I permanently serve you. NeroAngelo
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作業用BGM:初音ミク ローリンガール
RELAYS - リレイズ - 62 【暇】
あの後、俺はすることもなく歩き回っていた。端から見ればただの暇人だ。実際暇だったのだから、その表現は間違っていないと思う。
恐らく皆は既に自分の部屋に戻っているらしく、一人も姿が見えない。アイドやホリックさん達も、まだ話が終わっていないようだった。
そうなると、もうすることがない。だからといって部屋に戻って寝るのもどうかと思ってしまう。
頭を掻きながら、俺は堂々巡りに近い思考を繰り返していた。色々と考えすぎて頭痛がしてきそうだ。ただでさえ時折頭痛に襲われるしデジャヴだって感じているのに。
と、そこでふと以前自分でも感じたことを思い出した。
俺は記憶喪失、それは確かだ。だが記憶を失った原因が未だに不明。俺が覚えていないのだから仕方がないが、これがまた奇妙なのだ。
頭部に強い衝撃を受ければ記憶が飛ぶという事もあるようだったが、俺の場合は頭部に傷があるわけでもない。要するに、そのような衝撃で失ったという訳ではないらしい。
それに頭が痛むといっても表面上で痛むような、傷が痛む感じではない。頭の奥底から何かが響いてくるような、そんな感じだ。
最近はないからいいものの、頻繁に起こっていた時期は地獄だった。鎮痛剤だって効きやしない。結局何もできなかったから周囲の人間にかなり迷惑を掛けた、何て事を懐かしく思う。
考え事をしながら歩いていた所為か、無意識の内に俺の足は色々なところをふらふら彷徨っていたらしい。
先程とは明らかに違う景色、それに入れ替わり立ち替わり変わっていく人混み。
白衣を着た研究員が圧倒的に多いが、その他にも話をしたこともない魔術師達や能力者達らしき人間も居る。本当に本部には人が多いのだと再認識させられた。
階段を宛もなく、リズムに乗って上っていく。この行動に意味はない。もしかすれば、ただ階段の上り下りを繰り返している変な人間にも見える……かもしれない。俺だって今の自分のような行動を取っている人間が居たらそう思ってしまいそうだ。
そこまで考え、自分の行動が周りから見れば異常すぎる事をやっと悟る。幾ら暇だからってこれはない。
俺は元来た道を戻ろうと踵を返しかけるが、視界の端を掠めた何かに動きを止めた。
ちらりとそちらに視線を向ければ、そこには活字、それこそ本当に飾り気のない活字で『談話室』とだけ書かれていた。ダグラスさんの司令室の前にある看板とは大違いのシンプルさだ。
そういえば、談話室というものがあるのは知っていたが訪れたことはなかった。というか、来る理由も見当たらなかったというべきだろうか。
アイドとならば研究室で立ち話する程度で十分だし、ソーマは勿論気軽に話すような人間でもない。数えてみれば、案外気軽に話せる人間は少なかった。
丁度暇だったからと理由づけて、俺は何の気なしに談話室へと足を向ける。躊躇することもなく、看板と同じ簡素な両開きの扉を開けた。
談話室はやはり多くの人間が出入りする為か、かなり広々としていた。とはいっても、予想通り人が多い所為でそこまで広く見えないが。ただ、広さはある。
多くはそのまま立ち話をしているが、やはり座る為に所々にソファやテーブルも置かれている。中には簡素な椅子だけが置いてある場所もあった。
談話室、というよりは集会所を喚起させるその中を、これまた宛もなく突き進んでみる。誰か知り合いに出会ったら話せばいいし、もしも誰も見当たらなかったらそのときこそ戻ればいい。
目にかかる前髪を適当に手で払い、地面に落としていた視線を水平に戻す。
それと同時に、見慣れた後ろ姿が目に飛び込んできた。
黒いジャケットに黒いスラックス、その黒に良く映える焔のようなと表すのが的確だろう長い赤髪。俺が知っている赤髪の人間なんて殆どいない。おかげで、すぐに誰なのか特定できた。
ファンデヴはその手に何かを持って、誰彼構わず——というのは失礼かも知れないが、会った人全員に何らかを尋ねているようだった。
彼女は手に持っているものを見ながら俺の方へと歩いてくる。どうやら、まだこちらには気付いていないらしい。
「……ファンデヴ、どうしたんだ?」
声を掛けてみれば、ファンデヴはやはり今気付いたと言わんばかりの表情で顔を上げ、俺を見てきた。
「……いや、ただ少し、訊いて回ってた。これだけ人が居れば、一人くらいは知ってるんじゃないか、って」
