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作業用BGM:魂のソフラン、残酷な天気のせいで
RELAYS - リレイズ - 63 【急襲】
数日間、本当にゆっくりとした時間が流れていた。任務が来ないのも当然の事、目立った動きも本当にない。
ゆっくりとした時間も一日二日は楽しめた。だがそれを過ぎるとどうしても退屈、暇としか思わなくなってしまう。
しょっちゅうソーマやシェイド大佐達と手合わせをして自分の力量を計ってみたものの、退屈や暇は拭えない。
こういう時は研究班の手伝いでもすればいいとは思うが、以前一度手伝ったときに薬品の瓶を割ったりその他諸々に足を引っ張ってしまったこともあって何となく申し出ることができない。
ソーマのように読書が趣味ならば本を読む事も出来る、だが俺は——いい加減にしつこいし言い飽きたからいいか。
兎に角、俺は何もすることがなかった。
今日もまた、暇を持て余して最早恒例となってしまっている本部内の散歩をしていた。ラスターさんやサイラスのように毎日手合わせするなんてできないしそこまでの体力もない。
サイラスは手合わせし終わったらさっさと寝てしまうし。あそこまで眠りに落ちるのが早いと、逆に見ていて清々しささえ覚える。どうやって寝ているのか訊きたいくらいだ。
頭を掻くと、俺はないと落ち着かないからという理由で背負っている闇霧を背負い直した。
それから、腰にある拳銃の位置も確認する。何となく、というのだろうか。二つとも揃っていないと落ち着かない。自分でも不思議だと思う。
今度は頭を掻いた手とは違う手で口を覆い、欠伸をする。寝ている筈なのにどうにも眠気が取れてくれない。これが春なら、春眠暁を覚えずだとか五月病だとか言い訳できるが。
目に浮かんだ涙を指の背で拭うと同時に、背中に衝撃が走った。
凄く在り来たり……というか、今まで何回も経験しすぎた展開だ。数日前に、全く同じ事をされている。
振り返れば、そこにいるのは予想を裏切らないパステルカラーの水色の髪をした男。勿論それはアイドでしかない。
「……何回目だよこの展開は……!」
絞り出すように、彼を恨めしそうに睨み付けて言ってやる。本当に何回目だ、これで。
「何回目だろうなー、俺も覚えてないな」
冗談だと気付いていないのかそれとも解っている上でそんな事を言っているのか、アイドは真面目な表情で真面目に答えてくれた。これは彼の性格からして後者と考えるのが的確だろう。
それにしても、何故アイドはいつも背後から近付いてくるのか。偶然なのか故意的なのかよく解らない。
まあアイドの行動がよく解らないのは何時も通り、今まで通りだからそこまで気にしなくても大丈夫か。
そこでふと彼の背後に視線をやれば、正に『何をしているんだ』とでも言いたげな目で俺とアイドのやり取りを見ているシェイド大佐が立っていた。
「……何でシェイド大佐まで居るんですか?」
彼がアイドと共に行動している理由がどうしても分からず、俺は恐る恐る問い掛けてみる。というか、二人とも接点やら交流やら付き合いがあったのか?
