I permanently serve you. NeroAngelo
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戦闘は難しいです。戦闘描写苦手。
「——しっかし、荒れ放題で何が何だか解らねえな。迷路か、これは」
男は手に鞭を提げたまま、所々に生えている自分の背丈程もある草から視界を守りながら歩いていた。
「……さすがにこの中でサングラスは見えづらいな。外すとするか」
宿の前で外し、そして先程着けたサングラスをもう一度外し、コートのポケットに入れる。
道を間違えたのか、無理に最短と思われるルートを通ろうとしたせいなのか、やけに視界と足場が悪い。
聞こえてくる銃声が近付いてきているということは、この道で間違っていない事は確かなのだが。
「……まあ、少し遅れても大丈夫だろうな。あの家の血筋は全員血の気が多いんだからな」
外していたサングラスをかけ直し、男は小馬鹿にしたように鼻で笑うと鞭を持っていない左手で顔を覆うようにする。
「……本当、クズみてぇに馬鹿げた運命だ……」
RELAYS - リレイズ - 53 【機械人形】
「——その笑みは肯定か、アレスとやら」
絞り出されたシェイド大佐の声は、今までに聞いた事がない程に低く、重かった。隣で聞いている俺も、恐怖を感じてしまう。その怒りは俺に向けられて等いないのに。
ただならぬ雰囲気に、ザクストもアレスも動きを止め、武器を下げている。
だが、アレスは全く動じない。その口許に浮かんでいる笑みは、少しもひび割れていない。
「答えろ」
既に手に持っている拳銃以外にも持ち歩いていたのか、シェイド大佐はもう一丁の拳銃を背中から取り出すと安全装置を外し、的確に狙いを定めた。
アレスは嗤ったままで、その問いに答えた。
「……そうだ、と言ったら、どうするつもりだ?」
その言葉が終わるか終わらないか、という時、彼の声を掻き消すようにして銃声が辺りに反響した。それと同時にアレスの身体に銃弾が被弾し、アレスは微かに後ずさった。
だが、苦悶の表情などは上げていない。——奇妙だった。
「もしも肯定ならば? 殺すさ」
復讐。シェイド大佐の殺意に満ちた瞳と言葉、それを見て真っ先に浮かんだのが復讐という言葉だった。
「……そうか。ならば——」
そこで一度区切ると喉の奥で笑い、ゆっくりとした口調で自らの命を危険にさらすような事を臆すことなく言った。
「……肯定だ」
シェイド大佐は一瞬瞠目した直後、感情を無理矢理に押し殺しているといったような無表情で両手の銃の引き金を引いた。
耳を劈く銃声に、耐えきれずに耳を押さえる。何発撃っているのか解らない、だが相当な数だと言うことだけは解る。
大佐、という地位に居るだけあって、射撃の腕は遙かに高い。ザクストには一発も当たっていないらしい。
驚いた表情を見せてから、ザクストは後方に軽く跳び、間合いを取った。
「……兄サン落ち着け!! アンタは復讐なんかに身を投げるような人間じゃねぇだろ!?」
ラスターさんが剣を持っていない手でシェイド大佐の肩を掴み、悲痛にも聞こえる声を銃声に負けないように張り上げていた。
復讐の道に堕ちようとしている兄を、彼は止めようとしている。
「離せ、ラスター!! ……オレはそんな綺麗な人種ではない」
シェイド大佐は微かに震えた声、それでぽつりと呟いた。だが、その狙いは外れては居ない。
「——何故だ」
こんな状況の中でも良く通る低い声、それはシェイド大佐の物じゃない。イーナの近くに居た筈のソーマが、いつの間にか俺の隣まで来ていた。
ソーマは土煙を、その先に居たアレスを睨み、吐き捨てた。
「……何故、あの銃弾を受けて貴様は生きている」
「何を——」
何を言っているんだ、と続ける前に土煙が晴れ、そこには先程と変わらない位置に立っているアレスの姿があった。
先程の銃弾で眼帯が飛ばされてしまったらしく、隠されていない左目を左手で押さえ、彼はその口許に浮かんでいた笑みを更に濃くする。
