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オリジナル長編小説「RELAYS - リレイズ -」の目次です。ぶっちゃけ俺が解らなくなるからだったりするけど
1話目と30話越えた辺りだと文章がかなり違いますがそこは気にしない方向で。
第一話 【Sound of start】
第二話 【落下の先に遇うは-1】
第三話 【落下の先に遇うは-2】
第四話 【天然】
第五話 【撤退】
第六話 【帰還】
第七話 【リレイズ】
第八話 【機関】
第九話 【急速】
第十話 【出動】
第十一話 【開始】
第十二話 【拳銃】
第十三話 【再会】
第十四話 【戦闘開始】
第十五話 【発砲許可】
第十六話 【恐怖】
第十七話 【応戦】
第十八話 【危機】
第十九話 【邂逅】
第二十話 【問題】
第二十一話 【重大さ】
第二十二話 【裏側-1】
第二十三話 【裏側-2】
第二十四話 【対決】
第二十五話 【電話】
第二十六話 【一週間】
第二十七話 【手合わせ-1】
第二十八話 【手合わせ-2】
第二十九話 【5人で】
第三十話 【有り得ない】
第三十一話 【正体】
第三十二話 【対談】
第三十三話 【案内】
第三十四話 【掃除】
第三十五話 【安息】
第三十六話 【報告】
第三十七話 【束の間】
第三十八話 【慰安】
第三十九話 【異形の館-1】
第四十話 【異形の館-2】
第四十一話 【異形の館-3】
第四十二話 【死神】
第四十三話 【捕獲】
第四十四話 【訊問】
第四十五話 【過去】
第四十六話 【異形狩り】
第四十七話 【創造館】
第四十八話 【道程】
第四十九話 【嘗て】
第五十話 【郷愁】
第五十一話 【紅茶】
第五十二話 【奇襲】
第五十三話 【機械人形】
第五十四話 【愚か】
第五十五話 【助太刀、後敵】
第五十六話 【兄弟】
第五十七話 【約束】
第五十八話 【中断】
第五十九話 【謝罪】
第六十話 【隠し事】
(とんでもねー事になったので六十話より以下は追記)
1話目と30話越えた辺りだと文章がかなり違いますがそこは気にしない方向で。
第一話 【Sound of start】
第二話 【落下の先に遇うは-1】
第三話 【落下の先に遇うは-2】
第四話 【天然】
第五話 【撤退】
第六話 【帰還】
第七話 【リレイズ】
第八話 【機関】
第九話 【急速】
第十話 【出動】
第十一話 【開始】
第十二話 【拳銃】
第十三話 【再会】
第十四話 【戦闘開始】
第十五話 【発砲許可】
第十六話 【恐怖】
第十七話 【応戦】
第十八話 【危機】
第十九話 【邂逅】
第二十話 【問題】
第二十一話 【重大さ】
第二十二話 【裏側-1】
第二十三話 【裏側-2】
第二十四話 【対決】
第二十五話 【電話】
第二十六話 【一週間】
第二十七話 【手合わせ-1】
第二十八話 【手合わせ-2】
第二十九話 【5人で】
第三十話 【有り得ない】
第三十一話 【正体】
第三十二話 【対談】
第三十三話 【案内】
第三十四話 【掃除】
第三十五話 【安息】
第三十六話 【報告】
第三十七話 【束の間】
第三十八話 【慰安】
第三十九話 【異形の館-1】
第四十話 【異形の館-2】
第四十一話 【異形の館-3】
第四十二話 【死神】
第四十三話 【捕獲】
第四十四話 【訊問】
第四十五話 【過去】
第四十六話 【異形狩り】
第四十七話 【創造館】
第四十八話 【道程】
第四十九話 【嘗て】
第五十話 【郷愁】
第五十一話 【紅茶】
第五十二話 【奇襲】
第五十三話 【機械人形】
第五十四話 【愚か】
第五十五話 【助太刀、後敵】
第五十六話 【兄弟】
第五十七話 【約束】
第五十八話 【中断】
第五十九話 【謝罪】
第六十話 【隠し事】
(とんでもねー事になったので六十話より以下は追記)
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大切なことを今までずるずる先延ばしにしてました、ごめんなさい。
ツイッターの方でも結構お話しさせて頂いている待草さんとシュリさんには既にお知らせしたのですが、こちらにはまだ書き込めていませんでした。
唐突ですが、こちらのブログは更新を停止し、全ての創作をサイト「二人二脚」にて活動していく事に決定致しました。
理由は特に明確なものはありません。荒らされたというわけでもなく晒されたというわけでもなく。
何かクソ分かりづらい文章が続きますが、まだ少し。
前述したとおり理由は殆どありません。
あるとすればリレイズでしょうか。
あ、別に嫌になったとかじゃないんですよ!ほんと!
本来であれば「どうせ連載なんて続く訳ねーじゃんwwwハッwwwこのヘクトパスカルがwww」な感じだったのですが、そんな俺自身の予想に反して楽しいの何の面白いの何の。
思えば来月で2年を迎える作品にまでなっていました(半年以上放置ですが)
ソーマとかシェイドとかヘメティとか、今の自分にとってはなくてはならない子供達を生み出してくれた作品でもありますが、それ故にどうにもこの作品の世界観やストーリーの穴ぼこっぷりが許せなくなってきたのです。
書き始めた頃が未熟だったからと言えばそうですが(今も未熟だが)それでも許せない。
いっそ最初から全て解体してしまおうかと考え、それならばサイトに全て移行してしまった方が楽ではないか、と。
ちなみにもうこちらのシナリオで書き進めることはないでしょうということで色々ネタバレ。
この後はヘメティとソーマがお互いの武器を交換して戦ったり、男性一同がウィジロの軍服に変装して潜り込んだり、シェイドとアレスの一騎打ちがあったり、シェイドの離脱があったりしました。
そうです見事にずっとシェイドのターンだったんですwwwwww
ほかにも理由はあるんですよ。
ソーマの設定が膨大になりすぎてシェイドはおろかヘメティすら潰している状態だとか
ヘメティの記憶喪失ってぶっちゃけ必要ないんじゃないかとか
色々理由はあるんですよ。
余談+私事ですが
創作活動が自分のストレスの第一位にのし上がっている事も事実です
自分の大好きな趣味の第一位であることも事実です
順位づけなんてするもんじゃないんですけどね
色々長ったらしく書いたのですが、こちらのブログは残しておきます。
どれだけ拙くても想い出一杯なので。Want to returnは新型インフルの状態で完結させたなぁとかw
やっぱり創作って楽しんでないと読み返しても楽しくないです。
楽しんで書いてた作品は後々読み直して恥ずかしいけど楽しいんです。
最近はそれが欠けつつあるので、それを探し直すためにも。
何かすっげ中二病臭いね!いきなり敬語で何か気持ち悪いね赤闇さん!!