「別に何も付き合いはない初対面なんだが……ただ呼ばれたからついて行っているだけだ。渡したい物があると言われてな。恐らくお前にも同じ用件だろう。……そうだな、研究員」
「いや、アイドな。まあ平たく言えばそうだな。大佐とお前に渡したい物があったんだよ」
まるで俺の心を見透かしたようにシェイド大佐は初対面だと言うことを明かし、簡潔に理由を言ってくれた。
研究員、と言われた本人はそれを速攻で訂正すると俺の肩をぽんぽんと叩いてくる。
彼が渡したい物、というのは一体何なのだろう。それもラスターさんやソーマにはなしで俺とシェイド大佐の二人だけに。到底見当も付かない。
「兎に角ついてきてくれ、あっちに着いてからじゃないと渡せないんだ」
「……あっちと言われても解るか……」
特定の固有名詞ではない言葉で言われ、アイドの背後にいるシェイド大佐は呆れ果てたように肩を落とすと諦めきったような声で呟いた。
アイドは言い残すとさっさと人の間を縫ってどこかへと歩いていく。このまま着いていかなかったら逆に自分達はアイドを捜し出せずに迷って、結局彼が渡したかった物も受け取れずに日が暮れてしまうかも知れない。
いや、日が暮れるは大袈裟か。
「……仕方がない、早くついて行くぞ。見失うなんて冗談ではないからな」
既に気持ちを切り替えているのか、シェイド大佐はアイドに習って人の波を掻き分けて進んでいく。
よく思っていたが、彼は切り替えが早いと思う。軍人だから当たり前かもしれないが。——と、思うのは俺の勝手な偏見だろうか。
そこで指向を打ち切り、俺はその雑念を振り払うように緩く頭を振る。それから顔を上げ、既に遠ざかっているシェイド大佐の後ろ姿を目指して止まっていた足を再び踏み出した。
結局、アイドについて行って到着したのは研究室だった。最初に研究室に行くと言っておいてくれれば、ここまで慌てずとも済んだものを。終わったことをとやかく言うのもしつこいだけだろうから、これは心の中にしまい込んでおく事に決めた。うん。
シェイド大佐と二人で研究室の扉をくぐり、中に入る。それから、邪魔にならない辺りに立った。
別に忙しそうな訳でもないし、何か薬品を零したり何かに引火した、といった騒ぎでもない。それもアイドが殆ど焦っていなかったのだからそのような事ではないと理解できる。
何回も言うが、ならば彼は何故俺達だけを呼んだのか。
研究室に入った瞬間に奥の方へと駆け出していってしまったアイドを待つ間、俺とシェイド大佐は手持ちぶさたでぽつんとその場に残された。
「……それにしても、何なんですかね?」
このまま黙っていれば、また重苦しい沈黙が場を支配してしまう。いや、実際は沈黙ではない。研究員達の声や物音も聞こえている。だが、自分達の間に流れるのは静寂だ。
普段からそこまで話すような人間ではない彼から口を開くのを待つよりも、自分が話を振った方が良い。そう考え、俺はそんな心の内を悟られないよう尋ねてみた。
「オレが訊きたい。予想も出来ないからな」
腕を組み、シェイド大佐はその薄い黄色の眼をこちらに向けることなく短く答える。その視線は、奥で何やら探しているアイドが居るらしい半開きの扉に向けられている。
自分も彼と同じだ。何なのか全く予想できない。
それから数分経ってから、やっとアイドが扉の向こうの倉庫らしき部屋から姿を現した。
その手には、何やら黒い箱がある。大きさとしてはそこまで大きな物でもない。小さめのクッキーの缶程度のものだ。
「いやー、悪かった。見付けるのに手間取ってなー。何で俺あんな所入れたんだろ」
いや、そんな事言われても知らないぞ。
照れたように笑いながら現実離れした水色の髪を掻き上げ、アイドはその黒い箱を何故だか俺に差し出してくる。
「……何で俺?」
「何となく」
何となくなんて理由にならないだろう、どれだけアバウトな理由なんだ。
それでも差し出されてしまった手前受け取らないわけにもいかず、渋々それを手に取る。
箱の重さに、俺は思わず眉を顰めてしまった。大きさとしてはそこまで大きくないのにずっしりと重いそれは、金属を思い起こさせた。
これを開けてもいいのか、とアイドに目線で訊いてみれば、彼は笑顔のままで頷く。
その肯定を確認してから、中に入っているものを弾みで落としてしまわないように蓋を開けた。
中に入っていたのは、最早見慣れてしまった何の変哲もないただの銃弾。それがしっかりと整頓して並べられていた。弾数は恐らく百は軽く越えている。
「……銃弾か。こんな平凡な物を渡す為だけに呼んだ訳ではない。……そうだろう?」
