I permanently serve you. NeroAngelo
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今回で暴露される予定だったヘメティの正体が先送りだよ\(^o^)/
作業用BGM:「Living Universe(五月上旬)」「え?あぁ、そう。(五月中旬)」「裏表ラバース(百分耐久(五月下旬)」「Living Universe(今)」
原点回帰しとる\(^o^)/
「——あーあ、ったく、皆血の気が多いな」
全研究員を避難させ終わり、アイドは誰も居ないがらんとした研究室の机の上に座っていた。その手にはこんな状況だというのにコーヒーカップが握られており、明らかに現状から浮いていた。
彼は大きく欠伸をすると、カップの中に入っている珈琲を全て飲み干す。空になったカップを机に置けば、アイドは白衣を揺らして床へと降りる。そのまま伸びをすれば、水色の髪を掻き上げるようにして頭を掻く。
「……敵は数人……ねぇ。それを人間のそれで考えるなら話は別だけど、人外が入ってたらどうなるんだか」
意味深な言葉を吐き、アイドは白衣のポケットから取り出した小さいにも程がある、と言いたくなる程に超小型の無線機を取り出すとスイッチを押した。
「……——大丈夫か? まあ大丈夫か。お前だしな。……で、誰と誰が居る? できれば種族も。——機械人形が二体に生身の人間が一人。成る程、よしオッケー。切るぞ」
相手が聞き取れる程度のさじ加減を見定めながら、できる限り早口で言うと彼は無線機のスイッチを切った。
そのまま無線機を再び白衣のポケットにしまい、アイドは大きく欠伸をすると机の上から降りる。
目に浮かんだ生理的な涙をごしごしと指の背で乱暴に拭い、寝起きのように大きく伸びをした。
全く緊張感のないその姿は、何度も言うように現状から浮いている。こんな時でも緊張感を持たないというのがアイド=サーベラスという一人の人間であり研究班班長であるのだが。
「……さーて、俺もそろそろ行くか。アイツ等だけ身体張らせる訳にもいかないし、いいとこ持っていかれるのも嫌だしな」
苦笑のような笑みを浮かべ、アイドはまるで凝りを解すかのように首に手を当てれば軽く回す。
非戦闘要員とはいえ、ずっと裏方でちくちくと地道な作業をしていくのは嫌だった。勿論自分は望んでこの地位に居るのだが、
だからといって、戦闘の出来る人間——例えばヘメティやソーマばかり目立たせるのも、それは自分のちっぽけなプライドが許さない。全く、自分はなんて面倒臭い奴なんだろうか。
そんな事をまるで他人事のように考えながら、アイドは研究室を出る為に少し開いたままちゃんと閉まっていない出入り口のドアへと向かう。
「——まっ、ちょっと現役離れてたしどうなるかどうか解らないんだけどな」
意味深な言葉を研究室に吐き出してから、彼は最早失われてしまった深林のような緑の瞳を細めれば後ろ手にドアを閉め、とある場所へ向かう為に軽々とした足取りで歩き出した。
RELAYS - リレイズ - 65 【開幕】
何度もこの耳で聞いた呪文をソーマが詠唱した瞬間、空中に何本もの氷柱が出現する。詠唱呪文と同じで、最早見慣れた光景だった。
彼が落下する速度よりも速く、それがマーヴィン達に向けて射出される。
彼等はソーマが自分達の頭上から奇襲を仕掛けてくるとは予想もしていなかったのか、明らかに狼狽や驚愕といった表情を浮かべたまま固まっていた。
そんな中、真っ先に動いたのはマーヴィンでもハウンドでもなく、正に主に忠誠を誓うアレスだった。
彼はマーヴィンを数歩ほど後ろに後退させればその前に立ち、ソーマの放った氷柱を堂々とその身体で受け止める。その様は、本当に主を守ろうと自分の身を盾にする従者そのものだった。
ソーマはといえばそんなアレスの行動も予測できていたらしく、今までマーヴィンだった標的を瞬時にアレスに変えればナトゥスを振り翳した。
それを視認したと同時にマーヴィンは後ろに軽く跳んで下がり、その気配を察知したアレスは彼の傍に近付くようにして少しずれた位置へと同じように回避する。ハウンドはといえば、さっさとホリックさんやマーヴィン達から離れて平然と欠伸をしている。
ハウンドの事は置いておいて、アレスとマーヴィンの息はぴったりと合っていた。当然のことだが、そのシンクロの高さに驚きを隠す事も出来ない。