それでは、また二人二脚でお会いしましょう!!そろそろタイトル変えたいけど!!
ツイッターの方でも結構お話しさせて頂いている待草さんとシュリさんには既にお知らせしたのですが、こちらにはまだ書き込めていませんでした。
唐突ですが、こちらのブログは更新を停止し、全ての創作をサイト「二人二脚」にて活動していく事に決定致しました。
理由は特に明確なものはありません。荒らされたというわけでもなく晒されたというわけでもなく。
何かクソ分かりづらい文章が続きますが、まだ少し。
前述したとおり理由は殆どありません。
あるとすればリレイズでしょうか。
あ、別に嫌になったとかじゃないんですよ!ほんと!
本来であれば「どうせ連載なんて続く訳ねーじゃんwwwハッwwwこのヘクトパスカルがwww」な感じだったのですが、そんな俺自身の予想に反して楽しいの何の面白いの何の。
思えば来月で2年を迎える作品にまでなっていました(半年以上放置ですが)
ソーマとかシェイドとかヘメティとか、今の自分にとってはなくてはならない子供達を生み出してくれた作品でもありますが、それ故にどうにもこの作品の世界観やストーリーの穴ぼこっぷりが許せなくなってきたのです。
書き始めた頃が未熟だったからと言えばそうですが(今も未熟だが)それでも許せない。
いっそ最初から全て解体してしまおうかと考え、それならばサイトに全て移行してしまった方が楽ではないか、と。
ちなみにもうこちらのシナリオで書き進めることはないでしょうということで色々ネタバレ。
この後はヘメティとソーマがお互いの武器を交換して戦ったり、男性一同がウィジロの軍服に変装して潜り込んだり、シェイドとアレスの一騎打ちがあったり、シェイドの離脱があったりしました。
そうです見事にずっとシェイドのターンだったんですwwwwww
ほかにも理由はあるんですよ。
ソーマの設定が膨大になりすぎてシェイドはおろかヘメティすら潰している状態だとか
ヘメティの記憶喪失ってぶっちゃけ必要ないんじゃないかとか
色々理由はあるんですよ。
余談+私事ですが
創作活動が自分のストレスの第一位にのし上がっている事も事実です
自分の大好きな趣味の第一位であることも事実です
順位づけなんてするもんじゃないんですけどね
色々長ったらしく書いたのですが、こちらのブログは残しておきます。
どれだけ拙くても想い出一杯なので。Want to returnは新型インフルの状態で完結させたなぁとかw
やっぱり創作って楽しんでないと読み返しても楽しくないです。
楽しんで書いてた作品は後々読み直して恥ずかしいけど楽しいんです。
最近はそれが欠けつつあるので、それを探し直すためにも。
何かすっげ中二病臭いね!いきなり敬語で何か気持ち悪いね赤闇さん!!
それでは、また二人二脚でお会いしましょう!!そろそろタイトル変えたいけど!!
最後のシメがこれでごめんなしあ…(´・ω・`)
どうも、3ヶ月近くリレイズ放置の大スランプに陥った馬鹿です。
年が変わる前に一話描いておかないとと思ったのに結局書けなかった…! 今年殆ど進んでないじゃないか…!
その理由? うん、多分ゴッドイーターとソーマの所為だね!
サイトの方でちまちまとGEネタの二次創作やソーマメインの短編をちくちく書いている状態ですー。
もしよろしければサイトの方も御覧くだしあ。最近はこちらをメインに活動中です。 っ二人二脚
今年だけで大分オリキャラは増えるわ中二設定は増えるわで大変でした(´・ω・`)ショボンヌ
今年まともに完結させたのは一作だけですね。しかも短編。
来年こそは電撃かどこかに出して自分の力量を計ろうって思ってる人間が何をしているのやら^p^
リレイズは書き直すか否かで悩んでる最中だったんだ…
ソーマに新しい設定が付加されたのはいいけどそれを今暴露しちゃうと後々他のキャラが薄くなるのでアレです。多分「裏設定」になるですます。
元々どこまで書けるかの実験だったから仕方がない…
最初の部分とかもう見たくもねぇので書き直したい^p^
今年もこんな中二ファンタジーブログに付き合って下さって有り難う御座います。
リレイズはもう書けない、書ける気がしない…\(^o^)/ いやでも頑張るけどさ!
皆様、良いお年を!!
どうも、3ヶ月近くリレイズ放置の大スランプに陥った馬鹿です。
年が変わる前に一話描いておかないとと思ったのに結局書けなかった…! 今年殆ど進んでないじゃないか…!
その理由? うん、多分ゴッドイーターとソーマの所為だね!
サイトの方でちまちまとGEネタの二次創作やソーマメインの短編をちくちく書いている状態ですー。
もしよろしければサイトの方も御覧くだしあ。最近はこちらをメインに活動中です。 っ二人二脚
今年だけで大分オリキャラは増えるわ中二設定は増えるわで大変でした(´・ω・`)ショボンヌ
今年まともに完結させたのは一作だけですね。しかも短編。
来年こそは電撃かどこかに出して自分の力量を計ろうって思ってる人間が何をしているのやら^p^
リレイズは書き直すか否かで悩んでる最中だったんだ…
ソーマに新しい設定が付加されたのはいいけどそれを今暴露しちゃうと後々他のキャラが薄くなるのでアレです。多分「裏設定」になるですます。
元々どこまで書けるかの実験だったから仕方がない…
最初の部分とかもう見たくもねぇので書き直したい^p^
今年もこんな中二ファンタジーブログに付き合って下さって有り難う御座います。
リレイズはもう書けない、書ける気がしない…\(^o^)/ いやでも頑張るけどさ!
皆様、良いお年を!!
一ヶ月以上こっちを放置してしまって申し訳ないです…!