シェイド大佐は箱の中から一つの銃弾を摘むとそれを数秒ほど観察した後にそれを箱の中に戻すとアイドに視線を注いだ。
「勿論。数日前の報告の事知って速攻で作ったんだよ。——機械人形でも撃ち抜けるような奴を」
それこそ不敵な、と表すのが的確だろう笑みを浮かべた彼は言い、銃弾を手に取るとそれを空中に放ったり受け止めたりを繰り返す。
「普通の銃弾なら殆どダメージも負わせられないだろ? 機械人形に対しては貫通する程の殺傷力。勿論普通に使うこともできるから汎用性も高い。確か銃を持ってたのは二人だけだったからな」
確かに、普通の銃弾を雨のように受けて尚アレスは直立不動のままだった。当然と言えば当然の事だ。それに彼は痛覚がないのを良いことに堂々と鎌の刃や刀身を堂々と手で受け止めてくる。
「成る程、それでオレとヘメティだけが呼ばれたという事か」
シェイド大佐は得意げに話すアイドに納得したように頷く。これで何故俺達だけが呼び出されたのかという謎が解けた。
「そういう事。それじゃ、是非活用してくれよ。それと突貫作業みたいなモンだったからその弾数しか作れなかったけど、後々数は増やすつもりだからな。もう銃に入れておいてくれて構わないぜ?」
彼の最後の一文を聞いたシェイド大佐が、突然その場に跪く。何かあったのかと視線を注いでみれば、彼は自分の軍服のベルトに手を掛けていた。
「……大佐?」
「……銃に入れておいて良い、という事は『全ての銃』と取って大丈夫だろうな?」
「あ? ああ、大丈夫だ。全部に入れておいて大丈夫だ。……つっても、そんなに持ってる訳じゃないだろ?」
一度手を止め、彼はアイドを見上げて尋ねる。尋ねられた本人は何のことでもないように頷くと表情を崩して笑った。
持っていても三、四丁程度だろう。そういえばシェイド大佐はライフルも使っていたが、最近は拳銃ばかり使っている気がする。
そんな数丁程度、という俺とアイドの予想を、彼は悉く裏切ってくれた。
シェイド大佐が軍服の上着を脱ぎ、軽く手を入れて何かを掻き出したかと思えば研究室に響く金属同士が擦れ合う音。それが彼の持っている短銃やら拳銃から発せられている物だと気付くのに数秒ほど時間がかかった。
彼の前には黒光りする銃器が山を作っている。それだけでは飽きたらず、シェイド大佐は更に腰のホルスターからも拳銃を取り出した。
「……これで全てだ。ヘメティ、箱を貸せ」
「……大佐、どれだけ持ってるんですか……」
金属の塊が作り出す山を見て、俺は若干引きながらも箱を渡して訊いてみる。アイドは唖然として何も言えずにいた。
十丁なんて物ではない。その倍程度はある。一体これだけの銃器をぶら下げてどうやってあんな身軽に動いていたのか。
「数えたことが無いから正確には解らないが、二十丁近くはある……だろうな」
だからどうやってそれだけの重量で行動していたんですか。そんな俺の更なる問いは言葉になることはなく、そのまま胸の中で消えていく。
兎に角、言えること……もとい思ったのは『軍人って凄いんだな』という事。偏見が入っているかも知れないが、シェイド大佐に対してこう思ったのは事実だ。
彼に習って、自分も銃に弾を込めていく。すっかり圧倒されてしまったらしいアイドは呆然と突っ立っているだけで、何も言葉を発そうとはしない。
俺が弾を込め終わってからも、シェイド大佐は黙々と全ての銃に弾を入れ続けている。その姿は内職をしているようにも見える。そこでふと彼の特技である裁縫と洋裁を思い出し、案外似合うのかも知れないと思い直す。
「……大佐、手伝いますか?」
「いや、大丈夫だ。そろそろ終わる」
その言葉通り、数分と経たずにシェイド大佐は全ての銃に弾を込め終わった。箱の中の銃弾は七、八割程なくなっている。
彼はそれをまたもや黙々と適当に羽織った軍服の上着、その元あった所にしまい込んでいく。それも終わってから、彼は漸く短く息を吐いてアイドを見た。
「感謝する。これでかなり戦況も変わりそうだ」
「ハハッ、そりゃ何よりだ」
彼が笑いながら言い終わった瞬間、耳を劈くような警報が鳴り響いた。
殆ど俺も聞いたことがない警報音に、一瞬にして空間全体が緊張感を持つ。シェイド大佐は既にどこから取り出したのか短銃を片手に持っていた。
「何、だ……!?」
どこからか僅かに悲鳴やざわめきも警報音に掻き消されそうになりながらも聞こえてきて、その声に自分の心が焦燥感で満たされていくのを感じる。