攻撃を外した事に苛立ちを隠せないらしく、ソーマは舌打ちすれば床に突き刺さる鎌の刃を引き抜く。
それから何をするのかと思えば、彼は不意にその場にしゃがみ込めば腹部の傷から血を流すホリックさんの襟首を掴むと無理矢理に上体を起き上がらせた。その手つきは、毎度の如く怪我人を扱う手つきではない。
「……まだ息はある、さっさと連れて行け」
ソーマの放った氷柱の欠片は白衣に散っていたものの、やはりというか何というか、攻撃は一つも当たっていないらしい。偶然といえば偶然かもしれないが、これはソーマの腕の問題だろうと俺は考えている。
自分の狙う獲物以外は傷つけない。彼はそんな人間なのではないかと思いもするが、それを言ったところで本人が認めるとも思えない。
彼の言葉通りまだ息をしているようで、ホリックさんの胸板が僅かながらに上下しているのがこちらからでも確認できた。
だからといって、俺達に彼を突き出されても。……何と言えばいいのだろうか、言い方が悪いかも知れないが困る。俺一人で大の大人を抱えて安全なところに運ぶわけにもいかないし、シェイド大佐と二人で行けば今度はソーマ一人をこの場に置いていくことになる。
まさかソーマが死ぬ——もとい負けたり苦戦するということはないだろうが、彼をこの場に一人置いて行くのも嫌だった。仲間を置いていきたくない。
それを口にすれば、また『甘い』と言われてしまうのだろうか。
どうすればいいのか、再びその疑問のみで思考も胸の内も埋まりそうになった瞬間背後から数人の足音が聞こえてきた。
弾かれるようにそちらを振り向き、振り向きざまに今まで構える事もせずにただ持っていただけの闇霧の切っ先を向ける。
だがその足音の正体がイーナやラスターさん、サイラスにファンデヴという見知った仲間達の物だと気付き、疑問や焦燥感で満たされていた胸に安堵が広がっていくのが解った。
細身の長剣を持ったまま、ラスターさんは俺達に駆け寄ってくる速さを速める。ソーマに襟首を掴まれているホリックさんが目に入ったのか今度はゆっくりと速度を落とし、最終的には俺達から2メートルと離れていない所で立ち止まった。
「……やっぱり、か。まあ予想はしてたんだけどな」
意味深なその言葉が、『ホリックさんが負傷している』ということに対してのものなのか『マーヴィン達の襲撃だった』ということに対してなのかは解らない。恐らく、どちらの意味も持ち合わせているのだと思う。
後から追いついてきた三人も、同じように皆一様に自分の武器を携えていた。
それを見たソーマは背後にいるマーヴィンやアレスなど気にも留めていないかのように此方に身体を向け、無理に上体を起こさせているホリックさんの身体をほんの少し引き摺ればラスターさんと向かい合う形になる。
「此処はいい、貴様等が連れて行け」
淡々とした声音で言い、彼はゆっくりとホリックさんの襟首から手を離す。勿論重力に従って床に横たわる形になるが、それをすんでの所でラスターさんが受け止めた。
それを見届けてから、シェイド大佐も一度頷けば彼に視線を向ける。
「……ラスター、行け。ここはオレ達でやる」
「何言って……三人だけで太刀打ちできるような相手かよ!?」
信じられない、とでも言いたげな声音と表情でラスターさんは言い、俺達の目の前に居る明らかに実力差があるであろう三人を見る。
一人は世界の支配者といっても過言ではないほどの地位にいる人間、そして後の二人は彼に忠誠を誓う——ハウンドはどうか分からないが、少なくともアレスはそうだ。そして人間ではない機械人形。
俺とソーマにシェイド大佐だけでは分が悪い、というのは俺自身理解しているし、もしかすればこの場にいる全員が理解しているのかも知れない。
だからといってホリックさんを見殺しにする事なんてできるわけもないし、逃げる訳にもいかない。
そうなれば、マーヴィン達と戦う組とホリックさんを医療班の所まで運ぶ組、その援護と分かれてしまうのは避けられないことだ。
それを分かっているのか、ラスターさんも一度はそう言ったもののすぐに口を噤み、自分の身につけている水色のエプロンの裾を強く握り締める。
「……サイラス、ファンデヴ、イーナ。それにラスター。……良いな?」