殆どツイッターか本家ブログでぷすぽやってました。あとはサイト。
携帯向けのサイトですが作りましたー。ですが全くやってません(きりっ
「マイナス313℃」です。こちら っマイナス
取り敢えず年が明けるまでに一話はリレイズ更新します。今年は全く進んでない…
ちなみにサイトの方でソーマの過去についてかなり触れてます。夢小説ですが小説もあるのでどうぞー。
それと清々しいくらいにラスターの誕生日とか忘れてた訳ですよ俺……
殆どツイッターか本家ブログでぷすぽやってました。あとはサイト。
携帯向けのサイトですが作りましたー。ですが全くやってません(きりっ
「マイナス313℃」です。こちら っマイナス
取り敢えず年が明けるまでに一話はリレイズ更新します。今年は全く進んでない…
ちなみにサイトの方でソーマの過去についてかなり触れてます。夢小説ですが小説もあるのでどうぞー。
それと清々しいくらいにラスターの誕生日とか忘れてた訳ですよ俺……
遂にここまできたか、と思いました(白目
70話という名の番外編だとでも思って下さい、内容がダグラスさんと部下にしか触れてないw
これを読まずに飛ばしても後々の話しは分かるよ、っていうお話です。
機械都市支配者直々の急襲から数日、機関本部内は修復と事後処理に追われていた。
負傷者も少なく、死者も門番として入り口前に立っていた数人程度。程度と言ってしまえば死んだ人間に対して失礼なのだろうが、少なくともあの三人の襲撃があってもこの被害で澄んだのは幸運だと言える。
安全なプログラム室でひっそりとヘメティ達の手助けまでして見せたアイドも、既にあの時垣間見せた『天才クラッカー』の顔を潜め、ごく普通の研究員として研究室の整理や扉の修理に当たっている。
ホリックはと言えば、傷は確かに深かったが致命傷に至るものではなかったらしく、一命を取り留めていた。
誰にも気付かれないよう、誰にも悟られぬよう。その信念の元、戦闘要員ではない部下達は暗躍していたのだが。
そしてその『部下達』を率いるダグラスはと言えば、全ての作業を丸投げして何やら携帯電話を持って電話先の相手と話しをしているという状態だった。
その緊張感のなさと普段通りの様子にはアイドやホリックもまた流石に顔を顰めては居たが、ダグラスは至極尤もな理由——とも言えないのかも知れないが——で応対していた。
RELAYS - リレイズ - 70 【結局どっちもどっちって言いたいんだろう】
時間は数十分前に遡る。
ダグラスも自分なりにこの問題を解決しよう、と資料と睨めっこするのを数時間ほど続けていたのだが、流石にそう何時間も続けて作業をするというのは辛く三十分ほどという短い休憩を取っていた。
片手で紅茶の入ったカップを傾け、鼻腔を擽る紅茶の香りに思わず笑みが浮かぶ。だがその笑みも疲労を滲ませているそれ。
もう片方の手は綺麗な装飾の施された小さな缶に伸びていて、その缶の中に手が突っ込まれていた。
ごそごそ、と缶の中を漁り、目的のものを指に摘む。
と、そこで自分の事務机に置かれている携帯電話がやけに機械的な着信音を響かせた。
誰からだろうか、と怪訝に思いながらも、携帯電話を開けば耳に当てる。
「——もしもし?」
そう呼びかけてはみたものの、返事はない。だからといってノイズや呼吸音が耳障りなほどに混ざっているわけでもなく、ダグラスは首を傾げた。
「……もしもし? どちら様でしょうか?」
再び、電話に応対するときの定型文で問い掛ける。
それから数秒後に聞こえてきたのは、喉の奥で笑うような、必死で笑いを噛み殺しているような、そんな笑い声。それもまた奇妙で、ダグラスはここでようやっと不信感を抱いた。だが、不必要に電話を切ったり言葉を掛けて相手の神経を逆撫でするような真似はしない。
相手の動向を窺っていた彼の耳に届いた声。その声に、ダグラスは目を瞠った。
『……ハロー、総司令官』
語尾に音譜でも着いていそうなその口調、他人を嘲笑うかのような彼特有の話し方。くくっ、という実に可笑しそうな笑い声もまた、電話の相手が何者であるかを殊更に誇示していた。
「…………ああ、こんにちは。支配者さん」
どう答えればいいものか、ダグラスは少し悩んだものの相手——マーヴィンに同じような言葉で返答する。
それに少し意外だったように、マーヴィンは「へぇ」と声を漏らした。
『面白いね。驚かないんだ?』
「十分驚いてるよ。……何で僕の電話番号が分かったんだい? それに良く敵の司令官に堂々と電話をかけられたものだね」
冷静な話し口調は全く驚いていないだろう、と思わせるものだったが、ダグラスの表情は先程に比べて若干引きつっている。長年彼と共に行動してきた者なら、誰でも『ああ、動揺してるな』と思えるだろう。
ダグラスはその動揺を隠す為か、もしくは収める為か。どのどちらかは分からなかったが、缶に突っ込んだままの手を引いて摘んでいたものを口に含んだ。
『ふぅん……その割には、かなり落ち着いてるね』
「こうでもしてないと、総司令官なんてやっていけないよ」
もぐもぐと口を動かし、先程口に含んだものを租借しながらマーヴィンに苦笑して告げる。
総司令官は常に冷静さを失わず、部下を引っ張っていかなければならない。その自分が、単に敵対する者のトップから電話が来たというだけで取り乱してはいけないのだ。
『……まあ、分からなくもないけどさ。——っていうか何を食べてるんだい?』
ふふっ、とマーヴィンが笑った気配を感じ、ダグラスもその口許をほんの少し緩める。そこで丁度マーヴィンが咀嚼の音と気配に気付いたらしく尋ねた。
「大手製菓会社の紅茶クッキーだよ。これが一番紅茶に合うような気がしてるんだ。美味しいよね?」
『ああ、アレか! アレは僕も好きなんだ、今までで一番の出来だと思ってる! …………って、そんな世間話をしたくて電話をかけたんじゃないっ!!』
上機嫌の様子で、まるで自分が褒められたかのような喜び方をして言葉を紡いでいた彼だったが、数秒ほどの間をおいて今度は怒声と化した声を上げた。
しかし、その直後に今度は悲鳴とも呻き声ともつかない声が電話越しに聞こえる。
「無理はしない方が良いよ。どうせ、まだ傷は癒えちゃいないんだろう? 安静にしておかないと」
おやおや、と肩を竦め、ダグラスはマーヴィンを案じるような言葉を吐いて紅茶クッキーを嚥下し、紅茶を啜る。
それにしても、とダグラスは思う。
こうして世間話をしていれば、相手が極悪人と思えないのだから不思議だ。最初に感じた狼狽も、既に消え失せている。