「……この状況で考えるなら……侵入者、と考えるのが妥当だろうな。階下から派手な銃声も何も聞こえないとなると……相手は数人、か」
この状況でも冷静に思考を巡らせて推測を述べるシェイド大佐の姿を、俺はこんな状況だというのに呆然と見つめる。
何故そこまで冷静に考えられるのだろう。自分ならば、情けないことだがそんな事はできそうにない。絶対に焦って、自分から飛び出していってしまうに違いない。
やはりこれは経験の差、なのか。
「——非戦闘要員は避難通路があるのならそれで避難しろ。オレは勿論下に行く。良いな、『研究班班長』」
「だからアイドだ。……ああ、解ってるさ。死ぬなよ」
短く言葉を交わしてから、アイドは残っている研究員達に指示を出すために踵を返した。
「……訊くまでもないだろうが、お前はどうする」
アイド達と共に逃げるか、それとも彼と下に行って戦うか。それをシェイド大佐は問うているのだとすぐに理解できる。
考えている暇もないし、考える意味もない。逃げるなんて真似はしたくないし、彼を、仲間を一人で行かせたくはなかった。
「……行きます。……逃げたくないんです」
もうこれ以上逃げていたくない、目を背けていたくない。だからこそ、自分は戦う事を選んだ。
俺の答えを聞き、シェイド大佐は「解った」と短く肯定を示すとすぐに踵を返し、研究室の扉へと向かっていく。
背中に背負ったままの闇霧を鞘から引き抜き、それを肩に担ぐと俺も彼の後に続いて足を踏み出した。
そろそろ本気で更新速度を速めないと。
テイルズバトンやりたいのにできないよ…浮かばないよ…orz
RELAYS - リレイズ - 63 【急襲】
数日間、本当にゆっくりとした時間が流れていた。任務が来ないのも当然の事、目立った動きも本当にない。
ゆっくりとした時間も一日二日は楽しめた。だがそれを過ぎるとどうしても退屈、暇としか思わなくなってしまう。
しょっちゅうソーマやシェイド大佐達と手合わせをして自分の力量を計ってみたものの、退屈や暇は拭えない。
こういう時は研究班の手伝いでもすればいいとは思うが、以前一度手伝ったときに薬品の瓶を割ったりその他諸々に足を引っ張ってしまったこともあって何となく申し出ることができない。
ソーマのように読書が趣味ならば本を読む事も出来る、だが俺は——いい加減にしつこいし言い飽きたからいいか。
兎に角、俺は何もすることがなかった。
今日もまた、暇を持て余して最早恒例となってしまっている本部内の散歩をしていた。ラスターさんやサイラスのように毎日手合わせするなんてできないしそこまでの体力もない。
サイラスは手合わせし終わったらさっさと寝てしまうし。あそこまで眠りに落ちるのが早いと、逆に見ていて清々しささえ覚える。どうやって寝ているのか訊きたいくらいだ。
頭を掻くと、俺はないと落ち着かないからという理由で背負っている闇霧を背負い直した。
それから、腰にある拳銃の位置も確認する。何となく、というのだろうか。二つとも揃っていないと落ち着かない。自分でも不思議だと思う。
今度は頭を掻いた手とは違う手で口を覆い、欠伸をする。寝ている筈なのにどうにも眠気が取れてくれない。これが春なら、春眠暁を覚えずだとか五月病だとか言い訳できるが。
目に浮かんだ涙を指の背で拭うと同時に、背中に衝撃が走った。
凄く在り来たり……というか、今まで何回も経験しすぎた展開だ。数日前に、全く同じ事をされている。
振り返れば、そこにいるのは予想を裏切らないパステルカラーの水色の髪をした男。勿論それはアイドでしかない。
「……何回目だよこの展開は……!」
絞り出すように、彼を恨めしそうに睨み付けて言ってやる。本当に何回目だ、これで。
「何回目だろうなー、俺も覚えてないな」
冗談だと気付いていないのかそれとも解っている上でそんな事を言っているのか、アイドは真面目な表情で真面目に答えてくれた。これは彼の性格からして後者と考えるのが的確だろう。
それにしても、何故アイドはいつも背後から近付いてくるのか。偶然なのか故意的なのかよく解らない。
まあアイドの行動がよく解らないのは何時も通り、今まで通りだからそこまで気にしなくても大丈夫か。
そこでふと彼の背後に視線をやれば、正に『何をしているんだ』とでも言いたげな目で俺とアイドのやり取りを見ているシェイド大佐が立っていた。
「……何でシェイド大佐まで居るんですか?」
彼がアイドと共に行動している理由がどうしても分からず、俺は恐る恐る問い掛けてみる。というか、二人とも接点やら交流やら付き合いがあったのか?