シェイド大佐は銃口をマーヴィン達に向けたままで肩越しに振り返り、ラスターさんの後ろに着いてきていた三人に声をかける。彼等は一瞬躊躇したようだがすぐに頷き、サイラスがホリックさんの身体を抱えた。
血の所為で所々赤くなってしまっている灰色の長髪がさらりと流れ、白を基調として造られた床に落ちる。
それも気にせずにサイラスは軽々と立ち上がり、俺達を肩越しに振り返った。そのまま何か言おうと口を開くも、彼が言葉を発するよりも先にラスターさんがサイラスを手で制す。
「……アンタが負けるとも思ってねぇし、ヘメティとかソーマが死ぬとも思ってねぇ。……それでも、死んでくれるなよ」
絞り出すような、震えそうなのを無理矢理に押し殺しているような声で彼は言い、先に走り出したサイラスやイーナ達の後を追おうと踵を返した。
その背中を数秒ほど見送ってから、俺は目の前にいる敵に視線を合わせる。
「…………何で、今攻撃しなかったんだ」
ラスターさん達と言葉を交わしているときも、攻撃しようと思えば幾らでもできた筈だ。それなのに何故それをしなかったのか、何故こちらに気を遣うような真似をしたのか。
特にこれと言って理由がないのかもしれないし、攻撃されない方が良いに決まっている。
それでも、それに対しての『何故』という疑問が消えない。気になって仕方がなかった。
「別に? ただの気紛れさ。理由なんてない。……まあ、君達がどんな結論を出すのかが楽しみだったのもあるけどね」
思っていたとおりというか、彼は飄々とした態度を崩さないままで微笑まで湛えて言ってのける。
気紛れということは、もしその『気紛れ』がなければあの時点で攻撃を受けて殺されかけていた可能性もあるということで、このときばかりはマーヴィンの気紛れとやらに感謝したくもなった。
「——いい加減に雑談は止めろ」
今まで口を閉ざしていたソーマが不意に口を開き、普段と何ら変わらない淡々とした口調で言葉を紡いでいく。
彼は切っ先を床に向けていたナトゥスをマーヴィン達に向ければ、それこそ氷のように冷たい光を宿した藍色の瞳で彼等を見据えた。
「そうだね、そうしよう。雑談はここまでだ、反抗機関の戦闘要員。この僕がこの手で排除してあげるよ」
ソーマに一度頷いてから賛同したマーヴィンは言い、ホリックさんを傷つけた細身の長剣の切っ先を俺達に向けてくる。
それからこちらに攻撃を仕掛けてくるか、と思ったところで、彼はちらりと自分の横にいるハウンドに眼を向けた。
「ハウンド、追うんだ」
「めんどくせぇな……分かったよ」
短い命令に悪態をついたものの、彼は大人しく命令に従えば気怠そうに欠伸をする。その様はどう考えてもこの状況にあっていない。
ハウンドは頭を掻いた後に高く跳躍すれば俺達の頭上を跳び越え、つい先程この場を出て行ったラスターさん達の後を追い始めた。
それに気を取られ、彼を振り返った瞬間に前方で行動を開始した気配があり、その気配を感じるか感じないという所で短い銃声が鼓膜を震わせる。
「余所見をしてる暇なんて無いよ? ……さあ、かかってきたらどうだい?」
シェイド大佐の銃弾を難なく長剣で弾き落としたマーヴィンは、他人を見下すような笑みを浮かべて挑発とも取れる——実際そうなのだろうが、そんな言葉を吐き捨てた。
機械の稼働音や電子機器の発する電子音などの中、アイドは一人で多数のモニターやキーボードと対峙していた。
コンピュータのキーボードのようなそれを軽やかに叩きながら、モニターをちらちらと確認する。所々に黄色や赤のランプもあり、点灯する光も彼は確認していた。
「……案外いけるな。頭で覚えて無くても身体が覚えてる、ってか?」
自画自賛にも聞こえかねない言葉をぽつりと漏らし、アイドは更に速い速度でキーボードを叩き、青いモニターに文字列を表示していく。
眼を細めて楽しげにプログラムやらの情報を入力していく彼の姿に、普段の研究班班長としての面影は殆ど見受けられない。
「これは緊急事態だからな。少しは目ぇ瞑ってくれよ、司令官」
独り言のようにぼやき、今まで叩いていたものとはまた違うキーを片手で操作する。
その手つきはやけに手慣れていて、研究員が持つ技術とは明らかに違っていた。
「…………四、五年ぶりだが、俺を知らない奴なんて居ないだろうよ。特にあの大都市とやらには、な」