着ている執事服は、そこかしこに穴が空いている。だが、本来出るであろう鮮血は垂れていないし滲んでもいない。
明らかに異常だった。
「貴様……何者だ……!?」
銃を構えたままのシェイド大佐は、狼狽した声で、恐らくやっとの思いでそれだけを絞り出した。
「……解らないか? 全く、考える事もできないのか、愚か者共」
呆れ声でアレスは言い、前髪を払うようにして左目から手を離した。
そこにあったのは、眼球でも何でもない。
「……機械……!」
銀色の金属光沢を持つ、機械。無機物その物だった。
シェイド大佐やラスターさん達は、驚愕で絶句しているのか何も言わない。いや、言えないのだろう。
「……さて、改めて自己紹介だ」
アレスは一度執事服の汚れを手で払い、自分の『左目』にかかっている髪の毛を左手で押さえながら自分の正体を明かした。
「私の名はアレス=ディーヴァ。マーヴィン様に生み出され、マーヴィン様の為だけに動く機械人形だ」
自我を持つ機械人形。それはもう既に生産が中止されている筈だ。あの大都市を造り上げた技術を持ってしても、作ることができなかった為に。
だが、アレスは自らをそう称した。それに加えて彼の左目の位置に見える機械。
嘘だ、そんな筈はない、そんな否定はできなかった。それらが全て、揺るぎようのない証拠となっている。
「機械人形、か。……貴様は正にそれだな。感情もない、自分の意志すらもない」
まず先に口を開いたのは、シェイド大佐ではなくソーマだった。やけに饒舌なのが少し気にかかったが、故郷の事も絡んでいるのだから当然の事だ。
「機械人形に、あの方の為に動く為に意志など必要ない。少なくとも、私はそうだ」
「自分が機械人形だから、等といった言葉で誤魔化すな。そんな物、ただの言い訳にしかならない。……中には、人間よりも人間らしい奴も居るのだからな」
ソーマは以前にも一度機械人形に出会った事があるのだろうか。そう思わせるような言葉だった。ただ、『機械人形が』という言葉が繋がっていない、もしかすれば、他の人間でない者達という意味かもしれなかった。
「……貴様は先程人間を愚かだと言ったな。その通りだ、俺もそこには同意する」
ただ、とソーマはそこで区切り、いつもと変わらない口調、変わらない表情で、それでも鋭く言い放った。
「意志のない貴様と意志のある俺達人間、どちらが愚かだ?」
アレスの眉が僅かにだが顰められる。微々たる物だが、彼にも『感情』はあるのだろう。でなければ、自分を造った主をここまで崇拝し、陶酔する訳がない。
「……銀髪、それは違う」
今まで間合いを取ったままで黙っていたザクストが、左手に持った銃を回しながら言った。
悲しんでいるとも、憐れんでいるとも取れないような複雑な感情をその深い青の瞳に映しながら、諭すかのような口調で続ける。
「どっちが愚かだとか、そういうのは無いんだよ。……答えは簡単、『どちらも愚か』さ。……俺もな」
鼻で笑い、ザクストは両手の銃を握り直すと、イーナの方を向くと同時に銃口を突き付けた。
それが合図だったかのように、彼女もまた、自分の手にある鎖鎌を構え直した。
その眼には、未だに『どうして』という疑問が浮かんではいたが、最早話し合う等といった雰囲気でも当然ない。彼女は戦うしかないのだという現実を受け入れている。
「……お前達」
ある程度落ち着きを取り戻した声で言い、シェイド大佐は全ての弾を撃ち終えた拳銃をしまうとボレアーリスを取り出し、弾を込める。
「お前達は何も手出しをするな。……オレにやらせろ」
迷うことなく、アレスに銃を向ける彼の姿、背中からは、絶対に譲らないという決意がありありと見て取れた。
「……私は、そこのオッドアイ以外の貴様等全員を殺さなければならないんだが」
先程から何ら変わらない様子で、アレスは執事服の胸ポケットから新しい眼帯を取り出すと、それを慣れた手つきで眼に付ける。
何故この状況でこんな事ができるのか、俺には解らなかった。負けないという自信があるのか、それともまた別の理由なのか。
「——銀髪、軍人、黒髪、赤髪、槍使い、……5人か。5人も一度に殺らなければならないのはなかなか大変だが……あの方の命令だ」