「別に何も付き合いはない初対面なんだが……ただ呼ばれたからついて行っているだけだ。渡したい物があると言われてな。恐らくお前にも同じ用件だろう。……そうだな、研究員」
「いや、アイドな。まあ平たく言えばそうだな。大佐とお前に渡したい物があったんだよ」
まるで俺の心を見透かしたようにシェイド大佐は初対面だと言うことを明かし、簡潔に理由を言ってくれた。
研究員、と言われた本人はそれを速攻で訂正すると俺の肩をぽんぽんと叩いてくる。
彼が渡したい物、というのは一体何なのだろう。それもラスターさんやソーマにはなしで俺とシェイド大佐の二人だけに。到底見当も付かない。
「兎に角ついてきてくれ、あっちに着いてからじゃないと渡せないんだ」
「……あっちと言われても解るか……」
特定の固有名詞ではない言葉で言われ、アイドの背後にいるシェイド大佐は呆れ果てたように肩を落とすと諦めきったような声で呟いた。
アイドは言い残すとさっさと人の間を縫ってどこかへと歩いていく。このまま着いていかなかったら逆に自分達はアイドを捜し出せずに迷って、結局彼が渡したかった物も受け取れずに日が暮れてしまうかも知れない。
いや、日が暮れるは大袈裟か。
「……仕方がない、早くついて行くぞ。見失うなんて冗談ではないからな」
既に気持ちを切り替えているのか、シェイド大佐はアイドに習って人の波を掻き分けて進んでいく。
よく思っていたが、彼は切り替えが早いと思う。軍人だから当たり前かもしれないが。——と、思うのは俺の勝手な偏見だろうか。
そこで指向を打ち切り、俺はその雑念を振り払うように緩く頭を振る。それから顔を上げ、既に遠ざかっているシェイド大佐の後ろ姿を目指して止まっていた足を再び踏み出した。
結局、アイドについて行って到着したのは研究室だった。最初に研究室に行くと言っておいてくれれば、ここまで慌てずとも済んだものを。終わったことをとやかく言うのもしつこいだけだろうから、これは心の中にしまい込んでおく事に決めた。うん。
シェイド大佐と二人で研究室の扉をくぐり、中に入る。それから、邪魔にならない辺りに立った。
別に忙しそうな訳でもないし、何か薬品を零したり何かに引火した、といった騒ぎでもない。それもアイドが殆ど焦っていなかったのだからそのような事ではないと理解できる。
何回も言うが、ならば彼は何故俺達だけを呼んだのか。
研究室に入った瞬間に奥の方へと駆け出していってしまったアイドを待つ間、俺とシェイド大佐は手持ちぶさたでぽつんとその場に残された。
「……それにしても、何なんですかね?」
このまま黙っていれば、また重苦しい沈黙が場を支配してしまう。いや、実際は沈黙ではない。研究員達の声や物音も聞こえている。だが、自分達の間に流れるのは静寂だ。
普段からそこまで話すような人間ではない彼から口を開くのを待つよりも、自分が話を振った方が良い。そう考え、俺はそんな心の内を悟られないよう尋ねてみた。
「オレが訊きたい。予想も出来ないからな」
腕を組み、シェイド大佐はその薄い黄色の眼をこちらに向けることなく短く答える。その視線は、奥で何やら探しているアイドが居るらしい半開きの扉に向けられている。
自分も彼と同じだ。何なのか全く予想できない。
それから数分経ってから、やっとアイドが扉の向こうの倉庫らしき部屋から姿を現した。
その手には、何やら黒い箱がある。大きさとしてはそこまで大きな物でもない。小さめのクッキーの缶程度のものだ。
「いやー、悪かった。見付けるのに手間取ってなー。何で俺あんな所入れたんだろ」
いや、そんな事言われても知らないぞ。
照れたように笑いながら現実離れした水色の髪を掻き上げ、アイドはその黒い箱を何故だか俺に差し出してくる。
「……何で俺?」
「何となく」