その言葉の意味が一瞬解らなかったが、彼女の手にあるものを見てすぐに理解できた。
最初に俺に会ったときにも訊いてきた、今現在行方不明になっている自分の兄についての事だろう。
ファンデヴは少し古いと思われる程度の写真を無言で俺に差し出してくる。見てくれ、という事だろうか。
素直にそれを受け取り、目を通してみる。それには殺風景な白い壁を背に立つ一人の男性の姿が写っていた。
彼女とは違い、暗い赤……それこそ、表現が悪いかも知れないが血のような色をした赤髪をオールバックにしている。長髪らしく、肩には低い位置で一まとめにした髪が垂れていた。服装は、それこそ社員達が着るような黒スーツ。白いシャツのボタンは第二ボタンまで開け放たれ、青いネクタイを緩めに締めている。
格好は別に特別な物ではなかったが、彼の整った顔には表情が浮かんでいなかった。彼女とは若干違うらしい色合いの目は普通の人間の目にあるような光ではなく、何か別の感情で輝いている。
ファンデヴの兄である彼のそんな風貌に、目を奪われていた。美しい物に惹かれるような感じではなく、恐ろしい物から目を離せないような感覚に似ている。
「……2,3年前の写真だから殆ど役に立たないかもしれない、けど。……知らない?」
「え? あー……悪い、知らないんだ。悪いな」
気付けば食い入るように見つめていた事に気づき、俺は顔を上げるとそれをファンデヴに返す。
彼女はそれをジャケットのポケットに入れると、短く息を吐いた。口には出していない物の、やっぱりかと思っている事がありありと解ってしまい、更に何となく申し訳なくなってしまう。
「……なあ、その……お兄さんってどんな人だったんだ?」
気紛れでこんな事を訊いていいものかどうか若干悩んだが、どうしても訊いてみたかった。彼がどのような人間だったのか。彼がどのような人柄だったのか。
ファンデヴは怪訝そうに見返し、傍にあった椅子に座った。丁度空いていた隣に俺も腰を下ろす。
「どんな……何て表せばいいのか、解らない。……ただ、自分は兄さんを救えなかった」
抽象的すぎる言葉でどういう意味なのか聞き返したかったが、彼女が悲しそうに目を伏せた事もあり訊くことができなかった。他人の傷を抉るような真似はしたくない。
「……ああ、ごめん。気にしなくて良い。上手く教えられないんだ」
そんな俺の心境を察してくれたのかそうでないのか、ファンデヴは片手を上げて言ってくれた。彼女なりの気遣い、と取って大丈夫だろうか。
気にしなくていいと言われても、やはり少しでも気にしてしまう。これが俺の性分なのだと自分でも解っている分タチが悪い。直したいが、この不安症じみたこれはどうしても直せないらしかった。
突然ファンデヴが音も立てずに立ち上がる。それに若干ではあるが驚きながら彼女を見上げれば、ジャケットの襟を正していた。
「……そろそろ自分は戻るけど、どうする?」
ファンデヴは恐らく、本当に自分の兄のことを訊く為にこの談話室を訪れたのだろう。誰もが知らないというのなら、最早彼女は居る理由もないと考えているようだった。
俺も、別に話したい相手もいない。暇潰しの為に入っただけで、何の理由もなかった。
「俺も戻る。誰も居ないし、部屋に戻ってホントに寝るか何かする」
寝るのは別にいいが、夜中に眠れなくなる可能性もある。できれば違うことが良いが、例によって俺は読書嫌いだ、何もすることがない。
それでも、ただ暇を持て余すよりはマシだろうと考えての結論だった。寝る。これでいい。
俺の答えを聞いてから頷いたファンデヴの後ろに付き、俺も談話室を出る。まだ耳に大勢の人間の話し声が残響のように残っていたが、気にしない。
「それじゃあ、また。……多分、明日も会う」
「そう、だな。……また明日」
彼女の言うとおり、恐らく明日も自分はファンデヴと顔を合わせるのだろう。
俺は軽く手を振ると、ファンデヴとは別方向にある自室へと足を向けた。
ある程度の広さがある部屋の中心に、二人の男が立っていた。
一人は赤いロングコートを羽織った青年、もう一人が黒い燕尾服を着用した男。男は青年に添い従うように傍に立っている。
二人の間に会話はなく、静寂だけが室内を包んでいる。時折男が銀色の懐中時計で時刻を確認する以外、目立った動きもない。
そんな静寂を破ったのは、荒々しく扉が開け放たれる音だった。その残響に被さるようにして、この場に似付かわしくないとも思える足音が響く。