俺を含めた全員が、各々の武器を持つ手に力を込める。
あちら側が俺に何の用があるのかは解らない、知りたくもない。付いていく気は勿論、連れ去られるつもりも一切なかった。
だが、少し気になる事があった。
「……あんた、早く武器を構えたらどうなんだ」
この期に及んで、アレスは未だに自分の武器を出していない。見たところ、銃を持っているようにも思えない。もしかすれば服の下にナイフくらいはあるのかもしれないが、一見して武器らしき物は持ち歩いていなかった。
「ああ、言い忘れていたな。私は銃や剣といった武器を使うのが苦手でな。主に体術だけを使っている」
手技や足技だけで俺達と戦う、それは余りにも不利に思えた。こちらには銃を使用するシェイド大佐、それに近接系の武器を扱う人間が揃っているのだ。
「別にてめぇを気遣うわけじゃねぇけど、どう考えても不利だろ? 六対一って時点で不利なのに」
「嘗めるな、すぐに解ることだ」
緊張感を孕んだままのサイラスの声に、冷たい声で短く返したアレスの目は本気だった。
「ザクスト、解っているだろうな?」
「……ああ、……解ったよ、やってやるさ」
言葉を交わしながら、彼等は背中合わせに体制を整える。一見すれば、彼等はお互いに信頼し合っているようにも見えた。それが本当なのか、それとも建前なのか、それを俺が知る権利はない。知る術もない。
「——絶対、話して貰うから」
「……勝手にしろ」
全てを諦めたように気怠げに、無気力に返したザクストだったが、警戒心は微塵も薄れていない。
未だに自分に絡み付く戸惑いや疑問、感情を振り払うようにイーナは前方に高く跳び、彼に鎖鎌の切っ先を振り上げた。
彼女が行動するとほぼ同時に彼等も行動に移った。
ザクストはそのまま、自分に振り下ろされる鎖鎌を受け止めようと銃を身体の前に突き出している。
アレスは既に先程立っていた場所から移動していた。
彼は跳躍していたらしく、そのまま俺を跳び越えるとシェイド大佐に手を伸ばす。
「……まずは貴様からだ、軍人」
「……奇遇だな。オレも丁度そう考えていた」
それだけを言い、眼前に迫るアレスに銃口を突き付けると躊躇うことなく発砲した。
だが、彼は金属やその他の無機物で出来ている機械人形だ。銃弾で倒せる——殺せる訳がない。せいぜい故障させたりできる程度だ。
「貴様の身体は機械、ならば動かなくなるまで壊すだけだ」
アレスは自らの白い革手袋が嵌められている右手の平を見る。そこには黒く穴が空き、細く僅かに煙が立ち上っていた。
何かを確かめるように彼は手を握り、恐らく我流と思われる構えを取ると俺達全員を見てから言った。
「……面白い。さあ、かかって来い、反抗組織の連中共」
高く跳躍したイーナの上空からの一撃は、呆気なくザクストに阻まれた。
金属同士が触れ合い、軽く火花が散る。それは光源が月明かりだけの庭園の中でやけに明るく、目に付いた。
イーナは一瞬眉を顰め、鍔迫り合いの状態になっていた鎖鎌の刃で銃を弾き返すと後方に跳び、間合いを確保する。
彼女が地面に下り立ったのを見計らい、ザクストは感情を無理矢理に押し殺しているような無表情で二丁拳銃の引き金を左右同時に引いた。
それを瞬時に鎖鎌で弾き、イーナは立ち上がった。
「……どうして……どうして、アンタが……!」
絞り出した声はか細く、震えていた。それと同じく、彼女の肩も、鎖鎌を持つ手も。
幾ら戦わなければならないのだと頭で理解しようと、覚悟しようと、やはり心の何処かでそれを拒んでいる自分が居る。
戦いたくない、と。
小さな頃から家族同然に過ごしてきたザクストと戦うのは、これ以上ない程の苦痛だった。
「……理由を言ったとして、お前は納得するのか」
興味がなさそうにも、面倒臭そうにも、はたまた自暴自棄にも聞こえる声音で、銃声に負けてしまいそうな程の小声で口にする。
「そんなの、聞かなきゃ分かんない! 言う前からそんなの考えないで!」
「……言ったって、答えは見えてるんだ。なら、言う必要がないだろ」