しかし、忘れてはいけない。彼は自分達がとめるべき人間で、数多の人間を葬り去ってきた人間なのだから。それを考えて話さなければ。
『ッ……随分、嘗められてるみたいだね……確かに、迂闊ではあったけど、さ』
苦しげに電話先の彼に言葉を吐き捨てるマーヴィンは、確かに自室のベッドに横たわって腹部や胸を押さえていた。だが、それをダグラスが知る由もない。
「……………それで、いつになったら答えを貰えるのかな? マーヴィン君。どうやって僕の電話番号を入手したんだい」
数分前にもした問いかけを再びマーヴィンに投げかける。これで答えが返ってこなければ、諦めるつもりだった。
だが、案外呆気なく、あっさりと彼はそれを暴露する。
『えぇ? 僕を誰だと思ってるの? 会社に問い質してふるいにかければ一発で分かるよ。支配者の名前を出せば何だってやってくれるさ』
「……君さ、それ何て言うか知ってる?」
『職権乱用、でしょ? 知ってるよ。……あまり僕を餓鬼扱いしないでくれ。腹が立つ』
へらへらとした声音とほのぼの感溢れる話。それら全てを打ち砕くかのように、途端に冷たさを帯びたマーヴィンの声がダグラスの鼓膜を震わせる。
ああ、やはり彼の本性はこのような人間なのだ。冷徹。冷酷、残忍。様々な単語が浮かんでは消えていく。
ソーマと性格は正反対だが、彼もまた他人の命を省みない冷たさを持つ性格と見ていい筈だ。
「……まあ、ヘメ君ならまだしも君はもう二十歳だし、立派な大人か。その子供に、徹底的に伸されそうになった君も君だけど」
ヘメティの名を出した途端、マーヴィンは口を閉ざす。余りにも分かりやすい挑発は、普段のダグラスが仕掛けるとも思えないそれだったが。
分かりやすいなぁ、なんて事を思いながら、ダグラスは彼の次の言葉を待った。
『…………確かに、今回は油断したよ。まさか前に捨てた役立たずがこうして僕に傷を負わせるなんて、考えてもいなかった』
だろうな、と頭の中で思い、ダグラスはそれにただ苦笑で返す。
「一体どんな訓練でもさせたんだい?」というマーヴィンの問いにも、彼は黙秘を貫いた。何せ自分達は何もしていないのだから。あれは彼ではない。マーヴィンに傷を付けたのはヘメティじゃない。
『それに、そっちに『アイツ』がついてるなんてね』
何かを示唆するような言葉に、ダグラスは少しの間首を捻って考えていたがすぐに思い当たったのか「ああ」と声を上げて携帯電話を持ち直す。
マーヴィンの言う『アイツ』にぴったり当て嵌まる人間が一人、自分の仲間にいる。
「……何だ、気付いてたんだ?」
意識せずとも口許が緩み、余裕めいた笑みが浮かんでしまうのをダグラスは止められなかった。止めようともしなかった。
マーヴィンはちっ、と一度舌打ちしてから、絞り出すように、感情を無理矢理に押し殺したかのように言う。
『気付くに決まってるじゃないか。アレスみたいな精密機械を狂わせられるのなんて、今のウィジロにもこの世界にも一人だけだからね』
悔しさが滲む素っ気ない口調。感情の起伏が案外激しいのは、ヘメティに傷を負わせられて更には逃げ出して、プライドが傷つけられた所為だろうか。どこまでこの男は傲慢でプライドが高いのか、少し気になってしまう。
「……それで?」
「続きはどうした」とも「それがどうした」とも取れる曖昧な返事。それがまた気に障ったのか、彼は今度こそはっきりとした苛立ちを含んだ声で叫んだ。
最早、傷が痛むのも関係ないらしい。
『ッ、だから、君なんだろう!? 拘置所からあの死刑囚を連れ出したのはっ! アイツ以上に危険な奴なんて居ないのに!』
肩で息をしているのがよく解るほどの荒い呼吸音。それを聞きながら、ダグラスは眼を細める。
彼の言っている事も良く解る。確かに、『彼』以上に機械都市であるウィジロにとっての驚異となる人間は居ないだろう。だが、一人の人間に踊らされる程度の都市と支配者もどうなんだか。
「……たかが一人の人間に踊らされてるようじゃ、君もまだまだだね。せめてそこは、彼を味方に付けるくらいの手腕を見せないと」
余裕。今のダグラスを一言で表すならこうだ。自分の敵対する人間に堂々と余裕をひけらかし、挑発する。まるで絶対に負けないとでもいうように。
『……それ以上僕を挑発しないでくれるかな。殺すよ』
今この状態でどうやって殺せるのか、それは少し気掛かりだったが、それよりも先にとめることもできずに口から言葉が吐き出されていく。
「ああ、やってみるといい。その代わり、ウィジロ中——いや、世界中の電子機器が再起不能になっても良いのなら、ね。君が批判されるのは、目に見えて分かるだろう?」
圧倒的な力の差。戦闘能力云々ではない、都市の存続に関わる力だ。それが今ダグラスの手にある。そうなれば、マーヴィンは手も足も出なかった。
元々上に立つ者の性か、こうして良いように言いくるめられて遊ばれるのは気に食わない。
『…………死刑囚№I-10番、アズール=シュトラーフェ……か。なら、容赦なくそうすればいいじゃないか』
自分が面会しに行ったときには積もりたての雪のような白い髪と深緑の瞳を持つ男。その顔を脳裏に浮かべながら、マーヴィンは相手に通じるわけもないというのに苦虫をかみつぶしたかのような表情で口にする。
ダグラスもまた、彼と同じように自分の部下の顔を思い浮かべていた。
「いや、そういう手段は僕も彼も好きじゃないんだ。それに、何の罪もない都市の人達まで巻き込むのは嫌だしね」
『……甘いね、ダグラス総司令官。君の元に居たんだ、ヘメティが更に甘くなるのも分かるよ』
自分を嘲るような、見下すような声にダグラスは苦笑して「甘くて結構」とだけを返す。
甘くてもいい。偽善でもいい。ただ、自分は自分の考えを貫き通すまでだ。それがエゴであろうと、不必要な人間——否。他人を犠牲にするのは嫌だ。誰も死ななくて良いのに、と。
「……まあ、君にもその内分かるんじゃないかな。この砂糖以上の甘さの正体っていうのが」
甘さに慣れていない人間が聞けば、甘すぎて吐き出すくらいの持論。ダグラスはそれを持ち得て、それを他人に伝えて、着いてきてくれる人間を大切にできる力がある。
マーヴィンからは依然としてそのような空気は感じられないが、その内彼も分かるのではないか。ということをダグラスは馬鹿げていると知りながらも思っていた。
「——それで、他に言いたいことは?」
ダグラスはカップも中にほんの少しだけ入っている紅茶を一息に飲み干して、少々気怠そうに問うた。
