さえ無事ならばそれでいい、という考えがその立ち姿から滲み出ているようだった。
彼の燕尾服は既に殆ど燕尾服としての原形を留めていない。下に着ていたシャツやベストは辛うじて分かるが、上着はどう繕っても再び着用する事は叶わないだろう。
「貴方さえ無事であれば、私は——」
その後に続く筈だった言葉を遮り、アレスの胸の中心辺りに銃弾が被弾する。
「……無駄話をする程余裕があるのか。……腹立たしい」
必死に抑えてはいるものの、シェイド大佐の声は僅かに震えている。彼の背後に立つ俺でも解るくらいに、強く握られた手も声と同じく震えていた。
彼は今にも溢れ出しそうな憎悪に激情を必死に理性で押し留めている。
「それは君の価値観だよ、大佐。君達に余裕がないだけの話だ。違うかい?」
冷静に、変わらない声音でマーヴィンの口からそう発せられた途端、シェイド大佐の抑えていた『何か』が溢れ出してしまったらしい。
彼は何の言葉も吐かず、表情を変えることもなく、ただ瞳に憎悪と侮蔑、様々な感情を込めてマーヴィンとアレスを睨み付けて銃の引き金を立て続けに引いた。
勿論それをマーヴィンが易々と受けるわけもない。アレスが易々と自分の主を襲わせる訳がない。
既に自分も傷ついているというのに、彼はマーヴィンの盾として前へ出ればシェイド大佐の放った銃弾をその身に受ける。
マーヴィンはそれも分かっていた行動らしく、驚くことも何もせずに腰に手を回せば投擲用と思われるナイフを取り出せばそれを躊躇うことなくシェイド大佐へ向けて飛ばした。
本来ならばこの程度の攻撃は避けられただろうと思う。しかし今の彼は防御の態勢も取っていないどころか、まずそのナイフの存在にすら気付いていない。
「シェイド大佐ッ!」
俺が叫んだところで漸く我に返ったようだったが、もう遅かった。
シェイド大佐の右肩にナイフが深々と突き刺さり、彼はその痛みに手から拳銃を滑り落とす。
すぐにそれを左手で引き抜き適当に投げ捨て、じわじわと鮮血で黒い軍服を汚す傷を白い手袋の嵌められた手で押さえた。
「……君達はやる気があるの? 生きるか死ぬか、その瀬戸際で、相手を殺す気はあるの? 全然感じられないね」
まるで俺達を意気地無しとでも言っているような言葉だった。マーヴィンの瞳には俺達三人に対しての明らかな侮蔑が浮かんでいたし、そう考えていいだろう。
ただ、どうしても彼に対して反論したくて仕方がなかった。
「……相手を殺す事が最善とは思わない」
気付けば俺はそう口走っていて、リグスペイアで初めて邂逅したときに激しい頭痛を感じた元凶であるだろうマーヴィンを見据えていた。
彼は暫くの間呆然と、それこそ『きょとん』という擬音が似合うような表情を浮かべていたが、すぐにその血に濡れたような赤い瞳を細め、口許を実に楽しそうに吊り上げる。
それから噛み殺したような笑いが辺りを包み、十秒と経たずにその笑いが辺りに響く程の高笑いへと変化した。
本当に面白そうな笑い声はこの状況に酷く不釣り合いで、思わず俺は顔を顰めてしまう。
恐らく本人にとっては不快だっただろうが、それにすら反応する事なくマーヴィンは俺に視線を向けてくる。
「……本当に君は変わってないね、その偽善的思考。昔と同じだ」
まるでずっと昔から俺を知っているかのような口ぶりで言い、彼は嘲笑のような自嘲のような曖昧な笑みを浮かべた。
ずっとコイツ等のターン。
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赤闇銀羽
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妄想!
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