「……どうして、そんな風になっちゃった訳? アンタが2年前に居なくなってから何があったの!?」
今のザクストは否定的で虚無的だった。全てに対して否定的、全てに対して虚無。
今彼が並べ立てた言葉は、以前のザクストならば決して言わないような物ばかりだった。
ザクストは、2年前にイーナの前から忽然と姿を消している。そしてやっと会えたと思えば、彼は別人のように変わっていた。
「……だから、お前に言っても意味がないって言ってるんだ! お前に俺の苦痛が解るのか!?」
「だから、話してくれないと解らないって言ってるの!! ——今のアンタは私が知ってるザクストじゃない!!」
イーナの口から出て行くのは、最早悲鳴だった。声を張り上げることで、彼女は心の均衡を保っている。
「お前が見てたのだけが俺じゃない。……それだけで俺を測るな!」
対照的に、ザクストは周りから聞こえる剣劇の音や銃声に負けないようにと声を張り上げてはいるが、それでもイーナより落ち着いた声で返していた。
「今お前に言って何になる……それに、どこから話せばいい。どこから話せば、お前は満足するんだ」
「全部、全部! アンタが2年前に居なくなってから! 話してよ!!」
叩き付けるように言い、イーナは呼吸を落ち着かせる為に軽く深呼吸をすると、深く溜め息を吐いた。
「……どうしても、話さないって言うの?」
「違う。……話す理由がないんだ。答えが分かり切ってるなら、言うだけ無駄だ」
二丁拳銃の銃口を再度突き付け、ザクストはイーナに容赦のない言葉を浴びせる。それがどれだけ彼女を苦しめているかも知らずに。
「……じゃあ、アンタが思い浮かべてる『答え』は何?」
彼は『自分がこう言えばイーナはこう返してくる』と思い込んでいる。その答えを知り、否定することで、話してくれるのではないか。そんな希望を、イーナは見出した。
「——『最低』」
たったの二文字。その一言だけで、ザクストは彼女に全てを話す事を拒否していた。
\(^o^)/
どんどんザクストが自虐になっていく。…ってかこれ俺かよ。
「——しっかし、荒れ放題で何が何だか解らねえな。迷路か、これは」
男は手に鞭を提げたまま、所々に生えている自分の背丈程もある草から視界を守りながら歩いていた。
「……さすがにこの中でサングラスは見えづらいな。外すとするか」
宿の前で外し、そして先程着けたサングラスをもう一度外し、コートのポケットに入れる。
道を間違えたのか、無理に最短と思われるルートを通ろうとしたせいなのか、やけに視界と足場が悪い。
聞こえてくる銃声が近付いてきているということは、この道で間違っていない事は確かなのだが。
「……まあ、少し遅れても大丈夫だろうな。あの家の血筋は全員血の気が多いんだからな」
外していたサングラスをかけ直し、男は小馬鹿にしたように鼻で笑うと鞭を持っていない左手で顔を覆うようにする。
「……本当、クズみてぇに馬鹿げた運命だ……」
RELAYS - リレイズ - 53 【機械人形】
「——その笑みは肯定か、アレスとやら」
絞り出されたシェイド大佐の声は、今までに聞いた事がない程に低く、重かった。隣で聞いている俺も、恐怖を感じてしまう。その怒りは俺に向けられて等いないのに。
ただならぬ雰囲気に、ザクストもアレスも動きを止め、武器を下げている。
だが、アレスは全く動じない。その口許に浮かんでいる笑みは、少しもひび割れていない。
「答えろ」
既に手に持っている拳銃以外にも持ち歩いていたのか、シェイド大佐はもう一丁の拳銃を背中から取り出すと安全装置を外し、的確に狙いを定めた。
アレスは嗤ったままで、その問いに答えた。
「……そうだ、と言ったら、どうするつもりだ?」
その言葉が終わるか終わらないか、という時、彼の声を掻き消すようにして銃声が辺りに反響した。それと同時にアレスの身体に銃弾が被弾し、アレスは微かに後ずさった。
だが、苦悶の表情などは上げていない。——奇妙だった。
「もしも肯定ならば? 殺すさ」
復讐。シェイド大佐の殺意に満ちた瞳と言葉、それを見て真っ先に浮かんだのが復讐という言葉だった。