何となくなんて理由にならないだろう、どれだけアバウトな理由なんだ。
それでも差し出されてしまった手前受け取らないわけにもいかず、渋々それを手に取る。
箱の重さに、俺は思わず眉を顰めてしまった。大きさとしてはそこまで大きくないのにずっしりと重いそれは、金属を思い起こさせた。
これを開けてもいいのか、とアイドに目線で訊いてみれば、彼は笑顔のままで頷く。
その肯定を確認してから、中に入っているものを弾みで落としてしまわないように蓋を開けた。
中に入っていたのは、最早見慣れてしまった何の変哲もないただの銃弾。それがしっかりと整頓して並べられていた。弾数は恐らく百は軽く越えている。
「……銃弾か。こんな平凡な物を渡す為だけに呼んだ訳ではない。……そうだろう?」
シェイド大佐は箱の中から一つの銃弾を摘むとそれを数秒ほど観察した後にそれを箱の中に戻すとアイドに視線を注いだ。
「勿論。数日前の報告の事知って速攻で作ったんだよ。——機械人形でも撃ち抜けるような奴を」
それこそ不敵な、と表すのが的確だろう笑みを浮かべた彼は言い、銃弾を手に取るとそれを空中に放ったり受け止めたりを繰り返す。
「普通の銃弾なら殆どダメージも負わせられないだろ? 機械人形に対しては貫通する程の殺傷力。勿論普通に使うこともできるから汎用性も高い。確か銃を持ってたのは二人だけだったからな」
確かに、普通の銃弾を雨のように受けて尚アレスは直立不動のままだった。当然と言えば当然の事だ。それに彼は痛覚がないのを良いことに堂々と鎌の刃や刀身を堂々と手で受け止めてくる。
「成る程、それでオレとヘメティだけが呼ばれたという事か」
シェイド大佐は得意げに話すアイドに納得したように頷く。これで何故俺達だけが呼び出されたのかという謎が解けた。
「そういう事。それじゃ、是非活用してくれよ。それと突貫作業みたいなモンだったからその弾数しか作れなかったけど、後々数は増やすつもりだからな。もう銃に入れておいてくれて構わないぜ?」
彼の最後の一文を聞いたシェイド大佐が、突然その場に跪く。何かあったのかと視線を注いでみれば、彼は自分の軍服のベルトに手を掛けていた。
「……大佐?」
「……銃に入れておいて良い、という事は『全ての銃』と取って大丈夫だろうな?」
「あ? ああ、大丈夫だ。全部に入れておいて大丈夫だ。……つっても、そんなに持ってる訳じゃないだろ?」
一度手を止め、彼はアイドを見上げて尋ねる。尋ねられた本人は何のことでもないように頷くと表情を崩して笑った。
持っていても三、四丁程度だろう。そういえばシェイド大佐はライフルも使っていたが、最近は拳銃ばかり使っている気がする。
そんな数丁程度、という俺とアイドの予想を、彼は悉く裏切ってくれた。
シェイド大佐が軍服の上着を脱ぎ、軽く手を入れて何かを掻き出したかと思えば研究室に響く金属同士が擦れ合う音。それが彼の持っている短銃やら拳銃から発せられている物だと気付くのに数秒ほど時間がかかった。
彼の前には黒光りする銃器が山を作っている。それだけでは飽きたらず、シェイド大佐は更に腰のホルスターからも拳銃を取り出した。
「……これで全てだ。ヘメティ、箱を貸せ」
「……大佐、どれだけ持ってるんですか……」
金属の塊が作り出す山を見て、俺は若干引きながらも箱を渡して訊いてみる。アイドは唖然として何も言えずにいた。
十丁なんて物ではない。その倍程度はある。一体これだけの銃器をぶら下げてどうやってあんな身軽に動いていたのか。
「数えたことが無いから正確には解らないが、二十丁近くはある……だろうな」
だからどうやってそれだけの重量で行動していたんですか。そんな俺の更なる問いは言葉になることはなく、そのまま胸の中で消えていく。