折角の休憩が、こうして敵との接触で潰れてしまうというのは残念で仕方がない。
ならば問答無用で電源を切ればいいじゃないか、とも思うのだが、流石にそこまでの度胸はない。……いや、実際にはあるし最初に気付いたときに「切っちゃおうかな」とも思ったのだが、機関の人間を危険に晒したくないというのが本音だった。
マーヴィンは「思い出した」と一言呟いてから、大きく息を吐いてダグラスと繋がっているそれを横目で見る。
『僕らを、余り甘く見ない方が良い。今回は運良く撃退できたけど、次はどうだろうね?』
本来彼が持ち得る傲慢さを取り戻したような声音でマーヴィンは言い、ベッドの上で身体を起こす。
「……それなら、僕達も言わせて貰おう。僕達を、ただの反抗組織と見くびられては困るね」
ダグラスの瞳が不穏とも取れる冷たい光を帯び、声もまた淡々とした者へと変わる。
普段の飄々とした様子も、滲んでいた余裕も陰を潜めていた。
驚愕か、それとも言葉を選んでいるのか。ほんの少し間を開けてから、マーヴィンはくすくすと笑いながらダグラスに言った。
『……どっちもどっちだね』
「何だ、今更気付いたかい?」
彼もそれに感化されたように微かに笑い声を漏らし、穏やかな様子で子供のように無邪気とも取れる支配者に再度問う。
こんな戦争も、こんなやり取りも、全てが『どっちもどっち』という喧嘩両成敗のようなものだという事を。彼は知らなかったのか。
『別に。気付いてたよ。……だって、僕らからすれば自分達は正義で君らは悪だけど』
「僕達からすれば君達が悪で自分達が正義だ。……違うかな?」
マーヴィンにしてみれば、世界を征服しているに等しい自分に盾突く自分達または反抗組織が悪でしかない。徹底的に潰すものだ。
だが、一度視点を変えればどうなるか。ダグラス達にしてみれば、性懲りもなく領土を広げて武力制圧を繰り返すマーヴィンの方が決定的な悪になる。
恐らく都市の人間からすれば、自分達に恩恵を与えてくれるマーヴィンは確かに『正義』なのだろう。
どちらも正義、どちらも悪。正義と悪を、勝手な定義で分けることなんてできやしない。
『その通りだよ。……だからさ、結局どっちもどっちなんだろうね、本当に』
妙に悟ったようなことを言い出すな、と疑問に思いながら、ダグラスは空になったカップに片手で器用に紅茶を注げばシュガーポットの蓋を開け、角砂糖を一つ落とす。
それをそのままカップを持ち上げて口を付けるか、と思われたが、それよりも先に大きく欠伸をして彼は携帯電話を持ち直した。
「……じゃあ、こんな馬鹿みたいな戦争も、馬鹿げたやり取りもやめるかい?」
『誰が。……僕の行く先を邪魔する奴等はみんな消すよ、容赦なく、ね。……ただ、そろそろ電話は止めてもいいかな。疲れてきた』
予想していた答えが返ってきたことに、ダグラスは苦笑ともとれる複雑な表情を浮かべた。
「やっぱり、そうか。丁度僕も休憩中だったんだ、そろそろ仕事に戻らせて貰うよ。それじゃあ。……もう電話はしないでくれるかな」
最後にそれだけを言い残し、彼は手早く通話終了のボタンを押す。押す寸前にマーヴィンの『ちょっと待ってよ』という驚きの声が聞こえたような気がしたが、無視だ。
携帯電話をぱたん、と閉じて、ようやくダグラスは大きく息を吐いて紅茶にありつくことが出来た。
ずずっ、と紅茶を啜りながら、クッキーもまた口に入れる。それを数回ほど繰り返した頃に、扉がノックされる音が聞こえた。
「入っていいよ」
できる限り普段通りを装って、扉に向けてそう声をかける。
「失礼します」という挨拶と共に司令室に足を踏み入れたのは、現実離れした水色の髪を持つ研究員。アイドはぼりぼりと頭を掻きながら、堂々とソファに腰掛けた。
「……何か、用でもあるのかい? アイド」
一度手を下ろし、クッキーを摘んでいた手も払えばダグラスは座っていた回転式の椅子を回してアイドに向き直る。
「いや、特にそんな大した用でもないんですけどね。ただ今休憩中だから抜け出してきただけっすよ、司令官」
へらへらとした笑いを浮かべ、今では綺麗に染まってしまった髪を掻き上げるアイドにダグラスは一瞬複雑な表情を見せるがすぐに椅子の背もたれにもたれ掛かって苦笑した。
ぎしり、と椅子が軋む音がやけに大きく聞こえる。
「…………アイド、先日の君の行動は特に咎めないから安心してくれ。逆に、良くやってくれたと褒めたいくらいだ」
あの時、自分だけ逃げたりはせずにこっそりとプログラム室に残ってのクラッキング。その行為は確かに命令違反でもあるのだろうが、あの状況でのアイドの判断は的確だった、とダグラスは思っていた。
いくらヘメティがマーヴィンを他の比ではない殺傷力と戦闘能力で痛めつけたとはいえ、それは恐らく彼の盾として矛として、立ち回っていたアレスの機能が停止したからというのも関係しているのではないか。
アイドは驚いたように瞠目してから、わざとらしく肩を竦める。
「……嫌だな、俺はアイツ等を助けるのと同時に、あの時取り逃した獲物を今度こそ壊したかっただけだっていうのに。それなのに褒めるんですか?」
自虐的な言葉に倒錯的ながらもよく似合う自嘲めいた笑みを浮かべる彼の様子は痛々しく、ダグラスは途方に暮れる。
椅子から立ち上がり、白衣の裾を揺らしながら彼はアイドに歩み寄り、正面に立った。
「……褒めるよ。褒めるに決まってるじゃないか。君は僕達の仲間だし、何より皆を助けてくれたじゃないか」
対照的な微笑を浮かべて頭を振った自分の上司に、彼は今度こそその深緑の瞳を見開いて言葉を失ってしまう。
何か言おうと何度か口を開いているものの、それらは声にはならずに消えていく。動揺の仕方も凄いな、と他人事のように思いながら、ダグラスは腕を組む。
「後で、彼も呼ばないといけないね。ラスター君やイーナ達を助けてくれたのは彼なんだから」
「……そうですね。後で病室に試験管と薬品でも持っていってやれば喜びますよ」
まだ少し本調子ではないようだったが、それでも笑ってくれたアイドにダグラスもほっと胸をなで下ろした。
「流石にそれは少し怖いから、止めておこうか。……その前に」
死刑囚の天才クラッカーににこやかに告げ、ダグラスは机に向かえば常に置いてあるあの銀色のネームプレートを指で摘む。
きらきらと蛍光灯の光を反射して輝くそれには、明らかに誰かの名前と思われるものが彫り込まれている。
それを一瞥してから、ダグラスは白衣のポケットへと落とした。