「……そうか。ならば——」
そこで一度区切ると喉の奥で笑い、ゆっくりとした口調で自らの命を危険にさらすような事を臆すことなく言った。
「……肯定だ」
シェイド大佐は一瞬瞠目した直後、感情を無理矢理に押し殺しているといったような無表情で両手の銃の引き金を引いた。
耳を劈く銃声に、耐えきれずに耳を押さえる。何発撃っているのか解らない、だが相当な数だと言うことだけは解る。
大佐、という地位に居るだけあって、射撃の腕は遙かに高い。ザクストには一発も当たっていないらしい。
驚いた表情を見せてから、ザクストは後方に軽く跳び、間合いを取った。
「……兄サン落ち着け!! アンタは復讐なんかに身を投げるような人間じゃねぇだろ!?」
ラスターさんが剣を持っていない手でシェイド大佐の肩を掴み、悲痛にも聞こえる声を銃声に負けないように張り上げていた。
復讐の道に堕ちようとしている兄を、彼は止めようとしている。
「離せ、ラスター!! ……オレはそんな綺麗な人種ではない」
シェイド大佐は微かに震えた声、それでぽつりと呟いた。だが、その狙いは外れては居ない。
「——何故だ」
こんな状況の中でも良く通る低い声、それはシェイド大佐の物じゃない。イーナの近くに居た筈のソーマが、いつの間にか俺の隣まで来ていた。
ソーマは土煙を、その先に居たアレスを睨み、吐き捨てた。
「……何故、あの銃弾を受けて貴様は生きている」
「何を——」
何を言っているんだ、と続ける前に土煙が晴れ、そこには先程と変わらない位置に立っているアレスの姿があった。
先程の銃弾で眼帯が飛ばされてしまったらしく、隠されていない左目を左手で押さえ、彼はその口許に浮かんでいた笑みを更に濃くする。
着ている執事服は、そこかしこに穴が空いている。だが、本来出るであろう鮮血は垂れていないし滲んでもいない。
明らかに異常だった。
「貴様……何者だ……!?」
銃を構えたままのシェイド大佐は、狼狽した声で、恐らくやっとの思いでそれだけを絞り出した。
「……解らないか? 全く、考える事もできないのか、愚か者共」
呆れ声でアレスは言い、前髪を払うようにして左目から手を離した。
そこにあったのは、眼球でも何でもない。
「……機械……!」
銀色の金属光沢を持つ、機械。無機物その物だった。
シェイド大佐やラスターさん達は、驚愕で絶句しているのか何も言わない。いや、言えないのだろう。
「……さて、改めて自己紹介だ」
アレスは一度執事服の汚れを手で払い、自分の『左目』にかかっている髪の毛を左手で押さえながら自分の正体を明かした。
「私の名はアレス=ディーヴァ。マーヴィン様に生み出され、マーヴィン様の為だけに動く機械人形だ」
自我を持つ機械人形。それはもう既に生産が中止されている筈だ。あの大都市を造り上げた技術を持ってしても、作ることができなかった為に。
だが、アレスは自らをそう称した。それに加えて彼の左目の位置に見える機械。
嘘だ、そんな筈はない、そんな否定はできなかった。それらが全て、揺るぎようのない証拠となっている。
「機械人形、か。……貴様は正にそれだな。感情もない、自分の意志すらもない」
まず先に口を開いたのは、シェイド大佐ではなくソーマだった。やけに饒舌なのが少し気にかかったが、故郷の事も絡んでいるのだから当然の事だ。
「機械人形に、あの方の為に動く為に意志など必要ない。少なくとも、私はそうだ」
「自分が機械人形だから、等といった言葉で誤魔化すな。そんな物、ただの言い訳にしかならない。……中には、人間よりも人間らしい奴も居るのだからな」
ソーマは以前にも一度機械人形に出会った事があるのだろうか。そう思わせるような言葉だった。ただ、『機械人形が』という言葉が繋がっていない、もしかすれば、他の人間でない者達という意味かもしれなかった。
「……貴様は先程人間を愚かだと言ったな。その通りだ、俺もそこには同意する」
ただ、とソーマはそこで区切り、いつもと変わらない口調、変わらない表情で、それでも鋭く言い放った。
「意志のない貴様と意志のある俺達人間、どちらが愚かだ?」