ぶつぶつと呟きながら機械を操作するアイドの後ろ姿からは普段と全く違う雰囲気が醸し出され、どこか不気味さすら覚えるようなものだった。
「大都市連中……いや、機械人形共。またこの俺が地獄に突き落としてやるよ」
取り敢えず次辺りからずっとヘメティとアイドのターンぽい^p^
作業用BGM:「Living Universe(五月上旬)」「え?あぁ、そう。(五月中旬)」「裏表ラバース(百分耐久(五月下旬)」「Living Universe(今)」
原点回帰しとる\(^o^)/
「——あーあ、ったく、皆血の気が多いな」
全研究員を避難させ終わり、アイドは誰も居ないがらんとした研究室の机の上に座っていた。その手にはこんな状況だというのにコーヒーカップが握られており、明らかに現状から浮いていた。
彼は大きく欠伸をすると、カップの中に入っている珈琲を全て飲み干す。空になったカップを机に置けば、アイドは白衣を揺らして床へと降りる。そのまま伸びをすれば、水色の髪を掻き上げるようにして頭を掻く。
「……敵は数人……ねぇ。それを人間のそれで考えるなら話は別だけど、人外が入ってたらどうなるんだか」
意味深な言葉を吐き、アイドは白衣のポケットから取り出した小さいにも程がある、と言いたくなる程に超小型の無線機を取り出すとスイッチを押した。
「……——大丈夫か? まあ大丈夫か。お前だしな。……で、誰と誰が居る? できれば種族も。——機械人形が二体に生身の人間が一人。成る程、よしオッケー。切るぞ」
相手が聞き取れる程度のさじ加減を見定めながら、できる限り早口で言うと彼は無線機のスイッチを切った。
そのまま無線機を再び白衣のポケットにしまい、アイドは大きく欠伸をすると机の上から降りる。
目に浮かんだ生理的な涙をごしごしと指の背で乱暴に拭い、寝起きのように大きく伸びをした。
全く緊張感のないその姿は、何度も言うように現状から浮いている。こんな時でも緊張感を持たないというのがアイド=サーベラスという一人の人間であり研究班班長であるのだが。
「……さーて、俺もそろそろ行くか。アイツ等だけ身体張らせる訳にもいかないし、いいとこ持っていかれるのも嫌だしな」
苦笑のような笑みを浮かべ、アイドはまるで凝りを解すかのように首に手を当てれば軽く回す。
非戦闘要員とはいえ、ずっと裏方でちくちくと地道な作業をしていくのは嫌だった。勿論自分は望んでこの地位に居るのだが、
だからといって、戦闘の出来る人間——例えばヘメティやソーマばかり目立たせるのも、それは自分のちっぽけなプライドが許さない。全く、自分はなんて面倒臭い奴なんだろうか。
そんな事をまるで他人事のように考えながら、アイドは研究室を出る為に少し開いたままちゃんと閉まっていない出入り口のドアへと向かう。
「——まっ、ちょっと現役離れてたしどうなるかどうか解らないんだけどな」
意味深な言葉を研究室に吐き出してから、彼は最早失われてしまった深林のような緑の瞳を細めれば後ろ手にドアを閉め、とある場所へ向かう為に軽々とした足取りで歩き出した。
RELAYS - リレイズ - 65 【開幕】
何度もこの耳で聞いた呪文をソーマが詠唱した瞬間、空中に何本もの氷柱が出現する。詠唱呪文と同じで、最早見慣れた光景だった。
彼が落下する速度よりも速く、それがマーヴィン達に向けて射出される。
彼等はソーマが自分達の頭上から奇襲を仕掛けてくるとは予想もしていなかったのか、明らかに狼狽や驚愕といった表情を浮かべたまま固まっていた。
そんな中、真っ先に動いたのはマーヴィンでもハウンドでもなく、正に主に忠誠を誓うアレスだった。
彼はマーヴィンを数歩ほど後ろに後退させればその前に立ち、ソーマの放った氷柱を堂々とその身体で受け止める。その様は、本当に主を守ろうと自分の身を盾にする従者そのものだった。
ソーマはといえばそんなアレスの行動も予測できていたらしく、今までマーヴィンだった標的を瞬時にアレスに変えればナトゥスを振り翳した。
それを視認したと同時にマーヴィンは後ろに軽く跳んで下がり、その気配を察知したアレスは彼の傍に近付くようにして少しずれた位置へと同じように回避する。ハウンドはといえば、さっさとホリックさんやマーヴィン達から離れて平然と欠伸をしている。
ハウンドの事は置いておいて、アレスとマーヴィンの息はぴったりと合っていた。当然のことだが、そのシンクロの高さに驚きを隠す事も出来ない。