「その前に……謝ってこないといけないね」
ダグラスがそう寂寥感すら込めて呟いた。
件の『彼』が意識を取り戻すのは、それから更に数日後になる。
テスト期間は全て小説で潰した。
70話という名の番外編だとでも思って下さい、内容がダグラスさんと部下にしか触れてないw
これを読まずに飛ばしても後々の話しは分かるよ、っていうお話です。
機械都市支配者直々の急襲から数日、機関本部内は修復と事後処理に追われていた。
負傷者も少なく、死者も門番として入り口前に立っていた数人程度。程度と言ってしまえば死んだ人間に対して失礼なのだろうが、少なくともあの三人の襲撃があってもこの被害で澄んだのは幸運だと言える。
安全なプログラム室でひっそりとヘメティ達の手助けまでして見せたアイドも、既にあの時垣間見せた『天才クラッカー』の顔を潜め、ごく普通の研究員として研究室の整理や扉の修理に当たっている。
ホリックはと言えば、傷は確かに深かったが致命傷に至るものではなかったらしく、一命を取り留めていた。
誰にも気付かれないよう、誰にも悟られぬよう。その信念の元、戦闘要員ではない部下達は暗躍していたのだが。
そしてその『部下達』を率いるダグラスはと言えば、全ての作業を丸投げして何やら携帯電話を持って電話先の相手と話しをしているという状態だった。
その緊張感のなさと普段通りの様子にはアイドやホリックもまた流石に顔を顰めては居たが、ダグラスは至極尤もな理由——とも言えないのかも知れないが——で応対していた。
RELAYS - リレイズ - 70 【結局どっちもどっちって言いたいんだろう】
時間は数十分前に遡る。
ダグラスも自分なりにこの問題を解決しよう、と資料と睨めっこするのを数時間ほど続けていたのだが、流石にそう何時間も続けて作業をするというのは辛く三十分ほどという短い休憩を取っていた。
片手で紅茶の入ったカップを傾け、鼻腔を擽る紅茶の香りに思わず笑みが浮かぶ。だがその笑みも疲労を滲ませているそれ。
もう片方の手は綺麗な装飾の施された小さな缶に伸びていて、その缶の中に手が突っ込まれていた。
ごそごそ、と缶の中を漁り、目的のものを指に摘む。
と、そこで自分の事務机に置かれている携帯電話がやけに機械的な着信音を響かせた。
誰からだろうか、と怪訝に思いながらも、携帯電話を開けば耳に当てる。
「——もしもし?」
そう呼びかけてはみたものの、返事はない。だからといってノイズや呼吸音が耳障りなほどに混ざっているわけでもなく、ダグラスは首を傾げた。
「……もしもし? どちら様でしょうか?」
再び、電話に応対するときの定型文で問い掛ける。
それから数秒後に聞こえてきたのは、喉の奥で笑うような、必死で笑いを噛み殺しているような、そんな笑い声。それもまた奇妙で、ダグラスはここでようやっと不信感を抱いた。だが、不必要に電話を切ったり言葉を掛けて相手の神経を逆撫でするような真似はしない。
相手の動向を窺っていた彼の耳に届いた声。その声に、ダグラスは目を瞠った。
『……ハロー、総司令官』
語尾に音譜でも着いていそうなその口調、他人を嘲笑うかのような彼特有の話し方。くくっ、という実に可笑しそうな笑い声もまた、電話の相手が何者であるかを殊更に誇示していた。
「…………ああ、こんにちは。支配者さん」
どう答えればいいものか、ダグラスは少し悩んだものの相手——マーヴィンに同じような言葉で返答する。
それに少し意外だったように、マーヴィンは「へぇ」と声を漏らした。
『面白いね。驚かないんだ?』
「十分驚いてるよ。……何で僕の電話番号が分かったんだい? それに良く敵の司令官に堂々と電話をかけられたものだね」
冷静な話し口調は全く驚いていないだろう、と思わせるものだったが、ダグラスの表情は先程に比べて若干引きつっている。長年彼と共に行動してきた者なら、誰でも『ああ、動揺してるな』と思えるだろう。
ダグラスはその動揺を隠す為か、もしくは収める為か。どのどちらかは分からなかったが、缶に突っ込んだままの手を引いて摘んでいたものを口に含んだ。
『ふぅん……その割には、かなり落ち着いてるね』
「こうでもしてないと、総司令官なんてやっていけないよ」
もぐもぐと口を動かし、先程口に含んだものを租借しながらマーヴィンに苦笑して告げる。
総司令官は常に冷静さを失わず、部下を引っ張っていかなければならない。その自分が、単に敵対する者のトップから電話が来たというだけで取り乱してはいけないのだ。
『……まあ、分からなくもないけどさ。——っていうか何を食べてるんだい?』
ふふっ、とマーヴィンが笑った気配を感じ、ダグラスもその口許をほんの少し緩める。そこで丁度マーヴィンが咀嚼の音と気配に気付いたらしく尋ねた。
「大手製菓会社の紅茶クッキーだよ。これが一番紅茶に合うような気がしてるんだ。美味しいよね?」
『ああ、アレか! アレは僕も好きなんだ、今までで一番の出来だと思ってる! …………って、そんな世間話をしたくて電話をかけたんじゃないっ!!』
上機嫌の様子で、まるで自分が褒められたかのような喜び方をして言葉を紡いでいた彼だったが、数秒ほどの間をおいて今度は怒声と化した声を上げた。
しかし、その直後に今度は悲鳴とも呻き声ともつかない声が電話越しに聞こえる。
「無理はしない方が良いよ。どうせ、まだ傷は癒えちゃいないんだろう? 安静にしておかないと」
おやおや、と肩を竦め、ダグラスはマーヴィンを案じるような言葉を吐いて紅茶クッキーを嚥下し、紅茶を啜る。
それにしても、とダグラスは思う。
こうして世間話をしていれば、相手が極悪人と思えないのだから不思議だ。最初に感じた狼狽も、既に消え失せている。
しかし、忘れてはいけない。彼は自分達がとめるべき人間で、数多の人間を葬り去ってきた人間なのだから。それを考えて話さなければ。
『ッ……随分、嘗められてるみたいだね……確かに、迂闊ではあったけど、さ』
苦しげに電話先の彼に言葉を吐き捨てるマーヴィンは、確かに自室のベッドに横たわって腹部や胸を押さえていた。だが、それをダグラスが知る由もない。
「……………それで、いつになったら答えを貰えるのかな? マーヴィン君。どうやって僕の電話番号を入手したんだい」
数分前にもした問いかけを再びマーヴィンに投げかける。これで答えが返ってこなければ、諦めるつもりだった。
だが、案外呆気なく、あっさりと彼はそれを暴露する。