アレスの眉が僅かにだが顰められる。微々たる物だが、彼にも『感情』はあるのだろう。でなければ、自分を造った主をここまで崇拝し、陶酔する訳がない。
「……銀髪、それは違う」
今まで間合いを取ったままで黙っていたザクストが、左手に持った銃を回しながら言った。
悲しんでいるとも、憐れんでいるとも取れないような複雑な感情をその深い青の瞳に映しながら、諭すかのような口調で続ける。
「どっちが愚かだとか、そういうのは無いんだよ。……答えは簡単、『どちらも愚か』さ。……俺もな」
鼻で笑い、ザクストは両手の銃を握り直すと、イーナの方を向くと同時に銃口を突き付けた。
それが合図だったかのように、彼女もまた、自分の手にある鎖鎌を構え直した。
その眼には、未だに『どうして』という疑問が浮かんではいたが、最早話し合う等といった雰囲気でも当然ない。彼女は戦うしかないのだという現実を受け入れている。
「……お前達」
ある程度落ち着きを取り戻した声で言い、シェイド大佐は全ての弾を撃ち終えた拳銃をしまうとボレアーリスを取り出し、弾を込める。
「お前達は何も手出しをするな。……オレにやらせろ」
迷うことなく、アレスに銃を向ける彼の姿、背中からは、絶対に譲らないという決意がありありと見て取れた。
「……私は、そこのオッドアイ以外の貴様等全員を殺さなければならないんだが」
先程から何ら変わらない様子で、アレスは執事服の胸ポケットから新しい眼帯を取り出すと、それを慣れた手つきで眼に付ける。
何故この状況でこんな事ができるのか、俺には解らなかった。負けないという自信があるのか、それともまた別の理由なのか。
「——銀髪、軍人、黒髪、赤髪、槍使い、……5人か。5人も一度に殺らなければならないのはなかなか大変だが……あの方の命令だ」
俺を含めた全員が、各々の武器を持つ手に力を込める。
あちら側が俺に何の用があるのかは解らない、知りたくもない。付いていく気は勿論、連れ去られるつもりも一切なかった。
だが、少し気になる事があった。
「……あんた、早く武器を構えたらどうなんだ」
この期に及んで、アレスは未だに自分の武器を出していない。見たところ、銃を持っているようにも思えない。もしかすれば服の下にナイフくらいはあるのかもしれないが、一見して武器らしき物は持ち歩いていなかった。
「ああ、言い忘れていたな。私は銃や剣といった武器を使うのが苦手でな。主に体術だけを使っている」
手技や足技だけで俺達と戦う、それは余りにも不利に思えた。こちらには銃を使用するシェイド大佐、それに近接系の武器を扱う人間が揃っているのだ。
「別にてめぇを気遣うわけじゃねぇけど、どう考えても不利だろ? 六対一って時点で不利なのに」
「嘗めるな、すぐに解ることだ」
緊張感を孕んだままのサイラスの声に、冷たい声で短く返したアレスの目は本気だった。
「ザクスト、解っているだろうな?」
「……ああ、……解ったよ、やってやるさ」
言葉を交わしながら、彼等は背中合わせに体制を整える。一見すれば、彼等はお互いに信頼し合っているようにも見えた。それが本当なのか、それとも建前なのか、それを俺が知る権利はない。知る術もない。
「——絶対、話して貰うから」
「……勝手にしろ」
全てを諦めたように気怠げに、無気力に返したザクストだったが、警戒心は微塵も薄れていない。
未だに自分に絡み付く戸惑いや疑問、感情を振り払うようにイーナは前方に高く跳び、彼に鎖鎌の切っ先を振り上げた。
彼女が行動するとほぼ同時に彼等も行動に移った。
ザクストはそのまま、自分に振り下ろされる鎖鎌を受け止めようと銃を身体の前に突き出している。
アレスは既に先程立っていた場所から移動していた。
彼は跳躍していたらしく、そのまま俺を跳び越えるとシェイド大佐に手を伸ばす。
「……まずは貴様からだ、軍人」
「……奇遇だな。オレも丁度そう考えていた」
それだけを言い、眼前に迫るアレスに銃口を突き付けると躊躇うことなく発砲した。
だが、彼は金属やその他の無機物で出来ている機械人形だ。銃弾で倒せる——殺せる訳がない。せいぜい故障させたりできる程度だ。