攻撃を外した事に苛立ちを隠せないらしく、ソーマは舌打ちすれば床に突き刺さる鎌の刃を引き抜く。
それから何をするのかと思えば、彼は不意にその場にしゃがみ込めば腹部の傷から血を流すホリックさんの襟首を掴むと無理矢理に上体を起き上がらせた。その手つきは、毎度の如く怪我人を扱う手つきではない。
「……まだ息はある、さっさと連れて行け」
ソーマの放った氷柱の欠片は白衣に散っていたものの、やはりというか何というか、攻撃は一つも当たっていないらしい。偶然といえば偶然かもしれないが、これはソーマの腕の問題だろうと俺は考えている。
自分の狙う獲物以外は傷つけない。彼はそんな人間なのではないかと思いもするが、それを言ったところで本人が認めるとも思えない。
彼の言葉通りまだ息をしているようで、ホリックさんの胸板が僅かながらに上下しているのがこちらからでも確認できた。
だからといって、俺達に彼を突き出されても。……何と言えばいいのだろうか、言い方が悪いかも知れないが困る。俺一人で大の大人を抱えて安全なところに運ぶわけにもいかないし、シェイド大佐と二人で行けば今度はソーマ一人をこの場に置いていくことになる。
まさかソーマが死ぬ——もとい負けたり苦戦するということはないだろうが、彼をこの場に一人置いて行くのも嫌だった。仲間を置いていきたくない。
それを口にすれば、また『甘い』と言われてしまうのだろうか。
どうすればいいのか、再びその疑問のみで思考も胸の内も埋まりそうになった瞬間背後から数人の足音が聞こえてきた。
弾かれるようにそちらを振り向き、振り向きざまに今まで構える事もせずにただ持っていただけの闇霧の切っ先を向ける。
だがその足音の正体がイーナやラスターさん、サイラスにファンデヴという見知った仲間達の物だと気付き、疑問や焦燥感で満たされていた胸に安堵が広がっていくのが解った。
細身の長剣を持ったまま、ラスターさんは俺達に駆け寄ってくる速さを速める。ソーマに襟首を掴まれているホリックさんが目に入ったのか今度はゆっくりと速度を落とし、最終的には俺達から2メートルと離れていない所で立ち止まった。
「……やっぱり、か。まあ予想はしてたんだけどな」
意味深なその言葉が、『ホリックさんが負傷している』ということに対してのものなのか『マーヴィン達の襲撃だった』ということに対してなのかは解らない。恐らく、どちらの意味も持ち合わせているのだと思う。
後から追いついてきた三人も、同じように皆一様に自分の武器を携えていた。
それを見たソーマは背後にいるマーヴィンやアレスなど気にも留めていないかのように此方に身体を向け、無理に上体を起こさせているホリックさんの身体をほんの少し引き摺ればラスターさんと向かい合う形になる。
「此処はいい、貴様等が連れて行け」
淡々とした声音で言い、彼はゆっくりとホリックさんの襟首から手を離す。勿論重力に従って床に横たわる形になるが、それをすんでの所でラスターさんが受け止めた。
それを見届けてから、シェイド大佐も一度頷けば彼に視線を向ける。
「……ラスター、行け。ここはオレ達でやる」
「何言って……三人だけで太刀打ちできるような相手かよ!?」
信じられない、とでも言いたげな声音と表情でラスターさんは言い、俺達の目の前に居る明らかに実力差があるであろう三人を見る。
一人は世界の支配者といっても過言ではないほどの地位にいる人間、そして後の二人は彼に忠誠を誓う——ハウンドはどうか分からないが、少なくともアレスはそうだ。そして人間ではない機械人形。
俺とソーマにシェイド大佐だけでは分が悪い、というのは俺自身理解しているし、もしかすればこの場にいる全員が理解しているのかも知れない。
だからといってホリックさんを見殺しにする事なんてできるわけもないし、逃げる訳にもいかない。
そうなれば、マーヴィン達と戦う組とホリックさんを医療班の所まで運ぶ組、その援護と分かれてしまうのは避けられないことだ。
それを分かっているのか、ラスターさんも一度はそう言ったもののすぐに口を噤み、自分の身につけている水色のエプロンの裾を強く握り締める。
「……サイラス、ファンデヴ、イーナ。それにラスター。……良いな?」