兎に角、言えること……もとい思ったのは『軍人って凄いんだな』という事。偏見が入っているかも知れないが、シェイド大佐に対してこう思ったのは事実だ。
彼に習って、自分も銃に弾を込めていく。すっかり圧倒されてしまったらしいアイドは呆然と突っ立っているだけで、何も言葉を発そうとはしない。
俺が弾を込め終わってからも、シェイド大佐は黙々と全ての銃に弾を入れ続けている。その姿は内職をしているようにも見える。そこでふと彼の特技である裁縫と洋裁を思い出し、案外似合うのかも知れないと思い直す。
「……大佐、手伝いますか?」
「いや、大丈夫だ。そろそろ終わる」
その言葉通り、数分と経たずにシェイド大佐は全ての銃に弾を込め終わった。箱の中の銃弾は七、八割程なくなっている。
彼はそれをまたもや黙々と適当に羽織った軍服の上着、その元あった所にしまい込んでいく。それも終わってから、彼は漸く短く息を吐いてアイドを見た。
「感謝する。これでかなり戦況も変わりそうだ」
「ハハッ、そりゃ何よりだ」
彼が笑いながら言い終わった瞬間、耳を劈くような警報が鳴り響いた。
殆ど俺も聞いたことがない警報音に、一瞬にして空間全体が緊張感を持つ。シェイド大佐は既にどこから取り出したのか短銃を片手に持っていた。
「何、だ……!?」
どこからか僅かに悲鳴やざわめきも警報音に掻き消されそうになりながらも聞こえてきて、その声に自分の心が焦燥感で満たされていくのを感じる。
「……この状況で考えるなら……侵入者、と考えるのが妥当だろうな。階下から派手な銃声も何も聞こえないとなると……相手は数人、か」
この状況でも冷静に思考を巡らせて推測を述べるシェイド大佐の姿を、俺はこんな状況だというのに呆然と見つめる。
何故そこまで冷静に考えられるのだろう。自分ならば、情けないことだがそんな事はできそうにない。絶対に焦って、自分から飛び出していってしまうに違いない。
やはりこれは経験の差、なのか。
「——非戦闘要員は避難通路があるのならそれで避難しろ。オレは勿論下に行く。良いな、『研究班班長』」
「だからアイドだ。……ああ、解ってるさ。死ぬなよ」
短く言葉を交わしてから、アイドは残っている研究員達に指示を出すために踵を返した。
「……訊くまでもないだろうが、お前はどうする」
アイド達と共に逃げるか、それとも彼と下に行って戦うか。それをシェイド大佐は問うているのだとすぐに理解できる。
考えている暇もないし、考える意味もない。逃げるなんて真似はしたくないし、彼を、仲間を一人で行かせたくはなかった。
「……行きます。……逃げたくないんです」
もうこれ以上逃げていたくない、目を背けていたくない。だからこそ、自分は戦う事を選んだ。
俺の答えを聞き、シェイド大佐は「解った」と短く肯定を示すとすぐに踵を返し、研究室の扉へと向かっていく。
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そろそろ本気で更新速度を速めないと。
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赤闇銀羽
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性別:
非公開
職業:
ソルジャー1st
趣味:
妄想!
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こちらは更新凍結しました
サイトにて活動中。
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FF、DMC、TOAをメインにやる予定だったのに何かオリジナル増えそう。
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