不機嫌そうに足音を立てながら歩いている張本人である男もまた燕尾服を身に纏っていたが、雰囲気は燕尾服などという服を着る人間とは思えないようなものだった。
「——今回は遅れなかったのか、貴様にしては珍しい」
皮肉を交えてアレスが言い、慣れない燕尾服をまだ気にしているらしい男に嘲笑を向ける。馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりに。
「ハッ、黙れよ女顔」
酷く不釣り合いな、子供じみた反論だった。アレスは子供臭いと理解しているのに反応しそうになる身体と自分を恨んだ。ここで軽くやり過ごせればいいが、どうにも自分はそうできないらしい、という自嘲も。
男は黒に近い茶髪を揺らしながら、隣にいる青年に眼をやる。
「……何も変わってねぇな、マーヴィン」
喉の奥で笑い、まるで小馬鹿にするように声を掛ける。世界の支配者と言っても過言ではない地位に居る人間に対する態度ではなかった。それでも男には、敬う気すらない。
「君もね、ハウンド」
そんなハウンドに気を悪くした素振りも見せず、マーヴィンはにこにこと笑みを浮かべた。その笑みはどこか作り笑いのようで、真意が読めない不確かなものだった。
全く気分を害したように見えない自分の主にアレスは心配そうな視線を向けるが、それにも彼は笑っているだけだ。
「……で、今回は車で移動するんだっけか。めんどくせぇな。……ま、しょうがねーか」
「解っているのなら文句を言うな」
「……どうして君達は会えばいつもそうなのかな。別に良いけど」
嫌味のような皮肉のような。そのマーヴィンの呟きは彼等二人には幸いと言うべきか届かなかったらしい。会えばいつもいがみ合う二人。こうなったのは恐らく自分の所為だと解っているからか。
「——さて、もう無駄話は終わりにしよう」
白い革手袋を嵌めた手を軽く叩き、彼は未だに続いている——それどころか逆に激しさを増しているアレスとハウンドの口喧嘩を強制的に打ち切った。
それで途端に口喧嘩を止めた二人に笑みを深め、マーヴィンは鮮血のように赤いコートを翻して歩き出す。
「さあ、行こうか。……彼等に教えてあげないとね」
今までの戦いが、単なる序曲に過ぎなかった事を。
次の次辺り書きたいよ^p^
RELAYS - リレイズ - 62 【暇】
あの後、俺はすることもなく歩き回っていた。端から見ればただの暇人だ。実際暇だったのだから、その表現は間違っていないと思う。
恐らく皆は既に自分の部屋に戻っているらしく、一人も姿が見えない。アイドやホリックさん達も、まだ話が終わっていないようだった。
そうなると、もうすることがない。だからといって部屋に戻って寝るのもどうかと思ってしまう。
頭を掻きながら、俺は堂々巡りに近い思考を繰り返していた。色々と考えすぎて頭痛がしてきそうだ。ただでさえ時折頭痛に襲われるしデジャヴだって感じているのに。
と、そこでふと以前自分でも感じたことを思い出した。
俺は記憶喪失、それは確かだ。だが記憶を失った原因が未だに不明。俺が覚えていないのだから仕方がないが、これがまた奇妙なのだ。
頭部に強い衝撃を受ければ記憶が飛ぶという事もあるようだったが、俺の場合は頭部に傷があるわけでもない。要するに、そのような衝撃で失ったという訳ではないらしい。
それに頭が痛むといっても表面上で痛むような、傷が痛む感じではない。頭の奥底から何かが響いてくるような、そんな感じだ。
最近はないからいいものの、頻繁に起こっていた時期は地獄だった。鎮痛剤だって効きやしない。結局何もできなかったから周囲の人間にかなり迷惑を掛けた、何て事を懐かしく思う。
考え事をしながら歩いていた所為か、無意識の内に俺の足は色々なところをふらふら彷徨っていたらしい。
先程とは明らかに違う景色、それに入れ替わり立ち替わり変わっていく人混み。
白衣を着た研究員が圧倒的に多いが、その他にも話をしたこともない魔術師達や能力者達らしき人間も居る。本当に本部には人が多いのだと再認識させられた。
階段を宛もなく、リズムに乗って上っていく。この行動に意味はない。もしかすれば、ただ階段の上り下りを繰り返している変な人間にも見える……かもしれない。俺だって今の自分のような行動を取っている人間が居たらそう思ってしまいそうだ。
そこまで考え、自分の行動が周りから見れば異常すぎる事をやっと悟る。幾ら暇だからってこれはない。
俺は元来た道を戻ろうと踵を返しかけるが、視界の端を掠めた何かに動きを止めた。
ちらりとそちらに視線を向ければ、そこには活字、それこそ本当に飾り気のない活字で『談話室』とだけ書かれていた。ダグラスさんの司令室の前にある看板とは大違いのシンプルさだ。