『えぇ? 僕を誰だと思ってるの? 会社に問い質してふるいにかければ一発で分かるよ。支配者の名前を出せば何だってやってくれるさ』
「……君さ、それ何て言うか知ってる?」
『職権乱用、でしょ? 知ってるよ。……あまり僕を餓鬼扱いしないでくれ。腹が立つ』
へらへらとした声音とほのぼの感溢れる話。それら全てを打ち砕くかのように、途端に冷たさを帯びたマーヴィンの声がダグラスの鼓膜を震わせる。
ああ、やはり彼の本性はこのような人間なのだ。冷徹。冷酷、残忍。様々な単語が浮かんでは消えていく。
ソーマと性格は正反対だが、彼もまた他人の命を省みない冷たさを持つ性格と見ていい筈だ。
「……まあ、ヘメ君ならまだしも君はもう二十歳だし、立派な大人か。その子供に、徹底的に伸されそうになった君も君だけど」
ヘメティの名を出した途端、マーヴィンは口を閉ざす。余りにも分かりやすい挑発は、普段のダグラスが仕掛けるとも思えないそれだったが。
分かりやすいなぁ、なんて事を思いながら、ダグラスは彼の次の言葉を待った。
『…………確かに、今回は油断したよ。まさか前に捨てた役立たずがこうして僕に傷を負わせるなんて、考えてもいなかった』
だろうな、と頭の中で思い、ダグラスはそれにただ苦笑で返す。
「一体どんな訓練でもさせたんだい?」というマーヴィンの問いにも、彼は黙秘を貫いた。何せ自分達は何もしていないのだから。あれは彼ではない。マーヴィンに傷を付けたのはヘメティじゃない。
『それに、そっちに『アイツ』がついてるなんてね』
何かを示唆するような言葉に、ダグラスは少しの間首を捻って考えていたがすぐに思い当たったのか「ああ」と声を上げて携帯電話を持ち直す。
マーヴィンの言う『アイツ』にぴったり当て嵌まる人間が一人、自分の仲間にいる。
「……何だ、気付いてたんだ?」
意識せずとも口許が緩み、余裕めいた笑みが浮かんでしまうのをダグラスは止められなかった。止めようともしなかった。
マーヴィンはちっ、と一度舌打ちしてから、絞り出すように、感情を無理矢理に押し殺したかのように言う。
『気付くに決まってるじゃないか。アレスみたいな精密機械を狂わせられるのなんて、今のウィジロにもこの世界にも一人だけだからね』
悔しさが滲む素っ気ない口調。感情の起伏が案外激しいのは、ヘメティに傷を負わせられて更には逃げ出して、プライドが傷つけられた所為だろうか。どこまでこの男は傲慢でプライドが高いのか、少し気になってしまう。
「……それで?」
「続きはどうした」とも「それがどうした」とも取れる曖昧な返事。それがまた気に障ったのか、彼は今度こそはっきりとした苛立ちを含んだ声で叫んだ。
最早、傷が痛むのも関係ないらしい。
『ッ、だから、君なんだろう!? 拘置所からあの死刑囚を連れ出したのはっ! アイツ以上に危険な奴なんて居ないのに!』
肩で息をしているのがよく解るほどの荒い呼吸音。それを聞きながら、ダグラスは眼を細める。
彼の言っている事も良く解る。確かに、『彼』以上に機械都市であるウィジロにとっての驚異となる人間は居ないだろう。だが、一人の人間に踊らされる程度の都市と支配者もどうなんだか。
「……たかが一人の人間に踊らされてるようじゃ、君もまだまだだね。せめてそこは、彼を味方に付けるくらいの手腕を見せないと」
余裕。今のダグラスを一言で表すならこうだ。自分の敵対する人間に堂々と余裕をひけらかし、挑発する。まるで絶対に負けないとでもいうように。
『……それ以上僕を挑発しないでくれるかな。殺すよ』
今この状態でどうやって殺せるのか、それは少し気掛かりだったが、それよりも先にとめることもできずに口から言葉が吐き出されていく。
「ああ、やってみるといい。その代わり、ウィジロ中——いや、世界中の電子機器が再起不能になっても良いのなら、ね。君が批判されるのは、目に見えて分かるだろう?」
圧倒的な力の差。戦闘能力云々ではない、都市の存続に関わる力だ。それが今ダグラスの手にある。そうなれば、マーヴィンは手も足も出なかった。
元々上に立つ者の性か、こうして良いように言いくるめられて遊ばれるのは気に食わない。
『…………死刑囚№I-10番、アズール=シュトラーフェ……か。なら、容赦なくそうすればいいじゃないか』
自分が面会しに行ったときには積もりたての雪のような白い髪と深緑の瞳を持つ男。その顔を脳裏に浮かべながら、マーヴィンは相手に通じるわけもないというのに苦虫をかみつぶしたかのような表情で口にする。
ダグラスもまた、彼と同じように自分の部下の顔を思い浮かべていた。
「いや、そういう手段は僕も彼も好きじゃないんだ。それに、何の罪もない都市の人達まで巻き込むのは嫌だしね」
『……甘いね、ダグラス総司令官。君の元に居たんだ、ヘメティが更に甘くなるのも分かるよ』
自分を嘲るような、見下すような声にダグラスは苦笑して「甘くて結構」とだけを返す。
甘くてもいい。偽善でもいい。ただ、自分は自分の考えを貫き通すまでだ。それがエゴであろうと、不必要な人間——否。他人を犠牲にするのは嫌だ。誰も死ななくて良いのに、と。
「……まあ、君にもその内分かるんじゃないかな。この砂糖以上の甘さの正体っていうのが」
甘さに慣れていない人間が聞けば、甘すぎて吐き出すくらいの持論。ダグラスはそれを持ち得て、それを他人に伝えて、着いてきてくれる人間を大切にできる力がある。
マーヴィンからは依然としてそのような空気は感じられないが、その内彼も分かるのではないか。ということをダグラスは馬鹿げていると知りながらも思っていた。
「——それで、他に言いたいことは?」
ダグラスはカップも中にほんの少しだけ入っている紅茶を一息に飲み干して、少々気怠そうに問うた。
折角の休憩が、こうして敵との接触で潰れてしまうというのは残念で仕方がない。
ならば問答無用で電源を切ればいいじゃないか、とも思うのだが、流石にそこまでの度胸はない。……いや、実際にはあるし最初に気付いたときに「切っちゃおうかな」とも思ったのだが、機関の人間を危険に晒したくないというのが本音だった。
マーヴィンは「思い出した」と一言呟いてから、大きく息を吐いてダグラスと繋がっているそれを横目で見る。
『僕らを、余り甘く見ない方が良い。今回は運良く撃退できたけど、次はどうだろうね?』
本来彼が持ち得る傲慢さを取り戻したような声音でマーヴィンは言い、ベッドの上で身体を起こす。
「……それなら、僕達も言わせて貰おう。僕達を、ただの反抗組織と見くびられては困るね」