シェイド大佐は銃口をマーヴィン達に向けたままで肩越しに振り返り、ラスターさんの後ろに着いてきていた三人に声をかける。彼等は一瞬躊躇したようだがすぐに頷き、サイラスがホリックさんの身体を抱えた。
血の所為で所々赤くなってしまっている灰色の長髪がさらりと流れ、白を基調として造られた床に落ちる。
それも気にせずにサイラスは軽々と立ち上がり、俺達を肩越しに振り返った。そのまま何か言おうと口を開くも、彼が言葉を発するよりも先にラスターさんがサイラスを手で制す。
「……アンタが負けるとも思ってねぇし、ヘメティとかソーマが死ぬとも思ってねぇ。……それでも、死んでくれるなよ」
絞り出すような、震えそうなのを無理矢理に押し殺しているような声で彼は言い、先に走り出したサイラスやイーナ達の後を追おうと踵を返した。
その背中を数秒ほど見送ってから、俺は目の前にいる敵に視線を合わせる。
「…………何で、今攻撃しなかったんだ」
ラスターさん達と言葉を交わしているときも、攻撃しようと思えば幾らでもできた筈だ。それなのに何故それをしなかったのか、何故こちらに気を遣うような真似をしたのか。
特にこれと言って理由がないのかもしれないし、攻撃されない方が良いに決まっている。
それでも、それに対しての『何故』という疑問が消えない。気になって仕方がなかった。
「別に? ただの気紛れさ。理由なんてない。……まあ、君達がどんな結論を出すのかが楽しみだったのもあるけどね」
思っていたとおりというか、彼は飄々とした態度を崩さないままで微笑まで湛えて言ってのける。
気紛れということは、もしその『気紛れ』がなければあの時点で攻撃を受けて殺されかけていた可能性もあるということで、このときばかりはマーヴィンの気紛れとやらに感謝したくもなった。
「——いい加減に雑談は止めろ」
今まで口を閉ざしていたソーマが不意に口を開き、普段と何ら変わらない淡々とした口調で言葉を紡いでいく。
彼は切っ先を床に向けていたナトゥスをマーヴィン達に向ければ、それこそ氷のように冷たい光を宿した藍色の瞳で彼等を見据えた。
「そうだね、そうしよう。雑談はここまでだ、反抗機関の戦闘要員。この僕がこの手で排除してあげるよ」
ソーマに一度頷いてから賛同したマーヴィンは言い、ホリックさんを傷つけた細身の長剣の切っ先を俺達に向けてくる。
それからこちらに攻撃を仕掛けてくるか、と思ったところで、彼はちらりと自分の横にいるハウンドに眼を向けた。
「ハウンド、追うんだ」
「めんどくせぇな……分かったよ」
短い命令に悪態をついたものの、彼は大人しく命令に従えば気怠そうに欠伸をする。その様はどう考えてもこの状況にあっていない。
ハウンドは頭を掻いた後に高く跳躍すれば俺達の頭上を跳び越え、つい先程この場を出て行ったラスターさん達の後を追い始めた。
それに気を取られ、彼を振り返った瞬間に前方で行動を開始した気配があり、その気配を感じるか感じないという所で短い銃声が鼓膜を震わせる。
「余所見をしてる暇なんて無いよ? ……さあ、かかってきたらどうだい?」
シェイド大佐の銃弾を難なく長剣で弾き落としたマーヴィンは、他人を見下すような笑みを浮かべて挑発とも取れる——実際そうなのだろうが、そんな言葉を吐き捨てた。
機械の稼働音や電子機器の発する電子音などの中、アイドは一人で多数のモニターやキーボードと対峙していた。
コンピュータのキーボードのようなそれを軽やかに叩きながら、モニターをちらちらと確認する。所々に黄色や赤のランプもあり、点灯する光も彼は確認していた。
「……案外いけるな。頭で覚えて無くても身体が覚えてる、ってか?」
自画自賛にも聞こえかねない言葉をぽつりと漏らし、アイドは更に速い速度でキーボードを叩き、青いモニターに文字列を表示していく。
眼を細めて楽しげにプログラムやらの情報を入力していく彼の姿に、普段の研究班班長としての面影は殆ど見受けられない。
「これは緊急事態だからな。少しは目ぇ瞑ってくれよ、司令官」
独り言のようにぼやき、今まで叩いていたものとはまた違うキーを片手で操作する。
その手つきはやけに手慣れていて、研究員が持つ技術とは明らかに違っていた。
「…………四、五年ぶりだが、俺を知らない奴なんて居ないだろうよ。特にあの大都市とやらには、な」
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