そういえば、談話室というものがあるのは知っていたが訪れたことはなかった。というか、来る理由も見当たらなかったというべきだろうか。
アイドとならば研究室で立ち話する程度で十分だし、ソーマは勿論気軽に話すような人間でもない。数えてみれば、案外気軽に話せる人間は少なかった。
丁度暇だったからと理由づけて、俺は何の気なしに談話室へと足を向ける。躊躇することもなく、看板と同じ簡素な両開きの扉を開けた。
談話室はやはり多くの人間が出入りする為か、かなり広々としていた。とはいっても、予想通り人が多い所為でそこまで広く見えないが。ただ、広さはある。
多くはそのまま立ち話をしているが、やはり座る為に所々にソファやテーブルも置かれている。中には簡素な椅子だけが置いてある場所もあった。
談話室、というよりは集会所を喚起させるその中を、これまた宛もなく突き進んでみる。誰か知り合いに出会ったら話せばいいし、もしも誰も見当たらなかったらそのときこそ戻ればいい。
目にかかる前髪を適当に手で払い、地面に落としていた視線を水平に戻す。
それと同時に、見慣れた後ろ姿が目に飛び込んできた。
黒いジャケットに黒いスラックス、その黒に良く映える焔のようなと表すのが的確だろう長い赤髪。俺が知っている赤髪の人間なんて殆どいない。おかげで、すぐに誰なのか特定できた。
ファンデヴはその手に何かを持って、誰彼構わず——というのは失礼かも知れないが、会った人全員に何らかを尋ねているようだった。
彼女は手に持っているものを見ながら俺の方へと歩いてくる。どうやら、まだこちらには気付いていないらしい。
「……ファンデヴ、どうしたんだ?」
声を掛けてみれば、ファンデヴはやはり今気付いたと言わんばかりの表情で顔を上げ、俺を見てきた。
「……いや、ただ少し、訊いて回ってた。これだけ人が居れば、一人くらいは知ってるんじゃないか、って」
その言葉の意味が一瞬解らなかったが、彼女の手にあるものを見てすぐに理解できた。
最初に俺に会ったときにも訊いてきた、今現在行方不明になっている自分の兄についての事だろう。
ファンデヴは少し古いと思われる程度の写真を無言で俺に差し出してくる。見てくれ、という事だろうか。
素直にそれを受け取り、目を通してみる。それには殺風景な白い壁を背に立つ一人の男性の姿が写っていた。
彼女とは違い、暗い赤……それこそ、表現が悪いかも知れないが血のような色をした赤髪をオールバックにしている。長髪らしく、肩には低い位置で一まとめにした髪が垂れていた。服装は、それこそ社員達が着るような黒スーツ。白いシャツのボタンは第二ボタンまで開け放たれ、青いネクタイを緩めに締めている。
格好は別に特別な物ではなかったが、彼の整った顔には表情が浮かんでいなかった。彼女とは若干違うらしい色合いの目は普通の人間の目にあるような光ではなく、何か別の感情で輝いている。
ファンデヴの兄である彼のそんな風貌に、目を奪われていた。美しい物に惹かれるような感じではなく、恐ろしい物から目を離せないような感覚に似ている。
「……2,3年前の写真だから殆ど役に立たないかもしれない、けど。……知らない?」
「え? あー……悪い、知らないんだ。悪いな」
気付けば食い入るように見つめていた事に気づき、俺は顔を上げるとそれをファンデヴに返す。
彼女はそれをジャケットのポケットに入れると、短く息を吐いた。口には出していない物の、やっぱりかと思っている事がありありと解ってしまい、更に何となく申し訳なくなってしまう。
「……なあ、その……お兄さんってどんな人だったんだ?」
気紛れでこんな事を訊いていいものかどうか若干悩んだが、どうしても訊いてみたかった。彼がどのような人間だったのか。彼がどのような人柄だったのか。
ファンデヴは怪訝そうに見返し、傍にあった椅子に座った。丁度空いていた隣に俺も腰を下ろす。
「どんな……何て表せばいいのか、解らない。……ただ、自分は兄さんを救えなかった」
抽象的すぎる言葉でどういう意味なのか聞き返したかったが、彼女が悲しそうに目を伏せた事もあり訊くことができなかった。他人の傷を抉るような真似はしたくない。
「……ああ、ごめん。気にしなくて良い。上手く教えられないんだ」
そんな俺の心境を察してくれたのかそうでないのか、ファンデヴは片手を上げて言ってくれた。彼女なりの気遣い、と取って大丈夫だろうか。