「貴様の身体は機械、ならば動かなくなるまで壊すだけだ」
アレスは自らの白い革手袋が嵌められている右手の平を見る。そこには黒く穴が空き、細く僅かに煙が立ち上っていた。
何かを確かめるように彼は手を握り、恐らく我流と思われる構えを取ると俺達全員を見てから言った。
「……面白い。さあ、かかって来い、反抗組織の連中共」
高く跳躍したイーナの上空からの一撃は、呆気なくザクストに阻まれた。
金属同士が触れ合い、軽く火花が散る。それは光源が月明かりだけの庭園の中でやけに明るく、目に付いた。
イーナは一瞬眉を顰め、鍔迫り合いの状態になっていた鎖鎌の刃で銃を弾き返すと後方に跳び、間合いを確保する。
彼女が地面に下り立ったのを見計らい、ザクストは感情を無理矢理に押し殺しているような無表情で二丁拳銃の引き金を左右同時に引いた。
それを瞬時に鎖鎌で弾き、イーナは立ち上がった。
「……どうして……どうして、アンタが……!」
絞り出した声はか細く、震えていた。それと同じく、彼女の肩も、鎖鎌を持つ手も。
幾ら戦わなければならないのだと頭で理解しようと、覚悟しようと、やはり心の何処かでそれを拒んでいる自分が居る。
戦いたくない、と。
小さな頃から家族同然に過ごしてきたザクストと戦うのは、これ以上ない程の苦痛だった。
「……理由を言ったとして、お前は納得するのか」
興味がなさそうにも、面倒臭そうにも、はたまた自暴自棄にも聞こえる声音で、銃声に負けてしまいそうな程の小声で口にする。
「そんなの、聞かなきゃ分かんない! 言う前からそんなの考えないで!」
「……言ったって、答えは見えてるんだ。なら、言う必要がないだろ」
「……どうして、そんな風になっちゃった訳? アンタが2年前に居なくなってから何があったの!?」
今のザクストは否定的で虚無的だった。全てに対して否定的、全てに対して虚無。
今彼が並べ立てた言葉は、以前のザクストならば決して言わないような物ばかりだった。
ザクストは、2年前にイーナの前から忽然と姿を消している。そしてやっと会えたと思えば、彼は別人のように変わっていた。
「……だから、お前に言っても意味がないって言ってるんだ! お前に俺の苦痛が解るのか!?」
「だから、話してくれないと解らないって言ってるの!! ——今のアンタは私が知ってるザクストじゃない!!」
イーナの口から出て行くのは、最早悲鳴だった。声を張り上げることで、彼女は心の均衡を保っている。
「お前が見てたのだけが俺じゃない。……それだけで俺を測るな!」
対照的に、ザクストは周りから聞こえる剣劇の音や銃声に負けないようにと声を張り上げてはいるが、それでもイーナより落ち着いた声で返していた。
「今お前に言って何になる……それに、どこから話せばいい。どこから話せば、お前は満足するんだ」
「全部、全部! アンタが2年前に居なくなってから! 話してよ!!」
叩き付けるように言い、イーナは呼吸を落ち着かせる為に軽く深呼吸をすると、深く溜め息を吐いた。
「……どうしても、話さないって言うの?」
「違う。……話す理由がないんだ。答えが分かり切ってるなら、言うだけ無駄だ」
二丁拳銃の銃口を再度突き付け、ザクストはイーナに容赦のない言葉を浴びせる。それがどれだけ彼女を苦しめているかも知らずに。
「……じゃあ、アンタが思い浮かべてる『答え』は何?」
彼は『自分がこう言えばイーナはこう返してくる』と思い込んでいる。その答えを知り、否定することで、話してくれるのではないか。そんな希望を、イーナは見出した。
「——『最低』」
たったの二文字。その一言だけで、ザクストは彼女に全てを話す事を拒否していた。
\(^o^)/
どんどんザクストが自虐になっていく。…ってかこれ俺かよ。
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赤闇銀羽
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