ダグラスの瞳が不穏とも取れる冷たい光を帯び、声もまた淡々とした者へと変わる。
普段の飄々とした様子も、滲んでいた余裕も陰を潜めていた。
驚愕か、それとも言葉を選んでいるのか。ほんの少し間を開けてから、マーヴィンはくすくすと笑いながらダグラスに言った。
『……どっちもどっちだね』
「何だ、今更気付いたかい?」
彼もそれに感化されたように微かに笑い声を漏らし、穏やかな様子で子供のように無邪気とも取れる支配者に再度問う。
こんな戦争も、こんなやり取りも、全てが『どっちもどっち』という喧嘩両成敗のようなものだという事を。彼は知らなかったのか。
『別に。気付いてたよ。……だって、僕らからすれば自分達は正義で君らは悪だけど』
「僕達からすれば君達が悪で自分達が正義だ。……違うかな?」
マーヴィンにしてみれば、世界を征服しているに等しい自分に盾突く自分達または反抗組織が悪でしかない。徹底的に潰すものだ。
だが、一度視点を変えればどうなるか。ダグラス達にしてみれば、性懲りもなく領土を広げて武力制圧を繰り返すマーヴィンの方が決定的な悪になる。
恐らく都市の人間からすれば、自分達に恩恵を与えてくれるマーヴィンは確かに『正義』なのだろう。
どちらも正義、どちらも悪。正義と悪を、勝手な定義で分けることなんてできやしない。
『その通りだよ。……だからさ、結局どっちもどっちなんだろうね、本当に』
妙に悟ったようなことを言い出すな、と疑問に思いながら、ダグラスは空になったカップに片手で器用に紅茶を注げばシュガーポットの蓋を開け、角砂糖を一つ落とす。
それをそのままカップを持ち上げて口を付けるか、と思われたが、それよりも先に大きく欠伸をして彼は携帯電話を持ち直した。
「……じゃあ、こんな馬鹿みたいな戦争も、馬鹿げたやり取りもやめるかい?」
『誰が。……僕の行く先を邪魔する奴等はみんな消すよ、容赦なく、ね。……ただ、そろそろ電話は止めてもいいかな。疲れてきた』
予想していた答えが返ってきたことに、ダグラスは苦笑ともとれる複雑な表情を浮かべた。
「やっぱり、そうか。丁度僕も休憩中だったんだ、そろそろ仕事に戻らせて貰うよ。それじゃあ。……もう電話はしないでくれるかな」
最後にそれだけを言い残し、彼は手早く通話終了のボタンを押す。押す寸前にマーヴィンの『ちょっと待ってよ』という驚きの声が聞こえたような気がしたが、無視だ。
携帯電話をぱたん、と閉じて、ようやくダグラスは大きく息を吐いて紅茶にありつくことが出来た。
ずずっ、と紅茶を啜りながら、クッキーもまた口に入れる。それを数回ほど繰り返した頃に、扉がノックされる音が聞こえた。
「入っていいよ」
できる限り普段通りを装って、扉に向けてそう声をかける。
「失礼します」という挨拶と共に司令室に足を踏み入れたのは、現実離れした水色の髪を持つ研究員。アイドはぼりぼりと頭を掻きながら、堂々とソファに腰掛けた。
「……何か、用でもあるのかい? アイド」
一度手を下ろし、クッキーを摘んでいた手も払えばダグラスは座っていた回転式の椅子を回してアイドに向き直る。
「いや、特にそんな大した用でもないんですけどね。ただ今休憩中だから抜け出してきただけっすよ、司令官」
へらへらとした笑いを浮かべ、今では綺麗に染まってしまった髪を掻き上げるアイドにダグラスは一瞬複雑な表情を見せるがすぐに椅子の背もたれにもたれ掛かって苦笑した。
ぎしり、と椅子が軋む音がやけに大きく聞こえる。
「…………アイド、先日の君の行動は特に咎めないから安心してくれ。逆に、良くやってくれたと褒めたいくらいだ」
あの時、自分だけ逃げたりはせずにこっそりとプログラム室に残ってのクラッキング。その行為は確かに命令違反でもあるのだろうが、あの状況でのアイドの判断は的確だった、とダグラスは思っていた。
いくらヘメティがマーヴィンを他の比ではない殺傷力と戦闘能力で痛めつけたとはいえ、それは恐らく彼の盾として矛として、立ち回っていたアレスの機能が停止したからというのも関係しているのではないか。
アイドは驚いたように瞠目してから、わざとらしく肩を竦める。
「……嫌だな、俺はアイツ等を助けるのと同時に、あの時取り逃した獲物を今度こそ壊したかっただけだっていうのに。それなのに褒めるんですか?」
自虐的な言葉に倒錯的ながらもよく似合う自嘲めいた笑みを浮かべる彼の様子は痛々しく、ダグラスは途方に暮れる。
椅子から立ち上がり、白衣の裾を揺らしながら彼はアイドに歩み寄り、正面に立った。
「……褒めるよ。褒めるに決まってるじゃないか。君は僕達の仲間だし、何より皆を助けてくれたじゃないか」
対照的な微笑を浮かべて頭を振った自分の上司に、彼は今度こそその深緑の瞳を見開いて言葉を失ってしまう。
何か言おうと何度か口を開いているものの、それらは声にはならずに消えていく。動揺の仕方も凄いな、と他人事のように思いながら、ダグラスは腕を組む。
「後で、彼も呼ばないといけないね。ラスター君やイーナ達を助けてくれたのは彼なんだから」
「……そうですね。後で病室に試験管と薬品でも持っていってやれば喜びますよ」
まだ少し本調子ではないようだったが、それでも笑ってくれたアイドにダグラスもほっと胸をなで下ろした。
「流石にそれは少し怖いから、止めておこうか。……その前に」
死刑囚の天才クラッカーににこやかに告げ、ダグラスは机に向かえば常に置いてあるあの銀色のネームプレートを指で摘む。
きらきらと蛍光灯の光を反射して輝くそれには、明らかに誰かの名前と思われるものが彫り込まれている。
それを一瞥してから、ダグラスは白衣のポケットへと落とした。
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赤闇銀羽
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職業:
ソルジャー1st
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妄想!
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こちらは更新凍結しました
サイトにて活動中。
手描きブログ。
FF、DMC、TOAをメインにやる予定だったのに何かオリジナル増えそう。
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