気にしなくていいと言われても、やはり少しでも気にしてしまう。これが俺の性分なのだと自分でも解っている分タチが悪い。直したいが、この不安症じみたこれはどうしても直せないらしかった。
突然ファンデヴが音も立てずに立ち上がる。それに若干ではあるが驚きながら彼女を見上げれば、ジャケットの襟を正していた。
「……そろそろ自分は戻るけど、どうする?」
ファンデヴは恐らく、本当に自分の兄のことを訊く為にこの談話室を訪れたのだろう。誰もが知らないというのなら、最早彼女は居る理由もないと考えているようだった。
俺も、別に話したい相手もいない。暇潰しの為に入っただけで、何の理由もなかった。
「俺も戻る。誰も居ないし、部屋に戻ってホントに寝るか何かする」
寝るのは別にいいが、夜中に眠れなくなる可能性もある。できれば違うことが良いが、例によって俺は読書嫌いだ、何もすることがない。
それでも、ただ暇を持て余すよりはマシだろうと考えての結論だった。寝る。これでいい。
俺の答えを聞いてから頷いたファンデヴの後ろに付き、俺も談話室を出る。まだ耳に大勢の人間の話し声が残響のように残っていたが、気にしない。
「それじゃあ、また。……多分、明日も会う」
「そう、だな。……また明日」
彼女の言うとおり、恐らく明日も自分はファンデヴと顔を合わせるのだろう。
俺は軽く手を振ると、ファンデヴとは別方向にある自室へと足を向けた。
ある程度の広さがある部屋の中心に、二人の男が立っていた。
一人は赤いロングコートを羽織った青年、もう一人が黒い燕尾服を着用した男。男は青年に添い従うように傍に立っている。
二人の間に会話はなく、静寂だけが室内を包んでいる。時折男が銀色の懐中時計で時刻を確認する以外、目立った動きもない。
そんな静寂を破ったのは、荒々しく扉が開け放たれる音だった。その残響に被さるようにして、この場に似付かわしくないとも思える足音が響く。
不機嫌そうに足音を立てながら歩いている張本人である男もまた燕尾服を身に纏っていたが、雰囲気は燕尾服などという服を着る人間とは思えないようなものだった。
「——今回は遅れなかったのか、貴様にしては珍しい」
皮肉を交えてアレスが言い、慣れない燕尾服をまだ気にしているらしい男に嘲笑を向ける。馬鹿馬鹿しい、と言わんばかりに。
「ハッ、黙れよ女顔」
酷く不釣り合いな、子供じみた反論だった。アレスは子供臭いと理解しているのに反応しそうになる身体と自分を恨んだ。ここで軽くやり過ごせればいいが、どうにも自分はそうできないらしい、という自嘲も。
男は黒に近い茶髪を揺らしながら、隣にいる青年に眼をやる。
「……何も変わってねぇな、マーヴィン」
喉の奥で笑い、まるで小馬鹿にするように声を掛ける。世界の支配者と言っても過言ではない地位に居る人間に対する態度ではなかった。それでも男には、敬う気すらない。
「君もね、ハウンド」
そんなハウンドに気を悪くした素振りも見せず、マーヴィンはにこにこと笑みを浮かべた。その笑みはどこか作り笑いのようで、真意が読めない不確かなものだった。
全く気分を害したように見えない自分の主にアレスは心配そうな視線を向けるが、それにも彼は笑っているだけだ。
「……で、今回は車で移動するんだっけか。めんどくせぇな。……ま、しょうがねーか」
「解っているのなら文句を言うな」
「……どうして君達は会えばいつもそうなのかな。別に良いけど」
嫌味のような皮肉のような。そのマーヴィンの呟きは彼等二人には幸いと言うべきか届かなかったらしい。会えばいつもいがみ合う二人。こうなったのは恐らく自分の所為だと解っているからか。
「——さて、もう無駄話は終わりにしよう」
白い革手袋を嵌めた手を軽く叩き、彼は未だに続いている——それどころか逆に激しさを増しているアレスとハウンドの口喧嘩を強制的に打ち切った。
それで途端に口喧嘩を止めた二人に笑みを深め、マーヴィンは鮮血のように赤いコートを翻して歩き出す。
「さあ、行こうか。……彼等に教えてあげないとね」
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赤闇銀羽
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職業:
ソルジャー1st
趣味:
妄想!
自己紹介:
こちらは更新凍結しました
サイトにて活動中。
手描きブログ。
FF、DMC、TOAをメインにやる予定だったのに何かオリジナル増えそう。
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